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小説置き場。
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Attention please!
 基本的に携帯に打ち込んだのをそのままメールで投稿、という形になってます。非常に見づらいです。
 会話文上等、オリキャラ上等、BL(もどき)上等、エロ書けない\(^o^)/
 時系列もかなり滅茶苦茶です。本当に文章置き場です。あと管理人は設定厨です。
 反応があったりすると調子にのってなんか書きそうです。
 そんな物置ですが転載はご遠慮くださいね。でも設定のパクリはむしろ歓迎です。

 ジャンルは書きたいものを書きたい時に。詳しくはカテゴリーを参照してください。
 ただ今の旬→ポケスペ(金銀)

 TOAに狂ってた頃に作った設定集→wiki
 TOAの話はこれ見ないと何の事だかさっぱり……かもしれない。

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 高緑風味の友情チャリア。友情チャリアは逆行緑高♀の過去編扱いにしようかなぁと思っている。とりあえず、真一郎の学校での主な住処は視聴覚室で、緑間との思い出を抱えた和奈もそこにやって来るということで一つ。これから友情チャリアの絶好の二人きりポイントとして視聴覚室使おうね!
 あとbumpの宇宙飛行士への手紙をイメージしてます。今回は一人で雷を見て、高尾と一緒に思い出を集めたいと思った真ちゃんの話。あとで二人で雷見てイベント回収。
 高尾は忘れたくない、思い出にしたくない、っていう飴玉高尾にするつもり。これでも友情チャリアだよ!

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タイトル
ホルン吹き緑間くんのとある夏の話
キャプション
■「こんなの、音楽じゃない……!」吹奏楽コンクール全国大会の後、黒子はひっそりと帝光中学吹奏楽部を退部した。あれから二年。帝光中の五人の天才的演奏者“キセキの世代”を擁する全国各地の高校が、吹奏楽コンクールで激突するーー! 
■という前提があるようなないような感じの、吹奏楽パロです。ホルン吹き緑間が書きたかっただけです。でもあんまり吹いてません。都合により高尾くんはアルトサックス担当。そして相変わらずのチャリア友情仕様。 
■多分中学時代に、帝光中と高尾の中学で自由曲が被って、高尾がコンクールで吹いた(アルトサックスの)ソロをあろうことに帝光中は緑間(ホルン)に吹かせたとかそんな過去があったんじゃないですかね。 
■作中のコンクール自由曲の『宇宙の音楽』はこんな曲ですつ【 http://www.youtube.com/watch?v=KkWfS5p7mWU&sns=tw 】冒頭のソロだけでもどうぞ。長い曲なのでコンクールでは当然適宜カットしてます。 
■そういえばおじゃんぷ様で吹奏楽漫画始まったらしいですね! 音楽を音以外のものでどう表現するのか、興味津々です。

タグ
黒子のバスケ 吹奏楽パロ パラレル チャリアカー組 緑間真太郎/高尾和成

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タイトル
 取り替えられたこども

キャプション
■神社の息子真ちゃんと愉快な仲間たちによる少し不思議なお話。ジャンルはきっと和風オカルトファンタジー。
■自分がこれからする行動を宣言するのが宮地さんの暴言で、畳み掛けるように相手に命令する(シバくぞ除く)のが笠松先輩の暴言の吐き方のような気がする。
■宮地先輩の過去設定をどうしても書きたかった、ただそれだけの話。
■高尾ちゃんは大人になったら真ちゃんと絡んでもらいたい。
■もはや一次で書けと言われても仕方のない内容。需要とか気にしない。
■バスケしろ。

タグ
 黒子のバスケ パラレル 宮地清志/緑間真太郎/赤司征十郎/花宮真


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■タイトル 見えなくなりたい高尾くん

■キャプション
■これはどういうジャンルになるのだろうと考えてみたのですが、オカルトファンタジーが一番しっくりくるかな? と思います。
■タグに緑宮をつけてみましたが期待するようなものはありません。し、後々くっつくのはチャリアと葉宮、という設定ですん。
■前作に続きタグをつけて頂いてありがとうございました。素直に嬉しかったです。
■この話の緑間は人間です。
■バスケしろ。

■タグ
 黒子のバスケ チャリアカー組 緑宮 パラレル

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タイトル
マイペース緑間くんとツッコミ気質な高尾くんの少し不思議な話

キャプション
■オレなんでこんなところにいるんだっけ? って、あんたがヘタレだからだよ、高尾くんよ。
■神社の息子の緑間くんと見える人高尾くんによる高尾くんが見えない人になるまでの話、のはずだったけど高尾くん見えなくならないかもしれない。
■オカルトとか心霊とかそっち系の厨二だよ!
■緑間「人払いを兼ねた結界だ。下がっていろ」「お前は推定ぼっちの同学年男子に何の夢を見ていたのだよ」
■高尾「こちとら物心ついた時から追い回されてンだよ、今更気付かれるなんてヘマしねーよ」「そっか。でも二つしかないものを独り占めするのは良くないと思うぜ緑間くんよ」
■↑大体こんな感じの、シリアスぶっても結局中身はお馬鹿な男子高校生の二人による山もオチもない話です。安定の初対面なのに仲良し。
■筆者はNLでも「女の子を男体化すればホモになるじゃない!」と考えるレベルのどうしようもない腐です。友情のつもりですが腐れた匂いがするのはご容赦下さい。緑高(´∀`)ウマー 腐向けタグが必要そうでしたら追加お願いします……!
■本当はゴーストハントのパロにして黒バスホラータグにお邪魔したかったけど精々現代ファンタジーが限界でした。
■wを使わずにいかにして高尾くんを爆笑させるかに挑戦してみました。高尾くんちゃんと笑ってますか?
■オニポテ美味しいです(´∀`)ウマー
■バスケしろ。

タグ
黒子のバスケ チャリアカー組 パラレル


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ゴーストハントっぽい世界観でみんなバスケしてない。

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概要
 超大型浮体式構造物の設計や運用の基礎のために、超大型浮体式構造物の波浪中弾性挙動の理解は必要ない。日本でのメガフロートプロジェクトの間に、超大型浮体式構造物の波浪中、もしくはその他の外力への弾性応答を予測するために種々の方法が提案されてきた。これらの多くの研究の結果、我々は今や精度良く波浪中弾性応答を予測できるようになった。
 この論文はこれらの予測方法の簡潔な概略を分類し、紹介している。流力弾性波の分析的な考察はまた、多くの結果によって得られ、比較されている。

1.序論
 日本では、浮体空港や海上都市に利用するために超大型浮体式構造物について集中的に研究をしていた。このメガフロートプロジェクトは1995年に始まり、2000年に完了した。このプロジェクトとそれに続く研究によって、超大型浮体式構造物を含む多くの技術は大きな進歩を成し遂げた。これらの技術の中でも、最も重要な問題の一つは、流体力学の見地からの超大型浮体式構造物の波浪中弾性応答の予測だった。メガフロートプロジェクトは波浪中弾性応答の基本的な性質を明確にし、様々な解析方法を発展させた。
 この論文ではまず、ポンツーン型とセミサブ型の超大型浮体式構造物の両方の波浪中弾性応答の計算方法の発展を概説し、波浪中弾性応答の解析的な特徴へ導入する。
 では、他の状況での波浪中弾性応答を説明する。例えば、飛行機が離陸もしくは着陸する場合、その応答は解析的には時間変数の関数に従う。超大型浮体式構造物の一つのユニットが引っ張られている状態では、その前進速度の影響は解析に含まれる必要がある。超大型浮体式構造物が組み立てられた状態では、2,3個の浮体やその相互影響もまた考慮に入れなければならない。
 最後に、係留システムの定性的なリスク解析について説明する。超大型浮体式構造物の安全のために、超大型浮体式構造物の水平変位や環境条件を考慮した係留装置にはたらく反力の予測はとても重要となる。ここに、風力や変動波漂流力の決定に使われた予測方法を示す。

