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小説置き場。
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 周囲に散らばる髪など無頓着にハイトは鋏を走らせる。思わず咎めようとしたガイの前で、切り落とされた髪が空気中に溶けていく。
「結構レプリカって便利でしょう?」
 言葉を失ったガイを振り返って、ハイトは苦笑した。
「? 便利って、何が?」
「掃除要らずだねってこと」
「うん? ……あぁそっか、普通は髪が残るもんな」
 自分の身から離された瞬間から形を保てなくなる自分の一部を眺めながら、なんてことはないようにレックが言う。
 それを恐ろしいと、どこかでガイは感じてしまった。
「……本当に、俺達とは違うんだな」
「まぁなー。けど大体は同じだから、一つ大目に見てくれよ」
 人間とよく似たそうじゃない生き物が知らないうちに側にいた、ということにガイは思わず身震いした。


「あれ、ガイはどうしたんだ?」
「びっくりしたみたいだね。さっき出ていったよ」
「早く慣れてくんないかなぁ。髪の毛ごときで驚いてたらこの先身が持たないと思うけど」
「未知の事を受け入れるのには時間がかかるものだよ、レック」
「そうかぁ?」
「研究所の皆は例外だって。あれは未知のものを見つけたら飛び付いて理解したがる人種じゃない」
「そっか」


*****

「レック……? レックなんだね?!」
 廊下の角を曲がってやってきた人影が見えた瞬間、どくんと心臓が鳴って、俺とその人以外が辺りから消失した。
 走ってくる。白衣を乱して、髪を揺らして。俺とそっくりな、顔で。心からの安堵の表情がそこにはあった。明らかに彼は俺を知っていた。それは俺をいくらか不安にさせるはずだったが、それでも俺はその不安を遥かに上回る喜びを確かに感じていた。俺はずっと、この人に会いたかった。俺はこの人を知っている。記憶からは失くなってしまっても、心が、覚えている。
「レック!」
 力加減も何もなく、ひたすらに強く抱きしめられる。それを何の抵抗も無く受け入れる自分がいる。彼の体温が嬉しくて愛おしくて、名前も付けられないような激情が沸き起こる。
「本当に、本当に心配したんだから……」
 ああ、と納得する。あの自分には慣れない名前はこの人のものだったのだ、と。誰よりも俺の事を愛してくれる、この人の名前だけは忘れなかった。例え自分の名すらわからなくなっても。
「ハイト」
 ぽつりと零した俺の声に、答えるように腕の力が強くなった。それからすぐに解放される。
「ごめん、びっくりしたね」
 ハイトは少し照れたように笑って、ようやく俺はここが研究院の真ん前だった事を思い出した。途端に恥ずかしくなって顔に血が昇る。それを見てハイトは声を出して笑った。
「とりあえず、部屋に戻ろうか」
 差し出された右手。果たしてそれを取っていいものかと俺は戸惑う。確かにこの人は俺が知っていた人だが、でもこの人について俺は何も知らない。記憶を無くした俺が、この人に歓迎されてもいいのだろうか。
「レック?」
 多分俺はレックというんだろう。でも俺には、記憶がない。この人が求めているレックとはきっと違う。
「僕が信じられない?」
 わざわざ俺を下から覗き込んでそう聞かれて、俺は咄嗟に首を横に振った。違う、そうじゃない。信じられないのは、自分自身だ。もう一度ハイトに緩く抱き寄せられる。
「大丈夫。大丈夫だから……」
 ね? と至近距離でハイトに笑われると、もう俺に抵抗はできなかった。問答無用で手を引かれ、そのまま歩き出す。俺の手を引く白衣の後ろ姿を見て、俺はこの人には一生敵わないに違いないと何となく思った。

 *

 研究室の扉が乱暴に開かれる。その衝撃で部屋自体が揺れて、ちょうどグラフを描いていた僕までも揺れた。むっときて首を捻って扉を見る。息を切らせた同僚と目があった。
「ハイト、レックだ!」
 言われた言葉の意味を理解した時には今までしていた事も忘れて走り出していた。
「どこ!?」
「受け付け!」
 開け放たれたままの扉をくぐり抜け、走行厳禁の廊下をなるべく静かに走る。受け付けに繋がる廊下を曲がると、足が一瞬止まった。
「レック……? レックなんだね?!」
 僕がそこには立っていた。正確には僕のレプリカだ。僕を見て目を見開いている。僕にとってかけがえのない、世界にたった一人しかいない僕の半身。やっと、帰ってきた。
「レック!」
 駆け寄って思う存分抱きしめる。腕の中のレックの存在を全身で感じ取る。ただただ、僕と同じである事に安堵する。
「本当に、本当に心配したんだから……」
 珍しくレックは身じろぎもしない。何かがおかしい。か細い声で名を呼ばれて、ようやく僕は思い出した。
 記憶だ。
 何故か超振動が起きてしまったあの時に、記憶を司っていた第七音素の混信が起きたらしかった。今僕にはレックの分の記憶もあって、つまりはレックには記憶が無い可能性が高い。今の今まですっかり失念していたが。
 僕の記憶を失ったレックはそれでも僕と似ているのだろうか。そんなことが頭を掠めた。
「ごめん、びっくりしたね」
 レックを腕から解放すると、しばらくしてから真っ赤になった。いつもならこれくらい平然としているのに、と思うと少し面白い。
「とりあえず、部屋に戻ろうか」
 手を差し出してみて、その手が空を切る事に驚いた。
「レック?」
 声をかけてようやくレックが不安げな顔をしている事に気付く。まだ、僕は他人なのだ。
「僕が信じられない?」
 レックの顔を覗き込む。レックはすぐに首を横に降って、それでもだんまりを決め込んだ。目が不安に揺れている。安心できるようにレックに笑いかけて、もう一度抱き寄せた。レックは拒む気配もなく、すんなり身を寄せた。
「大丈夫だよ。大丈夫だから……」
 強張った体から徐々に力が抜けていくのが分かった。最後にぽん、と頭を一つ叩いて、レックの手を掴む。
「さ、行くよ」
 まだ少し不安げな顔。それでもレックは、僕の手を取った。

