小説置き場。
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「カイト、もっと喉見せて。切られへん」
は、い……と震えを最小限に押さえた声でカイトが答える。顎を突き出すようにカイトが首を反らすと、喉仏が浮き出た白い肌があらわになった。そこに男がメスを当てる。金属のひやりとした感触にカイトの体が僅かに震えた。己の最も弱いところを惜し気も無く晒すカイトの姿に、男が生唾を飲み込む。
「ちゃんと痛覚切ったな? 大丈夫やったら目ぇつむって」
男がカイトの顔を覗き込んで問い掛ける。それに素直に従ってカイトは目を閉じた。無意識下で張られた薄い涙の膜が一筋の雫となってカイトのこめかみを流れていく。綺麗だな、と男は思った。
「そんじゃ、いくで」
カイトの喉に当てたメスを軽く滑らせる。それだけでカイトの表面を覆っている人工皮膚に容易くメスが沈んだ。しかし細い線のようにも見える切り口からは血も何も流れはしない。カイトはボーカロイドなのだから当然なのだが、それでも男は不思議だと感じた。
四角く窓のように切り取った人工皮膚の下に、ようやくお目当ての人工声帯があらわになった。
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天樹 紫苑
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