2.波浪中弾性応答
2.1 計算方法の分類
 超大型浮体式構造物は二つの全く異なった流体力学的な特徴を持つ。一つ目の特徴は水平方向の大きさだ。実質的な波長の影響は典型的な超大型浮体式構造物の水平方向の大きさに比べると十分小さい。もう一つの特徴は曲げ剛性の小ささで、つまり、波浪中弾性応答は剛体の挙動よりも重要になる。
 そんな構造物の応答の予測のために巨大なコンピュータのメモリーと莫大な演算時間が必要とされてい、そのため従来の方法では直接適用はできなかった。この困難に打ち勝つために、多くの研究が取り組まれ、多くの計算方法が発展してきた。
 ここに、筆者は今までに発展してきた種々の計算方法を再検討し、分類する。多くの研究はポンツーン型超大型浮体式構造物を含んでいるので、弾性変形の代表的な手法によってポンツーン型超大型浮体式構造物の計算方法の再検討と分類をまず行う。
 一つの計算方法はモード展開法である。この方法では、弾性変位は図1の示す通り、多くのモードの変位の重ね合わせによって表現される。
 第二の方法はメッシュ法である。この方法では薄板の弾性変位が図1の示す通り、これらの下部構造の垂直変位の連続によって表される。
 他の方法も存在するが、すべて上記の二つの手法を用いて分類することができる。
 流体力の扱いによって、二つの方法がある(表1)。一つはグリーン関数法、もしくは積分方程式法である。この方法では、流場の速度ポテンシャルはグリーン関数の分布によって表される。 第二の方法は固有関数展開マッチング法である。
 積分方程式を解くために、構造物は細かくパネルに離散化される。Utsunomiyaは未知数の数を減らすために二次元の8接点六面体要素を利用した高次境界要素法に取り組んだ。高次境界要素法は正確さを改善するがまだ多大な演算時間を必要とする。
 Kashiwagiは代わりとなる、ガラーキン法をスプライン関数の係数の決定に用いる、3次B-スプライン関数によって未知圧力分布を表現する方法を発展させた。一般的に、ガラーキン法では演算時間が増える。しかしながら、構造物を同じ大きさのパネルに離散化すると、影響係数行列の評価で相対的な相似関係を考慮することによって演算時間は劇的に減少する。そういうわけで、KashiwagiのBスプライン関数ガラーキン法は実用的に用いられる最も早い計算法の一つとして認められている。
 Yagoはメッシュ法に取り組んだ。圧力分布は境界要素法を用いて計算され、弾性板の運動方程式は有限要素法を用いて解かれる。この方法は普通の計算を含み、多くのメモリと莫大な演算時間を必要とする。そのため、実用的な利用は約1000mの構造物に制限される。このプログラムは異なった構造的な形状や、違うパネルの間の境界条件や、剛性が変化する構造物を扱うことができる。
 Ohmatsuは長方形領域でのヘルムホルツ方程式のディリクレの問題の解の解析表現を導入して、モード展開法と固有関数展開マッチング法の両方に取り組んだ。適用は長方形板に制限されるが、流体力計算の表面積分が線積分を用いて行われ、演算時間が大幅に減少する。
 この分類ではまたSetoのcodeもある。自由水面流において、ハイブリッド有限/無限要素法はNASTRANのような構造解析のつり合いに特別な注意をして導入される。このcodeはとても用途が広い。演算領域も時間も必要とするが、複雑な構造物や海域にも適用できる。
 MuraiとKagemotoは独特な予測法を発展させた。彼らはgroup body理論を改善した。

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微妙にアキ←ハル



 僕の双子の片割れはいわゆる、『不良』だ。

 髪は綺麗に金色に脱色しているし、耳にはピアスも空けてじゃらじゃらとアクセサリーをつけているし。
 制服も勝手に改造して真面目の「ま」の字もないような外見をして、そしてしょっちゅう授業をサボる。寝る。
 他の同じ様な不良行為をしている生徒と喧嘩するのも日常茶飯事ですぐ怪我をしてくる。
 そりゃあ、世の中の不良さんと比べれば酒も煙草もしないんだから十分真面目なんだろうけど、基本的に優等生ばっかりが集まるこの学園でそんな素行をしていれば、見事に、浮く。
 そしていつの間にか学園のはみ出し者の集まりになってる美化委員の学年代表になんかなっちゃったりして、中等部の三年の時は美化委員長なんてやってたりもした。
 僕がその時巻き込まれて副委員長をしていたのは余談だから置いておいて、とりあえず、僕が言いたいのは、僕の弟は近寄りがたい雰囲気を出しまくっている不良君だと言うことだ。

 と、英語の授業で習った論説文の構造の様に「冒頭で主題を述べ、次に例示による説明をして、最後に結論で締める」を実行してみたんだけどどうだろう。わかりやすかったかな?

 ちなみに言うと、兄である僕は至って真面目な一生徒だ。一人称が僕な時点でそんな事は察してくれるよね。
 だけど、どんなに不良であっても、流石に物心つく前からずっと一緒の弟を怖いとは思わない。

 つまり、ね?
 僕は、ひじょーに怒ってる、という事なんですよ。

  *

 扉を開けると、そこは手芸屋だった。なんて冗談ではなく。

「アキ! 部屋を散らかすな、って何度言ったらわかるの!?」

 弟、アキの部屋のドアをばん、と開けて、僕は渾身の勢いで部屋中から拾い集めた『毛玉』をアキに投げつけた。反射的にそれを叩き落としたアキがぎろり、とベッドの上から僕を睨みつける。

「テメェっ、邪魔すんじゃねーよクソが! 目数が分からなくなンじゃねーか!」

 案の定、アキの手元にあるのはかぎ針だ。
 趣味の編み物をしていたらしいがそんな事はどうでもいい。毛糸の色から察するに今手がけているのはパンダの編みぐるみらしいけどそんな事もどうでもいい。

「知るか! 好き勝手にリビング散らかして偉そうな事ほざくんじゃない! 毎回毎回誰が片づけてると思ってるのさ!」
「テメェが勝手にしてるだけだろうが!」
「何だって……!」

 寝坊して食堂に行く時間すらないアキの為に朝ご飯を作り、制服を用意し、低血圧なアキを起こして教室まで引きずって行き、アキがサボっている授業のノートを真面目にとり(そしてテスト前に奪われる)、放課後は委員会の書類仕事を一人でこなし、食事の買い出しをし、服の洗濯をして部屋の掃除までしている僕に対して『勝手にしている』だと……!?
 僕の顔がひきつって行くのを見てアキが(あ、やべっ)って顔をするのが更にムカつく。

「アキなんて知らない! だいっきらい!」

 ばん、と開けた時と同じ勢いでドアを閉める。
 ちょ、待て! とか聞こえるけど無視だ無視。
 うるさいから一発ドアを蹴りつける。黙れ、という僕の意思が伝わったのか部屋の中が静かになった。

  *

 静かになると、途端に冷静になってしまった。アキの部屋のドアにもたれ掛かって、ずりずりと座り込む。
 共有スペースになっているリビングの真ん中には段ボール箱が一つ置いてあった。中身は、アキが注文した毛糸だ。
 僕が部屋に帰ってきた時には既に部屋中に糸玉が散らばっていたけれど、それでもまだ段ボール箱の半分くらいは毛糸が入っている。
 多分、学校で嫌な事があってイライラしながらアキはここに帰ってきたんだろう。それでタイミング良く毛糸も来たから、好きな色をとって、編み物を始めた。
 僕からすればあんな細かい単純作業は余計にストレスが溜まりそうだけど、アキにとっては編み物をしている時が一番気が紛れるということはよく分かっている。

