小説置き場。
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ジョウトリオとワタイエ
*
何かが来る。そうシルバーに教えたのは彼が憑依させているニューラだった。
足を止めて周囲を見渡す。辺り一面に広がる 緑、緑、緑。だが、その根は荒れ狂い、かつての文明を丸飲みにしていた。瓦礫を覆い隠すかのように蔓延る下草。その瓦礫の供給元を見上げると、剥き出しに なった鉄筋が枝と擦れて微かに鳴いていた。その檻の隙間から見える室内はがらんとしていて、ここでなら今日の夜を過ごしてもいいかと考える。――いや、コ ンクリートの床は確実に体温を奪う。まだ草木に覆われた地面で寝る方がマシだろう。シルバーが漫然と思考を脇道に逸らしていると、違う、とニューラが鳴い た。
「おいシルバー、どうしたんだよ?」
少し先に行っていたゴールドが後ろを振り返る。その声に釣られクリスも足を止めて振り返った。
「何かが来るそうだ」
シルバーがおざなりに答えて少し意識をニューラへと渡す。途端に静まりかえっていた世界が賑やかになった。地面を這い回る虫ポケモンが立てる音、枝の上に 巣を作った鳥ポケモン達の歌声、少し離れたところにある水溜まりの臭い、それから、風を切る、音。ニューラが感じたのはこれだろう。もう少し耳を澄ませる と、聞き覚えのある鳴き声が耳に届いた。そしてそれと対話する、人間の声も。これは、
「……ワタル?」
呟きが、音になるその前に――圧倒的なスピードで森を抜けてきたカイリューが、地面に降り立った。
*
シルバーの方に駆け寄り、距離を詰めたゴールドがキューを構える。憑依させたピチューによって帯電した体はパチパチと音を立てていた。その少し後ろには注 意深く弓を構えたクリス。こちらはネイティを憑依させて戦況把握に努めるつもりらしい。そんな二人の臨戦態勢を歯牙にもかけず、カイリューの背中から一人 の人間が降り立った。
「困ったな。俺は戦う気などないのだが」
「そりゃ、いきなりカイリューが現れたら警戒だってするんじゃないの? またさっきみたいにいきなり破壊光線とかやめてよね」
まだ、カイリューの背には人が乗っていたらしい。ワタルが手を差し伸べて地面に下ろす。汚れのない黄色の髪が風に揺れて踊った。シルバーが以前に会った時にしていた似合わない男装はもう止めにしたようだった。
「誰だ、てめぇら」
唸るように声を上げたゴールドにワタルが首を横に振る。それから、ようやくシルバーを真っ正面から視界に入れた。
「困ったな。そろそろ、お友達に俺達を紹介してくれてもいいだろう? シルバー」
はぁ、と溜め息を付く。相変わらずよく分からない人だ。『見ず知らずの輩に簡単に気を許すな』という至って常識的な判断の元にワタルに警戒を続けている二人に声をかける。
「ゴールド、クリス。胡散臭い奴だが敵じゃあない。……何の用だ、ワタル」
渋々ながらも二人が臨戦態勢は解く。続いてワタルに問いかけたが、ワタルよりも先にイエローが口を開いた。
「あ、酷い、シルバーさん。ボクの事は覚えてないんですか?」
「生憎と、ワタルが連れ回す『女』などオレは知らないな。麦わら帽子はどこに行ったんだ」
「あはは……いい加減、男装は無理かなぁ、って話になったんですよ」
「いい加減も何も初めから無理があっただろう、あれは」
「そんなこと言ったのはシルバーさんだけでしたよ?」
そうすっとぼけるこの人も苦手だ。はぁ、と溜め息をついて会話を諦める。
「それでシルバー……誰なの?」
タイミング良くクリスがシルバーに尋ねる。さて、何と答えたものか。
「オレが村に居た頃からたまに尋ねて来ていた召喚士だ。名前はワタル。そういえば、見かけた事はないのか?」
「うーん……無いわね」
軽くシルバーがワタルに視線を投げかける。
「俺は一応知っているな。何せシルバーの数少ない友人だ。君がクリスで、そっちがゴールドだろう?」
小声でクリスがストーカー? と呟いたのをシルバーは聞き逃していなかった。イエローがぶっ、と噴き出す。
「それで、もう一人の女がイエロー。ワタルの連れだ」
