小説置き場。
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突き飛ばされた肩が校舎にぶつかる。後ろは壁。前には三人。こんな金持ち学校にも不良はいるのか、とひそかに和也は感嘆した。
「調子に乗るのも、いい加減にしろよ?」
「てめーみたいな何の能力も無い糞が、この学園にいさせてもらうだけ感謝するんだな」
「おい、何か言えよ!」
一人が和也の襟を掴みあげる。無感動に相手の顔を眺めた和也が、ぼそりと呟いた。
「……なんか?」
「フザケてんのかてめぇ!!」
不良の握りこぶしが和也の頬に飛ぶ。避けようともせずにただ殴られた和也の上体が崩れた。壁にもたれ掛かったまま、ずるずると座り込む。血混じりの唾を吐いた和也が、それでも無表情で自分達を見上げるのを見て、不良の足がじりじりと下がった。
「やるんじゃ、ないの?」
和也が、嗤う。挑発が目的ではないその笑みに、不良達の背筋に冷たいものが走った。一人がクソッ、と吐き捨てる。
「調子乗ってんじゃねーぞ!」
それと同時に放たれた蹴りが、これからの暴行の始まりとなった。
*
「和也ッ!」
特別教室棟の裏。そこに打ち捨てられている、親友。優司がきつく、両手を握りしめた。――間に、合わなかった。
「和也」
壁にもたれ掛かっている和也の隣に、静かに優司は座り込んだ。痛みを堪える荒い息と、走り回って荒くなった息が二人しかいない空間に響く。隣の優司に少し体重を預けて和也が微かに笑った。
「やっぱり一番乗りは、優司だ」
「和也」
「そんなに泣きそうな顔しないで」
「してねぇ」
固く握りしめた手を開き、優司がそっと和也の顔の痣に触れる。それから優司が目を伏せた事に和也は気付いた。優司が自分の治癒能力を使う時にする、お決まりの動作だ。
そう。優司は、能力者だ。
「優司は特別な人だったんだねぇ」
「そんなんじゃねぇよ」
優司の指先がゆっくりと和也をなぞっていく。まずは、額。それから瞼に指が下りてきて、促されるままに和也は目をつぶった。眼球を確認するかの如く丁寧に撫でられたあと、優司の指先が頬を滑る。その手が僅かに震えていた。
「優司?」
「……お前が傷付いている姿を見るのは、嫌いだ」
「うん」
「だけど、お前が居なくなる事の方が、怖い……!」
窺うように和也を覗き込む優司に、仕方がないなぁと和也が笑う。優司の頭に手を伸ばしてくしゃりと撫でた。
「ついこないだまで離れてたのにね、僕ら」
「でも今は、ここにいる」
「……それもそっか」
和也が優司の頭の上に伸ばしていた手を頬まで滑り落とす。そのまま所在なげに頬を摘む和也の手を、優司は掴んで下ろした。
「あと、どこが痛む?」
「ん……と、お腹かな。結構蹴られた」
優司の顔に苦いものが浮かぶ。
「大丈夫だって、痛いのは慣れてるでしょ」
「そういう問題じゃねぇだろ」
はだけているシャツの隙間から優司の手が差し込まれる。その擽ったさに身をよじろうとした和也だったが、動いた瞬間に走った痛みに一瞬顔をしかめた。
「じっとしてろ」
「あ、んまりさわっ、ないでよ、くすぐった、ぃんだから」
優司の指先が和也に触れる度に、和也の身体が跳ねる。手の動きを止めた優司が、何とも言えないようなものを見る目で和也を見下ろした。
「……なに」
じとり、と和也が睨み上げる。擽ったさを堪えた結果か、頬は上気していて目尻にはうっすらと涙が溜まっている。優司がため息をついた。いろいろな物を一気に押し流すため息だった。
「他の奴には今みたいな声、聞かせんなよ。襲われる」
「っ、するわけないだろ!」
一気に耳まで赤くなった和也にくつくつと優司が笑う。和也の臍を一撫でして、痛みが取れた事を確認して服の隙間から手を抜いた。それからぷい、と優司から顔を背けている和也の耳元に、わざと低くした声を落とす。
「他は? 和也」
