小説置き場。
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■タイトル 見えなくなりたい高尾くん
■キャプション
■これはどういうジャンルになるのだろうと考えてみたのですが、オカルトファンタジーが一番しっくりくるかな? と思います。
■タグに緑宮をつけてみましたが期待するようなものはありません。し、後々くっつくのはチャリアと葉宮、という設定ですん。
■前作に続きタグをつけて頂いてありがとうございました。素直に嬉しかったです。
■この話の緑間は人間です。
■バスケしろ。
■タグ
黒子のバスケ チャリアカー組 緑宮 パラレル
■キャプション
■これはどういうジャンルになるのだろうと考えてみたのですが、オカルトファンタジーが一番しっくりくるかな? と思います。
■タグに緑宮をつけてみましたが期待するようなものはありません。し、後々くっつくのはチャリアと葉宮、という設定ですん。
■前作に続きタグをつけて頂いてありがとうございました。素直に嬉しかったです。
■この話の緑間は人間です。
■バスケしろ。
■タグ
黒子のバスケ チャリアカー組 緑宮 パラレル
今回高尾が怖い話をする場面があります。大して怖くはありませんが、とんでもなく怪談が苦手な人にはまずそうな内容なのでご注意ください。
相変わらずのがっつりパラレルです。バスケしてません。
[newpage]
知らない道を進むのは楽しい、と高尾は感じる。方向感覚がいい高尾はなかなか迷子にはならないから、結構気軽に脇道に逸れたりする。その結果、別々だと思っていた道が思いもよらないところで繋がっていることが分かったりして、そうやって頭の中に地図を作り上げていく作業が高尾は好きだ。だから緑間が押す自転車のチェーンの規則的な音を聞きながら、高尾はキョロキョロと辺りを見回していた。おそらくこの辺りは、駅前の商店街の裏にあたるのだろう。交差点を通過するときに横を見てみると、隣の通りにはアーケードがあることが分かる。
「随分と楽しそうだな」
「ああ。楽しいぜ? この辺りなんて、電車の高架下に店が入っててすっげーおもしれー」
「……そういうものか?」
「お前は見慣れてるからそう思うんだよ! あー、このごちゃごちゃしてて洗練されてない感じ、テンション上がる!」
「……それは褒めているのか?」
「当然じゃん! てか緑間、あとどんくらい?」
「次の角を左、坂を登りきれば到着なのだよ」
「お、意外と近い」
そして緑間は、高尾が思っていたよりはよっぽど『普通』であった。確かにマイペースすぎるところはあるが、それも先が読めない、つまりは飽きさせないと考えれば十分に魅力になるように高尾には思える。
角を曲がり、夕焼けに染まりつつある空に浮かぶ緑間の背を、目を細めて高尾は見上げた。ちきちきとチェーンの音だけが坂道にこだまする。坂を登りきった緑間が高尾を振り返った。それから素知らぬ顔で正面に聳え立つ鳥居を指し示す。
「着いたぞ」
緑間が自転車を止めた隣に高尾は並んで、鳥居の中を除きこんだ。広くはないが、狭くもない、といったところだろうか。拝殿に向かう参道に、思いっきり傾いた松の木がかかっているのが印象的だった。夕方ということも相まって、妙に物寂しい。
「あれ、どしたの」
「数年前の台風でな。折れて枯れるかと思ったが、なんとかまだ生きている。……行くぞ」
緑間が軽く礼をしてから鳥居をくぐっていくのを見て、そうかこいつは神社の息子だった、と高尾は思い直した。無作法をしたら怒られてしまうかもしれない。とりあえず鳥居をくぐる前に深々とお辞儀をしてみたら、緑間はくつくつとおかしそうに笑った。
「……なんだよ」
「これは人の家に上がる際に会釈をするようなものなのだよ。そこまで深くする必要はない。作法が気になるなら、取りあえず参道の中央を歩くのはやめておけ。他は俺の真似をしていればいい」
