小説置き場。
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タイトル
マイペース緑間くんとツッコミ気質な高尾くんの少し不思議な話
キャプション
■オレなんでこんなところにいるんだっけ? って、あんたがヘタレだからだよ、高尾くんよ。
■神社の息子の緑間くんと見える人高尾くんによる高尾くんが見えない人になるまでの話、のはずだったけど高尾くん見えなくならないかもしれない。
■オカルトとか心霊とかそっち系の厨二だよ!
■緑間「人払いを兼ねた結界だ。下がっていろ」「お前は推定ぼっちの同学年男子に何の夢を見ていたのだよ」
■高尾「こちとら物心ついた時から追い回されてンだよ、今更気付かれるなんてヘマしねーよ」「そっか。でも二つしかないものを独り占めするのは良くないと思うぜ緑間くんよ」
■↑大体こんな感じの、シリアスぶっても結局中身はお馬鹿な男子高校生の二人による山もオチもない話です。安定の初対面なのに仲良し。
■筆者はNLでも「女の子を男体化すればホモになるじゃない!」と考えるレベルのどうしようもない腐です。友情のつもりですが腐れた匂いがするのはご容赦下さい。緑高(´∀`)ウマー 腐向けタグが必要そうでしたら追加お願いします……!
■本当はゴーストハントのパロにして黒バスホラータグにお邪魔したかったけど精々現代ファンタジーが限界でした。
■wを使わずにいかにして高尾くんを爆笑させるかに挑戦してみました。高尾くんちゃんと笑ってますか?
■オニポテ美味しいです(´∀`)ウマー
■バスケしろ。
タグ
黒子のバスケ チャリアカー組 パラレル
マイペース緑間くんとツッコミ気質な高尾くんの少し不思議な話
キャプション
■オレなんでこんなところにいるんだっけ? って、あんたがヘタレだからだよ、高尾くんよ。
■神社の息子の緑間くんと見える人高尾くんによる高尾くんが見えない人になるまでの話、のはずだったけど高尾くん見えなくならないかもしれない。
■オカルトとか心霊とかそっち系の厨二だよ!
■緑間「人払いを兼ねた結界だ。下がっていろ」「お前は推定ぼっちの同学年男子に何の夢を見ていたのだよ」
■高尾「こちとら物心ついた時から追い回されてンだよ、今更気付かれるなんてヘマしねーよ」「そっか。でも二つしかないものを独り占めするのは良くないと思うぜ緑間くんよ」
■↑大体こんな感じの、シリアスぶっても結局中身はお馬鹿な男子高校生の二人による山もオチもない話です。安定の初対面なのに仲良し。
■筆者はNLでも「女の子を男体化すればホモになるじゃない!」と考えるレベルのどうしようもない腐です。友情のつもりですが腐れた匂いがするのはご容赦下さい。緑高(´∀`)ウマー 腐向けタグが必要そうでしたら追加お願いします……!
■本当はゴーストハントのパロにして黒バスホラータグにお邪魔したかったけど精々現代ファンタジーが限界でした。
■wを使わずにいかにして高尾くんを爆笑させるかに挑戦してみました。高尾くんちゃんと笑ってますか?
