小説置き場。
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最近になってようやく知ったのだけど。
マスターは、寒がりだ。
おれを研究室に連れていく時はマスターは歩いて学校に行っている。
普段は自転車で行くくらいだから距離は結構あるけれど、マスターと取り留めの無い話をしたり、逆に何も話さないまま何となく一緒に歩いたりするのは楽しい、というか嬉しいから距離は気にならない。歩行動作に関してはかなり厳しく調整されているおかげでほとんど疲労がない、というのもあるだろうけど。
今日はどちらかというと口数が少ない日だった。
マスターがおれの左腕をぎゅうと抱え込んで縮こまって歩いている。装備は上からニット帽、耳当て、マフラー、コート、手袋。これ以上は着込めないほど着込んでいると思うのだけれど、それでも寒いらしい。
おれもそれなりに着込んでいるから、腕を抱えたところであまりかわらないような気がするんだけどなぁ。
「マスター」
「?」
「暖かいんですか? それ」
「……風が来えへん」
なるほど。
*
研究室に着いた。扉を閉めると中は暖房が効いていて天国のようだ。多分。マスターにとっては。
先に来ていた学生の方や研究室に住んでいる子達にに挨拶をしたりしていると、おれの腕から手を離したマスターがおれの正面に回り込む。
何をするのかな、と思っているとマスターはおれの上着をいそいそと脱がし始めたからびっくりした。他の人達もびっくりしてる。マスターはそんなことお構い無しにかじかんだ手でおれの上着のボタンを外し終えると、おれにぎゅううとしがみついた。視線が痛い。超痛い。
「ま、マスター?」
呼び掛けるとマスターがしがみついたままおれの方を見上げる(こうなると必然的に上目遣いになるわけで、おれはこの時初めてその威力の高さを思い知った)。そして不満げな顔で一言。
「寒い」
ああ、とその一言だけでマスターの行動の意図がわかった。わざわざボタンを外された上着の中にマスターを閉じ込める。確かに、かなりマスターの体は冷え切っていた。
これでいいですか、と目線で問うとマスターの顔が少しとろんとする。
幸せだなぁ、とおれは思って腕の力を少しだけ強めた。
(……周囲の視線? なんですかそれ)
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