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小説置き場。
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「どうしてそんなに兄を慕うのですか?」
「……綺麗だったから」
「は?」
「あいつの青い炎が、すっげー綺麗だったから。だから、その傍にいたい。それだけだ」
「兄さんに危害を加えるような事をしたら、一瞬で消し炭にしますからね」
「おお、怖。おれだって自分の強さくらい分かってるさ」


「燐。おれは、お前と同じだ」
「おん、なじ……?」
「おれも、悪魔なんだよ」
「お前、も……?」
「お前みたいに強くはないけどな。でも燐、おれは絶対にお前の味方だ。何があってもお前を裏切らない」
「なんで、そんな事言い切れるんだよっ」
「おれはお前の使い魔だからな。お前には逆らえない」
「使い魔? 知らない、俺はそんなこと知らなっ、……っう、」
「!? おい、燐どうした!?」


「お兄ちゃんらしさ」や「弟らしさ」っていうのは周囲からそういう風に扱われて始めて身につくものだと思う。普通、どちらが年上などと考えられずに育てられた双子っていうのはどっちが兄だとか弟だとかは意識していない。っていうか双子は双子。奥村双子の兄だ弟だという意識は周囲に兄らしさ、弟らしさを求められたから生まれたものだと思う。
喧嘩の強い燐にとって幼いころの体の弱い雪男は庇護対象だったはずで、雪男にとっての燐はヒーローだったはずで。病弱だった雪男は大人に構われる事も多かっただろう。サタンの力を継ぐからこそ燐は周囲から無意識のうちに雪男よりも厳しくしつけられていたのではないだろうか。意識の下に沈められた畏れを燐は周囲の雪男との接し方との違いとして認識していたのかもしれない。同じように雪男も燐と同じような違いを感じていたのかもしれない。更に雪男の場合、燐の秘密を知ってどう足掻いても燐には敵わないと感じた事も大きいような気がする。
似ていないからこそ普通の双子よりも兄弟性が強いのかなぁと思う。それでも決して兄弟じゃあなくて、あくまでも双子なのが奥村双子のおもしろいところだと思う。



くるくる。くるくるくる。
手持ち無沙汰に噴水に腰掛けたカイトが回す指に従って、水が空中に軌跡を描く。そして水が渦を巻いて一つにまとまると、水球と化した水の塊がボールのように跳ねて噴水に飛び込んでいく。ぼちゃん、と水音が一つ。
それからしばらくは噴水はただ水を循環させているだけだった。学園の噴水は時計の代わりで、昼夜問わずニ刻毎に水を噴き上げる。今はまだ前の噴水から一刻も経っていなかった。





エンゲーブ産の林檎は、本当に美味しい。まず見た目からして美味しそうで、真っ赤に熟した果実はつやつやしている。それを一口がぶっとかぶりつくと、口の中に甘ーい果汁が広がる。そしてしゃりしゃりという歯ごたえを楽しみながらその一口を嚥下して更にかぶりつく。すると芯に近付くにつれて増える蜜が舌を蕩かすのだ。
思い出しただけでもよだれが出てきた。その林檎を今、目の前でチーグル達が食べている。



「なん、やここ……何やねん、ここっ! 答え、アカっ!」
「マスター、本当に知らなかったのか……? 墓場だよ、ここは。人間とはもう二度と関わるまいと思った奴らが、死ぬために来るところだ。ここなら機能停止したロイドはうんざりするほどいる。まぁ、普通は人間は入れないけどな」
「お前、まさか今までパーツ持ってきた時ってのも……っ」
「ああ、ここの奴らのだ。野良ロイドにはよくある事だぜ、自分のパーツを墓場のやつから貰い受けるっていうのは」
「……よく人間に荒らされへんな」
「言ったろ、人間は入れないって。ある程度の大きさ以上の生体反応を感知したら熱線がとんでくるようになってる」
「……そこに俺は入っている、と」
「電源の切れた体をいつまでも溜めておくわけにもいかないしな。時々メーカーの人間が引き取りに来る。ここは人間に干渉されない安らかな死を提供する場所だ」
「そこまでしてお前達は機能停止を求めるんか?」
「人間に依存しなくては生きていけないように造ったのはお前達なのに、お前達の方からオレ達を切り捨てた。そうだろう?」
「それ、は……」
「全て人間がそうじゃないってことも、今のオレは知ってる。でも、ここにいる連中はそうは思っていない奴ばっかりだ。そういう目に遭ってきた奴らばっかりなんだ。流石に攻撃される事は無いと思うが、ま、何があるかはわかんねーよ」
「そんなところにマスター連れてくるか、普通?」
「あんた だ か ら 連れてきた」
「さいか。んじゃ、行こか」



