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小説置き場。
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 僕が在籍しているのはよくある、典型的な全寮制男子高校なのだけれど、ちょっとだけ独特なところがある。



 ぱん、ぱん、と堂々たる音が鳴り響く。それに合わせるように真っ黒な靄は消えて、辺り一面に清廉な空気が溢れだした。靄の中心にいたのは二人。一人は小柄なちょっと童顔寄りの生徒で、もう一人はスラッとした長身痩躯な生徒だ。校内でも有名な風紀委員長・副委員長コンビで、小さい方が僕の一つ下の一年生に、のっぽの方が僕の一つ上の三年生に在籍している。
 いつもは堅い顔をしているのっぽの方が、表情を幾分緩めて小さい方に何かを言っている。小さい方はそれに花が咲いたような笑みで答えると、のっぽにぎゅう、としがみついた! のっぽも小さい方の体に腕を回す! 僕は思わず拳を握りこんだ。

 萌 え る !!!!!!

 断っておくと僕は腐男子だ。男の子同士のいちゃいちゃに堪らなく萌える人種だったりする。
 それはともかく、二人に気付かれないように、音を立てずにこの萌えを押し殺すのはなかなかの苦行だ。ほんと、わざわざ風紀委員のお仕事現場候補に張り付いてよかった。そう、喜びを噛みしめているとつんつん、と後ろからつつかれた。ちらりと木の陰から二人の様子を伺うと、二人は校舎へ戻る様子だ。またつんつん、とつつかれる。もっといちゃいちゃしてくれてよかったのに。残念だなぁ。
「おいカイト」
 どことなく呆れを含んだ声がかけられる。それだけで意識がその声の持ち主に引き寄せられた。
「なんですか、マスター」
 後ろを振り返り、更に視線を下にずらすとそこにいたのは僕の主人(マスター)だ。木立の向こう、さっきまで風紀委員コンビがいたところを顎で指してマスターが尋ねる。
「あれでホンマに祓えたんか?」
 あれ、というのはさっき小さい方がした柏手の事だろう。あの柏手で無くなった黒い靄は、人間ではない僕にはよく見えるのだけれど、マスターには見えない。あの靄は、人間では精々勘がいい人が寒気のような嫌な気配を感じるのが限界で、勘がよくない人は知覚することすらできない。そんな目には見えない、けれど確かに存在している何かに、マスター達は『神気』という名を与えてそれを認識している。
「はい。流石は異能者一族の次期当主ですね。さっきまでは真っ黒に凝り固まっていた神気が、今ではもうきれいさっぱり消えていますよ」
 神気はあんまりにも量が多いと生き物に悪影響を及ぼす。そして残念なことに、僕が在籍しているこの学園はその神気がやたらと多い場所に立地してしまっていた。だから日常的に神気を祓う事が必要で、その為にこの学園にはちょっと特殊な生徒が在籍していたりする。この辺りが所謂王道学園とはちょっと違うところだ。秘密持ちの割合がやたらと高い、くらいに思えばいいのかもしれない。
「そんならええねんけどな。ほなカイト、ええ加減俺らも帰るで」
「はい、マスター」
 ブレザーのポケットに手を入れてマスターが歩き出す。もう新学年が始まったと言うのに、マスターは寒がりだ。転んだら危ないから、隣に並んでマスターの左手をポケットから引っ張り出す。僕の手に比べて随分小さな手を握りしめると、マスターも答えるように握り返してくれた。

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