小説置き場。
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微妙にアキ←ハル
僕の双子の片割れはいわゆる、『不良』だ。
髪は綺麗に金色に脱色しているし、耳にはピアスも空けてじゃらじゃらとアクセサリーをつけているし。
制服も勝手に改造して真面目の「ま」の字もないような外見をして、そしてしょっちゅう授業をサボる。寝る。
他の同じ様な不良行為をしている生徒と喧嘩するのも日常茶飯事ですぐ怪我をしてくる。
そりゃあ、世の中の不良さんと比べれば酒も煙草もしないんだから十分真面目なんだろうけど、基本的に優等生ばっかりが集まるこの学園でそんな素行をしていれば、見事に、浮く。
そしていつの間にか学園のはみ出し者の集まりになってる美化委員の学年代表になんかなっちゃったりして、中等部の三年の時は美化委員長なんてやってたりもした。
僕がその時巻き込まれて副委員長をしていたのは余談だから置いておいて、とりあえず、僕が言いたいのは、僕の弟は近寄りがたい雰囲気を出しまくっている不良君だと言うことだ。
と、英語の授業で習った論説文の構造の様に「冒頭で主題を述べ、次に例示による説明をして、最後に結論で締める」を実行してみたんだけどどうだろう。わかりやすかったかな?
ちなみに言うと、兄である僕は至って真面目な一生徒だ。一人称が僕な時点でそんな事は察してくれるよね。
だけど、どんなに不良であっても、流石に物心つく前からずっと一緒の弟を怖いとは思わない。
つまり、ね?
僕は、ひじょーに怒ってる、という事なんですよ。
*
扉を開けると、そこは手芸屋だった。なんて冗談ではなく。
「アキ! 部屋を散らかすな、って何度言ったらわかるの!?」
弟、アキの部屋のドアをばん、と開けて、僕は渾身の勢いで部屋中から拾い集めた『毛玉』をアキに投げつけた。反射的にそれを叩き落としたアキがぎろり、とベッドの上から僕を睨みつける。
「テメェっ、邪魔すんじゃねーよクソが! 目数が分からなくなンじゃねーか!」
案の定、アキの手元にあるのはかぎ針だ。
趣味の編み物をしていたらしいがそんな事はどうでもいい。毛糸の色から察するに今手がけているのはパンダの編みぐるみらしいけどそんな事もどうでもいい。
「知るか! 好き勝手にリビング散らかして偉そうな事ほざくんじゃない! 毎回毎回誰が片づけてると思ってるのさ!」
「テメェが勝手にしてるだけだろうが!」
「何だって……!」
寝坊して食堂に行く時間すらないアキの為に朝ご飯を作り、制服を用意し、低血圧なアキを起こして教室まで引きずって行き、アキがサボっている授業のノートを真面目にとり(そしてテスト前に奪われる)、放課後は委員会の書類仕事を一人でこなし、食事の買い出しをし、服の洗濯をして部屋の掃除までしている僕に対して『勝手にしている』だと……!?
僕の顔がひきつって行くのを見てアキが(あ、やべっ)って顔をするのが更にムカつく。
「アキなんて知らない! だいっきらい!」
ばん、と開けた時と同じ勢いでドアを閉める。
ちょ、待て! とか聞こえるけど無視だ無視。
うるさいから一発ドアを蹴りつける。黙れ、という僕の意思が伝わったのか部屋の中が静かになった。
*
静かになると、途端に冷静になってしまった。アキの部屋のドアにもたれ掛かって、ずりずりと座り込む。
共有スペースになっているリビングの真ん中には段ボール箱が一つ置いてあった。中身は、アキが注文した毛糸だ。
僕が部屋に帰ってきた時には既に部屋中に糸玉が散らばっていたけれど、それでもまだ段ボール箱の半分くらいは毛糸が入っている。
多分、学校で嫌な事があってイライラしながらアキはここに帰ってきたんだろう。それでタイミング良く毛糸も来たから、好きな色をとって、編み物を始めた。
僕からすればあんな細かい単純作業は余計にストレスが溜まりそうだけど、アキにとっては編み物をしている時が一番気が紛れるということはよく分かっている。
「……はぁ」
すぐにカッとなってしまうのは僕の悪い癖だ。あの部屋の惨状を見たらアキの気が立っていたのは分かっていたはずなのに、つい同調して怒ってしまった。
うなだれていると、唐突に背もたれがなくなって僕は後ろにごろん、と転がった。僕の視界の中で、アキが逆さまになっている。
「ハル」
だらしなく床に転がった僕を、しゃがみ込んだアキがのぞき込む。
バツの悪そうな顔でアキは口を開いた。
「さっきは言い過ぎた。悪かったな」
決まりの悪さを誤魔化すようにアキが僕の頬を撫でる。くすぐったい。
「ううん。僕も、言い過ぎだった」
だいきらい、だなんてそんなのは真っ赤な嘘だ。
「ごめん」
目を伏せると、アキの指先が僕の髪を梳いた。
それにしばらく甘んじていると、ひょい、と視界の端からひょうきんなパンダが姿を現した。
「やる」
ぽと、と僕の顔の上にパンダの編みぐるみを落としてアキが視界から消える。
そいつをつまみ上げて、僕はアキにバレないようにパンダにキスをした。
僕の双子の片割れはいわゆる、『不良』だ。
髪は綺麗に金色に脱色しているし、耳にはピアスも空けてじゃらじゃらとアクセサリーをつけているし。
制服も勝手に改造して真面目の「ま」の字もないような外見をして、そしてしょっちゅう授業をサボる。寝る。
他の同じ様な不良行為をしている生徒と喧嘩するのも日常茶飯事ですぐ怪我をしてくる。
そりゃあ、世の中の不良さんと比べれば酒も煙草もしないんだから十分真面目なんだろうけど、基本的に優等生ばっかりが集まるこの学園でそんな素行をしていれば、見事に、浮く。
そしていつの間にか学園のはみ出し者の集まりになってる美化委員の学年代表になんかなっちゃったりして、中等部の三年の時は美化委員長なんてやってたりもした。
僕がその時巻き込まれて副委員長をしていたのは余談だから置いておいて、とりあえず、僕が言いたいのは、僕の弟は近寄りがたい雰囲気を出しまくっている不良君だと言うことだ。
と、英語の授業で習った論説文の構造の様に「冒頭で主題を述べ、次に例示による説明をして、最後に結論で締める」を実行してみたんだけどどうだろう。わかりやすかったかな?
