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ほんとにごちゃごちゃ。
「あまり他人には言っていないが…俺はラズリルが故郷だとは思っていない」
独り言にしては大きすぎる声でシアンは言った。周りには本人とテッドしかいない。なんで俺に言うんだ、とテッドは思ったが口には出さなかった。
「俺の帰る場所はいつだってここ…群島の海、ただそれだけ」
シアンは振り返った。海を移し込んだような鮮やかな青緑の瞳がテッドをひたと見据える。テッドにはシアンの眼差しを怖いと感じる時があった。何の感情も映さないその瞳に自分の迷いがはっきりと映り込む、その瞬間だ。
「テッドは帰る場所があるのか?」
あると思っているのか、ないと思っているのかが全く分からない問い方だった。
帰る場所、と聞いてテッドが真っ先に思い出すのは滅ぼされた自分の故郷だ。そしてそこ以外は思い浮かばない。
なんとなく声を出すのが億劫になって、テッドは首を横に振った。
カランカランという棍が落ちる音と、鈍い打撃音。それに、どさっという人が倒れる音。
「レン!」
背後でそれらが聞こえて、テッドは相対していた盗賊の眼球に至近距離で弓矢をくれてやってから振り返った。背後から野太い絶叫が聞こえる。
見れば、別の盗賊が倒れ伏している少年に正にとどめをさそうとしているところだった。
「てめぇ…!!」
すかさず矢を放った。だが。
間に合わない!
明らかに相手の剣戟の方が速い。
ふと頭をよぎる己の呪い。
また、なのか?
また俺は、同じ過ちを繰り返してしまうのか?
思考が止まる。全身が冷たくなる。
「レン!」
一体いつになったらこの森から出られるのだろう。
シアンは周囲にそびえ立つ木々を睨みつけた。そもそもの原因はこの森に張ってある結界のせいだ。しかも普通のよりもかなり精巧ときている。一般人なら無意識のうちに結界を避けて歩くのだが、生憎ながらシアンは一般というものを逸脱し過ぎている。要するに結界を完全に無視してしまったのだ。
ここは夢の中なのだろうか。何となくふわふわとした気分だった。
赤黒い闇が果てしなく続いている。足元にも何もなかったが、落ちそうだといった不安は感じない。
「寒い…」
寒さのあまりに目が覚めてしまった。腕を摩りながら空を見上げると、枯木の枝の間からどんよりとした雲が空いっぱいに広がっているのが見えた。昼寝を始める前はそれなりに晴れていたのに。
南国の群島育ちのシアンにとってこの地域の寒さは厳しすぎた。なにせ群島は冬でも半袖が着れるようなところなのだ。暑いのは平気でも寒いのは苦手…というか不慣れだった。こんなに寒いのは生まれて初めてだとシアンは思っていた。
もぞもぞと動いて身に纏っていた外套を首まで被り、身を縮めて暖をとる。そのままじっとしていたシアンは自分の口から生まれた煙を眺めていた。寒いところでは呼気が白い煙のように見えるということをシアンは数日前に初めて知った。そのことを知った同行者に散々笑われたが、やはりまだ驚きは消えない。
流石に退却命令―それも護衛対象を見捨てて、だ―には納得いかないのかスノウに食ってかかっている。それはいい。だが。
「我々だけで逃げると言うのですか!」
だからなんでそのタイミングで俺に振る?
艦長ことスノウが使い物にならないから副艦長である俺に振ったんだろうけど…俺の立場分かってるのかこの騎士?まぁ、確かに護衛の任務である限り見捨てるのは限りなくまずい。海賊と言っても二隻だけ、こちらは一隻だけだが別に対等に渡り合えるだろう。
ちらっとスノウを見る。気が動転しているようだ。コイツに任せて自殺幇助をするわけにはいかない。スノウがいなければご飯が食べられないのだ。迷いはなかった。
「戦うぞ!」
「「はっ!」」
「総員、迎撃体制を取れ!」
騎士達が俄かに動きだす。それを見たスノウが「艦長は僕だ!」と騒ぎ出すが正直言って構っている場合じゃない。大体お前腕が痛くて指示が出せないんじゃないのか。
「スノウ、腕が痛いならとりあえず邪魔にならないところで安静にしておいてくれ」
「シアン…何をする気だ?」
暗に『邪魔だ』と言っていることには気付かないらしい。スノウのこういうところが好きだ、扱いやすい。
「副艦長業」
「艦長、海賊船の紋章砲の属性は炎と風です!」
「わかった。炎属性の人間は砲手に就け!