境内に自転車を止めた緑間が手水舎で手を清めている。薄暗い中見えた緑間の左手に溜めた水を口に含む動作に高尾はぞくり、として慌てて真似をすることに専念した。緑間が拝殿の方に目をやって言う。
「ご挨拶していくだろう?」
「う、うん。てかさ、こういうところに来るたびに思うんだけど……ほんとに、いるわけ? その、カミサマとか」
ちなみに高尾は神社だのお寺だのでそういった強い気配は感じた事がない。幽霊じみたものはしょっちゅう見えるのに、救ってくれるはずの神様仏様の姿は見えないというのはどういうことだ、と高尾は常々不満に思っている。さあこれにどう答えるのか神社の息子よ、と密かに高尾が注目する中、緑間は拝殿の方へ歩き出した。
「さあな。俺はお目にかかった事はないが」
「あっ、そ」
あっさりとした答えにこっそりと高尾は落胆するが、緑間はだが、と続けた。
「目に見えない事は不在証明にはなりえないのだよ、高尾。だからお前の疑問に対する答えは、『いると俺は思っている』だ。だが誰にも神の存在証明などできないから、お前がどう思うかはお前の自由だ」
「えーと、もうちょっと易しく」
「お前がいると思うのならいるし、いないと思うならいない。参考までに付け加えると俺はいると思っている、でどうだ」
「……言ってる意味は分かるけど理解はできねぇ。オレが『神なんていない』って思えばカミサマがいなくなるなら、それは緑間の『神はいる』って考えと矛盾しない?」
「それがしないのだよ。なぜならば神がいるのかいないかなど誰にも分からないからな」
「え、ちょ、言ってること違うじゃん」
「俺はずっと一貫して同じことを言っているつもりなのだが
。神がいるのかいないのかは誰にもわからない、これは何があっても正しい事実だ。そして俺は神は存在していると思っている、これは俺にとっての真実で、お前は神は存在しないと思っている、これはお前にとっての真実だ。俺にとっての真実とお前にとっての真実が一致している必要はないのだから、この二つが食い違うことは矛盾でもなんでもない。何かおかしな事を俺は言っているか?」
「……緑間は小難しい事を考えてる、ってことがよく分かった。あと取りあえずカミサマはいないということにする」
「そうか。それならそれをを踏まえてもう一度聞くぞ。お前はうちのご祭神にご挨拶するつもりはあるのか?」
拝殿の手前で問答を繰り広げていたのだが、高尾は特に迷うこともなく頷く。意外そうに緑間が片眉を上げた。
「いないことにしたけど、もしかしたらいるかもしんないじゃん」
「ならいいが」
拝殿の階段を登った緑間が流れるようにお参りを済ます。やっぱり所作がきれいだな、と高尾は思いながら少し遅れてそれに続いた。
それから緑間は、社務所で退屈そうにしている若い職員さんに会釈をして、神社内に点々と散らばっている摂末社の一つ一つにお参りをしていった。高尾は後ろに着いていくだけだったが、おかげで神社をぐるりと一周したことになる。人がいないのをいいことに高尾と緑間は拝殿へ登る階段に腰かけた。鳥居越しの空はもう夜だ。
そろそろ潮時だ、と高尾は腹を括った。じりり、と脳を掠める恐怖心を気取られないように抑え込み、軽く聞こえるように気を付ける。
「あんさー、緑間」
「なんだ」
「お前がさ、なんか詳しそうだから言ってみるんだけど、」
「ああ」
「オレの目、見えなくしたりとかってできねーの?」
「……嫌なのか?」
静かに緑間が問う。つよい視線を感じたが、高尾がそちらを見ることはなかった。なるべく声が震えないように、息を深く吸い込む。
「嫌だよ、嫌に決まってる。
例えば家で飯食ってたらさ、カリカリ音がして、母さんに『何の音だろ?』って聞いても母さん『何が?』って聞き返してくんの。それでああ、オレにしか聞こえないんだ、って分かって何でもないフリしてたら、食卓にぴちょん、ぴちょん、って水が滴る音がすんの。反応して堪るか、って無視すんだけど、その水が赤黒いわけ。これはうっかり気を抜いてる時に見ちゃったら、びっくりして余計不審に思われるな、って思ってそれとなく天井見上げるんだよ。内心びくびくのまんまで。そしたら天井にさ、張り付いてんの。べちょっ、って。蛙潰したみたいな姿勢で、女の人がさ。もう気持ち悪いのなんので思わず吐きそうになったら、だらん、って頭が垂れ下がって、白目向いた女の人の口がニィヤ、って笑うわけ。オレ思わず食器落としたんだよね、それと同じタイミングで首が千切れて食卓にドンッ! って。まあ頭の原型なんて留めてなかったんだけどさ、そこまで見て確かオレ失神したのかな? 気付いたら自分のベッドだった。起きたら吐いた」