「おーいシルバー、つかぬ事をお聞きしますがワタルってあの『ワタル』? っつーかそうだよななんせカイリュー連れだし……」
ゴールドの言葉にシルバーが首を傾げる。確かにワタルはシルバーが今まで見たことのある数少ない召喚士の中で一番強いが、ひょっとしなくても有名人なのだろうか。
「お前がどの『ワタル』の事を言いたいのか、オレにはわからないな」
「ですよねー」
ゴールドが引き下がる。
「紹介はこんなものでいいか? ワタル」
「ああ」
「それで、何の用だ」
改めてシルバーが問いかける。ワタルが用もなくシルバーを尋ねてくることは今までに一度もなかった。ワタルが、一つ頷く。
「森を旅する君達に、少し話しておきたい事がある」
*
「君達はR団は知っているか?」
丸くなって昼寝を始めたカイリューに凭れながら、ワタルが言う。そろそろお昼時だった事もあって、昼食の準備をしながら彼の話を聞くことになった。周囲か ら拾ってきた木の枝を積み上げながらゴールドが答える。隣ではヒノアラシが今か今かと火を吹くタイミングを待ちわびている。
「ああ、あのとりあえずポケモン嫌いな奴らっすね」
「……誰?」
チコリータと共に集めてきた木の実を選別しながらクリスが呟く。
「ふむ。クリスは知らないか。まぁ、ゴールドが言うような連中だ。旅をしていればいずれ出会うだろう。そこら中ににいるからな」
「ワタル、この携帯食料出しちゃっていいの?」
「ああ、構わん」
ごそごそとイエローがワタルの荷物から取り出した干し肉を見てゴールドが大声を上げる。
「それっ! シルフカンパニー製のやつじゃないッスか!? めちゃくちゃ旨いやつッスよね!?」
急に動いた衝撃でゴールドが積み上げていた枝が崩れ落ちるが、本人は気付いていない。ヒノアラシが何も言わずに枝を集め始めた。
「あ、ゴールドさん知ってるんですか? ボクもこれ大好きなんです」
「……続けていいぞ、ワタル」
何ともいえない顔をしたワタルに、水溜まりから組んできた水を真剣に計量しながらシルバーが声をかける。
「……随分楽しそうだな。で、そう。最近、どうも彼らの活動が活発になっているようだ」
「どうも召喚士を集めてるみたいです。ボクは別件で誘拐されちゃったんですけど……。ところでゴールドさん、火大丈夫ですか?」
「うわっ、枝崩れてる」
ようやく枝に気付いたゴールドが手際よく積み上げ始める。木の実の選別を終えたクリスが水で木の実を洗い出した。
「そういえば、イエローさんは召喚士なんですか?」
「あ、はい。……一応は」
干し肉の用意を終えたイエローがクリスの手伝いに入る。
「ワタル」
会話に入れないワタルにシルバーが発言を促す。漸く枝を積み終えたゴールドがヒノアラシに指示を出した。ヒノアラシが主人すら気にも留めずに張り切って炎 を吹き出す。手を焼かれたゴールドが熱ぃ、と叫ぶとすかさずシルバーが手を凍らせた。その様を呆れたようにワタルが見やる。
「わかっていたのか?」
「いつもの事だ」
シルバーが中断していた調味料のすりきりを再開する。
「ゴールド、火が終わったなら皿の用意をしてくれ」
「おう! でも三つしかねーぞ」
「ボク達の分はありますから、大丈夫です」
「おっけ、んじゃまとめて洗うわ。出せるか?」
「はい、すぐ出します!」
ちょこまかと動き回るイエローが荷物から皿を取り出すのを横目に、シルバーが調味料を入れ終わる。クリスから受け取った木の実を中に放り込み、器を火にかけた。
「話は終わりか? ワタル」
「いや、もう少しある。さっき彼らの相手をしていたんだが、どうやらR団に召喚士が与しだしているようだ」
「召喚士が、ッスか? むしろ俺たちの方が敵のようなものなのに」
ゴールドが目を瞬かせる。ゴールドは何度かR団との交戦経験があるらしい。
「一体どういう事情があるのかは俺にもわからんが、同じ召喚士だからといって油断はしない方がいい。……話はこれで終わりだ」
さて、食べようか。そう言って場を仕切り直したワタルにイエローが冷たく声をかけた。
「結局、全っ然用意手伝わなかったね、ワタル」
「ワタルだからな」
「仕方がないか……」
「…………」
*
