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小説置き場。
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「なぁカイト」
「なんですか?」
「じっとして、目ぇつぶって」
「はい」
 瞼を落としたカイトは、本当に人形のように、綺麗だ。透き通るような肌にスッと走り抜ける鼻梁。髪と同じ青色の睫毛が瞼の縁を彩り、薄い唇がボーカロイドの要である口を飾っている。ボーカロイドは本当に素晴らしい出来だと俺は思うけれど、それでもことKAITOシリーズにおいては制作者が一番力を入れたのは顔の造形なんじゃないかと思ってしまう。そう思うのはただのマスター馬鹿だからなのかはわからないけれど。
 カイトは俺の命令を忠実に守り、本当に微動だにしない。俺はその唇に、そっと自分のものを重ねた。
 そうすれば、分かるんじゃないかと思ったんだ。俺がこいつを好きなのかどうかが。
 カイトがバッと目を開く。驚きで真ん丸くなっている蒼い瞳がやっぱり綺麗だ。そんな事を思いながらカイトの唇をひと舐めして離れる。
「マス、ター?」
 嫌悪感は無い。全然平気だ。寧ろ柔らかくて温かくて気持ち良かった。もう一回、と再び顔を寄せようとしてカイトにがっちりと肩を押さえられて止められた。カイトが切羽詰まった顔で俺の顔を覗き込む。
「貴方の頭の中で何があったんですか」
「キスしたら、わかるんちゃうかと思うて」
 真面目に答えると、カイトがはぁー、と息を吐いた。そこはかとなく諦めが含まれているようなのが気に食わない。
「突然行動に移すのはやめてください。心臓に悪いです、本当に」
「お前心臓あらへんやん」
「驚きすぎて機能停止に陥るんじゃないかと感じたという意味です」
 そう言ってカイトが手を離す。平静を装ってはいるが、瞳の奥から論理回路の混乱っぷりが透けて見える。それでもその混乱をここまで押さえ込めるのは流石というところか。
 何となく、沈黙が落ちる。視線がふいと逸らされた。そりゃあ突然キスすれば気まずくなるのも当然か。 大の男が二人で、向かい合ったまま沈黙している。第三者から見れば気持ち悪いことこの上ない光景だろう。俺はカイトしか見えないから関係ないけど。俺の目の高さにある造られた青色の毛先が目に入って、その柔らかな手触りを思い出した。カイトの髪の毛は本当に手触りがいい。
「それで、」
 と、カイトが俺をもう一度見遣る。すぅ、と息を吸う音が聞こえた。珍しく緊張しているらしい。一拍おいて、カイトが尋ねた。
「結論は出たんですか?」

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