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小説置き場。
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バチカル王宮前の広場
 ルーク達が王宮から出るとハイトが立っている。
ル「ハイト!? お前、今までどこに行ってたんだよ!?」
 ルークの問いにハイトは控えめな笑みを零す。
ハ「皆さん初めまして。この度皆さんに同行させていただくことになりました、ハイト・フローレンスと申します」
 以前とのギャップの大きさに一同は声も出ない。かろうじてティアが聞く。
テ「……ハイト、記憶が戻ったの?」
 ハイト、少し困った顔。
ハ「戻ってるといえば戻ってるんですけど……多分皆さんが思っている『ハイト』と僕は別人だと思います」
ル「どういう意味だよ?」
ハ「僕は記憶喪失になっていません。皆さんと一緒にバチカルまで来た彼が、どうやら僕の名を名乗ってたみたいなんです」
ガ「ということは……そっくりさんってことか? 双子か?」
ハ「はい、そんな感じです」
テ「一緒に来たあの子の本当の名前がハイトではなくて、あなたがハイトなのね?」
ハ「そうです。ややこしくてすみません」
ル「本当にややこしいな。それで、あいつの名前は何て言うんだ?」
ハ「レックです。もう記憶は戻っているんで、また会う事があればそう呼んであげて下さい」
ル「あいつは来ないのか?」
ハ「はい、所属研究室が違うので。ところで、皆さんのお名前を伺ってもよろしいですか?」
ガ「そうか、ハイト……じゃない、レックじゃあないからな。俺はガイ・セシル。ルーク付きの使用人兼専属護衛だ」
ル「俺はルーク・フォン・ファブレだ」
テ「私はティア・グランツ。神託の盾騎士団所属よ」
 ジェイドはハイトの顔を見たまま考え込んでしまっている。
テ「大佐?」
ジ「ああ、すみません。マルクト帝国軍第三師団師団長のジェイド・カーティス大佐です」
ハ「ありがとうございます。ガイさん、ルークさん、ティアさん、それと……カーティス大佐、ですね」
 三人を順番に見回しながらハイトが確認する。
ジ「姓の方には馴染みがないのでできればジェイドとお呼び下さい」
ル「その顔でさん付けなんかされると鳥肌が立つっての。呼び捨てでいい」

*****

 夕日によってか、血によってか赤く染まった戦地に人影が一つあった。無数に転がった死体の間を無造作に歩きながら、返り血一つ付いていなかった軍服を赤く汚して死体の検分をしている。目に止まった俯せの死体を足で裏返してみると胸にぽっかりと穴が開いていた。男が溜息を付く。
「即死じゃあ意味が無い」
 実験の為には身体の損傷が直接の死因でない、傷みの少ない死体が必要だ。
「次の時はもう少し加減するか」
 氷の譜術を大規模に展開したのはこれが初めてだった。綺麗に凍死してくれればと考えていたが、譜に氷片で対象を貫くという記述があったのだろう、蓋を開けてみれば普通の戦場とほとんど変わらなかった。違いがあるとすれば地面がぬかるんでいることだけだ。
 男がしばらく探していると、ようやく傷の少なそうな身体を見付ける。余計な傷を付けないように慎重に引き上げると、それはうっすらと目を開いた。
「だれ……だ」
「なんだ、生きていたのか」
 途端に男は興味を失い、かいがいしく身体の汚れを拭おうとしていた手を止めた。この死体の海の中で生存者などいるはずがないと思い込んでいたようだ。らしくない失敗に、今回はこのくらいで切り上げるかと考える。
 立ち去ろうとした男の背に待て、と声が投げ掛けられた。
「誰だ、って聞いてんだろ……ッ!」
 先程まで死体の海と同化していた人間が、立ち上がる。
「驚いた。随分と軽傷なんだな」
「そりゃ俺は譜術を売りにしているからな、っと」
 第七譜術を展開して大きな傷を塞いでいく。譜術を売りにしていると自称しているだけあってマルクト人では無い割には確かに展開速度は早い。
「お前がジェイド・カーティスだな?」
「ああ」
「指揮官の首を頂けりゃあ、それなりに金が下りるんでな。――一戦お相手願おうか!」

