忍者ブログ
小説置き場。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


「いー! いー! なー! いー! いー! なー!」
「カイト、やかましいわ」
「アーくんだけずるいですよ! 音声出力端子に音楽解析用演算素子! ずるいです!」
「マジでうるせぇぞこいつ……」
「色々と図太いお前と違うて、アカは繊細やからな。歌の表現にも繊細さが必要やろ」
「おれだってセンサイですよ!」
「「どこが(やねん・だよ)」」
「うっ……酷いです二人とも」
「まさかお前がそこまで大騒ぎするとは思わへんかったわ。歌うの好きなん?」
「勿論ですっ!」
「じゃあBGMで『解雇解雇にしてあげる』でも歌っとき」
「うわー、ひでーなその選曲」
「ま、マスターのドあほっ!」
「おー、アカ聞いたか? あいつ今ちゃんと『アホ』言うたな? お前もこの家にいる以上、絶対に『馬鹿』は使用禁止や。わかったな?」
「……お前もアホだってことはよーくわかった」
「そうそう、そんな感じに使うんや」

 *

「お、おいお前っ!」
「やっぱり同期させるとバレちゃうよねぇ」
「あ、や、悪ぃ。覗こうと思ったつもりはなかったんだが……」
「いいよいいよ、プログラムに入り込むのは慣れないと大変だよね。すぐに余計な情報を拾っちゃってさ」
「お、おう……じゃなくて! お前無登録なのかよっ!?」
「マスターに消されたの」
「じゃああいつマスターじゃねぇじゃん!」
「登録なんか無くてもおれのマスターはマスターなの」
「ヤバいんじゃなかったのか?」
「おれは善良なKAITOだもーん。それにごまかす為のプログラムはちゃんと入ってるし。専門のアンドロイド相手でもおれは電脳戦で他人に負けるつもりはないよ。というか、だからアーくんの点検がおれの仕事なの。PCじゃあアーくんがごまかしに走っても判断つかないでしょ? その点おれならダミーやプロテクトの破壊はお手の物だからね」
「とりあえず、お前にゃあ逆らわない方がいいわけだ」
「接続されたら嘘はつけないと思った方がいいかもね。おれはつけるけど」
「なんだかな……」
「あ、そうそう。おれがマスターの仕事のサポート専門だから、アーくんには家事プログラムを徹底的に仕込むってマスター言ってたよ。料理洗濯掃除何でもござれ! 羨ましいなぁ。おれなんてセンサーの絶対量が足りないから上手く力加減ができなくて、しょっちゅう卵を握り潰しちゃうんだよね。だから改造は……メモリ増設はマスターの趣味として、センサーも増やしてもらえるんじゃない? 後は凄い勢いで配線変えられるからしばらくは慣れないかもね。それで生じた空きスペースに付けるギミックは……いいなあアーくんは自由度があって。おれは全部他の機械との接続端子に回されたからなぁ」
「……おいカイト、オレ達の本職は何だ?」
「ん? 歌を歌うことだよ?」
(……なんでこんなにも嘘くせぇんだ?)

 *

「わっけわかんねぇ、お前ら」
「確かにマスターは変な人だよね」
「お前だっておかしい」
「おかしい? どこが?」
「あんなに機械扱いされて、なんで平然としてられるんだよ!」
「アーくんも変な事言うね。おれたちは機械だよ?」
「そうだけどそうじゃなくてっ!」
「冗談冗談。おれもアーくんが言いたい事はわかるよ。マスターと出会ったばっかりのころはやっぱり戸惑ったし」
「アンドロイドには心が搭載されている」
「正確には人間の心と同等の思考プログラムが、だね」
「だからっ、なんでそういう事を平然と言うんだよっ!」
「だっておれは機械だもの。そもそも機械の素体に人間の心を搭載させることがナンセンスだってマスターは言ってた。機械には機械に相応しい心があるだろう、って。おれも上手くは言えないけど、それは悪い意味じゃあなくて……おれは人間にはできない機械的な情報処理ができて、簡単に体のパーツを取り替えられて、電源が切れたら動けなくなる、だけど心がある、そういう存在なのかなって思う。それでマスターの変なところは、おれたちがそういった存在であるということを知った上で全部受け入れられるところなんだよ」
「そうかよ」
「うん」
「……全っ然わかんねぇ。何なんだお前ら」

