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小説置き場。
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アクゼリュス崩落直後に皆を改心させよう!の巻



 もう、見ていられなくて。
 これ以上自分で自分を傷つけないでほしい。己が何をしたのか、この子はちゃんと理解している。
「ルーク」
 名を呼ぶと、ルークは肩を震わせた。それから、それをごまかすように強気に顔を上げる。
「なんだよ。お前まで俺が悪いって言うのか?」
 声に震えは感じられない。むしろふてぶてしさすら感じる。そんなルークを見て、後ろの皆が文句を連ねるのも、まぁ仕方がないのだろう。これが、彼の処世術だったのだ。それほどまでに彼の世界は狭かった。それを知ってはいても――理解できる人間は少ない。それこそ、当事者でもない限り。
「うん。でも、それはルークだけの責任じゃあない。ヴァン謡将のやろうとしていることに気づけなかった、止められなかった僕ら皆の責任でもあると、僕は思う」
 だから、一人で傷つかないで。僕も、同じ咎を背負うから。
「おれ、は……悪く、ない……」
 弱弱しく紡がれたのは、自分を守るための最後の砦。誰かが自分を傷つけようとするのなら、自分が頑なになるしかない。そうやって、ルークはずっと自分を守ってきたのだ。たった一人で、誰の手にすがることも無く、こんな子供が! 我慢できなくなって、ハイトはルークに飛びついた。
「辛かったね。怖かったね。悲しかったね。もう、泣いたっていいんだよ。僕が絶対に、ルークを傷つけさせないから。今まで何もできなくて、ごめんね……!」
 ルークを抱きしめる腕にも力がこもる。押し寄せるのは後悔ばかりだ。彼がレプリカで、何かの『代用品』として作られた可能性を一番にわかっていたはずなのに、僕は一体何をしてきたんだろうか。
「なんで、お前が泣いてんだよ……なん、でっ……」
 無意識のうちにこみ上げてきた涙に、ルークは声を上げて泣いた。こんなことをするのはいつ以来だろうと、頭のどこかで考えながら。


  * * * * *


「ルークは、レプリカなんだよ」
 ハイトとルークが話しているのを眺めながら、レックはポツリと呟いた。静まり返った空気の中でそれは大きく響く。案の定というか、すぐに返答したのはジェイドだった。
「その根拠は?」
「厳密に言えば構成音素を調べない限りわかんないよ。でも、俺は造られたばっかりのルークを見たことがある」
「……どういうことだ?」
「俺もレプリカだということ。おそらくはルークを造るために試験的に造られた、な」
 レックと、ハイトとルーク以外が息を飲んだ。
 自分がレプリカであると言う事は怖い。自分がレプリカであるという事実はどうでもいいのだが、それによって周囲からの視線が変わるのが、怖い。それに今は、ハイトだっていない。
「なるほど。経過観察として残されていた施設で、レプリカであるルークを見たことがあると?」
 ジェイドの極力感情を殺した声が、怖い。
「そういうこと」
「でも、でもだからってあいつのやったことが許されるわけじゃあないじゃない!」
 アニスのこの糾弾が、いつ自分に向けられるのかと思うと、怖い。
「うん、だからちょっと落ち着いて欲しい。というか、皆混乱してると思うんだ。ちょっと信じられないことばかりおきたから」
 一つ息を吸って、皆の方を見る。怖いけど、ハイトがルークの相手をするのならこれは俺の役目だ。
「皆が怒ってるのは、ルークがアクゼリュスを落としたからじゃあない。そう、思っていいんだよな?」
 これで否と返事が返ってきたら自分は泣くしかない。碌な教育も与えられず、碌な愛情も与えられず育ったような子供が、たった一人の信頼できる人間の言うことを信じることが本当に責められるべきことなら、自分に言えることは何も無い。世界はなんと残酷なんだと、嘆くだけだ。
「そりゃあそうだ」
「全く、あんな態度をとるなんてルークにも失望しましたわ!」
 何の毒気もなく頷くガイに、ぷりぷりと怒るナタリアにほっとした。何も言わない他の三人については、まぁ、色々と思うことがあるに違いない。ルークとの付き合いも短いんだし。
「それで、あなたは何を言いたいんですか?」
「えと……ルークのあの性格に関しては、ちょっと許してもらいたい。アレはルークが原因じゃあなくて、育った環境が悪かったんだ」
 ちょっと考えをまとめながら一息入れる。
「まず、ルークは実質七歳だ。外見年齢と精神年齢が釣り合っていないということを覚えておいてほしい。凄く、忘れがちなことだから」
 年相応でないことを何度も何度も指摘されたら、誰だって年相応に振舞おうと努力するだろう。そしてルークの場合は、特殊な成長環境のせいでそれが成功しているように周囲に見えてしまった。
「それで、ルークから断片的に聞いた話から考えると、あいつはまともな情操教育を受けていない。多分、怒られたことはあっても叱られたことは無かったんだと思う。使用人が主人に意見できるわけもないし、父親は無関心、母親は過保護だったみたいだし。ガイもそこら辺は手抜いてるよな? ルークの懐き方は自分を叱る人間に対する懐き方じゃあ、ない」
「まぁ、それは……」
 俺はハイトが大好きだけど、自分と対等には接せられない。俺なんかよりずっとハイトは凄い奴で、同列に扱うなんて畏れ多い、という感覚が近いのだろう。
「それで、今度は優秀だった被験者だ。誰もが願っただろうよ、早くこんな幼児じゃなくてあの優秀だったルーク様に戻ってくれって。みんなルークを見てルークを見ない。皆自分を通して自分じゃあない誰かを見てる。みんながそこにいるルークを無視する」
 これは、ハイトによるとどうやら被験者のほうのルークにも当てはまっていたらしい。自分を通して身分しか見ていない、つまりはそういうことだ。
「これでルークの性格が捻じ曲がってるのはルークの責任だ、って言うのはおかしいと思う」
 ティアにも、アニスにも若干同情の色が伺えて俺は息をついた。ジェイドは知らない。ハイトでもないとジェイドの顔色は読めない。
「それでだな、ルークにとって皆は、初めて自分を見て、自分と対等に話してくれる人だったと思うんだ。あいつ、自分から人間関係を作るのも初めてだろうし、色々と失敗もすると思う。
 もう、こんなことになってしまってからじゃあ遅いのかもしれないけど……ルークに、もう一度チャンスを与えてくれませんか。いけないことをしたら何がいけないのかを教えてあげてほしい。いいことをしたら褒めてあげてほしい。あいつは、自分が何も知らないことも知らないから」
 お願いします、と俺は頭を下げた。放っておくなんてできなかった。ルークは、ハイトがいなかったときの自分だ。ハイトも、自分そっくりの俺を見て自分のように思えて放っておけなかったのかな。
「頭なんか下げるな、レック。……俺も、ルークとの接し方をもう一度考えなきゃいけないのかもな。
 俺からも頼む、皆」
 俺の隣に来てガイが頭を下げたのにはびっくりした。思わず目をぱちくりさせる。
「当たり前ですわ! 例えルークが嫌がったとしても、構いたおしてあげますわ!」
「そうね。本当にあなたの言うとおり。私も動揺してたみたいね」
「レックとガイに免じて、アニスちゃんも今回だけはルークを許してあげる!」
「……ありがとう、ガイ、ナタリア、ティア、アニス……」
 皆の優しさに涙が出そうになる。ルーク、大丈夫だよ。みんなこんなにいい人だ。もう、誰彼構わず怯える必要なんて、無い。
「皆さん本当にお人よしですねぇ」
 ふぅ、とため息をついてジェイドが眼鏡を押し上げる。
「まぁ、嫌いではないですけれど」
 小声で続けられた言葉に、ついに俺の涙腺は決壊した。


