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小説置き場。
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 カイマスのバカップル具合が異常。個人的には砂吐きレベル。

 *

「マスター」
「嫌や。聞きたくない」
「おれはあなたに伝えたいんです」
「俺は知らん。何も知らん。知らんったら知らん!」
「どうしてそう怖がるんですか」
「やっていつかは無くなってしまうやないか。俺は嫌や。そんなん嫌や」
「それは、おれがマスターに伝えても伝えなくても同じ事です。同じなら、おれはあなたに聞いてほしい。知っていてほしいと思います。だから、腹を括ってもらえますか?」
「……主人相手になんつー言い種や」
「マスター」
「……」
「おれは、あなたが好きです」
「……やから、聞きとうないって言ったのに」
「貴方がマスターでなくなって、漸くはっきりとしました。マスターとしてではなく、一人の人間として貴方が好きなんです」
「……そうか」
「はい」
「…………はぁぁぁ。ごめんな、カイト。俺はお前の事どう思ってんのかようわからへん」
「はっきりさせる必要も無いと思いますよ。おれのこと、嫌いですか? マスター」
「それはないわ。嫌いちゃうよ」
「その言葉だけでおれは十分です」
「あんがと、カイト。整理ついたら、ちゃんとお前に言うから」

 *

「カイトっ! おま、キスうますぎやろ!?」
「……誰と比較しての言葉ですか?」
「俺の予想とや経験なくて悪かったなっ!」
「おれも無いですよ……あれをカウントにいれていいのかなぁ?」
「……あれって?」
「昔PVでキスシーンがあったからとりあえずインストールしてもらっただけです。おれはアンドロイドですよ? 主人(ひと)を悦ばせる方法も一通りは知ってます。……と、言えたらいいんですけどね」
「へぇ……」
「ところでマスター」
「なんや?」
「もう一回」
「……ええよ、勝手にしい」

 *

「あほやな、あの店長」
「でもいい人なんですよ」
「そりゃわかる。でも起動50年越えなんて今じゃあプレミアがつくようなもんやで? それをあの金額で他人に渡すとか、信じられへんわ……」
「全部おれが断ってきましたからね、そういう話は。もの珍しさだけでおれを選ぶ自己顕示欲の強い人間のところには行きたくないですから」
「……それを俺の前で言うか?」
「足の中指だけ探し回る人ような人だったら、一つの物を長く使いつづけるタイプの人かなぁとおれが思っただけです」

 *

「あ、いらっしゃいませー」
「邪魔すんで……へぇ、ボカロも働かせてるんか」
「いえいえ。おれは中々売れないから店長に『電気代分働け』って言われて使われてるだけですよ」
「売れへんの? よう仕事できてるやん」
「ありがとうございます。どうやら売り物にみえないみたいですよ。それに起動時間が長いもんで」
「へぇ。どんくらい?」
「ざっと60年くらいですね」
「60!? ようそんなに起動し続けてきたなぁ。というかおじいちゃん?」
「外見に合わせて貰って構いませんよ。人格回路に起動年月は関係ありませんから。っていけない、お兄さん、御所望の品はありますか? 最新のボーカロイドから業務用小型機械まで幅広く置いてますよ」
「今整備用のパーツ探しとんねん。巡音ルカの左足の中指のパーツない? どこ行ってもないねん」
「……お兄さん、随分と探し回ってるんですねぇ。細かいパーツはおれにはわかりません。呼び鈴で店長を呼んで聞いてみてもらえますか?」
「わかった。仕事の邪魔して悪かったな」
「お客さんの応対も仕事のうちですよ」


「ルカの左足の中指のパーツ? んなもんあるわけねぇ……ってちょっと待てよ、旧型ならあったかもしんねぇ」
「あるんか!? すごい店やな」
「そういう細かいニーズに対応しないとやってけないんだよ、こういう仕事は」
「あぁ、わかるわかる。大抵の人はメーカーに流れるもんなぁ……」
「……同業者かよ」
「修理メインやけどな」
「へぇ。……ああ、あった。これだろ、ルカの足の指」
「おお、これやこれ! よかったわ見つかってー。なんぼ?」
「シール貼ってるだろ」
「了解。……それとさぁ、あの店頭のおじいちゃんKAITO卸してくんね?」
「お前今修理屋だって言ってたよな?」
「ええの、あかんの?」
「機体のライセンス切れで売りたくても売れねぇんだよ、あいつは。機体の変更料込みで値段をつけると新品以上の値段になりやがるし、それでも欲しいっつうけったいな収集家のところには行きたがらねぇし」
「やーかーらー、卸してってゆうとるやろ? 業者への販売にはライセンス切れもなんもあらへんやんか」
「あーそうか。……買う?」
「機体は俺が用意するし載せ換えも俺がやるから、あいつ単体の値段は?」
「その指に丸を一つ足したくらいだな」
「安っ。……流石に起動60年じゃあなぁ。そうなるわな」
「金はあんのか? 現金払いを歓迎するが」
「ああ、それは大丈夫や」
「ならいい。おいKAITO! ちょっと奥来い!」

「呼びましたか、店長?」
「こいつがお前を買うと。業者だからライセンス切れも心配無用」
「ええぇっ!? 随分と急ですね、お兄さん……」
「後はお前次第やねんけど。どうする?」
「わざわざおれを選ぶ理由は?」
「家で使えそう、爺さんだが見方を変えればアンティークで貴重……とかか?」
「まぁいつもみたいに一週間くらい行ってみればどうだ?」
「そうですね。よろしくお願いします」

