小説置き場。
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・4主の名前は「シアン」
・スノウの腕~流刑くらいまでです
・性格安定してません。イメージが結構変わるんで
・初期メンバーはタル・ケネス
・我が家の4主はまさかの魔法派です
*
目を見開いたまま崩れ落ちる人影。その背中に生えたナイフを見て、シアンは頭の片隅である情報としてそれを受け止めた。
死んだ。模擬海戦で死亡と見なされるよりもずっと早く、簡単に。
「先輩……?」
彼の名前は何と言っただろうか。顔合わせの時に聞いたような気もするが、どうも思い出せない。それでも館の食堂や訓練所で、この船の中で彼は確かに生きていたというのに。
これが、死。これが、戦場。急に現実味を伴った死の恐怖がシアンの背筋を通り過ぎた。それでも、震えは意地で止める。
――俺は、絶対に死ぬわけにはいかない。
絶対という言葉ほど曖昧な言葉はないと、どこかではわかっていたけれど。
*
「……ッ!」
畏怖と不安と恐怖と絶望をぐちゃぐちゃにかきまぜたような、とにかく禍々しい気配を感じた。そして圧倒的な質量をもって魔力が、眼帯の男の左手から溢れ出す。剣を握る右手に脂汗が滲んだ。これほど濃密な魔力をシアンは今まで感じたことがなかった。
極限なまでに緊張したこの空間で、両目が飛び出た気味の悪い男が怯えたように叫ぶ。確かに、こんな魔法を食らって生きていられる人間がいるとは思えなかった。
「逃げろ! そいつ紋章を使う気だ!」
眼帯の男を取り囲んでいる騎士達に叫ぶ。だが、男はシアンを嘲笑うかのように、ゆっくりと左手を高く掲げた。
「遅かったな」
魔力が爆ぜる。おぞましい悲鳴が空気を揺らす。それに現実の断末魔の叫びが加わっていく。それらを意識から切り離して、シアンは自分の周囲にできる限り強力な魔法障壁を展開した。急激な体内の魔力の減少にシアンの意識が飛びかける。その時に、一瞬だけこの場に不釣り合いな、オルゴールの音色が聞こえた気がした。
*
辺りは静まり返っていた。先程までいた騎士達が、もう誰も、いない。海に落ちたわけではないのはシアンにはわかっていた。赤黒い光の中で、人が灰となって崩れ去る様子を確かに見たのだから。
「次は……お前なのか?」
茫洋とした男が言う。その目に、諦観を浮かべて。
*
普段は何とも思わない船の揺れが気になった。思うように力が入らない手足を叱咤して、何とかいつもの型通りに構える。
「一撃で殺してやろう……」
ひどく陰鬱な声だった。それなのに、あれだけの紋章の力を開放してどこに力が残っていたのか、しっかりとした踏み込みで男は走って来る。体の筋肉の使い方から隙の大きい大技が来ると踏んだシアンは男に呼吸を合わせ、最小限の動きで攻撃を避ける。その刹那に渾身の一撃を叩きこんだ! 一撃で決めないと、もう立っていられるかもわからないほどシアンは疲労していた。朦朧とした意識の中で、誰かが自分の名を叫ぶのが聞こえた瞬間、シアンは意識を手放した。
*
目が覚めた。よくある天井の木の板目が、どことなくいつもと違うような気がして、上半身を起こす。やはり、知らない部屋だった。だが調度からガイエン海上騎士団船籍の船であることはわかる。体の隅々にまで力を込め、特に体に異常がないことを確かめてシアンはベッドから降りた。立ち上がった瞬間目眩を感じたが、それ以外は概ね問題はない。船の構造に大体の見当をつけて歩き始めると、思った通りの場所で甲板に出られた。
潮風が心地いい。船縁に腰掛けて海を見ると、小船に乗ったスノウの姿が目に入った。よかった。無事だ。あの時あの船に乗っていて、それでも生きているなんて奇跡に違いない。
「スノウ!」
彼が生きていること、それだけが救いだった。誰が何と言おうと自分だけは彼の行動の全てを肯定しようと思う。スノウの選択を否定することは、スノウの死を望む事と同義だと気付いてしまったのだから。
だからシアンは小船に乗っている彼を笑わない。むしろ誇らしくすら思う。
――よくぞ、生きて帰って来てくれた。
*
「何か、言っておきたいことはありますか」
副団長の声は何時にもまして硬い。敬愛していた団長を失って、今にも折れそうだ。
「副団長。流刑船の上からで構いません。どうか、あの船で亡くなった皆を……弔わせてもらえませんか。できればあの船の泊まっていたところで」
「……いいでしょう」
一瞬の激昂を封じ込めて副団長は言った。続けて他には? と問いかける。
「本当に……本当に、スノウは俺が団長を殺したと、そう言ったのですか?」
答えなどわかりきってる。それでも否定の言葉をどこかで期待している自分がいて、聞かなければいいにと自分の中のどこかが自分を嘲笑う。
「彼は、見た通りのことを言っただけよ」
その肯定とも否定とも取れない返答に、彼は俺が団長を殺したということを否定はしなかったのだということだけが思い知らされた。
*
「ここよ」
カタリナに呼びかけられてシアンは振り返った。頷いて了解を示し、そのまま船室に向かう前にもう一度海を眺める。海の色、風の匂い、空の高さ。全てが、あの日と同じだった。
この船が流刑船を連れてラズリルを出発する前の話だが、シアンが船に白い花を積み込むのを見てポーラは眉をひそめ、ジュエルは泣いた。
――何よっ、それ! まるで死にに行くみたいじゃない!
