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小説置き場。
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多分一番量多い。
結構真面目に続き書きたいなぁとか思ってるの多いです。

 

「お前は世界
 世界はお前
 お前の望みは世界の望み
 世界の願いはお前の願い」
「…どういうこと?」
「言葉通りの意味だ。
 そしてお前は世界の盛衰を担っている」
「…やっぱり、コイツは」
「破壊を司る者。
 全てを滅ぼし、新たな秩序を創る者」

 


 少女の眼前に、血に濡れた躯が倒れる。
 ついさっきまで少女に笑いかけてきたあの優しい父は、その命の灯を消そうとしていた。
 隣で少女の母が息を飲んだ。
 少女の前では、紅く輝く刃を持った男がニヤニヤと狂ったように笑みを浮かべている。

 * * * *

 空一面に星が瞬いている。
 体に当たる夜風が、少し肌寒いとアヴィスは思った。でも、中に戻ろうとは思わなかった。
 まだ、この船には血の臭いが残り過ぎていた。

 キィ、と甲板のドアが開く音がした。
 それから少しこちらを窺うような視線。
 アヴィスはそれらに微苦笑して、音の主に声を投げ掛けた。
「どうかしたか、理奈」
 ビクリ、と少女の体が震えたのが分かった。
「そんなところに立ってると風邪引くぞ。
 こっち、来るか?」
 アヴィスにそう言われると、理奈はトテトテとアヴィスの方に歩いてきた。でも、理奈はただアヴィスの隣に立つだけだ。
「それでも風邪引くだろーが」
 呆れたようにアヴィスは呟き、理奈の腕を自分の方に引いた。たやすく折れてしまいそうな、細い腕だった。
 理奈がバランスを崩してアヴィスの方に倒れかかるのを受け止めると、アヴィスは理奈を抱えて自分の前に座らせた。子供特有の高い体温が気持ち良い。
 ぎこちなくアヴィスの方を振り向いた理奈の頭に軽く手を乗せて、アヴィスは歌を歌った。昔に教えてもらった、古い歌を。


「俺達には知覚できない、人間に害を為すモノ。そいつらが身の回りには溢れかえっている」
 夜道を歩きながら、唐突に草薙は口を開いた。
 吹が歩き慣れない暗い道を彼に追い付こうと必死になっているのを、果たして彼は気付いているのだろうか。草薙は続けた。
「俺達はそいつらのことを『影』と呼んでいる」
「『影』…?」
「そう。姿無き者、闇にのみ生きる者のことだ」
 そこまで言って草薙は言葉を切った。

 説明が抽象的過ぎて吹には何のことだかさっぱり分からない。そもそも草薙が何を伝えたいのかが分からない。
 草薙が立ち止まったおかげで漸く追い付いた吹は、そこでやっと頭を回転させることができた。無論、そんなことに意味はなかったのだが。

 草薙がごくごく自然に左腰の刀を抜いた。その途端、周囲がボンヤリと明るくなって吹は目をしばたたかせた。刀が、自然に光を放っている。とにかく驚いた吹はどういうことか聞きたかったが、草薙に視線で制されたのでそれは堪えた。
 そんな吹の疑問を知ってか知らずか、草薙は道の脇に生えている草を光を放つ刀で照らしだす。
「よく見てろ」
 草薙のよく通る声に従って、吹は刀を見た。見れば見るほど不思議な刀だ。月明かりを反射しているわけでもなく、ぼぅっとした弱々しい光を放っている。その光を見ていて、吹は急に背筋がぞっとした。体全体に悪寒が走る。咄嗟に吹は草薙の腕を掴んだ。怖い。
「影をよく見ろ」
 相変わらず淡々と草薙は言う。吹は無意識のうちに頑なに閉じた瞳を開き、言われた通りに草の影を見た。

 ぞわり。

 影が、蠱く。途端に吹の体に先程とは比べものにならないほどの悪寒が走りぬけた。
「やっ…今、影が…」
「あれが、『影』だ」
 草薙が無感情に言う。それがまた一層と吹の恐怖心を煽った。草薙の腕を掴む力がより強くなる。
 『影』は一匹だけではなかった。
 普段はただの草の影と認識しているもの。それが『影』の集まりだということを吹は初めて知った。影全体が『影』として動く。