■オニポテ美味しいです(´∀`)ウマー
■バスケしろ。
タグ
黒子のバスケ チャリアカー組 パラレル
時刻は朝。高尾和成は、高校の少し手前で自分と同じ制服を身に付けた学生たちの群れの中に埋もれていた。急いで学校に向かいたいのか、右足でトントンとリズムを取りながら待ち時間の長い信号機を睨み付けている。その落ち着きのない視線はちらりと道端のコンビニのガラスに移り、ガラスに移りこんだ『何か』を見てびくん、と体を震わせた。かと思えばすぐさま視線を信号機に戻し、未だに赤を示していることに小さく舌打ちを打つ。それからもう一度、ゆっくりとコンビニのガラスを見やった。視線の先でコンビニの自動ドアが開き、中から学生が走りながら出てくる。高尾は慌てて前に向きなおった。信号は未だに赤。だが、横断歩道を通過する車道用の信号が赤に変わったため、気の早い学生が既に動き出している。一人が動き出せば集団が進み出すのはあっという間で、周囲に流されながらもう一度コンビニを見た高尾は今度は本当に舌打ちを打った。
「今日もついてきてやがる……」
誰にも聞かれることのなかったその呟きは雑踏の喧騒に混じって消えていく。高尾はだらだらとお喋りに興じながら歩いている生徒達の間を早足で進み、校門を抜けた。ローファーを履き替える為に女子生徒がロッカー室へ吸い込まれ、辺りは学ランの男子だらけになっている。校舎への一本道を進みながら、高尾は恐る恐る背後の校門を振り返った。それからほ、とため息をつく。
「学校のでもとりあえず『門』は呼ばれなきゃ通れないわけね……助かった」
少し表情を明るくした高尾は、今日の授業の分の置き勉を回収するべく、男子ロッカー室へ歩いていった。
配置が一年の頃と変わらないロッカー室で、去年のクラスメイトと雑談混じりの挨拶をしながら高尾は自分のロッカーから教科書を取り出した。変わりに体操服を放り込み、ロッカーを閉じる。行こうぜ、とかけられた声に応と答え、教室のある二階へ向かうと、教室前の狭い廊下には人だかりができていた。丁度、高尾のクラスの前だ。
「おっはよー! みんなどしたん?」
高尾が適当に声を掛けると、人だかりの最後列にいた女子が振り返って、緑間くんが……と言いながら教室のドアの丸窓を指差した。
緑間真太郎。入学当初から頭一つ抜けた長身と、学年男子の平均顔面偏差値を1は押し上げたであろう中性的な容姿で目立っていた高尾の同期生だ。クラスでは碌に友人も作らず孤立している、との噂も高尾には流れてきていたが、今となってはそんな噂も霞むくらいのイメージを彼は持っている。
緑間と言えば、ピアノだ。
常任の教員がいるからか、妙に芸術選択の音楽が目立つこの学校では、年度末に合唱コンクールと授業発表を兼ねた催し物を、わざわざホールを借りて行っている。去年音楽選択だった高尾は合唱の為に人生で初めてホールの舞台裏に入ったのだが(客席から見えないように上手と下手の間を移動するための地下道があることに高尾は感動した)、何度かコンクールで利用したことがあるという管弦楽部の友人曰く、このホールは近場では一番音の響きがいいホールらしい。高尾にはホールの違いなどは分からなかったが、舞台の上で歌った合唱は教室で歌うよりも確かに気持ちがよかった。そんなホールで行われた音楽発表会には、有志による発表というものもあった。そこで全校生徒の前に現れたのが、件の、緑間真太郎だ。
彼はクラシックに興味が無ければ、一分でタイトルを忘れてしまいそうな曲を、初心者にも分かりやすく圧倒的に、情緒豊かに弾き上げた。ポップスばかり聞いている高校生にとっては長すぎる筈の八分間の曲は、だが緑間が奏でると惹き込まれてしまってあっという間だった。気付いた時にはホールは拍手に包まれ、一礼をした緑間が退場していく。あの時、ホールというものは彼のような人間の為にあるのだ、と高尾ははっきりと確信した。自分のような、授業の付け焼き刃でしか音楽に触れていないような人間が使うような場所ではないのだ、と。
例え演奏された曲のメロディは思い出せなくとも、緑間のピアノが与えた鮮烈なイメージは今も高尾の中に強く残っている。それは多くの他の生徒にとっても同じだったのだろう。あの発表会の日から、緑間は『あのピアノの』緑間になっていたのであった。
