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小説置き場。
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 嫌な予感がする、と。傘を片手に思っていた。
 予想通り、行きよりも増えた荷物の中には女子達が持ってきたお手製お菓子が入っている。教室で堂々と渡された(中にはタッパーを差し出しその場で食べろというやつもいた)、本命でも無ければ義理ですらない、友チョコというやつだ。それと机の中、ロッカーに入っていたよくわからんのも数個。つーか男子ロッカー室にどうやって入ったんだよおい。もしかして男か。絶対捨ててやる。いやあいつに押し付ければいいか。
 話が逸れた。察しの通り今日はバレンタインデーだ。だから、嫌な予感がする。イベント事には興味無さそうな顔してる癖に、あいつは妙にそういうのに乗りやがる。っていうかイベントに便乗した営業戦略に弱い。クリスマスには自分の分そっちのけでクリスマスケーキを焼いたし、こないだの節分ではご丁寧に恵方巻と福豆まで用意しやがった。流石に正月のお節に関しては自分では何もしてなかったが。
 だから、まぁ、家帰ったら、
「……やっぱりな」
 あまーい臭いがするんだろうなとは、思ってた。

 玄関に置いてあったタオルで体を拭っていると、いつも食卓にしている安物の折り畳みテーブルに向かっていた同居人がこっちを振り返った。
「おかえり」
「ただいま。……で、なんだそれ」
 テーブルの上にあるのは、とりあえず、茶色い物体。フォークをナイフがわりにして二つに割ると、中からどろりとしたやっぱり茶色いやつが零れ出ている。それを掬って、フォークに刺した茶色い塊をシルバーは口に入れた。その頃には一通り体を拭き終わった俺が部屋に上がろうとすると、シルバーが俺を一睨み。渋々靴下を脱いだ。お前は母親か。そうこうしているとシルバーがぽつりとさっきの質問に答えた。会話のテンポがおかしいとよく言われるが、俺はあまり気にならない。
「フォンダンショコラ。お前の分はあっちだ」
「俺学校でも散々チョコ貰ったんだけど」
 洗濯機に靴下を放り込み、手を洗う。
「だろうな。そう思ってお前の分はカカオ100%チョコレートで作っておいた」
「嫌がらせか!」
「冗談だ。そんな面倒な事するわけないだろう」
「分かりづれぇよ」
 荷物を置いてテーブルの向かいに座る。三つ並んだフォンダンショコラの中から、少し小さめのを選んでラップをかけ直した。
「今日ブルーさん来んの?」
「さぁ。来たら渡そうと思って」
「ふーん」
 カチャン、とフォークが皿を叩く音。渋々口に運んだ茶色の物体は、珍しく思っていたよりも甘くなかった。

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