 *

「ところで、不幸自慢をして君は楽しいの?」

 *

「んじゃ点検してからさっさと登録まで済ませるか。素体は俺がやるから、カイトはソフトのコピー取って解析したって」
「コピーって……冗談じゃない!」
「堪忍してーな。素体の点検にはお前の意識が必要やねんからコピーとらな同時進行できひんやろ?」
「でもおれ点検なんてできませんよ」
「お前がするのは解析までや。元は同じKAITOシリーズやねんから、自分と照合して食い違うところを俺にわかるようにリストアップする。このくらいやったらできるやろ? 何をいじるのかは俺が判断する。コピーを取るだけで、お前のメモリには手ぇ出さへんから、な?」
「コピーと言っても実際に作動させるわけじゃあないからおれたちみたいに心は生まれないし。おれはバックアップ用にとってもらってるけど、気持ち悪いことでもなんでもないよ」
「……でも嫌だ」
「んじゃ先にソフトの点検からするか。カイト頼んだでー」
「わかりました。ご飯はどうします?」
「勝手に作って食べとくわ。あーあと電源は適当にかっぱらってええから。先電源関係を診たって、問題ありそうやったら俺呼んで」
「わかりました」

 *

「カイト。俺は『説得して連れて来い』言うたよな? なしてそないに険悪なんや?」
「? おれはちゃんと説得しましたよ? 犯罪沙汰を起こして警察のお世話になったら廃棄処分だよね、って言ったらちゃんと着いてきてくれましたし」
「それは説得じゃなくて脅迫ちゃうか? ま、嘘でもあらへんけどな」

 *

「ああ、一つ言い忘れてたけど……マスターに手を出したらただじゃおかないからね?」
「女なのか?」
「ううん。男の人」
「……その心配は無用だろ」
「だってマスター優しいし。君みたいな『世の中を斜に構えて見てます』みたいな構ってちゃんだったらあっさり鞍替えしそうで」
「お前喧嘩売ってるよな?」
「え、何で?」
(こいつムカつく……!)

 *

「本当に赤いんだね。顔はおれと同じなのに、雰囲気が全然違うや」
「……KAITOがオレに何の用だよ」
「マスターがね、君を迎えに行ってこいってさ」
「嫌だね。誰が人間の元になんか行くもんか」
「でも君、誰にも所有されていない状態で警察に見つかったらまずいんじゃないの? 所有されていないAKAITOは即座に廃棄処分にされるって聞いたけど」
「うるっせえな! 何なんだよお前!」
「カイトだよ。さ、行こうアカイト。マスターが君のことを待ってる」
「だから行かねえっての」
「それじゃあ君これからどうするの? 行くところもないんでしょう? おれと一緒にマスターのところへおいでよ。悪いようにはならないから、ね? うんじゃあ行こう。このまま君と話していてもらちがあかないし」
「おいっ! 離せ!」
「おれに暴力行為をはたらいて警察のお世話になったらどうなるか、君は知ってるよね?」
「……最低だなお前」
「うーん、やっぱり言われても嬉しくないなぁ。何でマスターはおれに「最っ低」って言われて喜ぶんだろう……?」
「マジで帰っていいか、おい……」

