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小説置き場。
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 見上げた空に、星は無かった。

 こういう時に、僕は海の底に落ちてきたのだと実感する。
 星というものをここに住む人々は知らない。彼らにとっての「空」は遥か上方に漂う海の事であり、そこに太陽以外の光源はない。その太陽でさえ、地上に比べれば相当弱々しいものではあるが。
 だから、ただぼうっと夜空を見上げる、なんて事は誰もやりたがらないのかもしれなかった。
「何見てるんだ?」
「何も」
「じゃあ、何してるんだ?」
「空を見てる」
「何もないのに?」
「何も無いから、見てるんだよ」
 日照時間から考えると、そろそろ地上では星祭りが行われる時期だろう。晴れれば出会えるという二人は、果たして出会えたのだろうか。晴れも雨もないここではそんな事も分からない。
「なんかあったのか?」
「なんで」
 そんな事を聞くの、と尋ねれば彼は眉を寄せて言う。
「だって、お前がそんな顔してる時は、『上』を思い出してる時だろ」
 そんな顔、とはどんな顔だろう。
「今の時期は祭りが行われるんだよ。あの皆がそわそわしてる雰囲気は、好きだったな」
「……そっか」
 懐かしいな、とは思う。でも、帰りたいとは思わなかった。そういった感情は、海に飛び込む時に全部捨ててしまった。生きたいと思いながら死ぬなんて無様な真似はしたくなかった。
 そのはずなのに。
 どうして僕は、泣いているのだろう。

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