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不思議な空間だった。
前も後ろも、右も左も天も地も限りはなく、ただただ無限に、乾いた血を思い起こさせるような赤黒い闇が広がっている。
限りの無い空間に確かに自分は『立って』いて、光も差さないはずなのに確かに自分の姿が見える。
さらさらと灰が崩れ落ちる。闇に溶けて消える。
それを無感情に眺める自分。
いつか自分もこうなるのだろう。誰にも見送られることなく、永遠ともとれる時を次の継承者が現れるまで待ち続け、そして誰にも知られずにひっそりと朽ちて終わるのだ。
そもそも紋章に取り込まれた時点で自我があるのかもあやしい。これは、この灰が見せた幻は、ただの紋章に取り込まれた人間の記憶ではないのか?
いつまで自分は『自分』でいられるのだろう。
もうこれが自分でいられる最後なのかもしれない。明日に終わりのときが来るのかもしれない。明後日かもしれないし、ひと月後かもしれない。もしかしたら一年はもつのかもしれない。それでもいつかはきっとこうなるのだ。
死にたくない。
生きていて初めてそう強く願った。
死んでたまるか。こんなわけも分からない空間で、いつかともしれない終わりのときを待ち続けるなんて真っ平ごめんだ。
まだ死んでない。まだ生きられる。だから、だから、だから…
「…ン!……アン!シアン!」
呼び声が聞こえた。
シアンはゆっくりと身を起こした。途端に抱きつかれ、頭を叩かれ、何が起こっているのか分からぬうちに視界に入ったのは、ホッとしたような顔でこちらを見ているケネスとポーラで。一拍おいてから飛びついてきたのはジュエルで、頭を叩いたのはタルだということに気付いた。
生きていた。死んでなかった。
「ほんっとに心配したんだからね!」
「シアン、体調は大丈夫なのか?」
「よかったぁ…」
ただただ、周りで騒がしくしている彼らの存在が嬉しかった。
「…シアン?どうしましたか?」
「ん?ああ。おはよう、皆」
(071127)