小説置き場。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ゴシル
「っ、寝坊!?」
「起きたか、ゴールド」
「起きたか、じゃなくて起こしてくれよシルバー!」
「オレは起こした」
「つーか何で俺は起きれなかったのにお前起きれてんだよ」
「お前は昨日加減してたからな。寝坊は習慣みたいなものではないか?」
「……って時間ねーんだった!」
「パンは今焼いてる。顔でも洗ってきたらどうだ」
「ん、助かる。あ、そうだシル」
「何だ? ……っ」
「ん、おはよーさん。お前は遅刻しないようにさっさと学校行けよ」
「……今行くところだ」
「んじゃ、」
「……」
「いってらっしゃい、シルバー」
「っ、行ってくる!」
*
シルゴ
「っ寝坊したぁぁぁああああ!! おいシルバー、何で起こさなかったんだよてめぇ!」
「オレは起こした。お前が起きなかっただけだろう」
「そこをもう少し粘れよ! 誰のせいで起きれないと思ってんだお前」
「オレのせいか?」
「どう考えてもお前だろーが! 昨日何時までやってたと思っ、っつ……」
「辛いのなら無理はしなくていい」
「こんにゃろ、人ごとのように言いやがって……シルバー、飯!」
「今パンを焼いている。顔洗ってこい」
「おうよ。……ってそうだ」
「どうした?」
「おはよ、シルバー」
「ああ。おはよう、ゴールド」
*
「私がシルバーと二人でデートだなんて知ったら、ゴールド拗ねるわね……」
「? おまえ達はそういう関係では無いのだろう?」
「……ゴールドが遊びたいのはあなただからね、シルバー」
「あいつが、俺と? それはないだろう」
「あら、そう? ゴールドなんていつもあなた相手に構ってオーラ全開じゃない」
「そうか?」
(何だかゴールドが可哀相に思えてきたわ……)
「好きでもない人にわざわざ自分から絡みに行ったりしないわよ、ゴールドは」
「す、き……? あいつが、俺を?」
「……ちょーっと待ってよシルバー、じゃああなたゴールドのあの態度、何だと思ってたのよ!」
「俺が気に食わないんだとばかり思っていたが」
「………………。食べよっか」
「? ああ」
*
「ルビー、まだ?」
「まだ。だから動いたら駄目だよ、ラルド」
「もうおれじっとしてるのヤなんだけど」
「こんなに綺麗な髪なのに、ロクに手入れもしないなんてボクの美意識が許さないよ」
「おれの髪なんだからほっといてくれよ!」
「ラルドの髪だから放っておけないんだよ。……よし、出来た。明日は髪の毛を結い上げてみようか。きっとcuteだよ」
「全然嬉しくないし」
「ボクが嬉しいからいいの」
「おれは全然良くなーい!」
「はいはい。おやすみ、ラルド」
「あーもールビーの馬鹿ー」
*
「ルビーってさ、」
「何」
「サファイア絡みになると途端に不器用になるよなぁ」
「……まさか君にそんな事を言われるなんてね」
「どーゆーことだよ」
「……とにかく、口出しはしないで。これはボクの問題だから」
「お前らがギクシャクしてるとおれもやりづらいんだよなぁ。だからさっさと仲直りしてよね、ホントに」
*
電気を消した室内は真っ暗で、互いの顔すら見えはしない。指先を顔の輪郭に沿わせてようやくシルバーがどこにいるのかが分かった。頬の辺りを滑らすとシルバーが軽く身じろぐ。まるで俺の手で感じてしまったようだけど、実際は寝る邪魔くらいにしか思ってないことを俺は知ってる。からかい半分で耳の辺りに口を寄せてみる。気分は恋人達のピロートークだ。
「なんもしねぇからそういう可愛い反応すんなよな」
「いつもそんな事言ってるのか?」
即座に切り返してきたこいつは本当に可愛いげがない。ま、可愛いシルバーなんてお淑やかなクリス並にありえねーけど。
「まぁ、たまには?」
「お前が言うとまるで信憑性が無いな」
「うるせえよ」
図星だから何も言えない。据え膳食わねば男の恥、だろ? 俺はそれに忠実に従ってるだけだ。
「なんなら今から実行してやろうか?」
今度は耳に息を吹き込むつもりで、囁く。シルバー相手なら萎える事はないだろう。このスカした野郎のエロい声を聞いてみたい、という好奇心もある。そう簡単に声を上げる奴だとは思えないがそこはまぁ俺が頑張るとして。
当然ながらシルバーの反応は壮絶に冷たい。
「二度とセックス出来ない体にされたいのか?」
囁かれた声にゾクゾクするね。実際に襲ってきた奴を何人も返り討ちにしているシルバーは本気だ。美人ってつらいな。俺はそんな経験ねーや。
「まぁお前と一発ヤった後ならいいんじゃね?」
「寝言は寝てから言え」
半分は冗談、だけど半分は本気の言葉に気付いたのか、シルバーが俺の顔を払いのける。危うく目に指が入りそうだったんだがもし俺が失明してしまったらどうしてくれるんだこいつは。
「……俺、お前となら恋人になれる気がする」
ふっと、そんな事が頭に浮かんだ。
「断る」
シルバーの即答にああそうだよな、と妙に納得。
そんな関係、勿体ねぇよな。
*
お前となら恋人になれる気がする。そううそぶいたゴールドの声が耳から離れない。恋人。そんな生易しい関係なのだろうか、俺とこいつは。
表情も見えない中、声の調子だけで考えている事が手にとるように分かった。俺とこいつは近すぎる。下手をすると、自分よりも。ひとの為に命を賭けようと思った事は無いが、もしも、こいつを失うのなら。そんな想像が全くできないくらいには互いに依存している。