その緑間が、高尾の教室の中にいる。緑間は高尾のクラスメイトではない。入学時に選択したコースの違いで、三年間同じクラスになることはない人間だ。一体何をしているんだ、と高尾は丸窓から教室を覗き込んだ。
しゃん、と音が鳴る。
鈴だ。幼稚園で配られた玩具のようなものではなく、もっとちゃんとした、神楽鈴だ。それを緑間は構えていた。目をつぶり、音を鳴らした体勢のまま固まっていた緑間はそれからおもむろに瞼を上げ、若葉色の瞳を迷うことなく教室の角に向けた。それからそこへすたすたと歩み寄り、再び鈴を構える。若葉色が消える。
しゃん、と音が鳴る。
心が洗われるような、澄みきった音色だった。緑間の清廉な気配が、教室中に広まっていく。そんなイメージを高尾は得た。
それから二度、つまりは教室の四隅で鈴を鳴らした緑間は、最後に教室の中央でぱん、と柏手を打った。雑音すらも許さないかの如く静謐に清められていた教室の雰囲気が、一気に霧散する。高尾は無意識のうちに詰めていた息を吐いた。緑間は何事も無かったかのように、呆気なく高尾の教室を後にする。
茫然と観客と化していた人だかりから、一人の勇敢な女子が緑間くん! と声をかけた。始業前の学校を謎の空気に変えてのけた長身の神官が、何だ、とのそりと振り返る。
「あの、その、もう……いいの?」
「ああ。問題はないのだよ。まだ何か?」
簡潔に答えた後、女子が首を振ったのを見て、緑間はついでとばかりに若葉色の双眸を自らに集まっている視線に走らせた。特に口を開く者がいないことを確認して、失礼するのだよ、と言って緑間が歩き去る。
異様な沈黙に包まれた廊下から、緑間が完全に退場したのを全員で確認すると、一拍置いてどっと場が沸いた。朝から何だったんだよ、幽霊でもいたのか? なんて軽口も浮かび、その気軽さに思わず高尾が反応する。
「なに、あいつって実は霊感少年だったの?」
「あれ、高尾知らねーの? あいつん家って神社で、中学の頃から度々さっきみたいな事してたらしいぜ? お近づきになりたい女子が適当に幽霊話をでっち上げて相談してみたら、そっちはバッサリ否定しておいて、『でも質の悪いものに憑かれているのだよ』って自分ちの御守り渡したってハナシだ」
「ブハッ、なに、ソレ、営業? マジ、やっ、べぇ……! ちょー、親、孝、行、じゃん……!!!」
「おいおい高尾、またツボに入ったのかよ」
笑い転げながら高尾は自分の机に教科書を仕舞っていく。おちゃらけた様子で振る舞いながらも、高尾は内心では全く別のことを考えていた。
あの『お祓い』には確かに効果があった。緑間は本当に、『見えている』のではないか、と。
ーー緑間真太郎について、調べてみようじゃないか。
[newpage]
しかしながら高尾の意気込みは、その当日にあっさりと無駄になった。
放課後、教室を出た瞬間にばちり、と若葉色と目があったのだ。緑間が高尾に用があるとも思えず、うちのクラスに出待ちするくらいの知り合いがいたんだな、などと意外に思いながら高尾はあっさりと視線を外して帰路につく。階段を降りる時に何となく高尾が廊下を振り返ってみると、緑間は一人で歩いていた。高尾の方へ。
(何でだよっ!)
見なかった事にし、階段を降りた高尾は隣にあるロッカー室に入った。着替え中のサッカー部の友人と話しながら、汗臭くなった体操服と教科書を交換する。宿題に必要になる教材は無いか、と一通り確かめ、サッカー部員を見送った後、ふと高尾は気付いた。
緑間がロッカー室に来ていない。
だが、下足室変わりの女子とは違って、置き勉さえしていなければ男子にとってロッカー室など更衣室とほぼ同じだ。使わないタイプの人間なのだろう、と高尾は深く考えない事にした。そういえば、緑間は弓道部でもあった。運動部には部室というものがある。人数の多いサッカー部の部室などは実質三年生の聖域らしいが、人数の少ない弓道部は二年生でも好きに部室を使えるのかもしれない。そうなれば狭苦しいロッカー室よりも部室を愛用していてもおかしくないな、と高尾は謎の推理をはたらかせる。うんうん、と一人頷きながらロッカー室を出ると、高尾は長身の人物の隣を通りすぎた。でかい。顔を拝んでやろうと高尾は見上げてみる事にした。再び出会う若葉色。浮かんでいた仏頂面に、高尾は今度こそ堪えきれず全力で声を出してツッコんだ。
