小説置き場。
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「いっそのこと、お前のものにしてくれたっていいんだぜ?」
吸血の後、気だるげにしたゴールドは言う。
「俺はできる限りずっとあんたといたい。お前だって、俺達の寿命の差を考えると俺の血を吸えるのはほんの僅かな間だろ? ちんたら迷ってるとあっさり俺は逝っちまうからな?」
腕を伸ばしてじゃれてきたゴールドの背中に腕を回した。生きている体温の温もりを感じる。今は、まだ。ゴールドは生きている。
「わかっている」
先程牙を突き立てたばかりの噛み痕に舌を這わす。ゴールドが僅かに息を飲んだ。
ゴールドの言う通りなのだ。確かに俺はゴールドを、オレに比べると遥かに寿命の短い人間を、側に置きたいと思っている。そしてその為の手段もある。
でも。
それはオレだけの望みだ。オレはゴールドが寿命を全うするまで側にいるだろう。それはオレにとってはほんの僅かな時間だが、ゴールドにとっては「生きている間ずっと」だ。ゴールドの望みは、何もしなくても達せられる。
オレの都合でだけで、ゴールドの、人間の寿命を徒に伸ばす事は、本当にこいつにとっての幸せなのだろうか。人間として生きる事を捨てさせる事が、人間であるゴールドの幸せになりうるのだろうか。
「今日はずいぶんと甘えただな、シルバーちゃんよ。もうちょっと吸うか?」
「いや、これ以上もらうとお前の体調に障る」
「別にいいのに」
気まぐれで助けた幼子は、気付けばもう見た目はオレと同じくらいの歳になった。そしてまた気付いた時には永久に失っているのだろう。それにオレは、耐えられるのだろうか。
「んじゃ代わりにキスしてやるよ」
オレの眼前で金色の瞳が笑う。
この時が永久に続けばいいと、そう願った。
*
村に来たのはそれなりに久しぶりになるのだろうか。前はゴールドをここに送った。今日はその逆だ。
――最近風邪がはやっててよ、なかなか抜け出せれねぇんだよ。
この間ゴールドは確かにそう言っていた。そしてグリーンから聞いた流行病の話。おそらく、この村で広まってるのもその流行病だろう。致死率が高く、いくつもの集落を壊滅に追いやったと、聞いている。
村は静かだった。通りに人の姿がほとんど無い。ゴールドに微かに移った自分の魔力の気配を追うと、ようやく彼の住居にたどり着いた。
ノックを3回。出てきたのはやつれたゴールドの母親で、オレの顔を見るなり息を飲んだ。10年以上昔に自分の子供を連れて来た男の事を、まだ覚えていたらしい。
「あな、たは……」
「あいつを迎えに来ました。会わせてもらえませんか」
穏便にすむならそれに越したことはない。そう思っての問い掛けだったが、母親はゆるゆると首を横に振った。強張った体で、絞り出すようにオレに懇願する。
「お願いします、あの子を連れていかないでください……!!」
「あれはもう死にかけている。死神の手に委ねるのも、オレが引き取るのも同じ事でしょう」
「ですが、あの子はまだっ……!!」
縋り付いてくる手を引き離し、建物に侵入する。ゴールドの気配は、上だ。うなだれ、泣き崩れる母親を振り返る。
「……死んでしまっては、オレには何もできない」
だからオレは、死なさぬ為に出来る事があるのならば全力でそれを行うだけだ。
梯子のような階段を昇る。その先にようやく求めていた姿が見えた。荒い息が聞こえる。額に載せられた意味の無くなったタオルを外し、代わりに手を伸ばす。ゆっくりと瞼を上げたゴールドがオレを見た。
「来ると、思ってたぜぇ、シル、バー、ちゃん」
「それはいい勘だな」
「あんま、母さん、いじめんな、よ……。気ぃ、弱いんだ」
「それは無理な相談だな。オレはお前以外の人間なんてどうでもいい事くらい知っているだろう? お前をこの世に生み出してくれた事には、大いに感謝しているが」
つーっと右手で顔の輪郭を撫でてゴールド顎の先まで指を滑らせる。ゴールドが心地良さそうに目を細めた。
牙で、自分の唇を噛み切る。それから舌を唇に這わせて血が流れている事を確認した。これを飲めば、ゴールドの命の危機はひとまず去るだろう。しかし、それはゴールドが人間でなくなることとも、同じだ。本当に、それでいいのか。ゴールドに体を寄せたまま、思考の迷路に迷い込んでいたオレを噎せながらゴールドが笑う。
「シルバー、それ、えっろ……」
けたけたと屈託なく笑うゴールドに感じたのは愛おしさだった。熱に浮かされた金色の瞳が、どんな魔法よりも強烈にオレを狂わせる。幸せかどうかなんてどうでもいい。ただオレは、こいつが欲しい。欲しくて欲しくて堪らない。そして手に入れる為の方法が、ある。何を躊躇う事があるだろうか。だってオレは、こんなにもこいつを、
「ゴールド」
唇を重ねる。傷口を押し付けて、血混じりの唾液を交換しあって、それをゴールドが飲み下すまで。
オレたちはずっと、口付けを交わしていた。
*
