小説置き場。
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ああいらいらする。
この澄ました顔の仕事上のパートナーがムカついて仕方がない。目隠しをしたままベッドに腰掛け、誰もいない方に向かって声を飛ばす。
誰に向かって喋ってんだ俺はこっちだ!
苛立ちのままにそいつの目隠しを毟り取る。きーきー五月蝿い監視係が脳裏を掠めたがすぐに黙殺した。色素の薄い灰色の瞳が数瞬して俺にピントを合わせる。
「ホント、石みてぇな色だな」
嗤ってやるとその瞳が俺を睨みつける。気分が良くなって口角を上げると、ふっつりと瞼を下ろしやがった。
嗚呼ムカつく!
肩を突き飛ばしてベッドの上に押し倒す。それでも頑なに閉ざされた瞳にいらついて瞼に噛み付こうとするが、見てもいないのにそれに気付いた奴は目を庇うように腕を伸ばしやがった。
がり、とその細い腕に噛み付く。ぴくり、と奴の体が跳ねるが呻き声一つ漏らさない。口の中に血の味が広がっていく。ああ不味い。唾を吐き捨てる。
「何か言えよ!」
さっきから一言も漏らさないこいつがムカついてムカついて仕方がない。衝動的に右手を振り上げると、それを見計らっていたのか奴は体を捻り踵で俺の背を強かに蹴り上げた。痛みに一瞬飛んだ意識が戻ると、俺の拘束を抜けたあいつが片足を振り下ろす! 反射的に取った受け身の体勢で衝撃に備えるが、遂に蹴りが俺に入る事は無かった。
俺達を軟禁している自動ドアの駆動音。
「あなたたち、何してるの!」
漸く監視係が部屋に着いたらしかった。
*
大抵の雑音は無視していると自然と静かになる。そうして得た静寂の中でないと、目の代わりに敏感になってしまった聴覚は休まらないのだ。目は閉じる事ができる。しかし耳を塞ぐことはできない。だからこそ、自室にいられるときは静かにしていたい。
そういうわけで、オレは適当にゴールドに生返事をしていた。こいつはクリスと同じで、無視すればするほどうるさくなるタイプなのは既に身に染みている。
それが、どうにも奴の気に障ったらしい。唐突に手を伸ばしてきたと思ったら、無理矢理オレの目隠しを外しにかかった。わけがわからない。
久しぶりに外界に触れた瞼が思わず開く。突然の光に目を慣らしていると、目の前のゴールドの眦が僅かに緩んだ。まずい。
――他人を『見て』しまった。
しかしゴールドには何も起こらない。そういう能力だと思い出す間もなく、ゴールドはオレの視界いっぱいに入ってきて嗤った。
「ホント、石みてぇな色だな」
それがオレの欠陥を指しての言葉だということには嫌でも気付いた。反射的に睨めつけるとニィ、とゴールドが笑う。変態じみたことにこいつはオレに睨まれるのが嬉しいらしい。喜ばせるのも癪でさっさと目を閉じた。本当に、わけがわからない。
ゴールドは、不安定だ。大人しくしていると思えば突然オレに当たり散らす。暴れだしたと思えば唐突に静かになる。自己顕示欲の強さは無関心への恐怖の裏返しだ。頭では分かっているが、だからと言って安心するまで構ってやるほどオレは物好きではない。不安を解消するために当たり散らされるのも迷惑だ。
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