 ディック、と名乗った男とジェイドとの戦いはそう長くは続かなかった。ジェイドの部下が駆け付けて来たからだ。ディックは自分の不利を悟ると直ぐさま逃げて行った。引き際の良さは傭兵らしい。久しぶりに負った傷が譜術によってみるみる塞がっていくのを眺めて、ジェイドは第七音素を自分で扱う術は無いものかとぼんやり考えていた。

*****
 うーむ謎文。ディックがかなりあっさりしてる。ちなみにディックは本気でジェイドを殺しにかかる気は無く、ジェイドの戦闘能力についての情報を集めて軍に売るのが第一目的でした。



「傭兵? ……生き残りがいたのか」
「そうだって言ってんだろ。首は無理だったがあの死霊使いとも少し戦った。奴の情報はそっちだって欲しいだろ。もっと上の人間を回せ」


「傭兵隊は捨て石だったんだろ?」
「そうだ。無駄な犠牲は払いたくなかったのでな」
「その無能な軍人さんのおかげで何人もの奴が死んだけどな」
「誰も死ななければそれは戦争ではない」
「しゃあしゃあと……それで、指揮官殿が何の用だ?」
「近々ホドで大規模な作戦を行う予定でな」
「おい、」
「即戦力はいくらでも欲しい。私がお前を雇おう」
「拒否権はねーのかよ」
「機密を知っている人間を簡単に野放しにすると思うか?」
「お前が勝手に話したんだろーが」
「さて、どうする?」
「こんにゃろ……受けりゃいいんだろ」
「それは何よりだ」

*****

ル「師匠(ししょう)!?」
デ「何かわからんけどここは俺にまかせろ」
ル「悪ぃ、頼んだ!」
デ「報酬はツケとくぞ。さっさと行け!」


ジ「ルーク、彼は?」
ル「あー、昔屋敷にいた奴。数年前にクビになったんだよ」
ジ「それはまた、どうして?」
ル「俺を無断で屋敷から連れ出したから。まぁ断ったところで許してなんか貰えなかっただろうけどな」
ジ「そうですか……」
ル「それにしても、お前ら知り合いだったんだな」
ジ「はぁ?」
ル「違うのか? ディックはお前を知ってたみたいだぞ」
ジ「ディック、と言うのですか、彼は」
ル「おう。俺に体術を仕込んだ師匠だ」
ジ「なるほど。野戦に慣れるのが早かったのはそのためですか」
ル「あー、まぁなぁ……師匠、稽古の時は平然と鉢植えとか投げてきたからなぁ……。って、やっぱり知ってんのかよ」
ジ「ええ、思い出しました。一度戦場でお会いした事がありました」
 ジェイドが手袋を脱いで左腕を見せる。傷痕が残っている。
ジ「これが彼に付けられた傷です」
ル「ジェイドでもやられる事があるんだな」
ジ「当たり前です」

*****

レ「こいつは音素砲の砲門か。流石に一般人に見せるのはまずいんじゃないのか? ……って操作は無理か。指揮官によるロックが掛かってるな。個人認識は固有振動数で、か。んで……固有振動数の採取は声紋からか? 登録振動数は……っと。うーん、そこまでは割り出せないか」
ジ「何をしているのですか」
レ「操作できねぇかと思って。ロックをかけてる指揮官ってお前?」
ジ「ええ。よくご存知のようですね」
レ「そのようだな。なぁ、機関部見せてくんねぇ?」
ジ「お断りします」
レ「ケチだなー」

