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小説置き場。
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 すごく感情に関して矛盾まみれだけど、ローレライ教団にとってアッシュの存在は神に近いものがあったのではないだろうかとか、その辺のことを考えてみた。
 宗教的な意味での預言とは、幸福を迎えて終わる存在しない預言のこと。科学的な預言は本当の預言のこと。この辺に関してはもう少し詰めたい。あとアッシュサイドのキャラをもっと解釈しないと話が書けない。




「馬鹿馬鹿しいと思うよ。それでも――受け入れてしまうのは、僕が導師だからだろうか」
 穏やかにイオンは言った。アッシュには理解できない感情だったけれど、それでも理解した。イオンは、宗教者なのだ。ローレライの、神の言葉は絶対なのだ。
「ねぇアッシュ。僕に最後の預言を与えてくれない?」
「お前なら自分で詠めばいいだろう」
「それじゃあつまらない。僕は君の預言が聞きたいんだ」
 ローレライと音素振動数が同じ、という事実はローレライ教の信者にとっては特別な意味を持つ。神と同じ存在。目に見え、触れ、言葉を交わすことができる神。信者に公開すれば導師以上の存在となってしまうのは避けられないため、知っているのは教団のごくごく上層部だけだ。それでも、彼らはアッシュをローレライとみなす。ヴァンが突然連れてきたただの子供があっさりと神託の盾騎士団に所属し(初めは騎士団という身の危険がある場所に所属させることも拒んだが)、それなりの地位につけたのもそのためだった。更には目の前のイオンの死後に一斉に行われる人事で詠師にまで引き上げられることが決まっている。イオンが望んだことだった。
 ――詠んでやろう。死にゆくイオンが望むのなら。
「アリエッタは泣くだろう」
 唐突に始まった言葉にイオンが吹き出した。
「そこから始まるの?」
「うるせぇ。思いついた順に言ってんだ」
「ごめんごめん。続きは?」
「カンタビレは泣かないだろうな。それでも、悲しむと思う。お前の死にもだが、殆どの人間がお前の死を知らないという事実に」
「なるほど。彼らしいね」
「モースとかの教団上層部は、預言の通りに死ぬお前は幸福だと、そう感じるのだろう。そして、お前の死を隠す工作を必死になって行うはずだ」
「この情勢で教団内で混乱を起こすわけにはいかないからね。それに、望まぬ者を導師につけるわけにもいかない」
 何か言いたげな視線を送るイオンをあえてアッシュは無視した。
「ディストはレプリカの準備が忙しくなっているだろう。ヴァンは悲しみはしないんだろうな」
「ねぇ、そろそろ君の話を聞きたいな」
「……俺は、」
 受け入れられるのだろうか。彼の死を。今こうして話している彼が、あと数日もすれば命を落とすという事実に耐えられるのだろうか。こうやって話をしているのも、所詮は現実逃避をしているだけではないのだろうか。
 アッシュには理解できなかった。預言だからと全てを受け入れ、早々に抵抗を諦めることが。教団に来てからなんとなく受け入れてきた教義に初めて疑問を感じた。だって、預言の成就を願うことはイオンの死を願う事と同義なのだ。
「俺は、お前のように簡単には受け入れられないだろう。預言とは異なった未来を望むのだろう」
 生きて、ほしい。それが、アッシュの願いだ。
「やっぱり君は、ローレライ教団員には相応しくないね」
 でも、とイオンは続ける。
「君にそう思ってもらえて、凄く嬉しいよ。アッシュ」
「……導師としてその発言はどうなんだ」
「神を信じない事によって生まれる君の苦しみを、僕は嬉しいと言ってるんだよ? 導師としてこれ以上相応しい台詞はないと思うよ?」
「随分と性悪な導師だな」
「ねぇアッシュ」
「何だ」
「人はいずれ死ぬ。それは避けられないことで、生き物である以上、僕らが死を恐れることもまた、避けられない」
「そう、だな」
「でもその死が、未来の繁栄に繋がっているとしたら? その死によって、自分の子孫達や友達の子孫達が幸せになるとしたら? ――僕はその死を、怖いとは思わない。それが、ローレライ教の救いなんだよ。ローレライの存在が、僕達を死の恐怖から救ってくれる。死の恐怖を、未来への希望に変えてくれる」
「また説教か」
「導師直々なんだからありがたく聞くように。――アッシュ」
 穏やかだった声が、急速に意思の籠った、硬い声になる。
「僕は今になってようやく気付いたんだ。本当は、預言なんて関係ない」
「いいのか? そんなことを言って」
「ああ。本当に大切なのは、僕が生きた事が誰かの未来の幸せに繋がると、僕自身が確信すること。ローレライ教はその手助けをしたにすぎない。預言の成就を願う事が何故救いに繋がるのかと言うとね、それは最終的な預言が幸せに繋がっているからだ。だから――最終的に不幸に繋がるのなら、そんなものはいらない」
 とんでもないことを言い切りやがった、とアッシュは思った。それでも口は挟まない。
「いいかいアッシュ。宗教的な意味での『預言』と、科学的な意味での『預言』はもう異なっているんだ。」

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