小説置き場。
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と、そんなことがあったため、俺はアンドロイド関連のジャンク街に来ていた。流石に足の指のパーツとなると中々手に入らない。メーカーから買おうとすると発注しなければならないため時間がかかるし、何より高い。ネットショップで買う事もできるが、俺としてはちゃんと自分の目で確認した物が欲しいところだ。そういう機械オタクの欲求を満たすために、このジャンク街は存在している。
とは言っても「巡音ルカの左足の小指」なんてパーツはそうそうあるわけもなく(足首から下の左足なら見つけたが、小指以外のパーツの処理に困るためひとまず保留だ)。そろそろジャンク街の三分の二は見終わろうかというときにその店はあった。
取り合えず「機械」と名の付く物は何だって扱っているのだろう、店先には全自動掃除機から業務用冷蔵庫、ボーカロイド用の人工毛などと、とにかく雑多に並べられている。もしかしたら足の指だってあるかもしれないと俺は店の扉を押し開けた。来客を告げる鐘がチリンと鳴る。
「いらっしゃいませ!」
珍しく営業意欲のある店だった。奥に座っている店長が視線を一瞬寄越すくらいの店が殆どの中、すぐに溌剌とした声が飛び込んでくる。声の主が棚を整理していた手を止めてにっこりと笑った。自然には有り得ない真っ青な髪。ボーカロイドだ。
「へぇ、ボカロも働かせてるんか」
「いえ。おれは商品ですよ。立ってるだけも暇なんでお店のお手伝いをしてるんです」
「つーことは中古品?」
受け答えがやたらとしっかりしているし、営業用の取り繕った笑顔が妙に人間くさい。
「はい、そうです。……っていけない。お兄さん、何か御所望の品はありますか? ボーカロイドから手動の鉛筆削り機まで、幅広く置いてありますよ」
店員がボーカロイド、のところで自分を指差しながら言う。
「鉛筆削り機って、随分とアナログなもんまで置いてるんやなぁ……。俺、巡音ルカの左足の小指のパーツ探してるねんけど、ありそうか?」
「お兄さん、頑張って探してるんですねぇ……」
店員がしみじみと言う。似たような反応を前の店でもされた。
「ボーカロイドの細かいパーツについてはおれは分からないんで、店長に聞いてみてもらえますか? 奥の机の上の呼び鈴を押したら出てくると思うんで」
指差された方を見ると、確かに机の上にゴングのような呼び鈴が置いてある。入口の鐘といい、アナログな物が多い店だ。
「わかった。邪魔して悪かったな」
「いえいえ。どうせ暇つぶしですから」
にっこりと、やはり営業用スマイルを貼付けてそいつは答えた。四回生になって自分のボカロが欲しいと思っていたところだが、こいつは案外いいかもしれない。ついでにこいつの値段も聞こう、と思いながら俺は呼び鈴を鳴らした。
*
「ルカの左足小指? よく探すなそんなの」
店長は店員よりも酷い反応だった。思いっきり呆れを顔にのせている。
「あるんかないんか、それだけはっきりしてくれへんか?」
「まぁ待てって。今から確認する」
無い、と即答しない店も珍しい。店長であろう男は後ろの格子状に並んだ引き出しを出してはしまってを繰り返して、眉を寄せた。きっ、と俺の方というか俺の後ろを振り返って、怒鳴る。
「カイトっ! お前また引き出し入れ替えただろ!」
発言の内容に俺がぽかーんとしている間に、「あれ、もう気付いたんですか?」「お前これ何回目だと思ってんだ!?」「メモリが正しい限り十一回目ですね」「しれっと答えんなこんのバカイトがっ!」といった応酬が繰り広げられる。悪いが、と言いながら店長が店員から視線を外して俺を見た。
「ちょっと時間かかる。俺は悪くねぇ。絶対にあいつのせいだ」
そう言って男は俺が返事する前に引き出しの方に向き直った。ぶつくさと文句を言いながらも手際よく引き出しを並べ替えていく。横にも縦にも十以上はあるように見えるのだが、引き出しの中身と配置は把握しきっているらしい。
「他にいるものがあるならあっちに言っとけよ」
手を止めずに店長が言う。その背中に俺は問うた。
「それやったら、あのボカロはいくらなん?」
「はぁ!?」
ぎょ、とした顔で店長が振り返る。
「なんや、商品とちゃうんか?」
売り手と商品という関係のようには確かに見えなかったが。店長の視線が少し厳しくなった、ような気がする。
「売り物だ、あいつは。それよりもあの問題児をよく買おうと思ったな」
「人格がしっかりしとっておもろいやん」
「それだけで買おうと思うか?」
「それだけやねんけどなぁ……あと中古やから新品よか安いんやろ?」
新品の従順さが気持ち悪いと思ってた俺は、買うなら初期化していない中古品だなと思っていた。俺からすれば理想の機体なんだが、それだけじゃ悪いか?
「……まぁな。そもそも、なんでボカロが欲しいんだよ?」
「大学の他の奴が連れてるの見たら俺も欲しなってん。けど新品を自分好みに、っつーんは俺の性に合わんし。やから中古探しとってんけど」
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