ついでとばかりに優司が耳を甘噛みすると、ひぁっ、と声を漏らして和也の身体が面白いように震える。ギロッ、と涙目の和也が優司を睨めつけた。
「足! とっとと治せ、この馬鹿っ!」
「了解しました、御主人様」
まだおどけるつもりの優司に和也は拳骨をお見舞いした。
*
それから。
腹の時とは打って変わって真面目に和也の足を癒した優司は、能力を使い終わってすぐに寝てしまった。倒れる時につい太股を提供してしまった和也は動く事ができない。しばらくは優司の髪を弄って遊んでいた和也だったが、それにも飽きて、ずっとこちらを覗いていた人物に声をかけた。
「もう出て来ていいよ」
建物の影から頭が三つ飛び出す。丁度、優司の向こう側にいたため和也は気付いていたが、優司は恐らく気付いていなかっただろう。気付いていたら、優司はあそこまで無防備に甘えてこない。
それにしても、三人とも妙に目が泳いでいるのはなぜだろう。
「何してんの。僕だって疲れてるんだから、この馬鹿を連れていくのくらい手伝ってよ」
「う、うん……和也から引き離したりして、安藤怒ったりしない?」
「しないしない」
「和也……お前すげえよ……。誰の手にも負えなかった狼が、一瞬でワン公にコロリ、だぜ……」
「俺には尻尾が見えた……ブンブン振ってるのが見えた……」
優司はこの学園ではよっぽど無愛想で通っているらしい。
「そうなの? ちょっと心配かけすぎたかな、とは思ってたけど優司はあれで通常運転だよ」
「へ、へぇ……」
「……和也、頼むからこれ以上見せ付けんな」
「お前の身の危険だ、つって学校中探し回って漸く見つけたかと思ったら、当の本人には『こっち来んな』って睨まれて挙句の果てにはいちゃついてるのを見せつけられた俺らの身にもなれ」
和也とは対照的に三人は精神的に疲れた様子だ。
「いちゃついてるつもりは無いんだけどな……でも、三人とも来てくれてありがとう」
ふわり、と自分を探してくれた友人に笑いかけた和也に、三人は一斉に溜め息をついたのだった。
「調子に乗るのも、いい加減にしろよ?」
「てめーみたいな何の能力も無い糞が、この学園にいさせてもらうだけ感謝するんだな」
「おい、何か言えよ!」
一人が和也の襟を掴みあげる。無感動に相手の顔を眺めた和也が、ぼそりと呟いた。
「……なんか?」
「フザケてんのかてめぇ!!」
不良の握りこぶしが和也の頬に飛ぶ。避けようともせずにただ殴られた和也の上体が崩れた。壁にもたれ掛かったまま、ずるずると座り込む。血混じりの唾を吐いた和也が、それでも無表情で自分達を見上げるのを見て、不良の足がじりじりと下がった。
「やるんじゃ、ないの?」
和也が、嗤う。挑発が目的ではないその笑みに、不良達の背筋に冷たいものが走った。一人がクソッ、と吐き捨てる。
「調子乗ってんじゃねーぞ!」
それと同時に放たれた蹴りが、これからの暴行の始まりとなった。
*
「和也ッ!」
特別教室棟の裏。そこに打ち捨てられている、親友。優司がきつく、両手を握りしめた。――間に、合わなかった。
「和也」
壁にもたれ掛かっている和也の隣に、静かに優司は座り込んだ。痛みを堪える荒い息と、走り回って荒くなった息が二人しかいない空間に響く。隣の優司に少し体重を預けて和也が微かに笑った。
「やっぱり一番乗りは、優司だ」
「和也」
「そんなに泣きそうな顔しないで」
「してねぇ」
固く握りしめた手を開き、優司がそっと和也の顔の痣に触れる。それから優司が目を伏せた事に和也は気付いた。優司が自分の治癒能力を使う時にする、お決まりの動作だ。
そう。優司は、能力者だ。
「優司は特別な人だったんだねぇ」
「そんなんじゃねぇよ」
優司の指先がゆっくりと和也をなぞっていく。まずは、額。それから瞼に指が下りてきて、促されるままに和也は目をつぶった。眼球を確認するかの如く丁寧に撫でられたあと、優司の指先が頬を滑る。その手が僅かに震えていた。
