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小説置き場。
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「なーガイ、後どんくらいだ?」
「ちょうど今日で折り返しだな。さて、後何日だ?」
「オレに聞くのかよ。折り返しって事はちょうど半分だろ。それで二週間だから、えーっと十四日で……。……ん、あれ? 後六日か?」
「指で計算するなよ……。後七日だよ。ニ掛ける七は?」
「えーと、ニ足すニが四で、もっかい足して六で、……あ、十四だ」
「九九も覚えないとな」
「ちぇー。まだあんのかよ」
「まぁそう言うなって。ちなみにだなルーク」
「なんだよ?」
「二週間の半分は?」
「馬鹿にしてんのか? 一週間」
「一週間は?」
「七日だろ。もう覚えたからな」
「部屋から出られないのは後何日?」
「だから七日って……おぉっ!?」
「こっちの方が楽だったな」
「そーゆーことは早く言えよ!」
「何事も経験だろ?」

******
ラディウス
「民の声に耳を傾けずに、教団の妄言に諾々と従う事が王の努めなのですか。それではキムラスカ・ランバルティアはローレライ教団の属国でしかない!」

「王家の血を引いていようがいまいが、ナタリア様は間違いなく王女としての努めを果たしておりました。彼女以外に我が国キムラスカの王女はおりません! 陛下、どうかお考え直しを。王族、更には我々貴族が尊ばれるのは血が尊いからではなく、行いが尊いからでございましょう?」

*****

「記憶喪失ですか。あなたという人は本当に飽きさせませんねぇ」
「俺を知っているのか?」
「記憶を失う前のあなたならですけどね」
「そうか」
「記憶を取り戻したいならならまずはバチカルの王立学問所の研究院へ向かうことです。あなたの知り合いが多くいますから」
「俺は研究者だったのか?」
「思い出せばわかりますよ」

*****

 目を開けて、まず自分は思ったわけだ。「ここどこだ?」って。
 全く記憶にない、とそう思った時にはその記憶すらないことに気付いた。正確に言うと思い出。人は一人では生きられないとは知っているけど、だったら自分が誰といたのかも分からない。
 立ったままというのもどうかと思って(幸いながら体は無事のようだ)ふらふらすると、でっかい木の中から妙な音がして。
 覗き込んで今に至る。

「みゅうぅ」
「みゅみゅ?」
「みゅみゅみゅみゅ!?」
「みゅっ!」

 みゅーみゅー五月蝿い色鮮やかな魔物(こんな動物はいないはずだ)の巣窟の片隅に座りこんで、俺はこれからについて考えていた。手元には土の付いた果物。ここの住人達はひとまず俺を追い出す気はないらしく、こうして食事も提供してくれる。ありがたいがいつまでも頼るわけにはいかない。こいつらの備蓄だって少ないだろうし、俺だって果物だけでは生きていけないだろう。かじってみるとやたらと渋くて食べられない果物もあった。多分こいつらは自分達が食べられる果物を出しているのだろう。だとすると人には毒となるような物も入っているかもしれない。そんなことを言っていたら果物はおろか水すら飲めなくなるのだが。
 よし、とりあえずは人だな。近所に集落でもあればいいんだが。
 近くで喋っていたやつらの一匹につんつん、とすると話していた全員がこちらを向いて口々にみゅーみゅー言った。なぜかこいつらは俺の言葉がわかるらしいが、俺にはこいつらが何を言っているのかは皆目わからない。
「この辺りに人が住んでいるところはあるか?」
 聞いてみると途端にこいつらは萎縮した様子で、それでもみゅーと返事した。どうなってるんだ? 目線をちょうどそいつらと同じようにして(こうなると俺の顔は地面スレスレだ)もう一度問い掛けた。
「知ってるんなら、明日にでも案内してくれるか?」
 みゅみゅみゅ、と頷いた。

 明日に、と言ったのには訳がある。方角を確かめたかったのだ。ついでに太陽の昇る方角を確認すればここが北半球か南半球かも特定できる。太陽の北中高度も確認しておきたかった。今がいつなのかすらわからないが、大まかな緯度くらいは自分で求められる。少しでも俺にまつわる確かな事がほしかった。
 と、つらつら考えて俺の思考は少し止まった。北中高度? ……と言う事は太陽は北に昇るもんだ。ということは俺は南半球の人か? つまりは高確率で俺はキムラスカ人? これはかなり有力な情報だった。こうなると俄然記憶を失う前の俺に興味が沸いて来た。人里に出て、ここがキムラスカだったらバチカルに向かおう。そうじゃなかったらまずはキムラスカに向かおう。シャリっと林檎にかじりつくとみずみずしい甘味が口いっぱいに広がった。美味いなぁと思って林檎を見ると焼き印が押してある。A・N・G・A・V・E……エンゲーブ? 何でエンゲーブ産の林檎がこんな森の中にあるんだ? 実はこいつらは餌付けされてたのか? よくわからなかったが、とりあえず美味かった。
 夕方になって俺はうろの外に出た。太陽は向かって左側に沈んでいた。西はあっち、と確認して俺は森の中が真っ暗になるまで葉の隙間からの夕日を眺めていた。

*****

 次の日。決して近いとは呼べない距離を歩いて(魔物の感覚は恐ろしい)俺は人が住んでいる集落に到着した。案内してくれたやつは俺が集落に入る頃には姿を消している。やたらと人慣れしていると思ったが、魔物は魔物、人里には近付かないようだ。ただ、お礼を言いそびれたのが気になった。落ち着いたら果物でも持って行こう。
 柵の中でブウサギがのんびりと草を食んでいる。

