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小説置き場。
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夢主(男)とパパ。過去編。設定的に決定ではないけど(特に父親とヒューゴの関係が、ねぇ)
実はパパの名前はリリィといいます。


 


「くそ…もはやここまでか」
 人々から見捨てられ、忘れ去られた古の神殿の、その壁に埋め込まれたレンズが淡い光を放ちながらその様子を見守っていた。
 まだ十分に若いと言い切れる男と、その子供と思われる少年が一人。二人はこの神殿に棲み着いていたモンスターと、古代の防衛機構に道を阻まれていた。
「父さん! また増えた!」
 男の後側でモンスターと睨み合いを続けていた子供が悲鳴を上げる。
「どうしよう…ねぇ、僕らここで死んじゃうの? 今まで見てきた人みたいに?」
「心配するな。こういうことは今までにだって何度もあったろうが。大丈夫、絶対切り抜けられる」
 男は子供を落ち着かせるように言いながらも、必死で敵の隙を窺っていた。今まで幾度となく死線を共にくぐり抜けてきた相棒の剣を握る手袋の下が、うっすらと汗ばむ。
「でも今まで遺跡の防衛機構を作動させたことはなかったじゃないか! 今回は絶対の絶対にやばいよ!!」
 我が息子ながらよく見ていると男は思ったが、そんなことはおくびにも見せない。仕方がない。男は覚悟を決めた。
「おいアレク」
「何、父さん」
「お前、『お宝』はちゃんと持ってるな?」
「持ってるよ!」
「ここから入口までの道もわかるな?」
「うん、大丈夫」
「それじゃあ二手に別れるぞ。一先ずこの包囲網を抜けたら、お前は外まで走れ。俺はなんとかここで敵を食い止める」
「でも、そんなことしたら父さんが…」
「お前みたいなお荷物がいなくなったらなんとかなる。外に出たら、真っ直ぐダリルシェイドまで行って、ヒューゴ・ジルクリストの所へ行け。でかい屋敷だからすぐにわかる。俺の名前を出せば悪いようにはされないはずだ。そこで、俺と待ち合わせだ。わかったな?」
「ヒューゴさんって昔、父さんが助けた…?」
「そうだ。んぜ俺の考古学仲間」
「父さんは骨董品オタクでしょ」
「うるせぇやい。取りあえず、作戦はわかったな」
「うん。ダリルシェイドのヒューゴさんの所で待ち合わせだね」
「あと最後に一つ」
「何?」
「もし俺が来なかったら…その時はその『お宝』、お前にやるよ」
「え…?」
 突然言われた、考えないようにしていた「もしも」の話をされて思わず子供は男の方を振り返った。頭から冷水を浴びせられたような感覚。今までのなんとかなりそうだという思いが急に冷めていく。だが、男は子供が深く考え始める前に子供の頭に手を置いて、くしゃりとなでた。
「それじゃアレク、行くぞ!」
 そう言って男は剣を構えたまま走りだす。その時一瞬見えた男の顔は普段と全く変わらぬ様子で、これから相手にする敵に対しての不敵な笑みさえも浮かんでいた。だから子供はさっき感じた不安などわすれて、男について走った。
 敵の包囲網を抜けきって、男は叫んだ。
「アレク、行け!!」
「うん!!」
 身を翻らせた男に振り返りもせずに応え、子供は入口まで疾走した。
 自分の周囲を囲んだ数十という単位でも数えきれないほどのモンスターを切り捨てながら、子供の姿が見えなくなったのを確認して男は思わず呟いた。

「俺の息子を、アレクを頼んだ――七本目のソーディアンよ」


 今になって子供――アレクは思う。
 もしあの時に、逃げる時に父の方を振り返っていれば……父の表情を見て、自分は足を止めたかもしれない。
「まぁ、それがよかったのかどうかは俺にはわからないけどね、リヴィ」
 傍らに置いてあったあの時の『お宝』に向かってアレクはつぶやいた。

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