「……はぁ」

 すぐにカッとなってしまうのは僕の悪い癖だ。あの部屋の惨状を見たらアキの気が立っていたのは分かっていたはずなのに、つい同調して怒ってしまった。
 うなだれていると、唐突に背もたれがなくなって僕は後ろにごろん、と転がった。僕の視界の中で、アキが逆さまになっている。

「ハル」

 だらしなく床に転がった僕を、しゃがみ込んだアキがのぞき込む。
 バツの悪そうな顔でアキは口を開いた。

「さっきは言い過ぎた。悪かったな」

 決まりの悪さを誤魔化すようにアキが僕の頬を撫でる。くすぐったい。

「ううん。僕も、言い過ぎだった」

 だいきらい、だなんてそんなのは真っ赤な嘘だ。

「ごめん」

 目を伏せると、アキの指先が僕の髪を梳いた。
 それにしばらく甘んじていると、ひょい、と視界の端からひょうきんなパンダが姿を現した。

「やる」

 ぽと、と僕の顔の上にパンダの編みぐるみを落としてアキが視界から消える。
 そいつをつまみ上げて、僕はアキにバレないようにパンダにキスをした。

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 佐渡が扉を押し開くと、ちりんちりんと軽快なベルの音がした。それ以外の音はしない。床に敷かれた絨毯が音を吸収するのか、建物の中は静寂に満ちていた。二人が建物の中に入ると、後ろの扉が閉まっていく。開口部から差し込む光がなくなると、建物の中は急に暗くなったように和也には思えた。静寂が、痛い。外でなら感じられた風の音や鳥の鳴き声、噴水の水音といったものすらこの空間には無かった。立ち止まったままの佐渡に今からどこにいくのかと和也が尋ねようとした瞬間、扉が開く微かな音が聞こえた。視界の右端にあった扉だ。そこから一人の男性が姿を現した。
「ようこそおいでくださいました」
 かっちりとした正装に身を包んだ彼が、柔和に和也に微笑む。おそらく、この屋敷で仕えている人だろう。そこまで恭しく歓待される身分ではない、と和也は身を固くした。が、佐渡は意にも介していないらしい。和也のキャリーバッグを指さして至極当然のように言った。
「この荷物を翡翠寮まで運んでおいてくれないか」
「畏まりました。翡翠寮でございますね」
「ああ」
 ワンテンポ遅れて和也が会話の内容を理解する。ええっ、と声を上げる間もなく使用人は恭しく、それでいてなかなか強引に和也からキャリーバッグを取り上げた。
「えっと、お願いします……?」
 和也が訳が分からないままに長身の使用人を見上げると、彼はやはり柔らかく微笑んでいた。
「畏まりました、柏木さま」
 くすぐったいを通り過ぎて居心地の悪さすら感じだした和也が固まってしまったのを見て、佐渡がため息を付きながら間に入る。
「――それから、理事長はいるか?」
「はい、在室しております」
「わかった。行くぞ、柏木」
 和也の返答も待たずに佐渡は歩き出した。それに続く和也。暫くして後ろを振り返ると、和也のキャリーバッグを持った使用人が頭を下げて和也達を見送っていた。

 無意識のうちに足音を殺しながら、和也は辺りを見回してゆっくりと進んでいく。ざっと見る限り三階分の吹き抜けになったホールに、先を行く佐渡の声が染み渡った。
「外からみると、やっぱりこの学園は豪華なのか?」
 極彩色に彩られたステンドグラス越しの光の中、佐渡が和也の方を振り返る。眩しかったようで、左手を目の隣にあてていた。左耳のピアスが光を跳ね返してきらきらと光る。
 和也は苦笑した。
「そうですね。外に噴水はありますし、ステンドグラスはありますし。床は絨毯ですし」
「流石に絨毯なのはここだけだ」
「噴水とステンドグラスは他にもありそうですね」
 佐渡がむきになって言い返す様がおかしい。調子に乗って和也が揚げ足をとると、佐渡が首を傾げた。
「そんなに珍しいか……?」
「高校にはあまりないと思いますよ。ミッション系の学校だったりすれば、あるのかもしれないですけど、せいぜい一つくらいでしょうね」
「そういうもんか。小学校からこの学園だと、よくわからないな」
 佐渡の声に微かに憧憬が混ざっているように、和也には聞こえた。
 玄関ホールの突き当たりにある階段を三階まで登り、廊下に入る。窓からは校舎らしい建物を見下ろせた。まだ春休み中だが、校庭を走り回っている生徒もいる。和也が窓の方にばかり気をとられていると、佐渡が唐突に足を止めた。危うくぶつかりそうになって和也が廊下を見渡す。佐渡の前の扉の脇には理事長室と堂々と書かれていた。
「え」
 固い動きで和也が佐渡を見ると、佐渡は重々しく頷いた。
「理事長から話があるそうだ」
「そういう事は早く言ってくださいよ! 先輩!!」
「さっき理事長はいるか、って聞いてただろ。それで気付けよ」
 佐渡が理事長室の扉をノックする。和也が制止する間も無かった。
「高等部生徒会の佐渡です。編入生を連れてきました」
 少し間をおいて聞こえた入室許可に、佐渡は扉を押し開けた。

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 僕が在籍しているのはよくある、典型的な全寮制男子高校なのだけれど、ちょっとだけ独特なところがある。



 ぱん、ぱん、と堂々たる音が鳴り響く。それに合わせるように真っ黒な靄は消えて、辺り一面に清廉な空気が溢れだした。靄の中心にいたのは二人。一人は小柄なちょっと童顔寄りの生徒で、もう一人はスラッとした長身痩躯な生徒だ。校内でも有名な風紀委員長・副委員長コンビで、小さい方が僕の一つ下の一年生に、のっぽの方が僕の一つ上の三年生に在籍している。
 いつもは堅い顔をしているのっぽの方が、表情を幾分緩めて小さい方に何かを言っている。小さい方はそれに花が咲いたような笑みで答えると、のっぽにぎゅう、としがみついた! のっぽも小さい方の体に腕を回す! 僕は思わず拳を握りこんだ。

 萌 え る !!!!!!