みたいも何も流刑なんてほぼ死罪と同義じゃないか、とシアンは思ったものだったが、流石にそれは口に出していない。だからジュエルは泣いているのだ。
群島では海葬が一般的だ。死者は柩に納められ、海に流される。重りの付いた柩の中には次第に海水が流れ込み、重みを増した柩は海中に沈んでゆく。海で生まれた人間は、こうして母なる海に還るのだ。その時に死者の旅路を彩るのが、真っ白な、花。
シアンの目的は墓参りだったのだが、二人の目にはそうは見えなかったらしい。流刑となった人間に対する人情味のある反応としては当然である。
「シアン。早く来なさい」
カタリナの声がシアンを回想から現実へと引き戻す。海に撒く花を取りに船室に入ると、シアンが運びいれた量よりも更に多くの花が置いてあった。
「副団長。花、多くないですか?」
「あなたの話を聞いて、自分も花くらいは、という団員が結構いたのよ」
早くしなさい、と促されてシアンは、真っ白な花束を抱え持った。
微睡むように波に抱かれて、白花は揺れる。
母なる海は偉大で雄大だ。だが時には人間に牙を向き、容易に命を奪う。
波に呑まれる白の花弁が、海に沈む自分のように見えてシアンは手を握りしめた。砂となって消えていった騎士達の声にならない怨嗟の叫びを聞いた気がした。
――どうしてお前は生き延びたのだ。
その答えを、シアンは知らない。
*
手紙は届いただろうか。泣きじゃくるジュエルをどうすることも出来ず、あの時はポーラに託した。
――スノウには内緒で、こいつを屋敷の使用人に渡してくれないか。
――使用人……?
――ああ。使用人だったらだれでもいい。頼まれて、くれるか?
――はい。お渡しします。
スノウには内緒で、という面倒な条件をつけてしまったが、あの生真面目なエルフだったらちゃんと届けてくれただろう。それに団長がいなくなった今、海上騎士団におじさんを止められる人材はいない。スノウはきっと忙しいはずだ。そうして主が不在の屋敷で皆が仕事をしている様子が目に浮かんだ。スノウと自分が「友人」だったのなら、彼らと自分は「家族」のようなものだと思っている。遺書を書いたつもりではなかったが、きっとそう思われるのだろう。あるいは、自分でも気付かないうちにそのつもりになっていたのかもしれない。海に出る時はいつだって死を覚悟している。母なる海は、いつだって平等に不平等だ。
「どうした、シアン。考え事か?」
「タル。寝れる時には寝とけよ」
「お前もな。それで、どうしたんだ?」
「こんな時に考える事は一つしかないだろう?」
「……皆のことか」
「あれ、二つかもな」
「シアン」
「悪ぃ。この船の行き先を考えてた」
「……」
「いっそ船の墓場まで流されるのも一興かな。もしかしたら昔俺が乗ってた船があるかも」
「シアン」
「心配性だなぁタルも。俺は別に死にたがってるわけじゃないって」
「俺達は絶対、生きてラズリルに帰るんだ」
「そうだな。また皆に会いたいよ」
*
(100108)
以上で連作終わり。4主の性格わけわからん!