「こうしてるとさ、俺が『誰』だかよくわかんなくなる」
「そうだな」
完全な闇の中では俺とこいつを区切る視界的な境界は何も無くて。すぐ側から聞こえた声はまるで俺が発したかのようにも聞こえて、俺の声でこいつが話しているように錯覚して。ずっと触れていた体の間の物理的な境界も、互いの体温でぐずぐずに融けきってしまったようで。錯覚だと気付いているその幻覚にわざと酔いしれる。俺とこいつの間に境界なんて物はない。だとしたら、俺がこいつに向ける執着も、こいつが俺に与える愛情も、全部全部、
「自己愛のようなものか」
思考からはみ出た俺の声に、くつくつとゴールドが笑う。
「違いねぇな」
*
やるよ、と目の前に差し出されたのは可愛らしく包装された、今日の日付を考えると、バレンタインチョコレート。もちろんこのハートがふんだんに使われた可愛らしい包装は今それを俺に突き付けている奴の趣味では無いだろう。つまり、
「誰からもらったんだ」
「え、知らねーよ」
名前なんてもう忘れたって、とゴールドはけらけら笑う。
「俺甘いのダメなんだからそのくらいリサーチしとけよなぁー。ま、既製品じゃないと俺食べないけど」
つーわけでお前が食えよ、甘いの好きだろ? とゴールドがもう一度俺に箱を突き付ける。
「いらん」
毎年お馴染みになった会話をお決まりの言葉で終わらせる。ゴールドが受け取る手作りお菓子はとんでもない物が多いのは経験的に知ってる。
「あっそ。じゃー捨てるかぁ。ところでお前クリスから貰った?」
「いや、まだだな」
時間を確認すると18時。この時間なら家に持ってくるだろう。
「今年は何だろうなー」
「ブラウニーではないか? この間型を借りに来たぞ」
「お、あいつのは美味いんだよな」
そうこうして家にやって来たクリスは「お返し楽しみにしてるから!」と言い残して俺達に切り分けたブラウニーを渡すとさっさと帰っていった。ゴールドが早速封を開けて頬張っている。
手帳を取り出してクリスの名前を書き付けているとゴールドが一言。
「お前って妙なところで几帳面だよな。つーか名前の横の値段は何だよ」
「ホワイトデーには三倍返しが基本だろう?」
冗談混じりに言われる言葉だが、姉さんはきっちり金額の面で三倍以上で返さないと、本当に怒る。
「ほんっとよく躾けられてるよな、お前」
しみじみと言ったゴールドが妙に頭に来たので奴の手に残っていたブラウニーを奪い取ってやった。慣れてはいないだろうが、几帳面に計量して手順通りに作ったであろう美味しさだった。
*
携帯をポケットから出しながら操作。顔の高さまで持ち上げた液晶に目的の名前が表示されてるのを一応確認して、電話をかける。
3回鳴ったコール音が途切れた瞬間にさっさと用件を言った。
「シルバー、プリン食いてぇ。作って」
(……いくら何でも唐突すぎるだろ)
俺の「もしもし」すら聞かずにこれだ。俺じゃないやつが出た場合どうするのだろうか――いや、そんな事をするのはこいつだけか。
「少し待ってろ」
冷蔵庫には何があっただろうか。卵は残っていたはずだ。あと必要なのは、
*
~ネタおさらい~
素直になれなくてシルバーにちょっかいかけてたらイジメに発展して猛烈に後悔しているゴールド
×
イジメの発端がゴールドだったもんだからどうしてもゴールドを信じきれないシルバー
暗い。
*
「シルバー、ごめん」
「……はぁ……?」
「本当に、ごめんっ……! 俺、こんなつもりじゃなかったんだ!」
「………………」
「俺、どうしてもお前に謝りたくて……」
「……何の事だ?」
「え?」
「俺はお前に謝られるような事をされた覚えはない。さっさと靴を返して帰ったらどうだ」
「あ、シル、」
反射的に渡した泥まみれの上靴を袋に入れて、俺の方を見向きもせずにシルバーは下足室を出て行った。独りで。
「あ、はは……」
――俺はお前に謝られるような事をされた覚えはない。
それは許しではなくて、拒絶だ。
「謝る事すら、許してくれねーんだな……」
謝っただけで許されるような事じゃあないと思っていた。けれど、頭のどこかで、謝ったら許されるような気がしてやいなかったか。謝ったら、この言葉では言い尽くせない程の後悔の気持ちをあいつは認めてくれると、思ってやいなかったか。
何と言う、都合のいい考えだろう。あいつは、俺の言葉などこれっぽっちも信じなかった。それだけの事を、俺はしてしまった。
「……ごめん。ごめん、シルバー……っ!」
だけど。図々しいけれど。俺はあいつに、俺の言葉を、気持ちを信じてもらいたい。
「俺はお前が、すき、なんだよ……!」
この逆境の中ひとりで闘い抜こうとするその毅さに俺はまた、惹かれてる。その隣に立ちたい。そして俺は隣に立つに相応しいのだと認めてほしい。そう心から、願う。
*
嘘でもいい。嘘をついてくれる間だけでもその嘘を信じる事が出来るから。だからお願い、気付かないで。その瞬間に、嘘が本当に嘘になってしまうから。
お前がオレを好きだという、そんな嘘が。
「好きなんだ、ゴールド……っ」
太陽みたいに笑うお前に、どうしようもなくオレは惹かれている。
*
好きだと思ってるのに相手の気持ちは完全否定するすれ違いゴシル。*の前後でちょっと時間飛んでます。
PR
この記事にコメントする
カテゴリー
プロフィール
HN:
天樹 紫苑
性別:
非公開
カウンター
解析