*****

01.告白

 蝉が鳴いている。しかしそこだけは静まり返っていた。少年が何度も口を開き、そして閉じる。だが一瞬だけ蝉が鳴き止んだ、その時――。(63字)

(100210)

*****

 腕の下の上気した頬とか、少し乱れた赤い髪とか、うっすらと滲む汗とか。見る度に本当にこいつは綺麗だと思う。でもそれよりももっと綺麗だと思うのは、

「シルバー」

「何だ」

 こんな時でも意思の強い、涙で潤んだ銀色の瞳。名を呼べばそれを隠していた瞼がゆっくりと開いて、そこに俺を映し込む。

「綺麗だよ、お前」

「またそれか」

「そうとしか言いようがねぇんだ」

 真っ直ぐその銀色を覗き込む。だがすぐに視線は逸らされた。まだ、慣れてはくれないらしい。赤い髪を宥めるように撫でて、耳元で囁きを一つ落とした。

「続き、いいか?」

 俺の声から逃れるように身を少しよじって、それでもこいつは掠れた声で了承を答えた。そんな愛しい愛しい恋人に口付けを送る。
 夜はまだ、明けない。


(100210)
 言わなきゃわかんないだろうがポケスペのゴシル。シルバーは美人さんという事で。シルバーが好きで好きで参っちゃってるゴールドとまだあんまり自己肯定ができないシルバー。
 しっかしこの文は年齢制限いるのかね。いらないよねぇ?

*****

「馬鹿でも風邪は引くんだな」
「……るせっ」
「あまり騒ぐな。辛いのだろう?」
「んなこと、ねぇよ……」
「はぁ。……俺が離れればいいだけの事か。大人しくしてろよ、ゴールド」
「……っ。まて、よ」
「どうした?」
「いったら、やだ」
「……仕方のない奴だな。寝付くまで、だからな」
「おー」
「……」
「…………」
「…………」
「……シ、ルバー」
「何だ」
「……ひまだ」
「そうか」
「なんか、はな、せよ」
「注目の多い奴だな……」

(100213)
 あれ、シルゴ? この後はゴールドに反駁させて体力を消耗させないように、本当に下らない話を延々としてあげたんだろうシルバーは。
 後シルバーに看病経験があるのかと言うと、昔風邪引いた時にワタルに看てもらったことがあるようです。うん。

*****

 いくら野生ポケモンが凶暴化したシチユウでも、ポケモンが町を襲う事は少なかった。それは町に特別な何かがあるからではなく、町が人間の縄張りだとポケモン達には理解され、迂闊にちょっかいをかけると手酷いしっぺ返しをくらうとポケモン達は知っていたからである。だから、人間の縄張りだと思われていないような小さな集落は常にポケモンに襲われるという危険性を孕んでいた。そしてシチユウの人間の殆どが、そんな集落に住んでいた。

 季節は秋から冬にかけて。山の中の木々はすっかり丸裸になり、地面に落ち葉のカーペットが敷き詰められる頃。ざく、ざく、と音を立てて枯れ葉の海に足を沈める二つの人影があった。

*****

・スズシロ博士の指示のもと召喚士についてのデータを集める召喚士達
・ブラック
・ブラウン
・グレイ
・オレンジ
召喚士発生直後の召喚士達で、スズシロ博士に心酔。当然カイトとも知り合い。歳は20代後半~30歳前後くらい。召喚士歴は15年が最長。発現が早過ぎるシルバーは召喚士歴だけでいうなら彼らと同等。

・特に初めの頃の召喚士達は迫害が激しかったため、召喚士同士の繋がりが強い。

・町と呼べるほどの集落にはたいていその町を拠点とするベテラン(10年越え)召喚士がいる。ジムリーダーの感じ。彼らが周囲のポケモン達を適度に仕付けるおかげで町はほとんど襲われない。

・最年長の召喚士はウイルスを散布した年に17歳で能力発現した人。現在30歳と少し。

*****

「ゴールド?」
「今日は何もしねーよ。大丈夫か? 酷い顔してんぜ?」
「……お前にそんな堪え性があったのかと驚いてるだけだ」
「かーわいくないなぁ。そんな事言うなら襲うぞ?」
「一度言った事は守ったらどうだ」
「……お前、俺とやんの嫌い?」
「今はな。……普段はそうでもない」
「……可愛すぎだってのこの馬鹿野郎」
「…………」
「おーい、シルバー?」
「……」
「……寝てる」
「……」
「俺は眠れねぇよ……この馬鹿」
*****
 なんでゴシルってこんなんばっかり……。二人とも素直すぎて気持ち悪いorz

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