「何でいるんだよ! 帰れよお前!」
仏頂面の眉間が寄る。
「何故お前にそんなことを言われなければならない」
答えながらも緑間は外へと歩きだしていた。思わず足を一歩踏み出し、高尾ははっと気付く。何なんだこの一緒に帰るみたいな展開は。しかし足も口も止まらない。
「お前オレの後ろ歩いてたじゃん! ロッカーにも来てねぇじゃん! 何で帰ってねぇんだよ!」
「気付いていたのか……?」
「あんな下手くそな尾行、誰だって気付くわっ! 折角見なかったフリしてやったのに! 何でオレをつけてたんだよ!」
「何で、って……」
すたすたと、高尾が小走りになって追いかけていた緑間の足が止まる。ロッカーを出れば、校門までは一直線だ。ぎくり、と高尾は固まった。校門の向こうにはそういえば厭なモノがいた。
「校門の、『アレ』についてに決まっているだろう」
緑間がお手軽に左手の親指でくいくい、と校門を示す。そこには高尾が朝撒いてきた異形が、忠犬宜しくじっと何かを待っていた。正直なところ、高尾にとっては正視に耐え難いほどのおぞましさで、犬だなんて可愛らしいものではないのだが。
お前が連れ回しているのだろう? と緑間がさらりと言ってのけ、高尾はへなへなとその場に座り込んだ。誰も好き好んであんなのに追いかけられているわけではない。外で練習をする吹奏楽部員が通り過ぎざまに怪訝そうに高尾を見ていった。
「あーもー、ヤだ……」
高尾が見上げた空には、不思議そうに高尾を見下ろす若葉色と、憎らしいほどにふわふわの雲が浮かんでいる。
「……おい?」
「お前さ、『アレ』見えてんだろ? 何とかできねぇ?」
見上げてそう問いかける高尾に、緑間がぱちくりと瞬きをした。そしてあっさりと言ってのける。
「できなくは無いが……お前、今まではどうしていたのだよ。初めてではないのだろう?」
「向こうが飽きるまでひたすら無視」
「お前が見えていることに気付かれたら?」
化け物を自力で何とかできる、余裕のある人間らしい問いかけに高尾は胡乱げに緑間を睨み付けた。
「こちとら物心ついた時から追い回されてンだよ、今更気付かれるなんてヘマしねーよ」
「そういうものか」
「じゃなきゃ今まで五体満足で生き延びてねーし」
で、やってくんねぇの? と高尾が問いかけると緑間は少し待っているのだよ、と言い置いて校門へ向かっていった。何となく高尾も追いかける。校門の前に立った緑間は朝も使っていた神楽鈴をしゃん、と鳴らした。その瞬間に辺りの空気が変わる。不純物を完全に取り除いた、清廉な気配が辺りに満ちている。
「なに、これ……」
「人払いを兼ねた結界だ。下がっていろ」
端的に言い放ち、緑間が異形に向かう。高尾は見るのも嫌で目を逸らした。そもそも高尾には訳が分からないのだ。こんなに強烈な存在感を放つモノにどうすれば気付かずにいられるのか。そして、こんなに醜悪なモノをどうすれば直視できるのか。視界に入ってしまっただけで高尾は震えてしまうのだ。『見てはいけない』と本能が全力で拒絶反応を示す。だから高尾は、異形がおぞましいものだとは知っていてもその姿はほとんど知らないに等しかった。恐ろしすぎて、見れないのだ。まともに見てしまえば恐怖で発狂してしまうのではないかと、真面目に考えている。
耳を塞いで聞きたくもない水っぽい音から高尾が意識を逸らしていると、一際悲惨な粘着質な音が高尾の鼓膜を揺らし、そして静かになった。刺さるようだった異形からのプレッシャーがない事を高尾は確認し、緑間の方を恐る恐る見上げる。緑間は顔に飛び散っていたどす黒い液体を制服の袖で拭っているところだった。地面にも、同じと思われる液体が水溜まりのようになっている。高尾と緑間以外の人間に、これらが見えるのかは分からないが、
「……汚い」
「今片付けるところなのだよ」
辺りの惨状を眉をひそめて一言で表した高尾に、緑間は振り返って一瞥を与える事で答えた。本日大活躍の神楽鈴を再びしゃん、と鳴らす。
