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小説置き場。
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 一応セトーチ編には入るとは思う。設定としては、カイトが母親に強制的に旅に出されるという感じ。無理やりピジョットに乗せられます。
 ウダウダだけども、ウチの本来の文体はこんなものだと思う。楽しかった。



・雲の向こう側

 ようやくのことでカイトはピジョットの背中に這い上がった。ピジョットはカイトのことなど全く気にも留めずに飛び続けるので、カイトからすれば冷や汗の連続だったことは言うまでも無い。背中に人間が乗っていることなど無関係に、ピジョットは飛び続ける。風をその身全てで受け止めて、流れるように、受け流すように。おかげでカイトは常に強烈な風、というか空気の塊が突進してくるといったほうがいい位の暴風にさらされることになった。それでも慣れてしまうあたりが悲しい。カイトは少し肌寒いな、などと暢気なことを考えていた。
 ピジョットの上昇はどれほど飛んでも終わらなかった。カイトは流石に寒くなってきてやめるように言ったのだが、このピジョットはカイトの母親のポケモンだ。主人以外の人間の言うことなど全く聞かなかった。ピジョットは上機嫌に鳴いて、高度を上げ続ける。やがて雲をも突き抜けて、ようやく上昇は止まった。
 カイトはピジョットの鬣を手でゆっくりと撫でて、ほっと一息ついた。一時はどうなるかとも思ったのだ。雲の上となると恐ろしいほど高いところなのだろうが、少し下の方にびっしりと雲が敷き詰められていたのであまり高いという実感はなかった。ピジョットの影がはっきりと眼下の純白の雲に映る。その陰影は絶えず波打っていて、それだけがカイトに空を飛んでいるのだということを実感させた。視界を遮るものは何も無く、雲一つとして浮かんでいない空に、太陽だけがカイトの背後で笑っていた。太陽はどこまでも大きい。この視界に映る物全てを照らすことができるのだから。
 ピジョットが何事かと鳴いた。それに釣られてカイトは前方を見た。永遠に続くかと思われた真っ白な雲が、そこで途切れている。ピジョットの影を映し出すスクリーンは、すでに無くなっていた。
 視界が急に開ける。ピジョットが高らかに鳴いた。カイトも思わず声を上げた。雲の代わりに足元に広がったのは、初めて見る景色だった。初めて見る、世界の姿だった。広い。広い。美しさよりも感動よりも、何よりもまず広さにカイトは圧倒された。ただそれだけで、若干色褪せた土が、森が、花が、全てがカイトを新しい世界へといざなった。閉鎖的な村で一生を終えようとしていた少年の、頑なに閉ざした瞼を強引に開け放った、それくらいの衝撃をカイトに与えたのだった。
「…凄い」
 確認するかのように言ったカイトにピジョットが賛同した。だから鳥ポケモンは空を飛ぶことが好きなのかもしれない。この広い世界を自らの目に納めることが出来るから、だから空を飛ぶのだ。そして翼の無いポケモンも、人間も空に憧れる。まるでこの景色の素晴らしさを、本能的に知っているかのように。
 ピジョットが一声鳴いて、徐々に高度が低下し始めた。途切れていた雲はまた繋がり、カイトの足元を埋め尽くす。その雲の中に突っ込んで、カイトは帰ってきた。雲よりも高いあの場所は、きっと雲よりも低いこの場所とは違う世界だったのだ。不思議とカイトにはそう思えた。

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