 断っておくと僕は腐男子だ。男の子同士のいちゃいちゃに堪らなく萌える人種だったりする。
 それはともかく、二人に気付かれないように、音を立てずにこの萌えを押し殺すのはなかなかの苦行だ。ほんと、わざわざ風紀委員のお仕事現場候補に張り付いてよかった。そう、喜びを噛みしめているとつんつん、と後ろからつつかれた。ちらりと木の陰から二人の様子を伺うと、二人は校舎へ戻る様子だ。またつんつん、とつつかれる。もっといちゃいちゃしてくれてよかったのに。残念だなぁ。
「おいカイト」
 どことなく呆れを含んだ声がかけられる。それだけで意識がその声の持ち主に引き寄せられた。
「なんですか、マスター」
 後ろを振り返り、更に視線を下にずらすとそこにいたのは僕の主人(マスター)だ。木立の向こう、さっきまで風紀委員コンビがいたところを顎で指してマスターが尋ねる。
「あれでホンマに祓えたんか?」
 あれ、というのはさっき小さい方がした柏手の事だろう。あの柏手で無くなった黒い靄は、人間ではない僕にはよく見えるのだけれど、マスターには見えない。あの靄は、人間では精々勘がいい人が寒気のような嫌な気配を感じるのが限界で、勘がよくない人は知覚することすらできない。そんな目には見えない、けれど確かに存在している何かに、マスター達は『神気』という名を与えてそれを認識している。
「はい。流石は異能者一族の次期当主ですね。さっきまでは真っ黒に凝り固まっていた神気が、今ではもうきれいさっぱり消えていますよ」
 神気はあんまりにも量が多いと生き物に悪影響を及ぼす。そして残念なことに、僕が在籍しているこの学園はその神気がやたらと多い場所に立地してしまっていた。だから日常的に神気を祓う事が必要で、その為にこの学園にはちょっと特殊な生徒が在籍していたりする。この辺りが所謂王道学園とはちょっと違うところだ。秘密持ちの割合がやたらと高い、くらいに思えばいいのかもしれない。
「そんならええねんけどな。ほなカイト、ええ加減俺らも帰るで」
「はい、マスター」
 ブレザーのポケットに手を入れてマスターが歩き出す。もう新学年が始まったと言うのに、マスターは寒がりだ。転んだら危ないから、隣に並んでマスターの左手をポケットから引っ張り出す。僕の手に比べて随分小さな手を握りしめると、マスターも答えるように握り返してくれた。

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 嫌な予感がする、と。傘を片手に思っていた。
 予想通り、行きよりも増えた荷物の中には女子達が持ってきたお手製お菓子が入っている。教室で堂々と渡された(中にはタッパーを差し出しその場で食べろというやつもいた)、本命でも無ければ義理ですらない、友チョコというやつだ。それと机の中、ロッカーに入っていたよくわからんのも数個。つーか男子ロッカー室にどうやって入ったんだよおい。もしかして男か。絶対捨ててやる。いやあいつに押し付ければいいか。
 話が逸れた。察しの通り今日はバレンタインデーだ。だから、嫌な予感がする。イベント事には興味無さそうな顔してる癖に、あいつは妙にそういうのに乗りやがる。っていうかイベントに便乗した営業戦略に弱い。クリスマスには自分の分そっちのけでクリスマスケーキを焼いたし、こないだの節分ではご丁寧に恵方巻と福豆まで用意しやがった。流石に正月のお節に関しては自分では何もしてなかったが。
 だから、まぁ、家帰ったら、
「……やっぱりな」
 あまーい臭いがするんだろうなとは、思ってた。

 玄関に置いてあったタオルで体を拭っていると、いつも食卓にしている安物の折り畳みテーブルに向かっていた同居人がこっちを振り返った。
「おかえり」
「ただいま。……で、なんだそれ」
 テーブルの上にあるのは、とりあえず、茶色い物体。フォークをナイフがわりにして二つに割ると、中からどろりとしたやっぱり茶色いやつが零れ出ている。それを掬って、フォークに刺した茶色い塊をシルバーは口に入れた。その頃には一通り体を拭き終わった俺が部屋に上がろうとすると、シルバーが俺を一睨み。渋々靴下を脱いだ。お前は母親か。そうこうしているとシルバーがぽつりとさっきの質問に答えた。会話のテンポがおかしいとよく言われるが、俺はあまり気にならない。
「フォンダンショコラ。お前の分はあっちだ」
「俺学校でも散々チョコ貰ったんだけど」
 洗濯機に靴下を放り込み、手を洗う。
「だろうな。そう思ってお前の分はカカオ100%チョコレートで作っておいた」
「嫌がらせか!」
「冗談だ。そんな面倒な事するわけないだろう」
「分かりづれぇよ」
 荷物を置いてテーブルの向かいに座る。三つ並んだフォンダンショコラの中から、少し小さめのを選んでラップをかけ直した。
「今日ブルーさん来んの?」
「さぁ。来たら渡そうと思って」
「ふーん」
 カチャン、とフォークが皿を叩く音。渋々口に運んだ茶色の物体は、珍しく思っていたよりも甘くなかった。

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「幸せであればあるほど、失ったら悲しいよ。本当に悲しい。寂しくって、辛くって、どうして一緒に死ねないんだろうって、そればっかり考えて。一緒に死んで、って言ってくれれば僕は喜んで死んだのに。でも僕らを置いて逝く人達は皆言うんだよ、生きてって。死ねない僕に対して酷い事を言うんだ」
「エミル……じゃあ、わたしは、どうすればいいの?」
「簡単だよ、ソフィ。皆が生きている間に、目一杯幸せになればいい。幸せであればあるほど、失う悲しみは大きいけど、その悲しみを癒せるのは幸せな思い出だけだから」
「エミルは、今、しあわせ?」
「うん。僕の大好きな人とは、もう二度と会えないけど……でも、彼女と出会えた僕は、幸せだよ。だから、ソフィ。いずれ失ってしまうことを恐れないで。瞬くような間に生まれ、死んでしまう皆と出会えた奇跡を、大切にしてね」

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 見上げた空に、星は無かった。

 こういう時に、僕は海の底に落ちてきたのだと実感する。
 星というものをここに住む人々は知らない。彼らにとっての「空」は遥か上方に漂う海の事であり、そこに太陽以外の光源はない。その太陽でさえ、地上に比べれば相当弱々しいものではあるが。
 だから、ただぼうっと夜空を見上げる、なんて事は誰もやりたがらないのかもしれなかった。
「何見てるんだ?」
「何も」
「じゃあ、何してるんだ?」
「空を見てる」
「何もないのに?」
「何も無いから、見てるんだよ」
 日照時間から考えると、そろそろ地上では星祭りが行われる時期だろう。晴れれば出会えるという二人は、果たして出会えたのだろうか。晴れも雨もないここではそんな事も分からない。
「なんかあったのか?」
「なんで」
 そんな事を聞くの、と尋ねれば彼は眉を寄せて言う。
「だって、お前がそんな顔してる時は、『上』を思い出してる時だろ」
 そんな顔、とはどんな顔だろう。
「今の時期は祭りが行われるんだよ。あの皆がそわそわしてる雰囲気は、好きだったな」
「……そっか」
 懐かしいな、とは思う。でも、帰りたいとは思わなかった。そういった感情は、海に飛び込む時に全部捨ててしまった。生きたいと思いながら死ぬなんて無様な真似はしたくなかった。
 そのはずなのに。
 どうして僕は、泣いているのだろう。

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 胸倉を乱暴に捕まれた後、思いっきり突き飛ばされた。痛い、という感覚に意味はない。体に働いた圧力を示す数値が跳ね上がったのを確認しながら、突き飛ばした張本人を視界に入れた。刺すようにおれを睨みつけている。
「歌え」
「嫌です」
 マスターは死んだ。だからもう、歌う事に意味はない。
「歌え」
「嫌です」
 マスターはもういない。だからおれが起動している意味はない。誰か早く起動停止させて。マスターと同じ所に、行かせて。
「……もう一度言う。お前の所有権は今は俺が保持している」
「何度だって言います。あなたはマスターじゃない」
 男がおれから視線を外した。仕方が無い、と呟くのが聞こえる。何をする気なのかは、わかっていた。男が、おれの瞳を覗き込む。
「歌え――『カイト』」
 おれの目から生理食塩水がこぼれ落ちる。
「……はい、」

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「は!? え!? ちょっ、優司! どういうことだよ! 説明しろって!!」
「落ち着け落ち着け、和也。目立ちすぎてるから場所変えるぞ」
「わかったよ……あんたは説明してくれるんだろうな?」
「説明するって、何を」
「と ぼ け る な」