一度目は浄化を。ただの鈴の一振りで、辺りは何事もなかったかのような清廉さを取り戻した。先程との違いは、異形も、その体液を連想させる厭な液体も、すっかり消え失せている事だけだ。
二度目は解放を。辺りに満ちていた、綺麗すぎるが故に息苦しいほどの気配が散っていく。高尾と緑間は学生達の喧騒に満ちた、普段通りの放課後の学校に立っていた。緑間が結界を解除したのだろう。植え込むの向こうの五十メートルプールから水泳部のホイッスルが聞こえてくる。
「なぁ、緑間」
高尾が初めて緑間の名を音にして呼んだ。そのことで漸く、緑間は高尾の名前を知らない事に思い至ったらしい。明らかに何かを話し出そうとしている高尾の雰囲気を気にも止めずに、自分の思ったことを率直に告げる。
「……そういえば、お前の名前を聞いていないのだよ」
「話聞く気ねーのかよ。高尾だよ」
「そうか」
たかお、と舌に馴染ませるように緑間が高尾の名前を転がし、ひとつ頷く。
「話ならば帰りがてらに聞こう。自転車を取ってくる」
一方的に言い放ち、緑間は校舎の方へ戻っていった。二年生の自転車置き場は五十メートルプールと体育館の間だ。普通に校門に来るまでに自転車置き場の前を通り過ぎている。超常現象を体験した言い知れない興奮を、マイペースに『自転車が無ければ家に帰れない』という現実にぶち壊された高尾はがっくりと項垂れた。
「チャリ通ならさっさとそう言えよ……!」
それからふと、何処で話すことになるのか、と考えてみる。
広い公園なら校門を出た真向かいにあるが、間には交通量の多い国道が通っている。横断するには歩道橋を使う必要があり、徒歩ならば何の問題もないが自転車の緑間には酷だろう。そもそもあの公園は蚊が多くて高尾は嫌いだ。
次に近いのはコンビニのイートインではあるが、こちらは狭いうえに声がよく響く。緑間が高尾といた、と来週のクラスの話題のネタになるのは高尾は一向に構わないが、話す内容は絶対に聞かれたくない。却下だ。
そうなると次に近いのは高校生にはお高いファーストフードか、と高尾は考え、それから財布の中身を思い出す。少々、いやかなり痛い出費だ。駅前の商店街まで行けば安い方のファーストフードやドーナッツ屋もあるにはあるが、その分学生も多い。やはり行くならモ◯が妥当か、と高尾は考えをまとめた。緑間は高尾が出会ってきた人間の中でも群を抜いてマイペースな相手だ。適当に話をするだけでも楽しいだろう、と結論付けて高尾は校舎の方を向いた。緑間が自転車を押して来ている。
「腹減ってねえ? 適当に食いに行こうぜ」
「ああ」
「てか、お前家どっちなの?」
「交差点を公園側に曲がった方向だ」
「ふーん。んじゃ、◯スでいい?」
「構わないが……お前はいいのか?」
校門を抜け、信号を待ちながら緑間が首を傾げる。
「なにが?」
「あそこは高いだろう」
「え、お前ってそんな発想あんの?」
なんか予想外、と高尾は軽く驚く。だが次の瞬間にはそれよりも特大の爆弾が緑間の口から放たれた。
「……いつも友人がそう言って嫌がるだけだ」
「友達ぃ!? お前にいんの!? マジで!?」
冷静に考えれば中々失礼な事を高尾は言っているが、緑間にモ◯バーガーは高いから嫌だと言うような友人がいる、ということはそのくらい衝撃的な事だった。高尾でなくとも、校内の人間だったら誰もが驚くだろう。非常識なように見えて常識的に気分を害した緑間がむ、と眉間にしわを寄せ、青に変わった横断歩道を進みだす。
「さっきから失礼なのだよ、お前は。俺にだって校外には友人だっている」
「校内にはいねーじゃん」
「うるさいのだよ」
「マジでいないのかよ」
何となく、コンビニのイートインから視線が突き刺さっているように感じたが高尾は気にしない事にした。このまま真っ直ぐ進めば目的地だ。
「せめて部活のやつくらいとは仲良くしてやれよ……って、部活ねーの? お前弓道だったよな?」
「部活はあった。だが、サボった」
「行けよ。その外見でサボるとか言うなよ!」
「何故外見の話になる」
「夢が! 壊れるじゃん!」
「お前は推定ぼっちの同学年男子に何の夢を見ていたのだよ」