 *

 ただの人間だと思えばどうってことない。どこにでもいる人間の、その中の一人とたまたま同居しているだけだと思い込めば。メモリに刻まれた所有者としての名前も、ただ名前を借りているだけ。そう、思っていたのに。
 一度彼を『マスター』と認識してしまうともう駄目。メモリが混在して今がいつか分からなくなる。マスターという認識には常にあの人の影が付き纏う。
「帯人……? お前、最近元気あらへんけどどうしたんや?」
「別に。なんでもない」

 大丈夫。彼は違う。あの人じゃあない。あの人はもういないんだから。

「僕なんかに構ってる場合なの? カイトに仕事させて、自分は休憩なんて最低だと思うけど」
「それがロイドの仕事やろうに……まぁ、申し訳ないとは思っとるけどさ」

 彼が冷凍庫の扉を開ける。そう、そして取り出すのは何時だってアイスピックだった。そして僕にそれを突き立てる。血液すら流れていない僕を傷つけたって何も面白くないだろうに。意味のない痛みを感じて涙を流す僕を、綺麗だとさえ言って……。

「たーいーと? お前本当に大丈夫か?」

 違う、違う。彼はあの人じゃあない。あの人はもういないんだから。僕を落ち着ける呪文。最後の一言はいつも知らないふりをするけれど。

「もし大丈夫じゃなかったら? そしたらアンタはどうするの? アンタ達が勝手に決めた正常に当て嵌まらなかったら、それだけで僕たちを否定するくせに」

 そう、この人はただの人間。いくらでもいる有象無象の一人。いてもいなくてもかわらない人。

「……ごめん。そういうつもりやなかった」

 眉を寄せて悲しげな顔をしたって、僕は何とも思わない。だってこの人はどこにでもいる人間のうちの一人なんだから。


 酷い事を言う度に悲鳴を上げつづける心の軋みには、気づかなかったことにした。

 *

「なぁカイト」
「なんですか?」
「最近帯人が冷たいねん」
「……そうですか?」
「そうやって! ちょっとは俺のこと、信じてくれるようになったんかなぁって思ったのになぁ……」
「おれは、帯人はマスターのこと信頼してると思いますよ」
「ホンマか?」
「ええ」
「ホンマのホンマに?」
「……確認してくればいいでしょう、今。仕事はおれがやっときますから。ね?」
「おう。……さんきゅ、カイト」
「どういたしまして。それじゃあ、先に『ご褒美』を頂けますか?」
「ああ」


「で?」
 マスターの入れてきた氷水を煽って、おれはマスターの方をみやる。別に返答なんてなくったって、結果は一目瞭然。
「……もっと酷なった」
 床に「orz」の体勢をとりながらマスターが落ち込んでいる。でも、どうしてだろう? 同じ型のロイドだから、というわけでもないけれど、帯人がマスターを所有者(マスター)として認めつつあるのは見ていれば分かる。皮肉屋なのは相変わらずだけど、マスターの話にちゃんと耳を傾けるようになった。
「おれにはよくわかりませんね。なんでわざわざ嫌われようとするんだか」
「……ツン期到来?」
「あまりにも短いデレ期でしたね」
 マスターに睨まれた。でも全然迫力がない。
「俺がおるからあんな顔しよんのか? お前らとおるときは楽しそうやのに、俺と帯人だけになったらえらい悲壮な顔してさ」
「悲壮、ですか。嫌悪ではなくて?」
「はっきり嫌ってくれたら俺こんなに悩まへんわ……」
 あーああ、とマスターがため息。おれとしてもさっさと仲直りでも決裂でもいいからなんとかしてほしい。最近のマスターは帯人帯人ばっかり。

 *

「……お前らってさぁ、仲いいんか悪いんかようわからへんわ」
「おれと帯人ですか?」
「仲良いの? 僕ら」
「悪くはないと思うけど、良いとも思えないよねぇ?」
「根本的にはそっくりだもんね、僕ら。亜種とはいえアカイトと違って僕は後天型だし」
「今度アーくん騙してみる? 人格入れ替わったーとか言って、おれが帯人のふりして帯人がおれのふりすんの」
「いいねそれ。楽しそう」
「……アカが俺に『カイトとキスしろ』とか言ったらすぐバレるんちゃうか? あいつそういう知恵はまわるし」
「うっ……マスターがいないところでやります」
「いいじゃん僕が役得で」
「帯人がよくてもおれが嫌なの!」
「言われなくてもそんなのわかってるよ」

「……相性はええんか?」
「さぁ?」
「げっ! アカ、お前いつからおったんや……?」
「最初から。ったく、オレが外回りしてる間にお前らは何してんだよ?」
「お疲れさん、アカ。今のは休憩やで? いつもはもうちょっと真面目にやっとるで?」
「嘘くせえ」
「ひっどいなぁ……」

 *

 だけど何よりも絶望したことは。
 『死なないでほしい』と願ったのは三原則を破る恐怖から発せられた願いであって、決して僕自信は死なないでほしいとは思っていなかったということだ。そしてあの人はそこまで見抜いていた。

 *

 壊してしまえば。この人がいなくなれば。僕はあの人のことを忘れられる……?
「帯人。ダメだよ」
 でもきっとできない。この小姑みたいな正規品がいる限り。主人に似て優しすぎるこいつは、僕が衝動のままに行動しても後悔するだけだからと絶対に止めに入る。半分以上は自分の都合があるのも知っているけれど。
「……わかってる」
 でも。それじゃあ。この不安はどうすればいい? あの人はもういないと思うと、僕があの人を殺したという事を思い出す。そのことを忘れようとするとまだあの人が生きているような気がする。

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