「……それからは、大丈夫だったのか?」
突如として始まった心霊体験談に、緑間が難しい顔をして高尾を覗き込む。高尾は軽い調子で続ける。
「何もなかったな。オレ驚かせてあっちも満足したんじゃね? もう見てない。
って、オレが言いたいのはそんな事じゃなくて。まぁいくら警戒しててもああいうことはしょっちゅう起こるわけよ。オレ見えるだけだし。なんだけど、その度に母さんと父さんがオレを精神科に連れていくかどうかで喧嘩始めるし、妹ちゃんは一丁前に気ぃなんか使ってくるし。……ホント、見えなきゃいいのにって、毎回」
「……高尾」
「なーんて、な! んな深刻そうな顔すんなよ。ま、確かに見えるのはヤだけど、お前に無茶振りする気はないし。案外人に話してみたらすっきりするのな」
だからやっぱ聞かなかった事にして、と高尾が緑間の眉間をつつきながら笑い飛ばす。その空元気に緑間の眉間には更に皺が寄った。今日会って話したばかりの緑間にも分かるくらいには、高尾の笑みは痛々しい。知らず知らずのうちに溜め込んでいただけで、結構参っていたらしいと緑間はあたりをつけ、先ほど質問で返してしまった高尾の質問に答えることにした。
「できなくは、ないのだよ。見えないようにしてくれ、という相談は、おそらくお前が思っているよりも多い。恐ろしい物を、見たくはないから、と」
途端に高尾の表情が強張る。
「だが、実際に見鬼を封じることはあまりない。何故だか分かるか?」
「……ううん」
「それは、大抵の人は見えない方が怖いからなのだよ。元が見えていただけあって、いざ見えなくなると過剰に妄想してしまうわけだ。異形の気配を感じた時に目を瞑っていられるか、と考えてみるといい」
答えられない高尾を尻目に、緑間は立ち上がって社務所へ向かった。そこから無造作に御守りを一つ選ぶと、戻って高尾に突き出す。交通安全、と刺繍されたそれを戸惑いがちに高尾は受け取った。
「なに、これ」
「持っておけ。少しはつかれにくくなる」
「ん、ありがと」
きゅう、と一度御守りを握りこんで高尾はそれを制服のポケットにしまう。階段から立ち上がると、軽く服を叩いて大きく伸びをした。
「そろそろ帰るわ、オレ」
「……道は分かるか?」
「オレ方向感覚いいからへーき。今日はいろいろあんがとな、助かった」
「ああ、……気を付けて」
[newpage]
高尾が坂を下って角を曲がるところまでを見送って、緑間は。真っ直ぐ社務所へ向かった。カウンターの向こうにすわっているのは、蜂蜜色の前髪を左目に掛けた職員だ。彼が機嫌悪そうに右目だけで緑間の長身を睨め上げている。その様子に、緑間が僅かに口角をつり上げた。
「盗み聞きとは大層なご趣味ですね、宮地さん」
「知ってて聞かせてたやつが何言ってんだよ」
「何を思ってか、俺が気付いていると知りながら図々しく座っていたのは宮地さんでしょう?」
「うっせーよ」
お前が珍しく笑ったりなんかするからだ、と宮地は声に出さずに呟いた。そもそも社務所の前を通った時に緑間は立ち去れと指示をしなかったのだから、緑間はあえて宮地に高尾を見せていたフシがある。本人に自覚があるのかは知らないが。
