小説置き場。
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多分、前しおこんぶに上げていた文の中では一番の長文。
これ書いてたときは凄く楽しかった覚えがある。
これ書いてたときは凄く楽しかった覚えがある。
「カイトッ!」
突然サンに体を突き飛ばされ、僕は何が何だかよく分からないうちに、強かに何かに背をぶつけた。
痛い、と思う間も無く首筋に当てられた冷たくて硬質な気配を感じ取って、血の気が引いていく。
刃だ。しかもサンに突き飛ばされなかったら確実に僕の喉笛を切り裂いていた位置にある。
でも、誰が?
僕は反射的に瞑った瞼をゆっくりと広げると、僕の首に刃を突きつけている相手を見た。
初めは黄緑色の服を着た人に見えた。
でも違う。こいつは…
「スト、ライク…」
そう、かまきりポケモンのストライクだ。
僕がその種族名を呟くと、そいつは何だか邪悪な笑みを浮かべて、鳴いていた。
下手に刺激したら僕の命が危ないからか、いつもならとっさに獣化して相手を攻撃するサンは動かなかった。
いや、違う。今日は新月だから獣化そのものができないんだ。
ストライクはニヤリ、という擬態語がまさにピッタリな笑い方をして、でも何もしてこない。
しかも顔が僕のほうを向いている。
オスだかメスだかの見分け方はよく分からないが、生憎僕は自分の命を握っているような奴と見詰め合うような趣味はない。
できれば早々におさらばしてもらいたいところだ。
僕としては平和的解決を望むんだけどなぁ。
「なぁ、サン」
ストライクに対する集中は切らさずに、僕は近くにいるであろうサンに呼びかけた。
その瞬間、ストライクの目つきが剣呑なものに変わって、咄嗟に僕は自分のした行為を心底後悔する。
下手に刺激したら僕の命が危ない、ってさっき思ったじゃないか!
冷や汗がどっと吹き出る。怖い。どうしようもなく怖い。
サンはそんな僕の状況を知ってか知らずか、いたって普通に返事を返してきた。
「なんだよ、カイト」
この状態で何か言うのは非常に怖い。
ストライクはさっきとは違ってなんの感情も見せなかった。
透明な瞳がじっと、獲物を狙うような目つきで僕を睨んでいる。
分からなかった。なんで、僕がこんな目にあっているのか。
分かったのは、このままだときっと殺されてしまうということだけ。
状況を変えないと。僕が生きるために、出来る限りのことをしないと。
考えろ。考えろ。
どうすれば。
ど う す れ ば 。
僕が背中をぶつけたのは木だった。
ここは林のなかなので、周囲にも木はいっぱいある。
ストライクは忍者にもたとえられるほど、俊敏なポケモンだ。逃げたってかなうわけがない。
おまけに今僕に突きつけられている刃、正式にはカマと呼ばれているそれは、大木ですら真っ二つにする代物だ。木が障害になるとは思えない。
今更だけど、よくそんなものを突きつけられていて無事だなと思った。
これで『かまいたち』やら『つばさでうつ』とかいった遠距離攻撃を習得されていたら終わりだ。僕の命が。
それに対してこちらの戦力は、サンとこの間アゲハントに進化したルファラと一応僕くらいだ。
何とか隙を突いてルファラが習得している『しびれごな』を吸わせられれば勝機はある、かもしれない。
そこまで考えていたら、遂にストライクも本格的に僕を殺しにかかることにしたのか、僕の首筋のカマをほんの少し、引いた。
とろり、と血が流れるのを感じた。
こうしてこちらを恐怖の淵に追いやり、じわじわと痛めつけるのがこいつの性格だろうか。ヤな性格だ。
もう、今しかない。今、動かないと確実に殺されてしまう。
僕はストライクに気取られないように太股のところに二つ折りになって分かりづらく装着された棍(こん)に手をかけた。
呼吸をストライクと合わせる。
相手のほんの一瞬の隙、それを突かなければ僕に勝ち目はない。
吸って…吐いて…吸って……今だ!
後は何も考えていなかった。
一瞬で棍を抜き、それでストライクを突き飛ばす。
ほんの一刹那、相手がひるんだ隙に僕はルファラをモンスターボールから繰り出して走っていた。
「サン、逃げるよ!」
「ストライク相手にか!?正気かよ!?」
「サンは適当にやられないようにしてればいい!
