小説置き場。
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今度は「雲の向こう側」の前の話。
「うわぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁ!」
ピジョットは飛ぶ。飛び続ける。
叫びまくる少年の願いも虚しく、大空へと舞い上がった。
「頼む!降ろしてぇぇえぇぇえぇ!」
今日も天気は快晴だ。
* * * * *
とある少年が現在進行形で叫んでいる所は、ククニ地方と呼ばれている地方の上空だった。
ククニ地方は北地域と呼ばれる横長い大きな島の一部と、南島と呼ばれる北地域より少し面積の小さい島が南北に並んだ地方で、少年は北地域の東端に位置する町に住んでいた。
―――ナナシタウン。
ほんの数十年前には地図にさえ名前が載らなかった『名無し』の町。それがいつしか地名となり、今ではポケモンジムの誘致さえも行われるちょっとした著名な町になっている。
この町では慣習として他の町と同じ様に、十二歳になった子供達は約一年間ポケモントレーナーになって広く世界を知るということが行われている。殆どの子供達はその旅立ちを楽しみにしていて、十二歳になったその日にナナシを旅立って行くのだ。その旅立ちを最高の誕生日プレゼントとして。
ところが、どんな物事にも例外と言うものがある。冒頭の少年はまさしく『それ』だった。
ポケモンが嫌いなわけでもなく、トレーナーになりたくないわけでもない。ただ町の外に出ることを嫌ったその少年の名は、カイトと言った。
* * * * * *
風が音を立ててカイトの周りを駆け抜ける。凄いスピードで雲が後ろへと流されていく。
先ほどとは打って変わって大人しくなったカイトは、空気の抵抗をなるべく減らす為に乗っているピジョットにピッタリと身を寄せていた。
頬にぶつかる風が冷たい。カイトは空を飛ぶことが好きだった。幼い頃からこのピジョットに乗って、大空を駆け回る感触を楽しんでいたのだ。
だから現在の状態はカイトにとって不本意で仕方が無かった。指示を全く聞いてくれない。もうナナシなど遥か後方の彼方だ。どうやって家に帰れと言うのだろう。
かといってこの高度から飛び降りるわけにはいかない。初めは焦ったカイトも、首に野宿道具がたんまりと詰まったリュックサックを見つけてからは抵抗を諦めた。無駄だ、間違いなく。
「珍しくコイツが乗せてくれると思ったら、母さんと組んでたなんて…嵌められた」
もとから母さんのポケモンだしな…と小声でぼやきながらも、自分の身をピジョットに預ける。
「なぁお前…何処に行くの?」
ピジョットは機嫌よく鳴くだけで、カイトの問いに答えはしない。
カイトはがっくりと肩を落として言った。
「いいよ、もう…お前の好きなところに連れて行って」
そんなのは今更だ、と言わんばかりにピジョットは飛び続ける。
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