ちなみに言うと、兄である僕は至って真面目な一生徒だ。一人称が僕な時点でそんな事は察してくれるよね。
だけど、どんなに不良であっても、流石に物心つく前からずっと一緒の弟を怖いとは思わない。
つまり、ね?
僕は、ひじょーに怒ってる、という事なんですよ。
*
扉を開けると、そこは手芸屋だった。なんて冗談ではなく。
「アキ! 部屋を散らかすな、って何度言ったらわかるの!?」
弟、アキの部屋のドアをばん、と開けて、僕は渾身の勢いで部屋中から拾い集めた『毛玉』をアキに投げつけた。反射的にそれを叩き落としたアキがぎろり、とベッドの上から僕を睨みつける。
「テメェっ、邪魔すんじゃねーよクソが! 目数が分からなくなンじゃねーか!」
案の定、アキの手元にあるのはかぎ針だ。
趣味の編み物をしていたらしいがそんな事はどうでもいい。毛糸の色から察するに今手がけているのはパンダの編みぐるみらしいけどそんな事もどうでもいい。
「知るか! 好き勝手にリビング散らかして偉そうな事ほざくんじゃない! 毎回毎回誰が片づけてると思ってるのさ!」
「テメェが勝手にしてるだけだろうが!」
「何だって……!」
寝坊して食堂に行く時間すらないアキの為に朝ご飯を作り、制服を用意し、低血圧なアキを起こして教室まで引きずって行き、アキがサボっている授業のノートを真面目にとり(そしてテスト前に奪われる)、放課後は委員会の書類仕事を一人でこなし、食事の買い出しをし、服の洗濯をして部屋の掃除までしている僕に対して『勝手にしている』だと……!?
僕の顔がひきつって行くのを見てアキが(あ、やべっ)って顔をするのが更にムカつく。
「アキなんて知らない! だいっきらい!」
ばん、と開けた時と同じ勢いでドアを閉める。
ちょ、待て! とか聞こえるけど無視だ無視。
うるさいから一発ドアを蹴りつける。黙れ、という僕の意思が伝わったのか部屋の中が静かになった。
*
静かになると、途端に冷静になってしまった。アキの部屋のドアにもたれ掛かって、ずりずりと座り込む。
共有スペースになっているリビングの真ん中には段ボール箱が一つ置いてあった。中身は、アキが注文した毛糸だ。
僕が部屋に帰ってきた時には既に部屋中に糸玉が散らばっていたけれど、それでもまだ段ボール箱の半分くらいは毛糸が入っている。
多分、学校で嫌な事があってイライラしながらアキはここに帰ってきたんだろう。それでタイミング良く毛糸も来たから、好きな色をとって、編み物を始めた。
僕からすればあんな細かい単純作業は余計にストレスが溜まりそうだけど、アキにとっては編み物をしている時が一番気が紛れるということはよく分かっている。
「……はぁ」
すぐにカッとなってしまうのは僕の悪い癖だ。あの部屋の惨状を見たらアキの気が立っていたのは分かっていたはずなのに、つい同調して怒ってしまった。
うなだれていると、唐突に背もたれがなくなって僕は後ろにごろん、と転がった。僕の視界の中で、アキが逆さまになっている。
「ハル」
だらしなく床に転がった僕を、しゃがみ込んだアキがのぞき込む。
バツの悪そうな顔でアキは口を開いた。
「さっきは言い過ぎた。悪かったな」
決まりの悪さを誤魔化すようにアキが僕の頬を撫でる。くすぐったい。
「ううん。僕も、言い過ぎだった」
だいきらい、だなんてそんなのは真っ赤な嘘だ。
「ごめん」
目を伏せると、アキの指先が僕の髪を梳いた。
それにしばらく甘んじていると、ひょい、と視界の端からひょうきんなパンダが姿を現した。
「やる」
ぽと、と僕の顔の上にパンダの編みぐるみを落としてアキが視界から消える。
そいつをつまみ上げて、僕はアキにバレないようにパンダにキスをした。
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