緑間と宮地の付き合いは長い。だからこそ、宮地は緑間が高尾にとっていた態度がーー表情の変化が目に見えて分かるレベルだったり、やたらと饒舌だったり、かと思えば人の話をちゃんと聞いたりだとか、そういうところだーー数少ない親しい友人達に向けるものとよく似ている事を知っている。その高尾が、異形が見える目はいらないと、自分から緑間から遠ざかるような事を言い出したのだから宮地は腹が立って仕方がなかった。自分でも拗ねているな、と分かる声音で言うと、宥めるように緑間は宮地の前髪を掻き上げる。……緑間の、宮地の思っている事には微塵も気付かない癖に宮地の感情の機微にだけ聡いところが宮地には気に食わない。両目でぐい、と緑間を睨み付けた。宮地が躊躇なく左目を晒すのも、緑間相手だけだというのに。緑間は分かっていてなにもしない。たちが悪い。
「で、どうすんだよ、あいつの目」
「本人が望むのなら、その通りにします。なので宮地さん、御守り袋お願いしますね」
「……お前ってホント物の頼み方がなってないよな」
緑間の声はいつも通りの平坦さで、それがまた宮地の癪に触った。何も思っていないわけが、ないのに。
[newpage]
あれから、数日後。
放課後の教室にいるのは、二人だけだった。一人ぽつんと文庫本を読んでいた緑間が、それをしまいながら俯いている高尾を見やる。
「……いいんだな?」
「うん」
多分オレ、たすけてほしかったんだ、とポツリと高尾は言った。
「お前には家族にカワイソウな子扱いされるのが嫌だみたいな適当言って誤魔化したけど、確かにあれはあの時の本心だったけど、でも多分建前だったんだよ。ホントはもっと単純でみっともなかった。
怖ぇんだよ、幽霊なんて。全部どろどろのぐちゃぐちゃに見えんの。全部化け物なの。全然慣れねぇの。何回見ても体は震えるし小便チビりそうになるしガチ泣きしそうになるのに皆怖くねぇんだと。見えないから。幽霊なんていない、って言えちゃうの。オレは嘘つくな、って思ってたけど、ホントはそれを信じてた。皆が同じ事言うなら、オレの頭がおかしいんだ、って都合よく思いこめるじゃん? そうやって死にたくなるほど怖くて仕方がないの誤魔化してたわけ。なのにお前は、オレの目の前で化け物を追っ払って、あの時にオレ漸く悟っちゃったんだよ。オレの見ているものは、オレだけに見えるマボロシなんかじゃねぇんだ、って。そう思ったら耐えれなかった。ただそれだけだった。
お前は、見えなくなっても逃げらんねぇ、って言ったよな。マジで怖くて仕方がないけど、確かにそれもそうかなってオレも思った。諦めるしかねぇのかな、って。だからお前と別れてから、普通に友達と遊びに行ったわけ。そしたらやっぱり見たよ、幽霊。チビるわけにも泣くわけにもいかねぇから必死になって耐えてさ。でもさ、一緒にいたあいつらは見えてないの。「ちょっと寒くね?」とか言うだけで済んでんの。ずりぃじゃん! なんかもう、心折れた。もう無理。見えなくても怖いかもしんないけどさ、見えてる時点で死んじゃいたくなるくらい怖いなら一緒じゃん? だから、緑間」
たすけて、と高尾は言う。震えを抑え込んだ精一杯強がるその声に、緑間は眼鏡の位置をずらしながら、分かった、と返した。
「少しばかりお前の協力がいるのだよ」
「ん。何すればいーわけ?」
「俺の声をよく聞いて、指示に従ってくれればいい」
言って、緑間が高尾を手招きながら指をぱちん、と鳴らす。途端にぴん、と張り詰めた空気に、緑間が以前と同じように結界を張ったのだろうと高尾は思った。招かれるままに高尾が緑間に近付くと、くるりと体を反転させられ、高尾の背後から緑間の腕が回された。
「目を閉じて、体の力を抜け。体重は俺に預けていい」
それから高尾の両目の上に緑間の左手が重ねられる。高尾に比べると緑間は数段体格がよく、高尾がもたれ掛かっても緑間はびくともしなかった。それでいい、と触りのいいテノールが高尾の耳を擽る。
「時計の秒針の音が聞こえるな? 耳を澄まして、意識を集中させてみろ」
緑間と高尾の動きが止まると、教室に掛かっている時計の音が確かにはっきりと高尾には聞こえた。自分の脈拍を感じながら高尾が耳を澄ませていると、緑間の右手がとん、とん、と高尾の腹でリズムを刻む。段々と広がっていく高尾の意識の中で、そのままで、という声が聞こえる。
時間の感覚も薄れてきた頃、高尾の頭頂に柔らかく何かが触れた。それを合図にしてか、高尾の瞳の奥がどろっ、と溶けるように熱くなる。
