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小説置き場。
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 よかったよ銀金にならなくて。銀←金にもなりかけてたし。

 *****


 人、人、人。何のお祭り騒ぎかというくらい辺りには人が溢れていた。ちょっと失敗したかもしれない。何せシルバーは、こういった人混みが大嫌いだ。案の定シルバーの横顔を窺ってみると、いつも通りの無表情の中に(こいつは全身の筋肉の中で表情筋が一番弱いに違いない)不満の色が浮かんでいた。こいつがはっきりと感情を顔に出すのは怒った時と、ブルー先輩の前にいる時くらいだろうか。俺の前では相変わらず無表情が多いが、それでもたまに笑ってくれるとすごく幸せな気分になる。
 話が逸れた。そう、シルバーは今ちょっと不機嫌なのだ。
「あー、すげえ人だな」
「……そうだな」
 その微妙な間が怖いですシルバーさん。
 人混みの前で立ちつくした俺の横で、人混みから頭一つ飛び抜けたシルバーがきょろきょろと辺りを見回す。シルバーには何が見えているのだろうか。俺には人の頭も見えない。
「抜けるぞ、ゴールド」
 さっき見ていたのは人の流れだったらしい。大まかに進路を見定めたシルバーが勝手に歩き出す。人間の海の中、上手い具合にシルバーはその隙間を見つけて進んでいた。あっという間に、人波の中にシルバーが埋もれる。ってまずい、見失っちまう!
「ちょ、待てよシルバー!」
 あわてて人混みの中に突入する。家族連れやら友人同士の集団やらカップルやらの間を縫って、ぶつかってしまった人には軽く謝って。見慣れた赤毛を探して顔をあげた瞬間、右手をぐい、と引かれた。視線をやると、人と人との間に一瞬だけシルバーの銀の双眸が見えた。

 *

「遅い」
「お前が速すぎるんじゃね?」
 そうこうして何とか人混みを抜けて、俺とシルバーは少し休憩。つっても立ってるだけだけど。手は未だに掴まれたまま。このままこいつが気づかなかったらいいなぁ、なんて思った瞬間にシルバーは俺の手を離そうとした。こいつテレパシーでも持ってんのかね?
「ゴールド、離せ」
 でも当然、手なんて離させてやらない。右手でシルバーの左手をがっちりホールドだ。シルバーの手は指が細くて長くてきれいなんだけど、でもそれだけじゃあない。意外と一つ一つの指がしっかりしていて、力強さに近いものを感じる。それがシルバーの在り様そっくりで、だから俺はこの手が大好きだったりする。
「嫌だ。勿体ない」
 しれっと言い放つと、シルバーのため息が一つ聞こえた。

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