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小説置き場。
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記憶喪失少年の話。
上手いこと続けられたらいいなと思ったり。


 緑がステンドグラスのような細かい濃淡をつけながら、どこまでも広がっている。天を見上げたところで空などは見つからなかった。風に揺れ動く葉の隙間から覗くのは、溢れんばかりの太陽の光。幹が無造作に、それでいて最も日の光が当たるように立っている。当然のように道など、存在しない。
 そんな森の中に溶け込むように、一本の木であるかのようにただひたすらに立っている人間がいた。葉から漏れて差し込む光をその身に浴びて、まるで一枚の絵のように完全に風景の一部と化していた。
 その人間が、ポツリと呟く。
「俺……誰だ?」
 呟いた後も人間はただ突っ立っていた。穏やかな風が通り過ぎ、今まで忘れ去っていた鳥達の鳴き声や木の葉が重なって立てる囁きが聞こえだすまで、人間は少しも動かなかった。自身のことについて必死になって思い出していたのだ。
 名前、わからない。年、わからない。ここはどこか?わからない。
 そして全てがわからないのだとわかって、やっと人間は動き出した。まじまじと自身の服を見る。まず目に入ったのは深緑のパーカー。袖が何度か折られていて、肘や袖の部分の生地が薄くなっている。破れていた箇所は丁寧に繕われていた。そのパーカーの下に着ていたのは薄手の黒いシャツだった。袖は七分丈くらいであまり余裕はない。肌にぴったりと付いている。穿いていたズボンは焦茶色で、パーカーと同じく生地が薄くなっていた。元からさして分厚い生地ではなかったようで、今にも破れそうである。かなり使い込まれたベルトで止められていて、ベルトの左腰の辺りには剣が差されていた。
 人間はその剣を右手で危なげもなく引き抜いた。それが僅かに差す日の光を反射して輝く。左手をゆっくりと刃の部分に滑らせると、指が切れてぷっつりと紅い血が流れた。人間はそれを無感情に眺めて、それから剣に刻まれた文字に気づく。切れていない指で文字をなぞった。
「"―――"……?」
 刀身自体に刻まれているということはこの剣か製作者の名前だろう、と人間は思い、同時に字は読めるのか、とも思った。
 しげしげと剣を眺め、それから鞘にしまった。
 後は観察すべきものは何も無かった。
 葉が一枚、はらはらと落ちた。

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