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小説置き場。
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「あなた達の処分命令が下りました」
 そう言った男は実に苦々しい顔をしていた。対照的に告げられた子供達は淡々としている。
「殺すんですか? 僕達を」
「そんなことできるわけがないでしょう」
 男が子供二人を両腕に抱え込む。二人の肩に顔を埋めた。
「ですが、私ではあなた達を逃がすことはできません。だから、逃げてもらいます」
「それって逃がすのと変わらないのでは?」
「全然違いますよ。失敗すれば、あなた達は死にかねない」
 男の子供を抱える腕に力が篭る。
「このような手段しか取ることの出来ない私を許してください」
 その搾り出したような声に、子供二人は顔を見合わせた。
「許してくれ、だって。ハイト」
「そうだね。レックはどう思う?」
「ディーが悲しいのは、やだ」
「僕も同感。だからディスト、そんなに悲壮な声を出さないでくださいよ。よく分かりませんけど上手くやればいいんでしょう?」
「何すんの?」
 顔を埋めたままのディストは黙ったまま。
「ディスト?」
「ディー?」
 ハイトとレックがディストの銀色の髪に視線を落とす。
「あなた達という人は……折角人が真面目に深刻に言っているというのに」
「真面目じゃない深刻ってどんなの?」
「さぁ?」
「こら! 人の話は最後まで聞く!」
「「はーーい」」
「はいは短く!」
「「はーい」」
「……もういいです。いいですか、あなた達は完全同位体です。それは分かっていますね?」
「何回も聞いた」
「同じく」
「完全同位体同士では互いの音素を干渉させて超振動を発生させることができます」
「そうらしいですね」
「難しい話だったらオレまだわかんないぞ」
「やってください」
 未だに顔を上げずにディストは言ってのけた。
「どうやって?」
「……つまり、コツとかも何もわからない状態で超振動を引き起こして僕とレックを分解して、ここじゃないどこかに再構成しろと?」
「物分かりがいいですね、ハイト」
 ディストが顔を上げた。
「再構成に失敗すれば即ち死です。私はあなた達二人のこの場からの消滅を持って処分したと報告します。ですからせいぜい派手にやってくださいね」
「……どうやって?」
「わかりました。レック、基本的な制御は僕がするから。失敗したら一緒に死んでくれる?」
「おう! ハイトが一緒なら怖くないぞ!」
「嬉しいけど断言されてもなぁ……ありがと」
「あぁそれと」
 ディストが二人から手を離して短剣を取り出した。
「気休めですが、これでレックの髪を切ってください。理論的には乖離した第七音素が超振動の助けになるはずです」
「オレの髪切っちゃうのか」
 レックの髪は長いところで腰くらいまである。
「嫌?」
「そうでもない。けど、勿体ないなぁって」
 レックが自分の髪を摘んで弄ぶ。
「そのナイフは差し上げます。護身用にするなり、売り飛ばすなりしてください。それなりの値にはなるはずですから」
 それでは、と言ってディストは踵を返し、だがすぐに振り返った。
「本当に、すみません」
「謝らないでください、ディスト」
「必ず、生きて下さい」
「はい、必ず。今まで長い間お世話になりました」
「こういう時はさようならって言うのか?」
「ううん。またね、だよ」
「そっか。じゃあまたな、ディー」
「僕たちにはまだあなたが必要です。これからもよろしくお願いしますね」
 笑顔の二人に釣られてディストも少しだけ笑みをこぼした。
「本当に、いつまでも手のかかる子供達ですね」
「あなたの子ですから」
 その言葉に一つ頷いて、それでは、と告げてディストは歩き去った。
「行っちゃったな」
「そうだね。……始めようか」

「本当は、ディストはこうなる事を覚悟していたのかもしれないね」
 自分の髪を短剣で切り落としていくレックを見ながらハイトは呟いた。
「そうなのか?」
「あの人は、絶対に君の髪を切らせようとしなかったから」
「オレはそれだけじゃないと思うけど」
 地面に落ちた自分の髪の房を見つめてレックは言った。
「ディーは、この光景を見たくなかったんじゃないかな」
 地面の黒い髪は端の方から次第に色が薄くなっている。二人が眺めている間にもどんどん髪は短くなっていった。
「確かに、あまり気分のいいものじゃあないね」
「こういうの見てるとオレがレプリカってことを実感する」
 最後の一筋が消え入るのまでを二人は見届けた。


 その日。謎の大爆発がルグニカ大陸南部のコーラル城近郊で発生。駆け付けたキムラスカ軍はその破壊痕を当時行方不明だったファブレ公爵家子息ルークによる超振動のものと断定し、周辺を隈なく捜査した。その結果ルークは捜索の手伝いをしていたローレライ教団のヴァン謡将によってコーラル城で発見される。だがルークは重度の記憶障害を発症しており、真相は誰にも知られることはなかった。

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