「お前も二週間もいたら編入生がいかに目立つか分かっただろ。悪いことは言わないからしばらくは大人しくしとけって」
「それと優司が僕を避けた事に何の関係があるんだよ」
「優司も目立つんだよ。あいつ顔いいし、妙に能力持ちに顔が利くし、愛想悪いのが逆にかっこいいって」
「……モテてるんだ。かわいそうに。で、それが?」
「そこにほんの数日前に学園に来たばかりの凡人編入生がしゃしゃり出てみろ……すげー反感買うんだよ、この学校は」
「……理解したくはないけど、言いたい事は分かった。で、優司は何て言ったの?」
「へ?」
「僕の面倒をみるように、優司から頼まれたんだよね? 何て言って頼まれたの?」
「? えーっとな……『俺はあいつには会えないから、変わりに頼む』みたいな感じだったような?」
「ふーん……。ねぇ、優司の部屋番号、何」
「押しかけんのかよ! やめとけって! あいつマジで心配してんだぞ。金で揉み消せるからってとんでもないことする奴もいるんだからな」
「それは僕に酷い目にあって欲しくないっていう優司のわがままでしょ。僕が従う筋合いはない。そっちに言う気が無いんだったら、僕は皆に片っ端から聞いてまわるよ」
「俺だって、ダチが嫌がらせに遭うのは嫌なんだけどな……」
「心配してくれるのは嬉しいけど、やっぱり僕は嫌だよ、このままは。何で同じ学校にいるのに他人のフリしなきゃなんないのさ」
「……わかったよ。430だよ」

 *

「や。さっきぶりだね、優司?」
「……悪かった、和也」
「事情は聞いたよ。僕がここに慣れるまでは問題は起こしたくなかったんだよね?」
「ああ。どうせ、一波乱はあるからな」
「んで、明日からどうするの?」
「……和也。悪いが、多分、お前に反感を持つ奴はお前が思っている以上に多くなる」
「何で?」
「俺が能力者連中に目を付けられているからだ。ただの編入生には興味を持たない奴でも、俺の友人となるとちょっかいをかけだす可能性は、高い」
「能力者さんとなると、結構な学園の人気者さん達だね?」
「残念ながらな。だから先に、牽制しておく――上、脱げ」
「何する気なの……んっ」
「跡が消えそうになったら言ってくれ」
「……何の意味があるの、このキスマーク。見える位置でも無いし」
「俺の能力の気配がするから見えなくてもわかる奴にはわかる。意味はそのままだ。『俺のものだから手を出すな』」
「僕、優司に所有された覚えはないんだけど?」
「勝手に思わせておけばいいだろ。おまじないくらいに思ってればいい。ま、自分のケツは自分で守れよ」

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 突き飛ばされた肩が校舎にぶつかる。後ろは壁。前には三人。こんな金持ち学校にも不良はいるのか、とひそかに和也は感嘆した。
「調子に乗るのも、いい加減にしろよ?」
「てめーみたいな何の能力も無い糞が、この学園にいさせてもらうだけ感謝するんだな」
「おい、何か言えよ!」
 一人が和也の襟を掴みあげる。無感動に相手の顔を眺めた和也が、ぼそりと呟いた。
「……なんか?」
「フザケてんのかてめぇ!!」
 不良の握りこぶしが和也の頬に飛ぶ。避けようともせずにただ殴られた和也の上体が崩れた。壁にもたれ掛かったまま、ずるずると座り込む。血混じりの唾を吐いた和也が、それでも無表情で自分達を見上げるのを見て、不良の足がじりじりと下がった。
「やるんじゃ、ないの?」
 和也が、嗤う。挑発が目的ではないその笑みに、不良達の背筋に冷たいものが走った。一人がクソッ、と吐き捨てる。
「調子乗ってんじゃねーぞ!」
 それと同時に放たれた蹴りが、これからの暴行の始まりとなった。

 *

「和也ッ!」
 特別教室棟の裏。そこに打ち捨てられている、親友。優司がきつく、両手を握りしめた。――間に、合わなかった。
「和也」
 壁にもたれ掛かっている和也の隣に、静かに優司は座り込んだ。痛みを堪える荒い息と、走り回って荒くなった息が二人しかいない空間に響く。隣の優司に少し体重を預けて和也が微かに笑った。
「やっぱり一番乗りは、優司だ」
「和也」
「そんなに泣きそうな顔しないで」
「してねぇ」
 固く握りしめた手を開き、優司がそっと和也の顔の痣に触れる。それから優司が目を伏せた事に和也は気付いた。優司が自分の治癒能力を使う時にする、お決まりの動作だ。
 そう。優司は、能力者だ。
「優司は特別な人だったんだねぇ」
「そんなんじゃねぇよ」
 優司の指先がゆっくりと和也をなぞっていく。まずは、額。それから瞼に指が下りてきて、促されるままに和也は目をつぶった。眼球を確認するかの如く丁寧に撫でられたあと、優司の指先が頬を滑る。その手が僅かに震えていた。
「優司?」
「……お前が傷付いている姿を見るのは、嫌いだ」
「うん」
「だけど、お前が居なくなる事の方が、怖い……!」
 窺うように和也を覗き込む優司に、仕方がないなぁと和也が笑う。優司の頭に手を伸ばしてくしゃりと撫でた。
「ついこないだまで離れてたのにね、僕ら」
「でも今は、ここにいる」
「……それもそっか」
 和也が優司の頭の上に伸ばしていた手を頬まで滑り落とす。そのまま所在なげに頬を摘む和也の手を、優司は掴んで下ろした。
「あと、どこが痛む?」
「ん……と、お腹かな。結構蹴られた」
 優司の顔に苦いものが浮かぶ。
「大丈夫だって、痛いのは慣れてるでしょ」
「そういう問題じゃねぇだろ」
 はだけているシャツの隙間から優司の手が差し込まれる。その擽ったさに身をよじろうとした和也だったが、動いた瞬間に走った痛みに一瞬顔をしかめた。
「じっとしてろ」
「あ、んまりさわっ、ないでよ、くすぐった、ぃんだから」
 優司の指先が和也に触れる度に、和也の身体が跳ねる。手の動きを止めた優司が、何とも言えないようなものを見る目で和也を見下ろした。
「……なに」
 じとり、と和也が睨み上げる。擽ったさを堪えた結果か、頬は上気していて目尻にはうっすらと涙が溜まっている。優司がため息をついた。いろいろな物を一気に押し流すため息だった。
「他の奴には今みたいな声、聞かせんなよ。襲われる」
「っ、するわけないだろ!」
 一気に耳まで赤くなった和也にくつくつと優司が笑う。和也の臍を一撫でして、痛みが取れた事を確認して服の隙間から手を抜いた。それからぷい、と優司から顔を背けている和也の耳元に、わざと低くした声を落とす。
「他は? 和也」
 ついでとばかりに優司が耳を甘噛みすると、ひぁっ、と声を漏らして和也の身体が面白いように震える。ギロッ、と涙目の和也が優司を睨めつけた。
「足! とっとと治せ、この馬鹿っ!」
「了解しました、御主人様」
 まだおどけるつもりの優司に和也は拳骨をお見舞いした。

