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ぐだぐだと書いてたらまだ二人が出会ってくれない…
西大陸最大の工業都市・レベッカ。
西大陸の南東一帯を占める砂漠のオアシスに位置し、近くに良質な金属の採掘場が多数あることから古くから優秀な鍛冶師が集まる町として有名だった。近年では西大陸北部の大都市カリューンと南大陸との交易が盛んなアンジュの中間に位置するため、両者の中継点として商売も盛んになりつつある。
そんな街の大通りの外れに、職人街と呼ばれる一帯がある。名前の通り多くの職人達が住む地域だが、日干し煉瓦を積み上げた建物が乱雑に立ち並んでいるせいで入り組んでおり、土地勘の無いものが迂闊に踏み入るとたちまち迷子になるようなところだった。ここに工房をもつ者も多く、鉄を鍛える甲高い音が絶えず響いている。
* * * * * *
何だか頭がボーっとする。
星奈がそう思ったのはレベッカ近郊の遺跡に潜り込んでからものの一刻も経たない頃だった。
この遺跡は星奈には非常に不本意なことだが鉄の採掘場も兼ねていて、盗掘を防ぐためか表には見張りが立っていた。初めはちゃんとしたところから入るつもりだったが、レベッカの住民でもない星奈が遺跡に入ることは許されず、仕方無しに周囲にあった小さな穴から中に入ったのだ。ちなみに諦めるという選択肢は星奈の中に存在していない。
つまり他人のもとに行くわけにはいかないのだ。そんなことをしては不法侵入がバレてしまう。だが、自分ひとりで遺跡を出ようにも先ほどからどうも体の調子がおかしかった。体が段々と自分の意識から離れていく。意識にも霞がかかったような感じがして、碌にものも考えられなくなってきた。
「どうしよう…帰れない、かも」
その一言を最後に、星奈は意識を失った。
* * * * * *
――ちょっと止まれ、大地。
使えそうな鉄屑がないかと採掘場に入った大地は、不意に聞こえた声で足を止めた。特に声が聞こえたことに疑問を感じる様子もなく声を出さずに聞こえた声に応じる。
(どうかしたか?)
――星の気配がする。
(それがどうかしたか?)
――ここで察しろ、この馬鹿がッ!
(はぁ!?なんで突然そんなこと言われなきゃなんないんだよ)
――いいから東の方に向かえ。
傍からみると突然立ち止まって百面相をしていた大地は、今度は若干困っているような顔をした。
(なぁ、東ってどっちだ?)
大地にしか聞こえない声で、限りなく大音量で怒鳴られて彼は道を右に外れて走り出した。
(で、どういうことなんだ?)
走りながら大地は心の中に問いかける。
――星が入り込んだんだよ。
(別にそれくらい普通じゃないか)
道が細くなってきた。遺跡の一面も持つこの採掘場では中央から遠ざかるほど通路が狭く、複雑になる。
――次の角を左だ。星の魔力が強すぎる。多分護符を持ってないぞ。
大地が曲がり角を左に曲がった。すぐにに道が開け、広場のようなところに出る。
(それでか。護符を持ってない星属性の人が入り込んだら確かにまずいな…)
――真ん中で止まってくれ。
円形の空間の中心まで走って大地は走るのをやめた。いつもなら息があがる距離だったが、今はそんなことはない。
大地は静かになった声が聞こえるまで、辺りを眺めていた。遺跡の方に入ったのは初めてだ。特に立ち入り禁止というわけではなかったが、一度迷い込むと一生出れないぞと大人たちに言われて入らないようにしていたのだ。確かに少し好奇心が疼いたが、実際に迷ってしまっては元も子もない。幼い頃に両親と死別している大地には妙に現実的なところがあった。
明るいので忘れそうになるが、採掘場もとい遺跡には屋根がある。外観ではただの砂丘くらいの高さだが、この広場から天上を見上げるととてつもなく高い。そして明かりはどこを探しても見当たらない。現代の技術ではとても不可能なこの現象は、古代文明の遺跡にはよくあるものらしかった。
また、実際に中を走ってみて思ったのだが、この遺跡の構造はどうもレベッカの職人街を思い出させた。そしてそんな複雑なところをほぼ迷いもせずに先導する『声』も不思議だったが、そもそもこの『声』は明らかに人間の域を超えているのでまぁそんなものか、と大地は漠然と考えていた。
――待たせた。右手の広い通路を入って、右手にすぐに見える階段を昇ってくれ。
(わかった。ところでここは何なんだ?)