・スノウの腕~流刑くらいまでです
・性格安定してません。イメージが結構変わるんで
・初期メンバーはタル・ケネス
・我が家の4主はまさかの魔法派です
*
目を見開いたまま崩れ落ちる人影。その背中に生えたナイフを見て、シアンは頭の片隅である情報としてそれを受け止めた。
死んだ。模擬海戦で死亡と見なされるよりもずっと早く、簡単に。
「先輩……?」
彼の名前は何と言っただろうか。顔合わせの時に聞いたような気もするが、どうも思い出せない。それでも館の食堂や訓練所で、この船の中で彼は確かに生きていたというのに。
これが、死。これが、戦場。急に現実味を伴った死の恐怖がシアンの背筋を通り過ぎた。それでも、震えは意地で止める。
――俺は、絶対に死ぬわけにはいかない。
絶対という言葉ほど曖昧な言葉はないと、どこかではわかっていたけれど。
*
「……ッ!」
畏怖と不安と恐怖と絶望をぐちゃぐちゃにかきまぜたような、とにかく禍々しい気配を感じた。そして圧倒的な質量をもって魔力が、眼帯の男の左手から溢れ出す。剣を握る右手に脂汗が滲んだ。これほど濃密な魔力をシアンは今まで感じたことがなかった。
極限なまでに緊張したこの空間で、両目が飛び出た気味の悪い男が怯えたように叫ぶ。確かに、こんな魔法を食らって生きていられる人間がいるとは思えなかった。
「逃げろ! そいつ紋章を使う気だ!」
眼帯の男を取り囲んでいる騎士達に叫ぶ。だが、男はシアンを嘲笑うかのように、ゆっくりと左手を高く掲げた。
「遅かったな」
魔力が爆ぜる。おぞましい悲鳴が空気を揺らす。それに現実の断末魔の叫びが加わっていく。それらを意識から切り離して、シアンは自分の周囲にできる限り強力な魔法障壁を展開した。急激な体内の魔力の減少にシアンの意識が飛びかける。その時に、一瞬だけこの場に不釣り合いな、オルゴールの音色が聞こえた気がした。
*
辺りは静まり返っていた。先程までいた騎士達が、もう誰も、いない。海に落ちたわけではないのはシアンにはわかっていた。赤黒い光の中で、人が灰となって崩れ去る様子を確かに見たのだから。
「次は……お前なのか?」
茫洋とした男が言う。その目に、諦観を浮かべて。
*
普段は何とも思わない船の揺れが気になった。思うように力が入らない手足を叱咤して、何とかいつもの型通りに構える。
「一撃で殺してやろう……」
ひどく陰鬱な声だった。それなのに、あれだけの紋章の力を開放してどこに力が残っていたのか、しっかりとした踏み込みで男は走って来る。体の筋肉の使い方から隙の大きい大技が来ると踏んだシアンは男に呼吸を合わせ、最小限の動きで攻撃を避ける。その刹那に渾身の一撃を叩きこんだ! 一撃で決めないと、もう立っていられるかもわからないほどシアンは疲労していた。朦朧とした意識の中で、誰かが自分の名を叫ぶのが聞こえた瞬間、シアンは意識を手放した。
*
目が覚めた。よくある天井の木の板目が、どことなくいつもと違うような気がして、上半身を起こす。やはり、知らない部屋だった。だが調度からガイエン海上騎士団船籍の船であることはわかる。体の隅々にまで力を込め、特に体に異常がないことを確かめてシアンはベッドから降りた。立ち上がった瞬間目眩を感じたが、それ以外は概ね問題はない。船の構造に大体の見当をつけて歩き始めると、思った通りの場所で甲板に出られた。
潮風が心地いい。船縁に腰掛けて海を見ると、小船に乗ったスノウの姿が目に入った。よかった。無事だ。あの時あの船に乗っていて、それでも生きているなんて奇跡に違いない。
「スノウ!」
彼が生きていること、それだけが救いだった。誰が何と言おうと自分だけは彼の行動の全てを肯定しようと思う。スノウの選択を否定することは、スノウの死を望む事と同義だと気付いてしまったのだから。
だからシアンは小船に乗っている彼を笑わない。むしろ誇らしくすら思う。
――よくぞ、生きて帰って来てくれた。
*
「何か、言っておきたいことはありますか」
副団長の声は何時にもまして硬い。敬愛していた団長を失って、今にも折れそうだ。
「副団長。流刑船の上からで構いません。どうか、あの船で亡くなった皆を……弔わせてもらえませんか。できればあの船の泊まっていたところで」
「……いいでしょう」
一瞬の激昂を封じ込めて副団長は言った。続けて他には? と問いかける。
「本当に……本当に、スノウは俺が団長を殺したと、そう言ったのですか?」
答えなどわかりきってる。それでも否定の言葉をどこかで期待している自分がいて、聞かなければいいにと自分の中のどこかが自分を嘲笑う。
「彼は、見た通りのことを言っただけよ」
その肯定とも否定とも取れない返答に、彼は俺が団長を殺したということを否定はしなかったのだということだけが思い知らされた。
*
「ここよ」
カタリナに呼びかけられてシアンは振り返った。頷いて了解を示し、そのまま船室に向かう前にもう一度海を眺める。海の色、風の匂い、空の高さ。全てが、あの日と同じだった。
この船が流刑船を連れてラズリルを出発する前の話だが、シアンが船に白い花を積み込むのを見てポーラは眉をひそめ、ジュエルは泣いた。
――何よっ、それ! まるで死にに行くみたいじゃない!