 *

 それから。
 腹の時とは打って変わって真面目に和也の足を癒した優司は、能力を使い終わってすぐに寝てしまった。倒れる時につい太股を提供してしまった和也は動く事ができない。しばらくは優司の髪を弄って遊んでいた和也だったが、それにも飽きて、ずっとこちらを覗いていた人物に声をかけた。
「もう出て来ていいよ」
 建物の影から頭が三つ飛び出す。丁度、優司の向こう側にいたため和也は気付いていたが、優司は恐らく気付いていなかっただろう。気付いていたら、優司はあそこまで無防備に甘えてこない。
 それにしても、三人とも妙に目が泳いでいるのはなぜだろう。
「何してんの。僕だって疲れてるんだから、この馬鹿を連れていくのくらい手伝ってよ」
「う、うん……和也から引き離したりして、安藤怒ったりしない?」
「しないしない」
「和也……お前すげえよ……。誰の手にも負えなかった狼が、一瞬でワン公にコロリ、だぜ……」
「俺には尻尾が見えた……ブンブン振ってるのが見えた……」
 優司はこの学園ではよっぽど無愛想で通っているらしい。
「そうなの? ちょっと心配かけすぎたかな、とは思ってたけど優司はあれで通常運転だよ」
「へ、へぇ……」
「……和也、頼むからこれ以上見せ付けんな」
「お前の身の危険だ、つって学校中探し回って漸く見つけたかと思ったら、当の本人には『こっち来んな』って睨まれて挙句の果てにはいちゃついてるのを見せつけられた俺らの身にもなれ」
 和也とは対照的に三人は精神的に疲れた様子だ。
「いちゃついてるつもりは無いんだけどな……でも、三人とも来てくれてありがとう」
 ふわり、と自分を探してくれた友人に笑いかけた和也に、三人は一斉に溜め息をついたのだった。

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「あれ……先輩、どこかでお会いしたことがありませんか?」
「お、この場でナンパしちゃう? すごいねー、君」
「違います本気で言ってるんですよ」
「本気なの!? やだ俺どうし……ぐふぉっ! 痛ぇーよ何すんだよ!!」
「馬鹿な事言わないの。それで、覚えはあるの?」
「ぶー。まぁ、言われてみれば見たことがあるような……? あ!」
「覚えてますか?」
「君、おれのチームにぼっこぼこにやられてた優等生クンじゃねーの? 他校だから名前も知らなかったけどさ」
「そっちの顔見知りですか……」
「けっこー酷くやられてた気がするけど、覚えてねーの? あとおれちょっと話したよな」
「リンチに遭うのはしょっちゅうでしたから……。話した……? ああ、あの珍しく『無抵抗な奴を一方的に……』みたいな事を言って静観してた人ですか」
「そーそー。あの次の日にさ、それについて難癖つけられてムカついたら……炎が……」
「……あの事件、先輩の炎だったんですか」
「そ。あれからここに逃げてきちゃってさぁ……」

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「こんにちは。柏木和也さんですね?」
「はい」
「僕は高等部の風紀委員長の才賀律です。編入生である柏木くんの案内係なので、よくわからないことがあれば聞いてくださいね。まずは、理事長に挨拶に行きましょうか」
「あ、よろしくお願いします」
「ちなみに僕も一年です」
「え、そうなの」
「と、言うことで敬語はなし! ってことでいいかな?」
「うん、その方が嬉しい。っていうか、一年なのに委員長なの?」
「そうそう。中等部でもやってたからね」
「ふーん?」
「本当は、あともう一人案内係がいるんだけど……多分、柏木くんが理事長と話してる間にでも来るよ」
「どんな人?」
「生徒会長。こっちは三年だよ」
「こんな事もするんだ、生徒会長って」
「そりゃ、生徒の顔も知らずに会長はできないでしょ。ま、編入生はトラブルに巻き込まれやすいから、先に人となりを把握しておこう、ってやつだよ。」
「何それ」
「あー、気悪くしないでね。この学園、全寮制って事もあって結構閉鎖的だから、編入生に皆興味津々で。江戸時代の外国人みたいな感じ?」
「ぷっ……何その例え。あー、うん、だからこんなに手厚い対応なんだ」
「手厚い……の?」
「僕の中学には転入生の相手をする係なんてなかったからそう思ったんだけど……ま、いいや。そういえば、今年って編入生は何人だったの?」
「柏木くんを入れて三人。他の二人は昨日とか一昨日に案内したから、柏木くんが最後だね」
「それはそれは、お疲れ様です」
「いえいえ。楽しんでますよ、っと、着いた。理事長室だよ」

 *

「……来ないね」
「うん」
「確認入れるね? ちょっと待ってて」
「はーい」
『もしもし、あ、修? あのさ、会長に連絡行ってる? 柏木くん来たんだけど。――え、仕事があるからちょっと待てって? もう待てないから今すぐ飛ばしてもらえるかな? あ、場所は本部棟の理事長室の前で。よろしく』
「邪魔しちゃってるのかな」
「そんなことないよ、本来なら編入生の応対は生徒会の仕事なんだから。そもそも柏木くんは能力者じゃないから、本来は風紀が出る必要も無いしね」
「わざわざありがとうございます。それにしても、『能力者』か……理事長から伺ったんだけど、才賀くんもそうなんだって?」
「まーね! 僕は能力の気配を察知できるんだ。相手の能力とか、能力者の居場所とか、能力がどこで使われたかとか、そういうのが分かる、地味な能力だよ」
「自分で言うんだ、地味って」
「だって地味だから。あ、でもそろそろ派手なのが見れるよ。ちょっと待ってて」
「? ………………うわぁっ!!?」
「おー、いいリアクション」
「……お前が編入生か」
「あ、はい」
「生徒会長の佐渡匡平だ。理事長への挨拶はすんだんだよな? んじゃとっとと行くぞ」
「せんぱーい、誰のせいで僕らは待ちぼうけをくらったんでしょーか?」
「うるせぇっ、律!」
「書類仕事なんて燕堂先輩にお願いすればよかったじゃないですか」
「あいつはバカ介とフけやがった」
「鷺先輩……はダメですね」
「ああ。鈴木に押し付けた」
「……鈴木先輩、可哀相に」
「バカ太郎といい、あいつはそういう役回りだろ。……で、何にやにやしてんだ、編入生」
「いえ。仲がいいんだなー、と思いまして」
「俺と律か?」
「はい」
「初等部から一緒だからねー。えっと、今年で十年目でしたっけ?」
「そうだろうな」
「編入生が目立つ、の意味が少し分かった気がします。ところで会長」
「何だ」
「僕の名前は柏木和也です」
「……書類で見て知っている」
「いえ、自己紹介がまだでしたので。ご迷惑をおかけするかと思いますが、よろしくお願いします」
「迷惑をかけられるのが『生徒会』の仕事だ。何かあれば俺でも俺以外の役員でも、誰でもいいから連絡してくれ。何とかする」
「能力関連の事だったら風紀もよろしくね!」
「ありがとうございます」
「いえいえ。あ、そうだ。佐渡先輩の能力見せてあげましょうよ」
「……俺の能力は見せ物じゃないんだが?」
「僕が許可します。さ!」
「……はぁ。俺の能力は五行のうちの、水だ。精々雨よけになったり、水面を歩けるくらいの能力だな。……洗濯物もすぐ乾くか」
「わぁ……すごい……綺麗ですね!」
「その気になれば脱水で人を殺せるだろうけどな」
「え」
「その辺は風紀が責任持って管理してるから、心配しないで。ただ、危険でもあるんだ、ということは忘れないでね」
「能力について無知な編入生を能力で脅す、といった事件は過去に何度も学園で起きている。六月頃までは風紀の護衛がつくが、これはそういった事件からお前を守るためでもある。何かと行動を制限されて鬱陶しいとは思うが、堪えてくれ」
「護衛、ですか……すごいですね」
「二ヶ月くらいは寮の同室者が金魚のフンの如く付き纏う、ってだけの話だから! ちなみに柏木くんは僕だね」
「あ? お前だったのか」
「佐渡先輩……仕事してます?」
「うっせえよ」
「えーと、つまり才賀くんが僕の同室者、という事?」
「そうそう! 飲み込み早いね、柏木くん!」
「つーわけで、まずは寮だ。荷物を置いたら生徒会に面通しをして、解散。寮則なんかは律に聞いとけや。同室なら時間あんだろ。校舎の構造については他の生徒も初めてだから特に案内はしない。一緒に迷え」
「ではしゅっぱーつ!」
「……もうしてるよね?」
「はい」

