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1.神羅
「俺がここにいることが間違いだった」
――何を言っているんですか!?
「人間が、好きだった。無力で弱い連中だが、時々想像もつかないような力を発揮することがあった。
その瞬間が好きだったんだ。弱者が自然という強者に立ち向かって行く姿が、な。
だから俺は人間達の助けになりたくて、人間達の為に俺の力を使うことにした。
…結果的にどうなった?
人間は考えることを放棄した。その瞬間に、人間はただの弱者に成り下がったんだ。
俺が、手を差し出したのがいけなかったんだ。人間にそんなことは必要なかった。そんなことをしなくても、人間は自らの足で歩いていけたんだ」
――そんなことありません!我々は神羅様の助けがなければ、何も…!
「これ以上俺がお前らに干渉すると、人間はもっと無力になる。俺が好きだった『人間』がいなくなる!
全ての人間の代わりに、お前に謝る。
――すまなかった、みちひ。
長い間寄り掛かってきていた俺という柱が突然なくなって、お前達は生きることに絶望を感じるかもしれない。突然お前達を裏切った俺を恨みさえするだろう。
それはそれで構わない。だが、考えることを放棄するな。
生きるということは、常にお前達の中にあるということを忘れるな――」
――神羅様!
「神威の奴も俺が連れて行く。信ずる物のなくなった者同士、空の民とも歩いていけるようになればいいな。
本来、お前達は一つの民族だったのだから」
2.神威
「ああ、おはようございます、桜海」
――今日は早いな、神威。
「ええ、大事な話がありますので」
――大事な話?
「今日をもちまして、私はここを去ろうかと思っています」
――はぁ!?
「どうやら神羅が人間達から離れるみたいです」
――あの神羅がか?
「私も初めて聞いたときは驚きました。
よく分かりませんが、神羅は『このままじゃあ人間がだめになってしまう』とか『人間が考えることをやめてしまったら、人間の時は停滞してしまう』などと言っていましたね。それが理由なんじゃないですか?」
――人間…このまま…考える…だめ……そうだな。確かにその通りだろう。
「あれ、納得してしまうのですか?」
――…なんでそこで不満気なんだよお前は。
「私が理解できない神羅のことを貴方が理解するということが不快で堪らないからです。
正直に言うと貴方が私を引きとめようとするのを私が振り切って、貴方が落ち込むのを期待していたのですが」
――あー聞いた俺が悪かったよ。神羅が迎えに来るのか?
「そう聞いています」
――んじゃ、早く来るといいな。
「そうですね。
…ひとつ、聞いてもいいですか?」
――どうした?
「なぜ神羅は人間を見捨てるのでしょうか?彼は誰よりも人間を愛していたというのに」
――違う。神羅は人間を見捨てたんじゃない、救おうとしてるんだ。
「救う?あんな我々がいなければ何も出来ないようなちっぽけな存在を、放っておくことが救いになるのですか?」
――なる。お前達がいたら、どうしても人間はお前達に頼ってしまう。本当にどうしようもないことなんだったらそれでいいのかもしれない。けど、自分達で何とかできるかも知れないことも全部お前達に頼ってしまっているのが現状だ。
それって本当に人間のためなのか?人間の可能性をお前達が奪っていると言えないか?
…ってことを、神羅は考えたんじゃねぇのかな。
「やはり私には理解できない考えのようですね」
――まぁ、そうだろうな。だが、俺はお前がここにいてくれたことに感謝してる。
どうしてお前達が俺たちの前から去るのかといえば、俺たちが自分達の足で立つことも出来ないような腑抜けになってしまったからだ。
お前らはそんな俺らを助けて、守ってくれていただけ。何も気にすることなく去ればいい。
「そうですか。ではそろそろ行きますね」
――ああ、じゃあな、神威。
「ええ。
あ、最後に一つだけいいですか?」
――なんだ?
「確かに人間はつまらない物でしたが、貴方と過ごした時はなかなか楽しいものでしたよ?