 初めの殺しはいつだったか。
 物心ついた時には既に手が紅く染まっていた俺にとって、それは些細な問題だった。そんなもの、いつであろうが俺が人殺しであることに変わりはない。
 殺しは、正直に言うと好きでも嫌いでもなかった。そういった物から掛け離れた所にあった。

 

 


「へぇ…お前、大陸のやつなのな。だったら、先ず本島に行ったらどうだ?」
「本島ってどんなところだ?」
「んとな、ここら一帯の島を纏めて『浮遊諸島』って呼ぶのは知ってるだろ?」
「まあ、一応は」
「ここらの島は全部海に浮かんでるんやな。それで、ぷかぷかと漂流している。だけど、ひとつだけ動かない島があるのや。そいつのことを俺たちは本島と呼んどる」
「どうすればそこまで行ける?」

 

一番星をつかまえて

 

さあ行こう
未知の世界へと
その足を高らかに上げて
行き先にはきっと
たくさんのものが待ち受けているだろう
その一つ一つを確かに受け止めて
後戻りが許されない道を
君は進むんだ

 

  彼女の顔に貼りついていたのはいっそ壮絶な笑みだった。何かが欠けてしまった少女は狂ったように笑う。ただ一人で、穢れた手を天に捧げて。

―――みんなみんな、死んでしまえばいいんだ。

 思い通りにならない世界に、意味なんて無い。

 


 怖い。
 花梨はそう思った自分に驚いた。何かに怯えるなんて、ここ数年はなかっただろう。
 自分の中の矜持が体を叱咤するが、それでも震えは止まらない。どこかで危険を告げる警鐘が鳴っている。
 花梨が呆然としていると、とん、と軽く花梨の肩を叩いて未来が前へ進み出た。

 


 自分の中で確かに存在するもう一人の自分。
 いつか消えて失くなる自己。そいつは自己の消滅を何よりも恐れていた。そいつは俺の存在は知っていても俺のことは知らなかった。俺はそいつの存在もそいつ自身も知っていた。そいつの恐怖も知っていた。
 そいつは消えた。俺が身体の主導権を握った。

 

 二人は村の忌み子だった。村に災厄を齎す子供。本来ならば生まれたときに殺されるはずなのだが、二人が忌み子になったのは物心がつき始めるちょうどそのときだった。祟りを恐れた村人達は二人を殺すこともできず、ただその力を抑える為に二人を村外れの建物に軟禁した。親のみが二人に会うことを許され、それは二人が死ぬまで続くものと信じられていた。
 そんな二人の子供の名は、雪花と竜二郎といった。

 だが、そんな二人を軟禁していた村が魔物に襲われて消えた。

 


 もう日が暮れてから随分と時間がたった。少年が息を切らせて階段を上る。どこにでもありそうなマンションの最上階が少年の目的地だった。
 チャイムも鳴らさずに堂々と部屋に入ると、脱ぎ散らかされた女物のパジャマが目に入る。少年はそれを纏めて拾いあげると、廊下の突き当たりの戸を開けた。
 そこには少女が一人、少年に背を向けるように座っていた。

 

 

「髪を切ってくれと頼まれたら、それを引き受けるのが散髪屋の仕事だろう?」
 彼は散髪屋と呼ばれることをひどく嫌っていた。自分は美容師なのだと、常々言っていたのに。
「ここは迷いし者の来るところ。」

***


 ここでは、黒髪を持つ人間は神に祝福されし存在として大層尊ばれる。
 自ら髪を黒からブロンズに染めた馨にはあまり馴染めない文化だった。
 こちらに来てから日が経って、頭がプリンになっているのを同居人が見つけてかなり怒られた事も記憶に新しい。そんな尊い髪色をなぜ隠すのか、と。そのあまりの剣幕に、これからは外出時には必ず帽子を被ろうと馨は心に決めている。そしてさっさと日本に帰ろう。こんな妙な夢の世界からはそうそうにオサラバしたかった。

 

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