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「この期に及んで、一体何しに来たんだ?」
俺と全く同じ顔、髪、声。俺の部屋にいたのはもう一人の俺だった。
俺の双子の片割れ。どっちが兄でどっちが弟か、などと言ったこともよく分からない。どちらかが六男でどちらかが七男だった。何故こんなにあいまいかというと、それは俺たちがしょっちゅう入れ替わっていたからだ。家族の誰も俺たちを見分けることは出来なかった。ハルトマンだけが俺のことをスパーダと呼び、片割れをシュべートと呼んだ。確かにその名前にはそれぞれ六男と七男が決まっていたが、そんなことはどうでもよかった。
だが、誰が見ても見分けのつかなかった俺たちに段々と違いが現れ始めた。喧嘩しかとりえのない俺と、頭の回転の速いシュベート。家は喧嘩しか出来ない方の扱いに困って徐々に家から遠ざけるようになった。そして頭のいいほうを迎え入れた。それからどれくらいの時が経った頃だったか。俺たち二人に異能の力が発現した。
家はこれ幸いと、やたらと問題を起こす俺を殺しにかかった。兄が毒杯を持ってきたときを今も夢に見る。その時に言われた言葉は確か、「ベルフォルマの家から悪魔の力を生み出したことを恥じるのならそれを飲め」だったか。丁度いい厄介払いなのは無学な俺でもよく分かった。別になんとも思わなかった。ただ、このままここにいたら殺されると思って毒杯の中身を兄貴にぶちまけてやった。殺すなり縁を切るなり勝手にしろ、と言い残して家を飛び出した。それから三日後。王都にはベルフォルマ家の七男、スパーダ・ベルフォルマが外出中に事故で死亡との報が伝えられた。そのときにやっと家から捨てられたのだと実感が湧いた。
「お前は死んだ。お前の存在そのものがベルフォルマ家にとって迷惑なんだ。だから死んだんだ。いくらお前が救いようの無い馬鹿でも、それくらいのことはわかっているだろう? さっさと失せろよ」
今までなら堪えられないほどの痛みを伴った言葉も、今なら聞き流すことができた。俺にはもう、俺の存在を無条件で肯定してくれる仲間がいるのだから。
「ああ。俺もいつまでも死人の部屋を残しておくのは不自然だと思うぜ? 俺はベルフォルマ家の七男、スパーダ・ベルフォルマじゃねぇ。お前の双子の片割れでもねぇ。
…もうここには帰らない」
最初の問いに答えるならば、俺はここに決別を告げに来たのだ。ベルフォルマの家と、それに縋り付いていた俺に。
(080715)