何かが来る。そうシルバーに教えたのは彼が憑依させているニューラだった。
足を止めて周囲を見渡す。辺り一面に広がる 緑、緑、緑。だが、その根は荒れ狂い、かつての文明を丸飲みにしていた。瓦礫を覆い隠すかのように蔓延る下草。その瓦礫の供給元を見上げると、剥き出しに なった鉄筋が枝と擦れて微かに鳴いていた。その檻の隙間から見える室内はがらんとしていて、ここでなら今日の夜を過ごしてもいいかと考える。――いや、コ ンクリートの床は確実に体温を奪う。まだ草木に覆われた地面で寝る方がマシだろう。シルバーが漫然と思考を脇道に逸らしていると、違う、とニューラが鳴い た。
「おいシルバー、どうしたんだよ?」
少し先に行っていたゴールドが後ろを振り返る。その声に釣られクリスも足を止めて振り返った。
「何かが来るそうだ」
シルバーがおざなりに答えて少し意識をニューラへと渡す。途端に静まりかえっていた世界が賑やかになった。地面を這い回る虫ポケモンが立てる音、枝の上に 巣を作った鳥ポケモン達の歌声、少し離れたところにある水溜まりの臭い、それから、風を切る、音。ニューラが感じたのはこれだろう。もう少し耳を澄ませる と、聞き覚えのある鳴き声が耳に届いた。そしてそれと対話する、人間の声も。これは、
「……ワタル?」
呟きが、音になるその前に――圧倒的なスピードで森を抜けてきたカイリューが、地面に降り立った。
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シルバーの方に駆け寄り、距離を詰めたゴールドがキューを構える。憑依させたピチューによって帯電した体はパチパチと音を立てていた。その少し後ろには注 意深く弓を構えたクリス。こちらはネイティを憑依させて戦況把握に努めるつもりらしい。そんな二人の臨戦態勢を歯牙にもかけず、カイリューの背中から一人 の人間が降り立った。
「困ったな。俺は戦う気などないのだが」
「そりゃ、いきなりカイリューが現れたら警戒だってするんじゃないの? またさっきみたいにいきなり破壊光線とかやめてよね」
まだ、カイリューの背には人が乗っていたらしい。ワタルが手を差し伸べて地面に下ろす。汚れのない黄色の髪が風に揺れて踊った。シルバーが以前に会った時にしていた似合わない男装はもう止めにしたようだった。
「誰だ、てめぇら」
唸るように声を上げたゴールドにワタルが首を横に振る。それから、ようやくシルバーを真っ正面から視界に入れた。
「困ったな。そろそろ、お友達に俺達を紹介してくれてもいいだろう? シルバー」
はぁ、と溜め息を付く。相変わらずよく分からない人だ。『見ず知らずの輩に簡単に気を許すな』という至って常識的な判断の元にワタルに警戒を続けている二人に声をかける。
「ゴールド、クリス。胡散臭い奴だが敵じゃあない。……何の用だ、ワタル」
渋々ながらも二人が臨戦態勢は解く。続いてワタルに問いかけたが、ワタルよりも先にイエローが口を開いた。
「あ、酷い、シルバーさん。ボクの事は覚えてないんですか?」
「生憎と、ワタルが連れ回す『女』などオレは知らないな。麦わら帽子はどこに行ったんだ」
「あはは……いい加減、男装は無理かなぁ、って話になったんですよ」
「いい加減も何も初めから無理があっただろう、あれは」
「そんなこと言ったのはシルバーさんだけでしたよ?」
そうすっとぼけるこの人も苦手だ。はぁ、と溜め息をついて会話を諦める。
「それでシルバー……誰なの?」
タイミング良くクリスがシルバーに尋ねる。さて、何と答えたものか。
「オレが村に居た頃からたまに尋ねて来ていた召喚士だ。名前はワタル。そういえば、見かけた事はないのか?」
「うーん……無いわね」
軽くシルバーがワタルに視線を投げかける。
「俺は一応知っているな。何せシルバーの数少ない友人だ。君がクリスで、そっちがゴールドだろう?」
小声でクリスがストーカー? と呟いたのをシルバーは聞き逃していなかった。イエローがぶっ、と噴き出す。
「それで、もう一人の女がイエロー。ワタルの連れだ」
「おーいシルバー、つかぬ事をお聞きしますがワタルってあの『ワタル』? っつーかそうだよななんせカイリュー連れだし……」