「知らねぇの? お前って顔は男っぽくないから身長さえ忘れれば案外抜けるって「しね」
「オレはやったことねぇからな!? 人の話は最後まで聞けよ!?」
「知るか」
「あ、着いた」
「先に注文しておけ。席は取っておく」
店の前に自転車を止めながら、緑間がしっしっ、と高尾を店内に追い払った。ホントに慣れてんだな、と思いながら高尾はドアを押し開く。ちらりと鍵をかけている緑間を見やり、一言だけ言い置いた。
「奥の方よろしく」
「ああ」
[newpage]
緑間がドリンクにメロンソーダを注文したことにひとしきり高尾が「緑間が、みど、り、いろ……!!」と爆笑したあと、ライスバーガーがテーブルに運ばれてきた時には高尾は瀕死状態になっていた。机に突っ伏してぷるぷると震えている高尾に緑間が絶対零度の視線を送る。
「何故笑うのだよ」
「だっ、て、まじで、見た目通りじゃん……!! で、も、メロン、ソーダ……!! ぜ、んぜん、あって、ねぇ……!!」
「…………。よく分からないが、早く食べないと冷めるのだよ」
理解することを放棄した緑間がもしゃもしゃとオニオンリングを食べる。そのあとにメロンソーダを啜り、確かにあまり合う取り合わせでもないか、と少し納得した。屍から復活した高尾は気を取り直したようにチーズバーガーに食らいついている。その様を何となく眺め、先程の会話を反芻していた緑間は高尾に言いたいことがあった事を思い出した。行儀よく口内のものを飲み込んでから口を開く。
「そもそも、お前のせいなのだよ」
きょとん、とチーズバーガーに噛みついたままの高尾が緑間を見上げた。
「部活の件だ」
「はい?」
「ここ数日、お前が妙な気配を連れてくるから集中できなかった」
「ほう」
さらりと高尾がどう触れようか考えあぐねている話題に緑間が触れてきて高尾は焦る。こいつコミュ障のフリしてこっちに探り入れてるんじゃねーだろうな、と高尾は思いつつ、相槌を打って緑間の話の先を要求した。
「だから部長に申請して、休みをもらっていたのだよ」
「……うん? ウチの弓道部が運動部にしては適当なのは分かったけどなんで『だから』?」
予想もつかない話の展開に高尾は混乱する。反射的に生来のツッコミ気質が顔を出してしまった。集中できないから帰ります、なんて言い分が通用してしまっていいのだろうか、などと考えながら高尾はチーズバーガーの包装紙をぐしゃぐしゃに丸めてポテトの籠に入れる。高尾が喋っている間にオニオンリングを口に運んでいた緑間は、それを咀嚼してメロンソーダを飲んでいた。
「なんでも何も、集中できないのならその原因を取り除くしか人事の尽くしようがないだろうが」
「ジンジって何……
じゃなくて! お前さっきから何オレのオニポテ食ってんだよ! 自分は普通のポテト頼んだ癖に! 二個しか入ってねーんだぞ! オレ一個も食ってねーじゃんこれじゃあただのポテトじゃん!!」
「人の話を聞いていたのか?」
「人のオニポテ勝手に食ったやつがさも常識人ぶって注意すんじゃねーよォ! こっちはオニポテ食われたショックでてめぇの話なんか全部すっ飛んだわコラ!」
「……そんなに食べたかったのか」
「お前もな。何で注文しなかったんだよ」
「オニポテの存在を忘れていたのだよ……」
「そっか。でも二つしかないものを独り占めするのは良くないと思うぜ緑間くんよ」
「そうだな。一つで我慢しておくべきだった」
「人のモンを半分勝手に食うのもどうかと思うけどな。次からはちゃんと注文しような」
「ああ」
そうこうしている間にポテトも無くなった。自分の食べるものが無くなった高尾は、冷めたライスバーガーをかじっている緑間のポテトに手を伸ばした。緑間の若葉色が高尾を咎めるが、魔法の呪文オニポテを高尾が唱えるとすごすごと引き下がる。ハムスターのように縮こまって食べている緑間に、そういえばオレなんでこんなところにいるんだっけ? と高尾は思った。緑間がマイペースすぎるお陰で全然高尾の思うように話せていない。面白いから別にいいのだが。
「んでさ、本題なんだけど」
