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小説置き場。
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「使えよ」
 レックが乱暴に差し出したのは装飾のついた小刀だった。
「これは……?」
「完璧に制御できる自信があるのなら貸さないけど。その血に塗れた剣でルークに触るのは許さないからな」
 そこで漸くレックの意図を知る。彼にとってはよくある事なのだろう。そしてそのために伸ばしているのだとも、わかる。
「……貸せ」
 アッシュはハイトに抱えられたルークの側にひざまづいた。ルークの髪を纏めて掴み、受け取った小刀を髪に当てる。
「悪いな」
 そして、ルークの髪を切った。

 切られた髪は端から徐々に光り輝き、燃えてしまったように消えていく。その燃え滓を俺は利用するわけか、と一人呟いてアッシュはパッセージリングの前に立った。
 一体、何人の人を殺すのだろう。奪った命の数を数えることに、意味がないことは知っていたのだけれど。最善でも次善でもない、ただ最悪でないだけという理由で他人の命を奪う。でもそれが、アッシュのとれる最善だった。これ以外に選択肢がなかった。
 許してほしいとは言わない。それでもきっと、許されたいと思ってる。なんて自分は浅ましいのだろう。
 目を開く。破壊すべき対象を見据える。体の中の音を聞く。純粋な、澄み切った音。それが奔流となって溢れ出てくるのに合わせて、体を開く――!
 音素の流れによって生じた風に髪が翻った。誰もがアッシュから目が離せなかった。圧倒的な破壊の嵐は、それが故に美しかった。

 崩れゆく大地の軋みを、消滅させられる人間の最期の叫びを、確かに聞いた。

 音素の流れを徐々に絞る。次第にあの澄んだ音が小さくなっていく。それを体の中に完全に閉じ込めると、当の昔に限界を超えていた体は一斉に仕事を放棄した。
「く、そ……」
 傾ぐ体を感じながら、アッシュは意識を手放した。


 音は止んだ。でも震えは止まない。何が起きる? きっと自分は、この先を知っている。音の中から感じる言葉を知らず知らずのうちに反芻する。
「震えてる。崩れてる。……落ちる?」
 茫洋とした声でレックは告げる。
「落ちるって、どこに?」
「暗いところ。空気も淀んだ、死んじゃった世界。昔の世界。沈む。沈んだら、もう戻れない」
 不吉な言葉に、ハイトは心当たりがないかとこの場にいる面々の顔を見遣った。
「皆さん、心当たりはありませんか?」
「な……何なのよ! さっきから、落ちるとか沈むとか!」
「レックが見ているのは未来の一つの形――預言のようなものです。預言とは違って、僕らの行動次第では覆すことができます。でも、何もしなければその通りに――『落ち』て『沈み』ます。もう一度聞きます。何か心当たりはありませんか?」
「……多分、それは外殻大地の事を示しているのだと思うわ」
「ティア。じゃあ、未来を覆す方法はわかる?」
「私が、歌えば大丈夫よ。兄さんから聞いたことがあるわ」
「よかった。それじゃあ、お願いしますね」

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