小説置き場。
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自転車を下りてから、尋常じゃない量の汗をかいているのが分かった。汗を吸った下着が風で冷えてお腹を冷やす。下痢を伴いそうな腹痛と共にハンカチで汗を拭いながら教室に入り、いつも通りの二列目右から二番目の座席に荷物を下ろす。珍しく教授は既に教室に入っていたが、授業はまだ始まっていなかった。
汗が気持ち悪い。ハンカチは既に湿りきっていて肌のべたつきまでは拭えなかった。ホワイトボードに数式を書き出した教授が冷房を付ける。喉が、渇ききっていた。カラカラに乾燥しているのではなく、絡み付いた痰が水分不足で更に濃縮され喉に張り付いている。飲み物は、持っていない。持ってくるべきだったと軽い後悔をしつつ、せめてトイレでうがいでもしようと席を立った。
カタン、と背後で教室のドアが閉まる。冷房の効いていない、自然そのままの日陰の気温が心地いい。後ろのドアから遅刻者が入室するのを見ながら、エレベーターホールの前を通り過ぎてトイレへ向かった。近場で飲み物がありそうな事務室はまだ空いていない。
うがいを一回、二回。口の中に入った水道水に体が歓喜している。それらを吐き出したあと、教室に戻った。
授業が始まっていた。先ほどまでいなかった隣の席の友人が来ている。板書をしようとノートを広げてシャープペンシルを取り出す。数式を写す手に力が入らない。寒い。送風口から送られる冷風が体表の汗を気化させてどんどん熱が奪われる。気持ちが悪い。上着を羽織る。少しばかりマシになったが、それでもとてもノートを取るような気分ではなかった。寒い。気持ち悪い。この部屋には、いられない。
何か飲まないといけない。今度は財布を取り出して席を立った。逃げるように教室を出て、数歩歩いて抑え切れない吐き気に襲われる。これは、まずい。再びトイレに向かって、便器の脇にしゃがみ込んだ。背中をさすってくれる人はいない。無性に泣きたくなった。少しばかり出た黄色っぽい吐瀉物を眺めていると、ガタガタと扉を開ける音。事務室に人が、来たらしい。立ち上がる。冷え切った体の表面に向かって、耳の奥からどろりと熱い汗が流れ出ていた。
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