ルファラ、『しびれごな』の用意をして!僕が合図するから!」
僕とストライクの間にあいた距離は、たったの数メートルくらいだった。
ストライクは『こうそくいどう』であっという間に僕との距離をつめて、斬りかかってくる。
一撃目は見切れた。まだ僕を舐めてかかっているらしい。
棍で斬撃を受け止めて、すぐさまストライクの体を蹴り飛ばす。こうなるのなら靴に金属でも仕込んでおけばよかった。
ストライクもこの程度の攻撃にはびくともせずに、体勢を立て直す。
そして流れるように二撃目の動作にに入った。『れんぞくぎり』だ。
二撃目も何とか棍で受け止めるが、流石に三撃目四撃目をこの棍で受けるのはキツイ。
所詮は護身用だし。下手をしたら折れてしまう。
「けどね…僕だってこんなところでやられるわけにはいかないんだ よ、っと」
二撃目の斬撃を何とか押し返そうと鍔迫り合いに持ち込む。
もちろんポケモン相手に勝とうとは思わない。
早々に棍を二つに折りたたみ、ストライクがバランスを崩したところで足払いをかけて、僕は叫んだ。
「ルファラ、『しびれごな』をストライクに向かって『ふきとばし』て!」
その命令がルファラに届いたのかも確かめないで、僕は口と鼻をふさいで転がってストライクの傍を離れた。
僕が粉を吸ってしまったら本末転倒もいいところだ。
二、三回転してその反動で起き上がり、二匹の様子を確認する。
ストライクはまだ動けるものの、動作が格段と鈍くなっている。うまく痺れてくれたようだ。
ルファラのほうはというと、まだ全然大丈夫だと主張するかのようにひらひらと元気そうに飛んでいた。
よかった。でも、まだ終わりじゃない。
ストライクは起き上がって僕のほうを睨みつけていた。
やっぱり頭に血が昇ってしまっている。まだ、やる気だ。
こうなっては確実に戦闘不能に追いやるしかない。
ルファラが『ねむりごな』を習得してくれれば話は早いのだけど、アゲハントにそれを求めるのは酷というものだと思う。
折った棍を再び一本に戻して、もう一度、呼吸を整える。
もう一撃、ダメ押しとなる攻撃をしようとしたとき、急にサンが僕を呼び止めた。
「カイト、こいつの様子、変じゃないか?」
「変?」
どこがだろう。
僕は殺されかけたという思いで自分があまり冷静になっていないことも分かっていたから、サンの言葉に耳を傾けてみた。
「第一にポケモンが突然人間を襲うってことがありえないだろ?」
まぁ確かに。でもありえないことでもない。
人間、要するにトレーナーに捨てられたポケモンなどは凶暴化する場合も多い。
「んでもって、カイトを殺す気があるのかないのかよくわからん」
「へ?」
十分殺す気あるんじゃないのか、このストライク。
でもよくよく考えれば僕を殺すチャンスってのは他にもたくさんあったと思う。
というか、なんでサンには見向きもしないんだ?
「それって初めのころしばらくは攻撃してこなかったってこと?」
「まぁそんな感じだ。それに…」
「それに?」
サンに相槌を返しつつ、棍を構えなおしてストライクに狙いを定める。
今の僕だって隙だらけだろうに、ストライクは威嚇するだけで攻撃はしてこなかった。
「これは俺の勘なんだが…こいつ、ただの野生ポケモンじゃあない」
「分かってるよそんなこと!」
「あー、そういう意味じゃなくてだな…」
「はっきり言って!」
「こいつ、異質なんだよ。自然に存在するもんじゃあない。
…多分、体のどこかをいじられてる」
サンがそう感じるからには、そうなのだろう。
だけど、ぱっと見た限りそんな様子はないように思えた。
「わかった。とりあえず…捕獲、してみる」
僕は服のポケットからビー玉くらいの大きさのモンスターボールを取り出した。
僕の手の中でモンスターボールは握りこぶし大になって、投げられるときを待っていた。
モンスターボールというものは、まずは極力体力を減らして、氷漬けにするなり何なりして対象の動きを少しでも封じ、それから投げるのがトレーナーの鉄則である。
それに加えて僕は一般よりボールのコントロールが悪いので極力近づく、という項目が追加される。
とりあえず、体力を減らすにしてもボールを投げるにしても、近づかなければ始まらない。
ストライクと僕は向かいあった。
どっちも、動かない。タイミングを計っているんだ。
ストライクが微かに体を痺れさせて動けなくなる一瞬、それが僕の狙うチャンスだ。
しかもそのときにストライクの傍にいないといけない。
ストライクの体が痺れて動けなくなったときに、攻撃を叩き込める一瞬。
…来た!
僕は一直線に走った。ストライクも『こうそくいどう』で僕のほうへやってきた。
そして通り過ぎざまに僕はストライクの腹に棍を叩き込む。
ストライクは『カウンター』で反撃しようとしたけれど、丁度まひの痺れがやってきて、動けない。
僕はそいつに向かってモンスターボールを投げた(自分で言うのもなんだけど『落とした』というほうがしっくりくる投げ方だ)。
カタカタ、カタカタ
ボールが揺れる。
カタカタ、カタカタ
まだ止まらない。
カタカタ、カタ...
揺れが、収まった。
それと同時にモンスターボールから発生していた赤い光も消えて、完全に『捕獲』が成功したことを示した。
あのストライクを、捕まえたのだ。
僕は、勝ったんだ。あいつに。
「捕まっ、た…?」
僕はボールを拾いに行こうと思って、一歩、足を踏み出した。
その刹那、地面がグラッと揺れて、世界がぐるぐる回りだして、急に視界が狭くなっていって、地面が僕に近づいてきて、
遠くのほうで、サンが必死になって僕を呼んでいる声が聞こえた。
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