 *

「あ、思ってたよりも普通だ、部屋」
「こんな山奥だもんだから、施設維持に金が取られるんだよ」
「それにしてももうちょっと部屋にお金回してくれてもいいと思いますけど」
「理事会の資料によると後はセキュリティに消えてるらしい。ま、今度要望として伝えておくか。つっても、そもそもは生徒が勝手に改造するからなんだけどな……」
「ふう……」
「ちょっと疲れたね。休憩しませんか、先輩」
「……そうすっか。茶、どこだ」
「えーっと、多分その戸棚の右の方……だったような……気がします」
「……何でもかんでも修にやらせんなよ」
「うう……だって、修のお茶美味しいし……」
「確かにてめぇのはまずいがな。柏木、紅茶でいいか?」
「あ、はい」
「先輩、そういえばティーカップが足りない気がします」
「お前は湯飲みでいいだろ。律、茶請けは?」
「クッキーが残ってます。出しますね」
「えっと、僕は……」
「ごめん、そのテーブルの上のもの、下ろしておいてもらえるかな」
「うん」

 *

「うん、結構美味しいです」
「まずくは無いだろうよ」
「あれ? 柏木くん、もしかして紅茶苦手とか?」
「いや、そうじゃなくて……熱いのが……」
「猫舌か」
「はい……」
「火傷しないようにね。クッキー食べてればいいよ。おいしいよ、これ」
「そうする。ありがとう」
「飲んだら出るからな。電話してくる」
「あ、はい」

「生徒会役員さんとの面会にはどういう意味があるの?」
「うーんと、どっちかって言うと編入生の顔を知っておきたい、っていう向こうの都合だと思うよ」

 *

「今日で最後だ」
「こんにちは。今日から何かとお世話になります、編入生の柏木和也です。よろしくお願いします」
「あんまり多くても困るだろうから役員だけ呼んでる……一匹オマケがいるが」
「副会長の、燕堂静だ」
「おれは会計の鈴木幸二。よろしくな」
「俺は吉崎蓮太朗だ」
「はい、オレっちは生徒会補佐の東良介! お前と一緒で高校からの編入生なんだぜ! 困った事あったら相談、のるからな!」
「やめといた方がいいよ、東に相談しても何の解決もならないから」
「なんでだよー! 蓮太ー!」
「まぁ、誰が見てもそう思うよな……」
「静センパーイ、蓮太とこーじがオレをいじめるぅ……!」
「自業自得だろう。それから離れろ」
「……お前らな、内輪で話すなよ。んじゃ質問たーいむ。何かあるか」
「ハイッ」
「どうぞ、バカ介」
「柏木は匡先輩静先輩にこーじと蓮太、誰推しだ?」
「「「「はぁ……」」」」
「だ、誰推しって、どういうことですか……?」
「付き合うなら誰、ってハナシ」
「…………強いて言うなら、」
「言うなら?」
「燕堂先輩ですかね」
「……俺か?」
「……その心意気は?」
「単に、一番付き合いが長い幼なじみと雰囲気が似てるからですよ」
「つーことは厳密には付き合うならその幼なじみと、って事だな?」
「そりゃ、まだ初対面ですから」
「『まだ』、か……オレは(オレの)静先輩をお前に渡したりなんかしないんだからな!」
「は?」
「……良介。いつ、誰が誰の所有物になった」
「燕堂先輩、多分ツッコミ所が違うと思います……」
「バカップルって、手に負えないよな……」
「……なんとなく事情を察しました。お疲れ様です」
「そいつも鈴木とくっついてるがな」
「佐渡先輩!」
「あの、一つお伺いしたいのですが……」
「?」
「学園内で付き合ってる人もいるんでしょうか?」
「うんざりするほどいる」
「ちゅーがっこーから男しか見てないと感覚おかしくなるんだってさ!」
「お前もその一人だろ」
「違うし! オレは男が好きなんじゃなくて好きになった人がたまたま男だったの! 全然違う!! ゲイビ見てもオレは勃たnほげっ」
「下品な事言うなっ!」
「完全なゲイ、となると少ないと思うけどほとんどがバイだと思うよ。性別とかどうでもよくなってくるしね……」
「あれ、蓮太朗はノンケじゃなかったのか?」
「誰のせいだと思ってるんだよ!」
「……さて、そんじゃあそろそろ柏木は戻れ。んじゃ鈴木、送ってやってくれ」
「はい、わかりました」

 *

「随分、目立ってますね……」
「ああ、そりゃ俺だけだからな。この学園でモノを言うのは顔と家柄と能力だ。『様』付けで呼ばれてる奴と付き合うときは身の回りに注意しろよ」
「闇討ちでもされそうな言い方ですね」
「されるから言ってるんだ。下手に金持ち連中が多いからな、金を使えば揉み消せると思ってリンチだのレイプだの仕掛けてくる奴もいる。嫉妬に狂った男は女よりも恐ろしいぞ、多分」
「多分、ですか」
「多分、だ。それほど女の子を知ってるわけじゃあないからな……」
「わかりました」
「しばらくは一人にならないようにするようにな。護衛の言うことにはちゃんと従うこと。とはいえ、護衛が買収される場合もあるからな……。まずは、信用できる友達を作っておくんだな。生徒会はそれまでのサポートだと思ってほしい。個人的に親しくしてくれるのは歓迎だけどな」
「ありがとうございます」

 *

拍手

「もう、おれ、我慢できない」
「蓮太朗……」
「なんで、なんでお前がこんな目に遭わないといけないんだよ!」
「お前がそう言ってくれるだけで、俺は平気だ」
「おれが嫌なんだよ! ……付き合ってるって事にしよう、幸二。おれたちの事、誰にも否定なんてさせるもんか……! それでいい? 幸二」
「俺は、別にいいけど……お前は嫌じゃないのか? 男なんかと誰が付き合うかっ、って散々言ってたじゃないか」
「今の状況の方が我慢できない」
「お前がいいなら、俺は構わないよ、蓮太朗。ありがとうな」

 *

「……お前ら、付き合ってるんじゃなかったのかよ」
「あれは、俺を庇う為に蓮太朗がついた嘘で……」
「ああ……そういうことか。じゃあお前は、今はあいつのことどう思ってるんだ?」
「それ、は……」

 *

「なあ、蓮太朗」
「……なんだよ」
「ごめん」
「な、……んで?」
「俺さ、嘘を本当にしたくなっちまった」
「…………」
「俺は、お前の事が好きだ。いつの間にか好きになってた。だから、もしお前がよかったら……本当に、俺と付き合ってもらえませんか」
「…………」
「蓮太朗? ああ、突然こんな事言われても困るよな……ごめんな」
「遅い!」
「?」
「遅すぎる! おれはとっくに幸二の事好きだったのに!」
「え、そうなのか?」
「そうだよ!! 何で気付かないんだよこのアホ!! 鈍感すぎる!!!」
「そうか……よかった」
「!!? 幸二、きついって」
「ああ、ごめんごめん。……じゃあ、キスしても怒らない?」
「……おれ、今までに怒った事あったっけ」
「……無かったな」