*****

ル「なぁレック」
レ「なんだよ」
ル「俺はアッシュのレプリカなんだってさ。本当はあいつがルークで、俺は……偽物なんだ」
レ「何言ってんだ」
ル「え?」
レ「お前に本物も偽物もあるかよ。お前はアッシュか?」
ル「……違う」
レ「じゃあルークでしかありえないだろ」
ル「そうだけど、でも!」
レ「俺はお前と話す時は、お前と話していたつもりだよ。キムラスカの王族のルークという名前の人じゃなくて、目の前にあるお前の人格に話してた。お前が自分を否定するということは、お前を肯定していた俺や皆も否定することになる。それでもお前は自分は偽物だとかいう寝言を言うつもりか?」
ル「…………いいのか? 俺は、この名前も身分も母上も全部あいつから奪ったっていうのに、全部忘れてのうのうと暮らしてたんだ。だからあいつに返さなきゃいけないのに、……怖いんだ。返したくないんだ。全部俺のもんだ、ってどっかが言い張ってる。なぁ、これでいいのかよ?」
レ「そいつはアッシュと相談して、自分達で決断を下すところだと俺は思う。ただお前らが勘違いしてそうだから一つだけ言っておくけど、一人が二人になったところで大して違いは無い。アッシュに返してお前も持ってる、って事もできるからな」
ル「そ……っか」
レ「ま、とりあえずはお前がアッシュをよく知って、アッシュを他人として受け入れる事だ。そんでアッシュを好きになっちまえばいい」
ル「はぁ?」
レ「そしたら、アッシュのレプリカであることも誇りになる。俺はハイトが大好きだから、ハイトのレプリカで俺は心底嬉しいと思ってるよ」
ル「そんなもんか……って、レプリカっ!?」
レ「お前まだ気付いてなかったのか?」
ル「だって、お前ら、双子だって……」
レ「一番初めに言い出したのはお前だろ。つーか俺とハイトは『似てる』のレベルを通り越して『同じ』じゃねーか」
ル「双子ってそういうもんじゃねーのかよ!?」
レ「どんなに似てる双子でも少しは顔は違うっての。……ってそうか、知らないのか」
ル「屋敷に一組いたけどあいつら似てねーし」
レ「ま、レプリカなんてそうそういないから仕方ないけどな」
ル「なんか悔しいな……」

*****

ガ「あぁ……ルークの奴大丈夫かなぁ」
ハ「すみません、わざわざ来てもらって」
ガ「それは構わないさ。確かに前衛がアッシュ一人となるとしんどいからな」
ハ「ルークなら、大丈夫ですよ」
ガ「なんでそう断言できるんだよ」
ハ「レックを見ていてレプリカがどうのこうのって悩めるわけはないでしょうし、開き直りも早いんじゃないですか? 誰かに似て」
ア「……それは俺の事か」
ハ「へぇー、自覚はあるんだ」
ア「……とにかく、あいつは体を治すのが最優先だ」
ハ「落ち着いたらなるべくはやく外殻に上ってほしいところだけどね。魔界の障気の影響はまだ未知数のところがあるし」
ア「そんなところにあいつを置いて来たのか?」
ハ「レックだってそんな事は分かってる。それに今ルークに必要なのは同じレプリカであるレックでしょう?」
ア「まぁそれもそうだが……というかなんでお前がこっちにいるんだ?」
ハ「ヴァンには少し興味があって。何の為にルークのレプリカを必要としたのか。知らなくてもいいんだけど、やっぱり自分達のルーツは知っておきたいじゃない」

*****

ジ「ハイト! あなたは、もしかして……」
ハ「皆には言わないで下さいね。余計な心配はかけたくないんです」
ジ「…………」
ハ「そんな顔をしないで下さい。覚悟はしていましたから。それに、僕もレックもディストも、まだ諦めてはいません」
ジ「そう、ですね……私も私が導きだした結論が間違いであればいいと、思います」
ハ「おや、博士が自分の論を疑うなんて珍しい」
ジ「ええ、本当に」
ハ「本当は博士の智恵もお借りしたいのですが、僕等が助かったところで生きる世界自体がだめになったら意味がありませんしね。博士はそちらを優先してお願いします」

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