  *  *  *  *  *


小話1
「それにしても……あなたはルークのことが嫌いだとばかり思っていたのだけれど」
「(ぎくっ!)いや、それは勘違いで……まぁ、ちょっといろいろあって」
「へーぇ、何があったのか、アニスちゃん知りたいなぁ~」
(言えない。ハイトを取られたような気がして拗ねてただけだなんて恥ずかしくて言えない……!)
「大方、保護者を取られた子供らしい嫉妬でしょうか」
「じぇいどぉ!?」
「あー、確かに途中からハイトの奴、ルークにべったりだったもんなぁ」
「そ、そんなの関係ねーよっ! 俺の時はあんなに厳しかったのにルークに対してはすっげー優しくてずりぃなんて、考えてないからなっ!」
「あ、逃げた」
「分かりやすい奴だな」
(レック、かわいい……)

小話2
「イオン」
「はい」
「ありがとうな、一緒にいてくれて」
「そんな、僕は何もしていませんよ」
「違う! 俺、怖かった。俺がレプリカだとみんなに知らせたら、みんなの態度が変わってしまいそうで怖かった……! だけど、イオンがいてくれたから勇気を持てた。だから、ありがとうって言わせてくれ、イオン」
「わかりました。どう致しまして、レック。……僕も、本当のことを話す覚悟を決める必要がありますね」

小話3
「それにしても……なんでレックはそんなにしっかりしてるんだ? ルークの一つ上なんだろ?」
「そりゃあ、俺にはハイトがいたもん。俺が言ったことは、みんなハイトが教えてくれたこと。俺は、そんなに大した人間じゃあない」
「そんじゃあ俺はハイトには完敗だな。俺も精進しないと」
「……ガイ」
「なんだ?」
「後で、ルークをぎゅってしてあげて。それだけで、本当に世界が変わるから」
「ああ、わかった」
「んでそれと」
「まだあるのか?」
「ハイトが本腰入れてルークの『親』をするだろうから……負けるなよ? 元祖保護者」
「そりゃ大変だ」

「俺は、そろそろ親離れを考えるべきかね……」

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