「優司?」
「……お前が傷付いている姿を見るのは、嫌いだ」
「うん」
「だけど、お前が居なくなる事の方が、怖い……!」
窺うように和也を覗き込む優司に、仕方がないなぁと和也が笑う。優司の頭に手を伸ばしてくしゃりと撫でた。
「ついこないだまで離れてたのにね、僕ら」
「でも今は、ここにいる」
「……それもそっか」
和也が優司の頭の上に伸ばしていた手を頬まで滑り落とす。そのまま所在なげに頬を摘む和也の手を、優司は掴んで下ろした。
「あと、どこが痛む?」
「ん……と、お腹かな。結構蹴られた」
優司の顔に苦いものが浮かぶ。
「大丈夫だって、痛いのは慣れてるでしょ」
「そういう問題じゃねぇだろ」
はだけているシャツの隙間から優司の手が差し込まれる。その擽ったさに身をよじろうとした和也だったが、動いた瞬間に走った痛みに一瞬顔をしかめた。
「じっとしてろ」
「あ、んまりさわっ、ないでよ、くすぐった、ぃんだから」
優司の指先が和也に触れる度に、和也の身体が跳ねる。手の動きを止めた優司が、何とも言えないようなものを見る目で和也を見下ろした。
「……なに」
じとり、と和也が睨み上げる。擽ったさを堪えた結果か、頬は上気していて目尻にはうっすらと涙が溜まっている。優司がため息をついた。いろいろな物を一気に押し流すため息だった。
「他の奴には今みたいな声、聞かせんなよ。襲われる」
「っ、するわけないだろ!」
一気に耳まで赤くなった和也にくつくつと優司が笑う。和也の臍を一撫でして、痛みが取れた事を確認して服の隙間から手を抜いた。それからぷい、と優司から顔を背けている和也の耳元に、わざと低くした声を落とす。
「他は? 和也」
ついでとばかりに優司が耳を甘噛みすると、ひぁっ、と声を漏らして和也の身体が面白いように震える。ギロッ、と涙目の和也が優司を睨めつけた。
「足! とっとと治せ、この馬鹿っ!」
「了解しました、御主人様」
まだおどけるつもりの優司に和也は拳骨をお見舞いした。
*
それから。
腹の時とは打って変わって真面目に和也の足を癒した優司は、能力を使い終わってすぐに寝てしまった。倒れる時につい太股を提供してしまった和也は動く事ができない。しばらくは優司の髪を弄って遊んでいた和也だったが、それにも飽きて、ずっとこちらを覗いていた人物に声をかけた。
「もう出て来ていいよ」
建物の影から頭が三つ飛び出す。丁度、優司の向こう側にいたため和也は気付いていたが、優司は恐らく気付いていなかっただろう。気付いていたら、優司はあそこまで無防備に甘えてこない。
それにしても、三人とも妙に目が泳いでいるのはなぜだろう。
「何してんの。僕だって疲れてるんだから、この馬鹿を連れていくのくらい手伝ってよ」
「う、うん……和也から引き離したりして、安藤怒ったりしない?」
「しないしない」
「和也……お前すげえよ……。誰の手にも負えなかった狼が、一瞬でワン公にコロリ、だぜ……」
「俺には尻尾が見えた……ブンブン振ってるのが見えた……」
優司はこの学園ではよっぽど無愛想で通っているらしい。
「そうなの? ちょっと心配かけすぎたかな、とは思ってたけど優司はあれで通常運転だよ」
「へ、へぇ……」
「……和也、頼むからこれ以上見せ付けんな」
「お前の身の危険だ、つって学校中探し回って漸く見つけたかと思ったら、当の本人には『こっち来んな』って睨まれて挙句の果てにはいちゃついてるのを見せつけられた俺らの身にもなれ」
和也とは対照的に三人は精神的に疲れた様子だ。
「いちゃついてるつもりは無いんだけどな……でも、三人とも来てくれてありがとう」
ふわり、と自分を探してくれた友人に笑いかけた和也に、三人は一斉に溜め息をついたのだった。
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