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小説置き場。
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テスト期間中に勢いで一日で書いた。
ナギちゃんの設定を兼ねてますな。(というか私の文章は設定を書いているに等しいような……

時期はネサラが王位に付く前。さらに言うとセリノスの大虐殺よりも前。
具体的に何年前とかけないのが悔しいですね……いつか真剣に考えよう。

 母に、もう一度――故郷の空を飛ばせたい。その一心でナギはキルヴァスまでやって来た。もう彼女の母親はいないから、代わりにその羽根を連れて。
「お母さん……。ほら、キルヴァスだよ。帰ってきたよ。懐かしいでしょ?」
 切り立った崖のその端で、ナギは黒い羽根を天に翳した。母親の形見であるその羽根と、最後の別れをすますために。その声が聞こえるか聞こえないかくらいの場所でネサラはそれを見届けていた。
「それじゃあね、お母さん。私は大丈夫だから、お母さんは好きなだけ、空を飛んでいて――」
 言い終えると同時に、海に向かって強い風が吹いた。それに合わせてナギは手を放す。
 黒い羽根は風に煽られて宙を舞い――そしてまもなく見えなくなった。



 ナギはずっと羽根が飛ばされた先を見つめていた。異国で、母の故郷で母がどんどん遠く離れていく様子が目に焼き付いていた。ようやく、母は死んだのだということを理解した。
「一人ぼっちになっちゃった」
 口に出すと、ますます虚しくなった。生まれ育った村にはもう帰れない。これからは――一人で、生きていくしかないのだ。
 だが、どうすればいいのだろう?
 故郷には帰れない。母の出身地もナギを受け入れてはくれなかった。それ以外にナギが頼れるところなど一つもなかった。
 こんなにも世界は広かったのに、こんなにも世界は息苦しい。
「おい」
 いつの間にかネサラが背後に降り立っていた。
「もう戻るぞ。いい加減冷える」
「……いや」
「あのなあ、……」
 ここにいれば、一度王宮に帰るという目的地がある。だがそれをすませてしまえば、ナギに行く先はない。
 もうどこにも行けないというのなら。
「あたしも、お母さんみたいに飛べるかなぁ……」
 いっそここから飛んでいってしまおうか。
 崖から身を乗り出して下を見た。目も霞むほど遠くに、ごつごつとした岩礁が見える。羽根のある身では高い所に恐怖は感じないが、ナギの中のベオクの血が、くらりとナギをよろめかせた。
「おい!」
 あっと言う間に声が遠くなる。風がナギの中を轟々と通り抜けた。
 落ちる、落ちる。
 飛ばないと――!! そう思った瞬間、ナギは愕然とした。……どうやって?
 飛べない。遥か彼方のように感じた海面が、もう手を伸ばせば届きそうになっていた。
 怖い。痛いのは嫌。死ぬのは嫌。
 ギュッと目をつぶってナギは祈るように念じた。飛んで!!

「あ、れ……?」

 ピタリと風が止んだ。思っていたような衝撃はまだない。微かに肩に違和感。若干の浮遊感。飛んでいる……? だがナギの羽根は全く動いてはいなかった。こわごわ瞼を開けると同時に、足が固いものの上に着いた。地面だ。
 肩の違和感が消えると同時に、大きな鴉がナギの前に現れた。下から覗き込むようにしてナギの顔を見た後、すぐに大鴉はラグズの一般的な姿に変ずる。ネサラだ。
「お、ま、え、は……。飛べないならどうして降りた!」
 突然聞かされた怒鳴り声にナギは目を白黒させた。正直言って何が起きたのかもナギにはあまりわかっていない。そう、自分は落ちていた――はずだ。
「目の前で投身自殺されるこっちの身にもなれ! お前あと少しで死ぬところだったんだぞ!」
 それがなんで今こんなことに? そう思った時、ナギは目の前の自分の叔父にあたるこの少年の息が柄にもなく荒れていることに気付いた。
 ……もしかして、これは助けてもらった?
「おい、聞いてるのか!?」
「あ、はい、すみませんありがとうございましたッ!!」
「…………」
 微妙な沈黙が流れてナギは首を傾げた。ものの見事に毒気を抜かれたネサラはがしがしと髪を掻いた。
「もういい。……戻るぞ」
「っ!」
 戻る、という単語に、自分が落ちる前のことを思い出してナギは立ちすくんだ。同時に落ちた時に感じた恐怖も思い出して、足から力が抜ける。
 数歩先を進んでいたネサラがそれに気付いて振り返った。
「今度は何だ」
「…………」
 何と言えばよいのか、ナギにはわからなかった。自分の行く先がわからないという絶望にも似たこの不安を、どうすれば説明できるのだろう。
 はぁ、と溜め息をついてネサラがナギの前に座り込んだ。
 ネサラとてナギの心情がわからなくもないのだ。城に着いたら最後、追い出されて終わりだ。帰りたくないのもわかる。だが。
(ずいぶん冷えてきたな……)
 キルヴァスの夜は冷え込みが激しい。あまり長くいるとナギの体が冷え切ってしまうだろうし、何よりも自分が寒い。だが王から暗に見張りを命じられた手前、ナギを置いて帰ることもできなかった。
「俺はもう寒いしさっさと戻りたいんだが?」
「それじゃあ先に戻っててください」
「俺はお前を連れて帰ってくるように言われてるの」
「……ごめんなさい」
 ナギが言ったのは付き合わせてごめんなさい、という意味だ。なんだかんだ言ってネサラは無理矢理ナギを連れ戻そうとはしなかった。
「お前、城に戻るのが嫌なのか? それともここにいたいのか?」
 前者ならば適当に寒さを凌げる場所に連れて行こうとネサラは思った。後者だった場合はどうしようもない。
 改めて問われてナギは自問自答した。先行きの不安から忘れてはいたが、初めからキルヴァスに住めるとはナギも思っていなかった。母と自分では『気』が違いすぎた。感覚の鋭いラグズではすぐに自分が『混ざりもの』であることがわかってしまう。だからラグズの国の中ではきっと上手くいかない。そう、考えていた。だから今はそれよりも……。
「お母さんの、近くにいたい」
 ようやく、迷子だったナギの気持ちが帰ってきたような気がした。母親が死んでから、ナギはまだその死をまともに悼んでもいなかったのだ。
 はぁ、とまたネサラの溜め息が落ちた。この寒いところに残ることは決定事項らしい。
 ネサラは腕を前に伸ばして、左手で俯いたナギの顎を押し上げて上を向かせた。きょとんとしたナギと目が合った。それからは敢えて逸らしもしないでナギの頬に右手をあてる。その冷たさにまた溜め息が出そうになった。
「こんなにも冷え切って……」
 それでもナギはそんなことも感じられないほどに追い詰められているのだ。ナギは自分が今どれだけ危ういのかも知らず、助けを求めるために手を伸ばすことも知らなかった。
 じんわりとナギの両目に涙が溜まっていった。そのネサラの行動が、その言い回しが、どうしようもないくらいナギの母親と似ていた。この人と母は姉弟だったんだ、と改めて思って、母はもういないことを思い知った。
「お母さん……」
 ようやく、堰を切ったようにナギは泣き出した。
「俺は、お前のお母さんじゃあないんだけどな」
 目の前で泣き出したナギにそう呟き、ネサラはぽんぽんと軽くナギの頭を叩いた。そうするとナギの泣き方は更に酷くなったが、今は思う存分泣かせた方がいいだろう、とネサラは放っておくことにした。自分の来ていた上着を脱いで、泣きじゃくるナギの上に被せる。外の寒さが身に沁みて思わず「寒っ」と独り言を漏らした。
「聞いちゃいないとは思うが……勝手にどっかに行ったりするなよ」
 そう言うとネサラは早々に鴉に化身して目を閉じた。
 もうすっかり暗くなった辺りに、ナギの泣き声だけが響き渡っていた。