吸血の後、気だるげにしたゴールドは言う。
「俺はできる限りずっとあんたといたい。お前だって、俺達の寿命の差を考えると俺の血を吸えるのはほんの僅かな間だろ? ちんたら迷ってるとあっさり俺は逝っちまうからな?」
腕を伸ばしてじゃれてきたゴールドの背中に腕を回した。生きている体温の温もりを感じる。今は、まだ。ゴールドは生きている。
「わかっている」
先程牙を突き立てたばかりの噛み痕に舌を這わす。ゴールドが僅かに息を飲んだ。
ゴールドの言う通りなのだ。確かに俺はゴールドを、オレに比べると遥かに寿命の短い人間を、側に置きたいと思っている。そしてその為の手段もある。
でも。
それはオレだけの望みだ。オレはゴールドが寿命を全うするまで側にいるだろう。それはオレにとってはほんの僅かな時間だが、ゴールドにとっては「生きている間ずっと」だ。ゴールドの望みは、何もしなくても達せられる。
オレの都合でだけで、ゴールドの、人間の寿命を徒に伸ばす事は、本当にこいつにとっての幸せなのだろうか。人間として生きる事を捨てさせる事が、人間であるゴールドの幸せになりうるのだろうか。
「今日はずいぶんと甘えただな、シルバーちゃんよ。もうちょっと吸うか?」
「いや、これ以上もらうとお前の体調に障る」
「別にいいのに」
気まぐれで助けた幼子は、気付けばもう見た目はオレと同じくらいの歳になった。そしてまた気付いた時には永久に失っているのだろう。それにオレは、耐えられるのだろうか。
「んじゃ代わりにキスしてやるよ」
オレの眼前で金色の瞳が笑う。
この時が永久に続けばいいと、そう願った。
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村に来たのはそれなりに久しぶりになるのだろうか。前はゴールドをここに送った。今日はその逆だ。
――最近風邪がはやっててよ、なかなか抜け出せれねぇんだよ。
この間ゴールドは確かにそう言っていた。そしてグリーンから聞いた流行病の話。おそらく、この村で広まってるのもその流行病だろう。致死率が高く、いくつもの集落を壊滅に追いやったと、聞いている。
村は静かだった。通りに人の姿がほとんど無い。ゴールドに微かに移った自分の魔力の気配を追うと、ようやく彼の住居にたどり着いた。
ノックを3回。出てきたのはやつれたゴールドの母親で、オレの顔を見るなり息を飲んだ。10年以上昔に自分の子供を連れて来た男の事を、まだ覚えていたらしい。
「あな、たは……」
「あいつを迎えに来ました。会わせてもらえませんか」
穏便にすむならそれに越したことはない。そう思っての問い掛けだったが、母親はゆるゆると首を横に振った。強張った体で、絞り出すようにオレに懇願する。
「お願いします、あの子を連れていかないでください……!!」
「あれはもう死にかけている。死神の手に委ねるのも、オレが引き取るのも同じ事でしょう」
「ですが、あの子はまだっ……!!」
縋り付いてくる手を引き離し、建物に侵入する。ゴールドの気配は、上だ。うなだれ、泣き崩れる母親を振り返る。
「……死んでしまっては、オレには何もできない」
だからオレは、死なさぬ為に出来る事があるのならば全力でそれを行うだけだ。
梯子のような階段を昇る。その先にようやく求めていた姿が見えた。荒い息が聞こえる。額に載せられた意味の無くなったタオルを外し、代わりに手を伸ばす。ゆっくりと瞼を上げたゴールドがオレを見た。
「来ると、思ってたぜぇ、シル、バー、ちゃん」
「それはいい勘だな」
「あんま、母さん、いじめんな、よ……。気ぃ、弱いんだ」
「それは無理な相談だな。オレはお前以外の人間なんてどうでもいい事くらい知っているだろう? お前をこの世に生み出してくれた事には、大いに感謝しているが」
つーっと右手で顔の輪郭を撫でてゴールド顎の先まで指を滑らせる。ゴールドが心地良さそうに目を細めた。
牙で、自分の唇を噛み切る。それから舌を唇に這わせて血が流れている事を確認した。これを飲めば、ゴールドの命の危機はひとまず去るだろう。しかし、それはゴールドが人間でなくなることとも、同じだ。本当に、それでいいのか。ゴールドに体を寄せたまま、思考の迷路に迷い込んでいたオレを噎せながらゴールドが笑う。
「シルバー、それ、えっろ……」
けたけたと屈託なく笑うゴールドに感じたのは愛おしさだった。熱に浮かされた金色の瞳が、どんな魔法よりも強烈にオレを狂わせる。幸せかどうかなんてどうでもいい。ただオレは、こいつが欲しい。欲しくて欲しくて堪らない。そして手に入れる為の方法が、ある。何を躊躇う事があるだろうか。だってオレは、こんなにもこいつを、
「ゴールド」
唇を重ねる。傷口を押し付けて、血混じりの唾液を交換しあって、それをゴールドが飲み下すまで。
オレたちはずっと、口付けを交わしていた。
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