*****

「お前達に追い付かれるとヴァンにとって都合が悪い。かと言って最後までここにいられると僕にとって都合が悪い。だからとでも言うわけでもないが、とりあえずお前達はここで足止めだな」
「何者ですか」
「名が必要か? 神託の盾騎士団第六師団長のカンタビレだ」
「我々が先に行くとどんな不都合が?」
「何だ、知らなかったのか? 分かっているからそんなに血相を変えているのだと思ったのだが」
「……話が違うじゃねぇか、カンタビレ」
「お前は通す。さっさと行け、アッシュ。厳密に言うと僕に要請されたのはそこの死霊使いの足止めなのでな。そこまでの相手なら一対一で戦ってみたかったが、生憎と僕は本調子ではない」
「ほう……それは我々には好都合ですね。一応聞きます。通してはもらえませんか?」
「律儀だな。今は通さん。大体、そこまで急ぐ必要は無いだろう? お前達は何もできないのだから」
「あなたの都合が悪くなるならそれで結構」
「なるほど、僕も随分嫌われたものだな。だが……残念ながらもう時間だ」

ヴァン側のように見えるカンタビレ。アレクとはまだ再会してないもよう。
*****

「一つ質問なんですけど、ガイラルディアとかメシュティアリカみたいな長ったらしい名前はホド特有のものなんですか?」
「俺が知ってるホドの住人ってのも限られてるからなぁ」
「私も兄さんしか知らないから、はっきりとは言えないわね」
「私が知っている限りではわざわざ長い名前をつけて普段は略称を使う、という風習はホド特有のものでしょうね。どうかしたのですか?」
「いえ、僕の親につけられた名前はレックハイトと言うんで、もしかしたらホド系の人間だったのかも知れないと思いまして」
「そうだったのか? 俺はそんなの初耳だぞ」
「そりゃまぁ、言ったことなかったし」
「何でだよ」
「君に僕の名前の一部をつけたというのが気に入らなかったから。レックを僕の一部だと自然に考えたということでしょう?」
「俺は俺で、でも俺はお前なんだから俺は気にしないけどな。そんなことよりも、俺はハイトの名前を貰えたのがすげー嬉しい。ありがとな、ハイト」
「何でそう直球でくるかな……。どういたしまして。君がそう言ってくれて僕も嬉しいよ」

「ご両親の名前がわかるなら、ペールにでも確認をとろうか?」
「それが全然覚えてないんですよ。フローレンスが母方の姓であることくらいしかわかりません」
「まぁ、一応聞いてみるか」

*****

ルークは子供。
レックは大人になりつつある子供。
ハイトとアッシュは子供ではいられなかった大人。

というイメージでお送りします。

*****

「心配すんな。お前は何もしてねぇよ。まだ寝てろ」

*****

「悔しいよ。俺なんにもできなかった。本当は俺が背負うはずのもの全部背負って、あいつは俺に心配すんなって言って笑うんだぜ」
「俺もそうだった。いや、今もそう、かな」
「レックもか?」
「ハイトはいつだってずっと俺の前では俺の見本だった。早寝早起きご飯を作って掃除して洗濯もして、わざわざ嫌いなもん作って俺の前で『これ嫌いなんだよね』って言いながら笑って食べてさ。学院に入るまで俺は嫌いなものを残すだなんて考えたこともなかった」
「うわーガイよりスパルタ」
「それでな、学院に入ってハイトと同い年くらいの奴らを沢山知って、俺はようやくハイトが出来すぎだった事に気付いた。ホントはもっと馬鹿だってやりたかっただろうし、家事なんかするより遊びたかっただろうな。なのにあいつは俺がいるから完璧の皮を被って、自分が皮を被っていることにすら気付いていなかった。そう思ったら無性にいらいらしてさ」
「あーわかるわかる! 俺の我が儘をホイホイ聞くガイ見てたら殴りたくなったもん俺」
「それで聞かなかったらもっとむかついたんだろ?」
「う、うっせー! 話続けろよ」
「はいはい。で、なんでそこまでするんだよ俺はガキじゃねぇ! って思ったら唐突にわかっちまった。ハイトにとっては俺はガキなんだって。そしたらもう悔しくて悔しくて。それからはハイトの真似するのやめて、最近やっと少しは俺の事を対等に見てくれるようになったのかなと思ったら今度は置いていかれるし?」
「そーだよな……みんなから見ても、まだまだ子供だもんな、俺……」
「だから、なんだろうな」
「何が?」
「ハイトは俺みたいなのを抱えて、子供ではいられなくなった。アッシュだってそうなんだろうな。あいつらは、俺達に自分にはほとんど無かった子供時代を重ねて見てる。少しは甘やかされてやるのも俺達の仕事だよ」

*****

「大丈夫? アッシュ。だいぶうなされていたけど」
「ハイト、か……。悪ぃ、起こしたか?」
「慢性的に寝不足の人にそんな心配されてもね。そんなので昼間ちゃんと戦えるの?」
「体を横にしてるだけで十分だ」
「そんなわけないでしょ。昼間に倒れて皆に心配かけるのは本意じゃないでしょう? 博士にでも睡眠薬を頼んでみたら? 博士が嫌だったら僕でも調合はするし……」
「いいったらいいんだよ! 毎度の事だ、しばらくすりゃあおさまる」
「ルーク……」
「それは俺の名じゃねぇ。俺はアッシュだ。それでいい」
「……本当に、僕等は似た者同士だね。そんなことばっかりしてたらいつかルークに怒られるよ?」

「……おい、何をする気だ」
「何って、添い寝?」
「ふざけんな」
「僕って人肌があった方が寝付きがいいんだよね。どうして僕がこんな時間に起きる羽目になったのか、君は知ってる?」
「……今日だけだからな」
「うん。おやすみ、アッシュ」

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