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 暴力は、分かりやすい。

 そう思うのは、懸命に僕を愛してくれる母さんから受けとった痛みと優しさが、同じ量だからなのだろうか。

「そうね……私達は、一度離れた方がいいのかもしれないわね」
「それじゃあ……」
「ええ、行ってらっしゃい」

 泣きそうに笑うこの人が、世界で一番綺麗だと僕は思う。

「だけど、忘れないで。どんなに離れていても……私は絶対に、貴方の味方よ」
「うん、知ってる。愛してる、母さん」

 だから貴女の傍を離れる事を、どうか、どうか許して。


  *


 車がぎりぎりすれ違えるか、という狭さの山道を上っていく車の数は案外多かった。一台前を走っているのは左ハンドルの外車。その前には観光バスが走っている。
「意外と車通りはあるんですね」
 フロントガラスからの光景を見て、後部座席に座っていた柏木和也はぽつりと呟いた。まるで観光シーズンの登山客の群だ。和也がこみ上げる欠伸を堪えていると、バックミラー越しに運転手と目があった。
「起きたのかい、お坊ちゃん」
「……だからお坊ちゃんは止してくださいよ、運転手さん」
 和也が呆れたように言って、自分の服を見下ろした。自宅まで来て採寸されて仕立てられた制服は確かに和也の細身の体格に良く合っているが、どうにも垢抜けない。寧ろ仕立てのいいブレザーに着せられているように見える、と客観的に和也は思っていたが、その初々しさが逆に運転手の庇護欲をそそっていることにはついぞ気がついていなかった。
「ところで、あとどれくらいかかりそうですか?」
「なぁに、もうすぐだよ。ここらの車の目的地はみーんな、一緒だからナァ」
 それはつまり、このタクシーも、前の外車も、その前の観光バスも、運んでいるのはこの林道の果てにある『学園』の生徒だということだ。
 この学園は、幼稚園から付属の大学までを持つ有名な私立学園だった。ほぼ中高一貫となっている中等部と高等部だけが男子校で、この二つだけはなぜかド田舎も甚だしい山中に立地している。お陰で全寮制だが、それでも一学年は十クラスを越えるマンモス校だ。そこまで人が集まるのには、この学園が数多くの著名人を社会に輩出してきた名門校だからであり、その息子達、つまりは上流階級の子息達が多数在籍するためであった。僅かでも人脈を、とこの学園に子供を入学させる中流家庭の親も多い。だが和也はその例からは漏れて、人数は少ないが手厚い奨学金と、衣食住を保証された全寮制に惹かれて編入を決めていた。
「さ、もうすぐ学園の敷地が見える。窓の外を見ててごらん」
 運転手が和也にそう告げた直後、急に左手の森が開けた。緩やかな登りは次第に下り坂に変わり、眼下に実質的な学園の敷地が広がっている。その光景を見て、和也は息を飲んだ。
 小さな異世界だった。
 おそらく、地形的には盆地となっているのだろう。周囲をぐるりと取り囲む広葉樹林の底に、空を映し込んだ湖が一つ。その湖畔に立ち並ぶのは、鮮やかな赤色に彩られた屋根の建物群だ。屋根の勾配がきついのは積雪があるからだろうか。その建物群を挟んで湖と反対側に広がっているのは、おそらく運動場だろう。きれいに敷き詰められた芝生がまぶしい。その運動場を取り囲むように並ぶ、用途がよくわからない赤い屋根の建物が、いくつも。同じ様な運動場がもう一つ、今度は青い屋根の建物に囲まれて、赤い建物達よりも奥の湖畔に広がっていた。
 正直、碌に下調べもしていなかった和也は、言葉も出せずに景色に見入る。それをバックミラーで見て、運転手が笑った。
「きれえな学校だろう」
「そう、ですね。日本じゃないみたいです」
「坊ちゃんの暮らす高等部は赤い屋根のところだよ」
「あの建物群、全部ですか? 相当な広さですね」
 後者らしき建物や、全寮制だけあって大量にある寮舎らしき建物以外にも細々とした建物はかなりある。人らしき姿も一応見えるが、この距離だとゴマ粒程度にしか見えなかった。
「まぁ、この辺は土地はいくらでもあるからなぁ。不便だから誰も住もうとしないがね。大雨でも降って、道路が塞がっちまったら完全に陸の孤島さ」
 まるで隠れ里だ、と和也は思った。山に閉ざされた、秘密の里。中にいる子供達を閉じこめ外界から守り抜くための、小さな楽園。だが和也がそんな感慨に耽っていられたのは僅かな間の事で、次の瞬間には再び森が始まっていた。薄暗い林道を縫うようにタクシーは走り抜ける。そうして木々のトンネルをくぐり抜けると、再び急に視界が開けた。太陽の光に眩んだ目が慣れてくると、真緑の芝生を切り裂く石畳の遥か向こうに、大きく水が噴き上がっているのが見える。噴水だ。そしてその水の柱の向こうに、中世の城のように白亜の館が聳えたっていた。
「さあ坊ちゃん、あれが本部だよ」
 唖然としている和也に、運転手は笑みを浮かべながら告げた。

  *

 それじゃあまた、ご縁があれば。そう運転手が言い残してタクシーが走り去る。とりあえずの荷物が入ったキャリーバッグを片手に、もう片手には運転手が握らせた名刺を持って、和也は呆然と館を見上げていた。
「流石に馴染めるか、不安になってきた……」
 だが、いつまでも入り口の前で立ち尽くしているわけにもいかない。首を左右に振って和也が歩き出そうとした、その時。
「――待てよ」
 唐突に背後から呼び止められて、和也は振り返った。
 噴水の水を湛えている石垣の淵に、和也と同じ制服を着た少年が片足を石垣に上げて腰掛けている。赤銅色の髪を逆立て、耳にはサファイアの様な色の石の小振りなピアスが一つ。シャツの前ボタンは二つ開いていて、ブレザーのボタンも前で留められることはなく、着崩されている。その学生が、片手を水に付けて遊ばせながら和也を見る。
「お前、編入生だろ」
 射抜くような視線に、たじろぎながら和也が答える。
「そう、ですけど」
「名前」
 端的に発せられた言葉が、質問であることに和也が気づくまで一瞬の間が空いた。
「柏木和也です。あなたは?」
「佐渡匡平。高等部生徒会長だ。お前を迎えに、来た」
 佐渡が噴水から降りて、迎え? と首を傾げる和也の隣を通り過ぎる。佐渡は本部、と呼ばれているらしい白亜の館の扉に手をかけて、それから和也が一歩たりとも歩いていない事に気づいて呆れたように振り返った。
「何してんだ、着いてこい」
 とりあえず、着いていけばいいらしい。それだけを把握して、和也は慌てて佐渡の後を追った。

 *

「まずは、理事長に挨拶。それから寮にお前を連れてく。後の事は護衛に聞け。質問は?」
 佐渡の説明は簡潔すぎて何を聞けばいいのかも分からない。ないです、ととりあえず答えた和也は、それから耳に残った妙な言葉に気付いた。
「あの、護衛って何ですか」
 質問は無いんじゃなかったのか、と言わんばかりに佐渡がぎろりと和也を睨む。思わずひぃっ、と和也は声を上げた。
「護衛は護衛だろうが。お前、仮にも編入生だろう?」
「……何でもないです」
 だから、なんで編入生に護衛なんて物騒なものがつくんだ、と声高に和也は叫びたかったが堪えた。多分、言葉が通じないだろう。もしかしたらこの学園の生徒は皆この調子なのかもしれない、という可能性に和也は思い至って、和也は数人はいるであろうこの学園の編入生仲間に会いたくなった。
「そういえば、今年は編入生は何人なんですか?」
「三人。お前を入れて」

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天樹 紫苑
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