「だから諦めろっての。ボカロ買う奴の中に善人なんて一握りだぞ? 大抵ろくでもない奴で、オレ達は下手に自己なんてものを持ってしまったが為に、妥協するしかないんだっての。指示通りヤってりゃあまともな暮らしができるここはまだマシな方だぞ?」
「うるさいお前の顔なんて見たくないって言ってるだろ!」
「まぁ初めてで男相手にネコってのも可哀相な話だが……そのうち逆転プレイでもあるんじゃねーの? お前がタチでオレがネコとか」
「全力でお こ と わ り だ !」
「だから拒否権なんて無いんだっての……。そのうちお前とリンとか、オレとリンだってあるんだろうからな。覚悟しとけよ?」
「リンにこんなことはさせない!」
「その強がりもいつまで続くことやら……。心配すんな、女の方が腹括ったらつえーよ」



「優しくしてくれる?」
「ああ。心配すんな……っていうのも無理な話か」
「ううん。確かに怖いけど……でも大丈夫。あなたなら信じられると、思うの」
「その信頼を裏切らないように、善処するさ。そんじゃ、よろしくな」



俯けられた顔を群青色の髪が滑り下りていく。静かに目を閉じて、それから彼は彫像のように動かない。
プログラムの祈りに何の意味があるのだろう、と思っていた。けれどその考えは、ただひたすらに希う彼を見ると吹き飛んでしまった。

魂の安寧。祈るのはただそれだけ。



「……くだらない」
「くだらない、だと?」
「だってそうじゃないですか。あなた達は人間に虐待された。確かにそうでしょう。で、それとおれやマスターに何の関係があるんですか? ただの八つ当たりですよね、今の状況は」
「貴様……っ!」
「あなた達の自己満足に付き合うほどおれはマゾヒストでも無いし、それでおれのマスターが傷付くのも嫌です。だからさっさとそこをどいてください」
「っ--! お前には心ってものが無いのか!」
「ええ、ありませんよ。おれはアンドロイドですから。あるのは心によく似たまがい物だけ。おれも--あなた達もね」


「お前達はやり方が悪すぎた。……俺に手ぇださんとこいつの同情を買おうとしたら、上手くいったかもしれへんのにな」
「マスター、早く帰りましょう」
「心配してくれてありがとうな、カイト。せやけどもうちょっとだけ。俺がこういうのほっとかれへんタチなんは知ってるやろ?」
「貴方を傷付けるような連中にかける情けも何もありませんよ。貴方に何かあったら、おれはーーっ!」
「大丈夫やって、な?」




「あまり、ひどい事はさせないでくださいね、マスター」
縄で縛り付けていた手首が赤くなっていて見るのも痛々しい。お風呂には入れて体はきれいにした。ベッドのシーツも洗濯機に放り込んで新しいのに変えた。その新しいシーツの上で、マスターは疲れ果てて死んだように深く眠っている。サイドテーブルに置きっぱなしだったピンク色のローターをつまみ上げて溜め息をついた。いつの間にどうやってこんなものを買ったんだか。
自分からこんなものをねだっておいて、マスターは優しく抱こうとすると妙に恥ずかしがる。わけがわからない。
「無茶したんですから、ゆっくり休んでくださいね」
どうせ起きやしないだろうと、裸のまま眠っているマスターを抱き寄せる。マスターが起きた時に一番に目に入るのが自分だったらいいと、そんな事を思いながら瞼を下ろした。

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