――では、さようなら」
3.陸灯
「桜海!桜海!」
――どうしたんだよ、みちひ。
「神威様は!?」
――もう行ったさ。
「何処にですか!?神羅様は、何処に行ってしまわれたのですか!?」
――んなこと俺にわかるわけねーだろ。っま、俺らには想像も付かないような場所なんだろうな。
「あなたは…!こんなときに、どうしてそんなに落ち着いているのですか!」
――お前こそ、なんでそんなに焦ってるんだよ?言ってることが滅茶苦茶だぞ。
「神羅様が、神羅様がいなければ、私達はどうなるのですか!?」
――どうにもならねぇよ。いつもどおり今日が終わって、明日が始まるだけだ。
お前のすることは、みちひ。
――人々にどうやってこの事実を最小限の混乱で済むように伝えるか、だろう?
「そんな、こと…」
――認めたくないんだろうがそれがお前のする仕事ってやつだ。
支えを失った人が次に寄りかかろうとするのは、神に最も近かったお前だ。それがそんなに焦っているようでは、徒に民の不安を煽るだけだろうが。もっとお前は堂々としておけ。
「あなたは、どうするのですか」
――俺は…まぁ、絶対俺が神威に何かしたんだと思われるだろうからなぁ。
時間をかけてなんとかするさ。あいつ等が望んだことが実現するのは、もっともっと未来の話なんだろうがな。
4.桜海
――桜海。もう一度言ってみよ。
「神威様は、『もう私がお前達人間にすることはない』と言い残して、我々の前から去りました」
――本当、なのじゃな。
「はい」
――よろしい。お前は地下牢へ入れ。そして一生出てくるでない。
「…仰せのままに」
――ふざけるなあの爺め。桜海に何かあったら即座に殺してやる。
――落ち着け、神威。地がでてるぞ。
――貴様の前で隠す地も糞もあるか。
――何があっても何もするな。ここでお前の力がはたらいたら、更に桜海の立場が悪くなるだろうが。
――だったら貴様がなんとかしろ。
――俺が手を出したらお前の時以上に立場が悪くなる。
――ならば放っておけと?みすみす桜海が殺されるのを待てと?
――桜海がそんな簡単に死ぬやつじゃあないことはお前も知ってるだろう?あいつは自分で切り抜けるさ
――糞ッ
「おーい、聞こえてるぞお前達」
――はい!?
――だから始めに言ったろうに、そんなにでかい声だと聞こえるぞ、と
――貴様そんなこと言ってないだろうが
「思いの他お前達に愛されていて俺は嬉しいよ」
――そりゃお前、神子だものな
「多分空の民はもうどうにもならねぇ。神威がいなくなったことも、一族が率先して隠蔽するだろう。
俺を公開処刑しなかったのがそのいい例だ」
――…………
――だったら何故私達は貴方達の前から去ったのですか
「居もしない奴がいるように見せかけるってのは難しい。そのうち隠し通せなくなるさ。
そうすれば、お前達の望みは叶う。まぁ、神羅は元からそのつもりだったみたいだけどな。」
――では貴方は、一生ここに居ると?
「冗談じゃない。一族の連中はここで俺を殺す気だ。さっさと脱出して時の民のところに行く」
――時の民のところへ?向こうもこちらと大して変わらんだろう
「そうか?お前、もっとみちひのことを信頼してやれよ。
あいつ、案外やる奴だぜ?」
――陸灯が、か…
「と、いうわけで俺を脱出させてくれ、神威」
――あまり一人の人間に肩入れするのは良くないのだがな
――神子ですし、最後くらい『神の御加護』があってもいいんじゃないですか?
――それもそうだな
――で、何処まで行けばいいのです?
「時の民との境界ギリギリへ。ついでに着いたらどっちに行けばいいのかも教えてくれたらありがたい」
――わかりました。それを最後にしまして、我々からの接触は断ちますよ
「頼む」