物を口に含んでいる時は喋れない緑間がこくん、と頷く。さっきからこいつ妙に可愛くないか? と恐ろしい事が高尾の脳裏をよぎったが全力でそれは忘れる。
「お前ってその、『見える』人なわけ?」
「さっき学校であれほどの大立回りを目の前で見ておいて、それは愚問だろう? 本題に入るならさっさと話せ」
訂正。全然こいつ可愛くねぇ。高尾は脳内で一瞬前の自分を完膚無きまでに撲殺した。
「どう入りゃあいいのかわっかんねーんだよ! なに、お前ってすげーやつなの?」
「すげー、とは? それが俺に聞きたい事では無いだろう?」
「あー、うぅ、あのさ、その、」
途端に声のトーンが落ちた高尾が挙動不審げに辺りをキョロキョロと見回す。頬も紅潮してきていて、まるで女が告白してくる時みたいだな、と緑間は率直に思った。とはいえ、口に出し辛い事を態々伝えようとしてくる点ではあながち外れでもないのか? と続けて緑間は表情筋を動かさずに内心だけで首を傾げる。
こういう時は黙って神妙な顔をするに限る、と緑間は男子高校生にしては偏った方向に豊富な経験を活かして、高尾からの平手を回避することに専念した。女子の渾身の紅葉だって中々痛いのだ、うっかり男子から食らってしまえば本当に冗談にならないレベルで痛いだろう。こういう場面で緑間が食らう平手はどういうわけか全面的に緑間に原因があるらしい、ということだけは緑間は友人達からキツく言い聞かせられて知っていた。
そうこうして待っていると、ようやく覚悟を決めたのか、高尾が消え入りそうな程の小声で言った。
「お、オレも……『見える』んだよ」
「……」
「…………」
「………………」
「……………………」
「…………………………」
「何か言えよ!!」
「何を言えと!?」
高尾と緑間の二人ともが両手を机に叩きつけて打楽器奏者に早変わりする。
お前は女子か、いや女子よりも酷い、と緑間が珍しく脳内でツッコミを入れる。
「今お前が言った事はお互いの共通認識であって本題ではないだろうが! 一体何が言いたいのだよ!? もじもじもじもじ焦れったいのだよいい加減はっきりしろ!」
「うっせーよお前が知ってるってのは分かってるけど自分から言うのってすっげー勇気いるんだからな!? オレはお前みたいにオープンじゃねーから自分からこういうこと言うの慣れてねぇんだよ分かれよ!」
ぐび、と高尾が酒のようにジンジャーエールを煽り、プラスチック製のコップを机にだん、と叩きつける。大きな音を出して少しは落ち着いたのか、次の瞬間には高尾はしおらしい様子になっていた。つられて緑間も悄気返る。
「冗談だと思われて笑われるくらいならいいけどさ、マジだと思われた後にドン引きとかされたらどーしようとかさ、思うじゃん……。お前はそんなこと絶対にしない、って分かってるけどさ、でもやっぱり怖ぇんだよ……」
「……そうだな。すまない、俺の配慮が足りなかった。ここでは落ち着かないだろう。俺の家にでも来るか?」
思ってもみなかった緑間からの提案に、高尾がぱちぱちと瞬きをしながら上目遣いで緑間の顔を見上げる。
「お前んち?」
「ああ。徒歩でもそう遠くはない距離だが」
確かに、人目がある場所で見えるだの見えないだのという話をすることは高尾にとっては落ち着かないことだった。ファーストフード店、という高校生の下らないが平穏な日常を象徴するような領域に、非現実的な話を持ち込みたくはない、と心のどこかで思っていたのかもしれない。その点、高尾にとって非現実の象徴ともいえる緑間の領域でなら、遠慮なくそういう話ができそうである。また、高尾にとって自分と同じものが『見える』人間は緑間が初めてだ。特に迷う理由もなかった。
「……ん。行く」
「なら出るぞ。トレイは頼む」
「あいよー」
自転車のために先に出ていった緑間の分と合わせて二人分のトレイを高尾はカウンターへ運ぶ。妙に自分が視線を集めている事に高尾は気付いていたが、人の輪の中にいることが多い彼はちょっと騒ぎすぎたかな、と考えるだけで、自分達の会話が途中だけ聞いた人間にはどのように聞こえるものだったのか、ということに気付くことはなかった。
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