ゴールドの言葉にシルバーが首を傾げる。確かにワタルはシルバーが今まで見たことのある数少ない召喚士の中で一番強いが、ひょっとしなくても有名人なのだろうか。
「お前がどの『ワタル』の事を言いたいのか、オレにはわからないな」
「ですよねー」
ゴールドが引き下がる。
「紹介はこんなものでいいか? ワタル」
「ああ」
「それで、何の用だ」
改めてシルバーが問いかける。ワタルが用もなくシルバーを尋ねてくることは今までに一度もなかった。ワタルが、一つ頷く。
「森を旅する君達に、少し話しておきたい事がある」
*
「君達はR団は知っているか?」
丸くなって昼寝を始めたカイリューに凭れながら、ワタルが言う。そろそろお昼時だった事もあって、昼食の準備をしながら彼の話を聞くことになった。周囲か ら拾ってきた木の枝を積み上げながらゴールドが答える。隣ではヒノアラシが今か今かと火を吹くタイミングを待ちわびている。
「ああ、あのとりあえずポケモン嫌いな奴らっすね」
「……誰?」
チコリータと共に集めてきた木の実を選別しながらクリスが呟く。
「ふむ。クリスは知らないか。まぁ、ゴールドが言うような連中だ。旅をしていればいずれ出会うだろう。そこら中ににいるからな」
「ワタル、この携帯食料出しちゃっていいの?」
「ああ、構わん」
ごそごそとイエローがワタルの荷物から取り出した干し肉を見てゴールドが大声を上げる。
「それっ! シルフカンパニー製のやつじゃないッスか!? めちゃくちゃ旨いやつッスよね!?」
急に動いた衝撃でゴールドが積み上げていた枝が崩れ落ちるが、本人は気付いていない。ヒノアラシが何も言わずに枝を集め始めた。
「あ、ゴールドさん知ってるんですか? ボクもこれ大好きなんです」
「……続けていいぞ、ワタル」
何ともいえない顔をしたワタルに、水溜まりから組んできた水を真剣に計量しながらシルバーが声をかける。
「……随分楽しそうだな。で、そう。最近、どうも彼らの活動が活発になっているようだ」
「どうも召喚士を集めてるみたいです。ボクは別件で誘拐されちゃったんですけど……。ところでゴールドさん、火大丈夫ですか?」
「うわっ、枝崩れてる」
ようやく枝に気付いたゴールドが手際よく積み上げ始める。木の実の選別を終えたクリスが水で木の実を洗い出した。
「そういえば、イエローさんは召喚士なんですか?」
「あ、はい。……一応は」
干し肉の用意を終えたイエローがクリスの手伝いに入る。
「ワタル」
会話に入れないワタルにシルバーが発言を促す。漸く枝を積み終えたゴールドがヒノアラシに指示を出した。ヒノアラシが主人すら気にも留めずに張り切って炎 を吹き出す。手を焼かれたゴールドが熱ぃ、と叫ぶとすかさずシルバーが手を凍らせた。その様を呆れたようにワタルが見やる。
「わかっていたのか?」
「いつもの事だ」
シルバーが中断していた調味料のすりきりを再開する。
「ゴールド、火が終わったなら皿の用意をしてくれ」
「おう! でも三つしかねーぞ」
「ボク達の分はありますから、大丈夫です」
「おっけ、んじゃまとめて洗うわ。出せるか?」
「はい、すぐ出します!」
ちょこまかと動き回るイエローが荷物から皿を取り出すのを横目に、シルバーが調味料を入れ終わる。クリスから受け取った木の実を中に放り込み、器を火にかけた。
「話は終わりか? ワタル」
「いや、もう少しある。さっき彼らの相手をしていたんだが、どうやらR団に召喚士が与しだしているようだ」
「召喚士が、ッスか? むしろ俺たちの方が敵のようなものなのに」
ゴールドが目を瞬かせる。ゴールドは何度かR団との交戦経験があるらしい。
「一体どういう事情があるのかは俺にもわからんが、同じ召喚士だからといって油断はしない方がいい。……話はこれで終わりだ」
さて、食べようか。そう言って場を仕切り直したワタルにイエローが冷たく声をかけた。
「結局、全っ然用意手伝わなかったね、ワタル」
「ワタルだからな」
「仕方がないか……」
「…………」
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