小説置き場。
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カイトとマスター♂
マスターの名前は千景です。固定なので注意。
*
コンコン、と扉がノックされた振動を感じて、千景はコンピュータゲームをポーズにしてヘッドフォンをずらした。うーともおうとも言えない微妙な言葉で了承を告げると、静かな音で背後の扉が開かれる。マスター、と呼ばれて千景がその声の主を認識するのに少し時間が必要だった。
カイトの声が、何か違う。
「……カイト、何でもええから喋ってみ?」
「はい? あ、ええと、ご飯できました」
可愛らしいひよこのエプロンをしたカイトがきょとんとしながらも夕飯の用意が終わったことを千景に告げる。
千景の耳は決していい方ではない。普通に生きていくのに音が聞こえる程度で、音楽家のように微妙な音の変化がわかるわけではない。が、それが故に千景は違和感を感じていた。確かに、何かが、違う。
「献立は?」
ヘッドフォンを頭から外しながら千景が問い掛ける。
「白ご飯に肉じゃがです」
「わかった。ラップかけて置いといて」
「ええっ、食べないんですか!?」
さっき『腹が減ったからさっさと作れ』って言ってましたよねっ!? というカイトの抗議を無視して千景は休止状態にしていたゲームを終了させた。それからパソコンの隣の棚の引き出しを開いて工具類を取り出す。
「あのなカイト。お前が気付いとるかは知らんけど、お前の声おかしいで」
「え?」
思いもよらぬことを言われてカイトの言葉が止まる。ぱちくりと瞬きをした真っ青な瞳を見遣り、千景は顎をリビングの方へしゃくった。
「ラップしときゃあレンジで温め直せば食えるやろうが。点検するから、さっさとしい」
一瞬の間を置いて、はいっ、と返事をしたカイトが身を翻す。その後ろ姿を眺めながら千景はぽつりと呟いた。
「声やから……喉か?」
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