後日談

 いつの間にか泣き疲れて眠ってしまったナギは近くにあった暖かいもの(ネサラ)を無意識のうちに引き寄せて抱き枕にしていたらしい。
「それで? 鴉の俺は随分と暖かい枕だったようだな?」
「ごめんなさい……」
 目が覚めたらとうの昔に化身解除していたネサラが上着はそのままに目の前にいたわけだ。ナギの驚きっぷり半端ではなかった。
 その様子を思い出してクツクツとネサラは笑っているが、ナギとしては恥ずかしいことこの上ない。自分が完全に布団代わりにしてぐちゃぐちゃにしてしまった上着を何度かはたいてネサラに手渡した。
「……ありがとうございました」
「そりゃどう致しまして。どうやら熟睡できたようだなぁ?」
 事実なので何も言えない。ナギ自身だってあそこまで寛いで眠れるとは思わなかったのだ。よりにもよって男と二人きりの状態で、だ。何もされた覚えはないがこれは疑わずにはいられない。
「何もしてないんでしょうね?」
「そりゃあ? 俺はお前に一晩中羽交い締めにされて碌に化身解除もできなかった訳だし?」
 それでいて暖かくなってくる明け方を過ぎるとポイである。自分の上着が容赦の欠片もなく蹴り飛ばされるのを見てしまうと自分の将来も想像に難くなかった。予想外なまでの姪の寝相の悪さに呆れ返りつつも、夜中の仕返しをしてやろうとナギが起きるまで添い寝をしていたわけだ。おかげで、お釣りが出るくらいまで楽しんでいるわけだが。
 更に知りたくもなかった事実を教えられてナギは沈没した。こいつはこう言ってるけども相手は鴉、鴉……と呪文のように念じる。
「お前今もの凄く失礼なことを考えてねーか?」
「考えてません」
 心を読まれたかのようなタイミングで言われたが、それには間髪をいれずに否定した。
「もう、戻れるな?」
 急にネサラの声からからかいの響きが消えてナギは顔を上げた。顔からもふざけた気配はすっかり消えている。
「うん。また、遊びに来てもいいかな?」
「あー、その件なんだが……」
 ネサラが自分の髪を掻き回す。どうにも歯切れがよくない。
「俺から、一度王に執り成してみる。だからそれまでは、まだここにいろ」
 ナギは言われたことへの理解が追い付かなかった。今、彼が言ったこと。それは……。
「いいの?」
「いいも何も……突然飛び方は忘れるし? 寝る時ですら周囲の警戒はしないし? こんな危なっかしいのを外に放り出せってのが無茶だね」
「ありがとう……」
 本人はあーだこーだ言ってはいるものの、その根底にあるのはナギへの心配だ。
 名を、呼ぼうとしてふと、彼を何と呼べばいいのか迷った。
「叔父さん?」
「なっ……誰がおじさんだ!」
「じゃあ何て呼べばいいの?」
「普通にネサラでいいだろ」
「でも年上じゃないあなた」
「ラグズはそんなもん気にしねえよ。ほら、行くぞナギ」
 初めてネサラが自分の名前を呼んだことに気付いて、ナギは少し気恥ずかしくなった。だけどそれよりも、嬉しい。
「ちょ、待ってよネサラ!」
 案外自然と口に出てナギは驚いた。
 先を進んでいたネサラが振り返ってにやりとして言った。
「何だ、言えてんじゃねえか」

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