みたいも何も流刑なんてほぼ死罪と同義じゃないか、とシアンは思ったものだったが、流石にそれは口に出していない。だからジュエルは泣いているのだ。
群島では海葬が一般的だ。死者は柩に納められ、海に流される。重りの付いた柩の中には次第に海水が流れ込み、重みを増した柩は海中に沈んでゆく。海で生まれた人間は、こうして母なる海に還るのだ。その時に死者の旅路を彩るのが、真っ白な、花。
シアンの目的は墓参りだったのだが、二人の目にはそうは見えなかったらしい。流刑となった人間に対する人情味のある反応としては当然である。
「シアン。早く来なさい」
カタリナの声がシアンを回想から現実へと引き戻す。海に撒く花を取りに船室に入ると、シアンが運びいれた量よりも更に多くの花が置いてあった。
「副団長。花、多くないですか?」
「あなたの話を聞いて、自分も花くらいは、という団員が結構いたのよ」
早くしなさい、と促されてシアンは、真っ白な花束を抱え持った。
微睡むように波に抱かれて、白花は揺れる。
母なる海は偉大で雄大だ。だが時には人間に牙を向き、容易に命を奪う。
波に呑まれる白の花弁が、海に沈む自分のように見えてシアンは手を握りしめた。砂となって消えていった騎士達の声にならない怨嗟の叫びを聞いた気がした。
――どうしてお前は生き延びたのだ。
その答えを、シアンは知らない。
*
手紙は届いただろうか。泣きじゃくるジュエルをどうすることも出来ず、あの時はポーラに託した。
――スノウには内緒で、こいつを屋敷の使用人に渡してくれないか。
――使用人……?
――ああ。使用人だったらだれでもいい。頼まれて、くれるか?
――はい。お渡しします。
スノウには内緒で、という面倒な条件をつけてしまったが、あの生真面目なエルフだったらちゃんと届けてくれただろう。それに団長がいなくなった今、海上騎士団におじさんを止められる人材はいない。スノウはきっと忙しいはずだ。そうして主が不在の屋敷で皆が仕事をしている様子が目に浮かんだ。スノウと自分が「友人」だったのなら、彼らと自分は「家族」のようなものだと思っている。遺書を書いたつもりではなかったが、きっとそう思われるのだろう。あるいは、自分でも気付かないうちにそのつもりになっていたのかもしれない。海に出る時はいつだって死を覚悟している。母なる海は、いつだって平等に不平等だ。
「どうした、シアン。考え事か?」
「タル。寝れる時には寝とけよ」
「お前もな。それで、どうしたんだ?」
「こんな時に考える事は一つしかないだろう?」
「……皆のことか」
「あれ、二つかもな」
「シアン」
「悪ぃ。この船の行き先を考えてた」
「……」
「いっそ船の墓場まで流されるのも一興かな。もしかしたら昔俺が乗ってた船があるかも」
「シアン」
「心配性だなぁタルも。俺は別に死にたがってるわけじゃないって」
「俺達は絶対、生きてラズリルに帰るんだ」
「そうだな。また皆に会いたいよ」
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(100108)
以上で連作終わり。4主の性格わけわからん!
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