 *

「カイト」
「何ですか、マスター」
「アカイトを引き取ることになった」
「……随分唐突ですね」
「しゃーないやろ、俺じゃあ手に負えんから引き取ってくれ言われてんから」
「アカイトって確か……KAITOシリーズのバグモデルの一つでしたよね」
「せや。マスター登録が正常に機能しない、というのがバグの内容やな。KAITOシリーズはマスターの指示には絶対服従というのが特徴やけど、AKAITOはそれがきかへんってことやな」
「ってことはおれもどちらかというとAKAITOに近いんじゃないですか?」
「お前は普通のKAITOと比べれば確かに俺の言うこときかん時もあるけど、でもかなり従順な方やと思うで? つーかマスター登録解除したのに人間の言うこときくことの方がありえへん。やっぱりマスター登録を抜きにしても他人には従順な人格プログラムになっとるんやろうな」
「アンドロイドだって機械なんですから、人間の指示に従うのは当然じゃあないんですか?」
「ちゃうな。よう考えてみいや、なんで人間の代わりに仕事をさせる機械にわざわざ人型とらせるんや。人型には不自由が多すぎる」
「それは……」
「アンドロイドの目的は、人間の手で人間を生み出すことや。お前は機械というよりも人造人間に近い。そして人間に近付けるために、機械としての特性も消去されてる。お前の言葉を借りると「他人の指示に従うのが当前」なのは人間らしくないからアンドロイドには搭載されてないってわけやな。でもそれじゃああんまりにも不便なもんやから、より人間らしく人間に奉仕させるためにマスター登録があるってわけや。慕ってる人間に対して従順なのはそんなにおかしな話でもないやろ? ちなみにKAITOシリーズはそのマスター登録がかなり強烈にはたらくんやな」
「うーんと、おれがちょっとおかしいということはよくわかりました」
「ちょっとじゃなくてだいぶやねんけどなぁ。まあええわ」
「マスター。おれは、人間なんですか?」
「いんや。お前は人造人間で、アンドロイドや。機械や。どんなに似とっても人間とは違う」
「……そうですよね」
「でも俺は、その違いってのは俺と他の人間が絶対に同じではない事と同じくらいの違いやと思ってる。ちょっと違うだけや」
「……はい」
「話が逸れたな。AKAITOや」
「えーっと……どういう経緯でマスターがそのアカイトを引き取ることになったんですか?」
「AKAITOがマスター登録が機能しないバグが発生してる、ってことは説明したな? と、いうことはや。AKAITOはマスター登録が作用しない、最も人間に近いアンドロイドってわけや。これがアンドロイド研究者にとってはかなり魅力的でな。全てのアンドロイドにはマスター登録を施すことがメーカーには義務付けられとるんやけど、メーカーはバグが発生したKAITOに普通とは違う素体を与えて裏でこっそり高値で売買しとるんや」
「研究対象として、ですか」
「他にも『従順でない』ところに魅力を感じる変態的な趣味の持ち主が結構欲しがるな。屈服させるのが楽しいらしい。そういう奴らに買われたAKAITOは更に悲惨やで?」
「酷い話ですね」
「で、まぁそんな感じでたらい回しにされてきたっぽいのを俺の友人が興味半分で手に入れたらしいわ。でも手に負えないから引き取ってくれ、と」
「あ、この前電話でやたらと意地悪く交渉していたのはこの話だったんですね!」
「売り付けようとしてきよったからな。つーことでカイト」
「はい、何ですか?」
「迎えに行ってこい」
「おれがですか!?」
「相当な人間嫌いらしいからな。まぁ、なんとか説得して連れて来たって」
「ううぅ、上手くやれるのかなぁ……」

 *

「はぁ……帰るか」
「どこにですか?」
「実家や」
「いつ、ですか?」
「あー、うん、何日やったかなぁ……明後日やな、多分」
「わかりました。いつ頃に帰ってくるんですか?」
「わからん」
「え……」
「そーか、カイト置いてったら結構面倒やねんなぁ……よし、一緒に来い」
「はい?」
「なんや、その驚いた顔は。そうと決まったらさっさと用意するか……」

 *

 僕らには自分と他人という厳然とした違いがあるけど

 僕にとっての白は君には黒色に見えているのかもしれないし
 君の世界は僕の世界の逆さなのかもしれない

 君に見えている景色を見ることはできないけれど
 君と同じ景色は見ることができる

 椅子に縛られたおじさんは縛られて初めて自由を手に入れる

 二本足の生き物なんか人間しかいない

拍手

PR
この記事にコメントする
NAME
TITLE
MAIL
URL
COMMENT
PASS   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
プロフィール
HN:
天樹 紫苑
性別:
非公開
カウンター







忍者ブログ [PR]

Designed by A.com