「目が、熱い……」
「大丈夫だ、すぐに終わる」
声の通りその熱さはすぐに引いていった。その時に感じた寂寞感に、高尾は今、見える力を失ったのだと何となく理解した。
「もう、見えない……?」
「そうだ。怖いものはもう見えない。続けて言ってみろ、『怖いものは見ない』と」
「こわいものは、みない……」
「ああ、よくできたな」
さらさらとした通りのいい声に、高尾は終わった事を把握する。それから高尾和成、と名前を呼ばれたが、ぼんやりとした意識の高尾は、続けられた声の意味を理解することはできなかった。
「これでお前は、『怖いもの』がいない世界に生まれ換わった。新たな世界に生まれたお前を祝福しよう」
[newpage]
ぱちり、と高尾の意識は急にはっきりとした。あれ、ここどこだ、と辺りをキョロキョロと見回す。
校庭の運動部の声が物寂しく響く、放課後の教室。微妙に落ち着かないのはここが高尾の教室ではないからで。そして一番の違和感の正体を視界の中央に収め、高尾はぱちくりと瞬いた。長身の、校内でもあのピアノで有名な、中性的な美人。緑間真太郎。彼が高尾をじっ、と見ている。
「あれ、緑間じゃん。なぁ、オレ、何でこんなところにいんの?」
「俺が知るか」
高尾が話しかけると、緑間はすぐに視線を外し、脇に置いていた鞄を肩に担いだ。それからすたすたと高尾の隣を通りすぎようとし、ああ、と独りごちて足を止める。
「忘れ物、なのだよ」
有無を言わさず高尾の手に握らさせられたのは、緑間の実家の神社の御守りで、高尾が何か言う前に緑間は今度こそ本当に教室を出ていった。
自分のですらない教室に、高尾は一人取り残される。堪えきれず高尾は盛大に噴き出した。
「何、アイツ、マジで、電波じゃん……! ってか、なのだよ、って……!」
高尾の笑い声が、放課後の校舎に響き渡る。
[newpage]
<蛇足>
ところ変わって、緑間が自宅の神社に帰ってくると、宮地がビニール袋片手に鳥居にもたれ掛かって待ち構えていた。会釈して緑間が通りすぎると、その後ろに宮地が続いて境内に入っていく。
「どうだったんだよ、アイツ」
「頼まれたので、怪異の類が見えないようにしました。それと随分と怯えていた様子だったので、記憶にも少し干渉しました」
「へぇ……記憶まで、ってかなりサービスしたな」
「そのくらい、見える事に参っていたようだったので。高尾の性格にしては怯えようが酷かったので、今回は封じるのではなく、俺が能力を奪う、という形にしたのですが……」
そこで緑間が言葉を濁す。それで? と階段に腰かけて宮地は促した。
「異能の範疇ですよ、これは。普通なら黒っぽい影程度の低級霊が、アメリカンホラーさながらのゾンビに見えます」
「そりゃまた、酷い話だな……」
「それとどうやら見なくてもいいものまで見てしまっているんでしょうね。必要以上に怪異に生理的嫌悪感を覚えます。精神が削られるような感じ、と言いますか」
「おいおい、お前が大丈夫なのか? それ」
「俺はこの異能を使わない状態を知っているので、使わないようにすれば問題ありません。高尾は物心ついた頃からこれだった、と考えるとよく今まで生きてきたな、というのが正直な感想ですね」
「お前にそこまで言わせるか……ま、取りあえずお疲れさん。ほれ」
宮地が持っていたビニール袋を緑間にずい、とつき出す。
「ご利益のある緑間大明神にお供え物だ。まあ、中身はいつも通りだけどよ」
「宮地さんのお母さんの大福ですか。いつもありがとうございます」
「今日は汁粉缶付きだ」
ぱちぱち、と長い睫毛を震わせて緑間が僅かに頬を緩める。
「宮地さんって本当に人がいいですね」
「あぁ?」
「俺は宮地さんには何もしていませんよ」
「カミサマってのは祀っとかねーと祟るめんどくさい生き物だろうが。ただの自己防衛だっつの」
「素直じゃないですね」
「うるせぇ黙れ」
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