再び走り出して大地は問うた。
――文明崩壊前の街だな。名前は確か…シュメールと言ったか。
やっぱりそうか、と小声で呟いて、大地ははたと止まった。
階段を昇ったが道がない。
(行き止まりじゃないか)
――左手の建物に飛び移れ。
(はぁ!?道ないのかよ)
――あるがあまりにも遠回りだ。
(急がば回れって諺知ってるか?)
――お前がドジ踏まなければいいだけの話だ。
(…仕方ないな)
意を決して大地は建物の縁まで歩いた。声はあっさりと言ったが、隣の建物までは人一人分ほどの距離がある。下を覗き込むとさっき自分が走っていたところと同じ床が遠く見えた。レベッカの街の建物の屋根よりも高いかもしれない。
――怖気づいたか?
からかうように言ってくる声が気にくわなくて、大地は威勢よく思った。
(全然。このくらい楽勝だっての!)
縁から慎重に歩幅を合わせ、大地は隣の建物に向かって飛んだ。足は掛かった。が、勢いが強すぎて止まれない。そして恐ろしいことに気がついた。隣の建物の幅は一歩分もなかったのだ。
落ちる!
そう思ったときには時既に遅し。声を上げる間も無く、バランスを崩した大地の体はあっさりと落下運動を始めていた。さっき足をかけていたところが段々と離れていく。痛いほどの風を一気に受けて、床が顔面に迫る。ぶつかる!!と思った瞬間に体から何かが抜けていく感じがして―――
ぽす
大地の体は柔らかい砂に受け止められた。予想していたほどの衝撃がなくて混乱している大地に声が聞こえた。何が起こったんだ?
――体は動くか?
(お、おう…この砂は…?)
そういえばぶつかる直前、床がグニャリと歪んだ気もしたが…
――お前さ、俺が地の精霊だってこと忘れてないか?
呆れ声で言われて、大地の頭はノロノロと回転を始めた。
(……魔法?)
そういえば精霊ってなんなのかの説明を聞いていなかったな、と大地の頭は的外れな思考を始めていた。
――まぁいい。体は動くんだな?
(特に問題はない)
――じゃあ問題の星は近くだ。探すぞ。
(ここまで来て場所がわからないのか?)
――魔力が強すぎて近くにいることしかわからん。
(案外使えないんだな)
――うるさい。とっとと探せ。
声に急かされて大地はとりあえず辺りを見回した。さっきまでと何も変わらない砂色をした色味のない建物や床がレベッカの街と同じように――しかし高さは別だった――続いていた。後方には大地が落ちてきた壁が切れ目なく続いていた。何処から落ちたのかと思って見上げると首が痛くなりそうだった。あそこから落ちたのかと大地は人事のように考え、そして身震いした。よく無事でいたもんだ。普通に落ちていたらひとたまりもなかっただろうなと嫌な想像をしてしまって、大地は慌ててその思考を頭から追い払った。今は人探しの方が先だ。
大地は魔法などにはとんと疎かったために軽く聞いた程度の知識だったが、この採掘場、もとい遺跡は地属性の魔力に満ちているらしかった。そのために、地属性と相対している星属性の魔力を持つ人間は、遺跡の魔力と自身の持つ魔力が互いに打ち消しあってしまって様々な症状が現れるようなのだ。打ち消される量にもよるが、症状はめまい、立ちくらみといった貧血のような症状から意識不明に至るまでと幅広い。そのような被害が出るのを防ぐために入り口にはレベッカの街の者が交代で立っているのだが、それも意味を成さなかったようだ。それでもどうしてこんな遺跡の奥の方にいるのかは不思議なものだが。
特に手がかりがあったわけでもない大地は道と言う道を虱潰しに探してまわった。時折反対だ、という声が聞こえもしたがそれもさほど頼りにはならない。いい加減飽きてきたな、と大地が思ったそのとき、地面にかすかな違和感を感じた。
地面の色に溶け込んで見づらいが角からひょっこりとブロンドの髪が顔を覗かせている。見つけた、と大地は呟いて駆け寄った。これで見つけたのが死体とかだったらどうしようかという考えがちらりと頭の隅を横切ったが一瞬で消え去った。
そこにいたのは大地と年が近そうな少女だった。