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小説置き場。
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戦争ものなので気持ち悪い描写あり。
そしてオリキャラ万歳な設定なので嫌いな人は注意。

「灼く」は「やく」と読みます。こういう読み方なかったっけ? 造語?

最後の人はシャル。(書かなきゃわかんねぇ
さりげなく銀髪仕様です。リメDベース。


――行ってくるよ、リヴィ。
 懐かしい、声がした。
――絶対に、この計画を成功させて……。
 誰よりも優しくて、何でも知っていた自慢の兄。
――お前や母さん……いいや、町の皆全員。全員、あの雲の向こうに連れてってやるよ。
 あの時は、ただ大好きな兄と離れ離れになるのが悲しくて、ずっと泣いていたと思う。
――だから笑ってくれよ。な、リヴィ?
 兄を困らせているのはわかっていた。でも涙が止まらなかった。
――仕方のない奴だなぁ。それじゃあお前の笑顔は計画成功のときのお楽しみにしておくよ。
 最後に頭の上に乗せられた兄の手の温かさを、そして最後になった言葉を、決して忘れない。

――リヴィ。母さんを、頼んだよ。


 町が燃えている。火が何もかも呑みこんでいく。
 火は命の象徴だ。火を点ける燃料を手に入れられなくて凍え死ぬ人をリヴィエールはたくさん見てきた。火は生きるために必要な熱と光を与えてくれた。その火が、町を焼く。人を灼く。家を焼き、母を灼いた。命を与えてくれた火に殺された。
 また、爆発の音。
 今度の位置は近かった。熱風がリヴィエールの全身を灼きながら背後に吹き飛ばす。町の中を逃げ惑って疲れ果てたリヴィエールの足は簡単にもつれ、受身を取る間もなく地面に激突する。熱風と共に飛んできた建物の破片から頭を両手で庇うとバランスを崩して後ろに転がった。咄嗟に地面に付いた左手が、何か柔らかいものを潰した。
「ひっ!」
 決して、潰してはいけないものを潰してしまった。そんな気が、した。
 ねちゃり、と粘着質な音を立てながら左手を地面から離して、恐る恐るリヴィエールは背後を振り返った。まず見えたのは苦しそうに歪められた顔。そう判別できたのは左半分が比較的人の顔の形を保ったままであったからで、右半分はどす黒く腫れ上がっていて見るに耐えられなかった。鼻が奇妙な方向に曲がっている。左半分だけの顔に見覚えがあるような気がしたが、考えたくなかったのでそのことは忘れる。次に見えたのは関節が増えて白いものが枝分かれして、かつては腕だったものだった。何がどうなっているのかは理解したくないので更に顔を巡らせる。次の瞬間、目に入ってしまったものへの生理的嫌悪でリヴィエールは胃の中のものを吐き出した。すぐさま目を逸らしたが目蓋の裏にこびりついて離れない。酸化した血液と、火の熱でぐずぐずになった肉が混ざり合った内臓。それを生んだ原因が自分の左手だということを思い出してリヴィエールは更に吐き気に襲われた。胃の中のものを全て出しても、まだ収まらない。無意識のうちに流れ出た涙が、リヴィエールの吐瀉物の上に落ちた。自分が泣いていることを知って、リヴィエールは何もかもわからなくなった。よく分からない叫び声を上げた。ひたすら、泣いた。
「ハァ……ハァ……ハァ…………」
 叫び疲れ、声も嗄れてきた頃にリヴィエールは複数の足音を耳にした。
「どこだ!?」
「こっちだ!!」
「生き残りだ!!」
「殺せ、殺せ!!」
 叫び声を聞きつけてわざわざ殺しにやってきたらしい。段々と足音が大きくなる。ふと気付くと、リヴィエールの周囲はほとんど炎に囲まれていた。
「いたぞ!」
「殺せ!」
 リヴィエールの前に現れたのは四人だった。そいつらが何者なのか、リヴィエールは知っていた。会ったら、どうしても言いたいことがあった。
「天上軍……!!」
 ほんの三ヶ月前、突如として地上に宣戦布告してきた天上の支配者。
 十八年前にこの惑星に巨大彗星が衝突した。その衝撃で舞い上がった粉塵は地上から太陽を隠し、緑に覆われていた陸地は代わりに雪と氷に覆われるようになった。この大災害でかつての文明は崩壊し、人類のほとんどが死に絶えた。生き残った人々は巨大彗星が唯一齎したもの、レンズを用いて肩身を寄せ合って暮らし、ついには粉塵の上、太陽の光の届く位置に新たな大地を作ることを夢想した。レンズテクノロジーは瞬く間に発展し、遂にはそれが実現可能となった。そこで、この計画、「天上都市計画」と実現させるためにあらゆる地域から研究者が集められた。その中に、リヴィエールの兄はいた。
 「天上都市計画」は成功した。一時的に地上から『昼』が失われたものの、外殻大地は緑に覆われた楽園のようになった。そして、人々の中でも限られた富める者達がまず移住した。それから人々は次の移住を待ちわびた。朝の来ない世界で待ちわびた。だが、そんな日は来なかった。代わりにやってきたのは、外殻からの宣戦布告の四文字だけ。
「兄さんは何も悪くなかった! 皆の為に外殻大地を作っただけだった! なのにお前らが、武力制圧なんて始めるjから……!!」
 昔は天上都市計画に携わった兄を褒め称えていた町の人が、宣戦布告の頃から次第に態度を変えていった。天上軍に親を殺された子供がリヴィの母を殴ったこともあった。元が病弱だった母はストレスが原因で衰弱していった。医者も誰も、母を助けてはくれなかった。そして寝たきりになった母は、この襲撃で自分に見捨てられて死んだ。
「俺達は町から迫害された! 母さんは死んだ! 町の皆だって死んだ! 皆、兄さんに外殻に連れて行ってもらうはずだったのに!」
 もう、何を言っているのかもわからなかった。頭の中が真っ白になっていて、気付いたら血走った目の男がリヴィエールに向かって剣を振り上げていた。
 ああ、死ぬなとどこか遠いところで思った。傍から見たら自分は滑稽なほど目を見開いて剣を見上げているのだろう。町の皆は死に、母は殺した。そして自分が死ぬ。当然だ。

 兄さん。どうしてこんなことになったのだろう。
 母さん。見殺しにしてごめんなさい。
 父さん。母さんを守れなくて、ごめん。
 何がいけなかったのだろう。きっと、何も悪くはなかった。それでも、こんな風に終わるのだ。

 数瞬の後、自分が死んでいないことに気がついた。視線を下ろしていくと、男の胸から刃が生えていた。
 ガクッと男の体が揺れ、生えていた刃が抜けた。男が倒れてリヴィエールの視界から消えると、そこには返り血で全身を濡らした少年が立っていた。
「大丈夫ですか?」
 戦場には不釣合いな、繊細な少年だった。血にまみれた白銀の髪が、熱風に煽られて踊る。
 リヴィエールには何が起きたのか、どうして自分が死んでいないのかが理解できなかった。
「もう、大丈夫ですよ」
 赤く染められた少年がふわりと微笑んだ。それで、やっと理解した。
「俺、死ななかったのか」
 言葉にすると、その事実ははすんなりとリヴィエールの中に納まった。そうすると急に、今まで麻痺していた心が解けだした。間近で見すぎた死の気配に震えが止まらなかった。
「そうですよ。さぁ、行きましょう」
 少年が血で汚れた手袋を取って、リヴィエールの手を握った。温かい。久しぶりに感じた命の気配に、知らずのうちにリヴィエールの目からは涙がこぼれた。

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