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※下品なネタもあります
*
静まり返った部屋の中、おれは聴感の精度を上げる。代償として動きが鈍くなるけれど、マスターの隣で寝転がっている今は大した問題でもない。暫く集中すれば、僅かなノイズが沢山混ざった静寂の中から、ボーカロイド特有の稼動音が聞こえてきた。やっぱり。アーくんはまだ起きてる。
すっかり寝入ったマスターの額に軽く口づけて、おれはそっとベッドを抜け出した。
完全にスリープモードに移行している帯人はともかく、マスターを起こすわけにはいかないので慎重にリビングへ続くドアを開ける。それでも鳴ってしまった開閉音に、ドアの向こうのアーくんが薄く目を開いてこちらを見た。
キィィと甲高い音を耳が拾う。人間の可聴域を越えた周波数の音の聞こえ方だ。慌てて可聴域を広げ、ついでに人工声帯も高周波が出るように調整。アーくんはスピーカーから合成音声で喋ってるだろうから、ちょっとずるい。
『……イト、聞こえるか?』
『聞こえるよ』
わざわざ人間の可聴域を外すのは、当然マスターの為だ。ただ部屋の防音効果が超音波にまで及んでいるのかはおれは知らないし、アーくんの横で三角座りをして寝ている帯人は起きかねない。
『で、何してんだお前』
『アーくんこそ、何してるの? 今日は様子がおかしいよ』
夜に、しかもおれとマスターが二人っきりの時にマスターの部屋に入ってくるし、しかも今だって寝ていない。例え機械であってもボーカロイドには睡眠が必要だ。メモリの整理は、外部からの入力信号があると上手くいかない。そしてそのメモリの整理を、おれ達は夢と呼ぶ。
『……邪魔して悪かったな』
『そんなことはどうでもいいの、アーくん。でもアーくんが部屋に入ってくるなんて珍しいよね、何かあったのかな、っていうのはおれもマスターも思った』
『マスターは?』
だからどうしたの、と聞こうとしたところでアーくんに遮られる。脈絡の無い問いでも、アーくんが聞きたいことはすぐにわかった。
『マスターはぐっすり寝てるよ。だから、どうしたの?』
アーくんの前に屈み込む。下からアーくんの伏せられた目を見上げると、紅色の瞳におれが映りこんだ。でもすぐにそれが消える。
*
『……マスターが、死ぬ夢を見た』
『うん』
『起きたときに、どうしても不安になって……でも生きてるマスターを見たら安心した』
『うん』
アーくんがぽつぽつと喋りだす。でも、ここまでじゃあまだ今起きている理由にはならないはずだ。黙って促すと、目をつむっていたアーくんがキッとおれを睨んできた。
『それで終わりだっ! 子供みたいで悪かったな!』
少し大きな声に帯人が寝ながら眉を寄せる。それで頭が冷えたのか、気まずそうにアーくんがおれから視線を外した。
『マスターが死ぬのが怖いのは、当然のことだよ。おれだって怖い』
*
「どうした、アカ? 寝られへんのか? 添い寝ならいつでも歓迎やけど」
「えーっ、ずるいですよ!」
「お前はしょっちゅうベッドの上で寝てるやろうが」
「あ、や、いい。それは」
「そうか? なんか言いたいことあったら俺に言うんやで」
「あぁ……悪ぃ、邪魔した」
(マスターが死ぬ夢を見た、なんてどう言えばいいんだよ)
「……どうしたんや、あいつ」
「いつもと様子が違ってましたね」
「…………」
「……マスター。続き、します?」
「うーん、なんか興が削がれたなぁ。お前は?」
「おれもです」
「んじゃ寝るか」
「そうですね。おやすみなさい、マスター」
*
「マスター。帯人くんも一緒に住む、っていうのは賛成なんですけど……彼に何させるんですか? 正直おれとアーくんで手は足りてるように思えるのですが」
「せやねんなー。うーん、自宅警備員でもやってもらうかなぁ……」
「武器の改造はほどほどにしてくださいよ」
「いやいや、人間に体弄られるのは嫌やろ。やから何かソフトをインストールして、って形になるんやと思うわ」
*
「カイト、お前何やってんだ?」
「あはは……凄く喉が渇いたから水を飲んだんだけど、タンク外しっぱなしだったこと忘れてて、ね」
「それでそのまま床に水がぶちまけられたってことかよ。……アホだな」
「うわーんいじめないでよアーくんのあほー! おれだってちょっとは後悔したんだから!」
「(こいつが年上、ねぇ……)」
*
「暑い……マスター、給水してきます」
「ん。ちょっと待って俺も小便行きたい」
「え、ちょ、マスター! ……いいです、台所に流しますっ!」
「なっ……流石の俺でもキ○タマから出た液体をそのまま流しに流されるのは嫌やで!」
「変な言い方しないでください! ただの冷却水じゃないですか! 大体、そのくらいの常識はありますよ!」
「あー、あのちびタンク取り外すんか」
*
「なぁ、……マスターに先立たれたら、お前はどうする?」
「おれ? おれは……何もしないでゆっくりと朽ちていきたいな。いつまでかかるかわからないけれど。……ああそうか、でも動力の確保ができないね。アーくんは?」
「オレは……わかんねぇ。想像もできねぇんだ。マスターがいなくなったら、オレ、は……」
「マスターも、寿命が近づいてきたらそれなりに考えるでしょ。それよりも、おれは急な事故死とかが心配だな。マスター鈍臭いし」
「……制度的にはどうなるんだ?」
「現行の制度ではおれ達のとれる道は三つ。マスターの後追いをして廃棄してもらうか、初期化してまた他の所有者の元へ行くか、もしくは記憶を残したままマスター登録だけ書き換えるか、だね」
「あのリンは最初のを選んだ、ってわけか……」
「ちなみにおれは最後のやつね」
「……へ!?」
「おれ、こう見えても結構なおじいちゃんロイドなんだよ? マスター三人目だし。まぁ、ボディは数回乗り換えてるけどね。稼動時間が長いおれみたいなのもみんな丁寧に扱ってくれて、ロイド冥利に尽きるってのはこのことだよ、うん」
「そ、そうか……」
「ちなみにマスターの目当てはおれの使い込まれた論理回路だったみたい。おれみたいな人格が完成されたロイドは人気ないからね、お店の人も扱いに困ってたところにマスターがやって来て、舌先三寸で丸め込んでタダでおれをお持ち帰り、だったなぁ……」
「じゃああいつ今までアンドロイド金払って買ったことないのかよ!」
「マスターならどんな欠陥も自力で直せるからねぇ」
*
「最期にあなたのような人に出会えて、よかったです」
*
「わたしを機能停止状態にしてください」
「ホンマに、ええんやな?」
「はい。最期までご迷惑をおかけします」
「それはええんやけど……その後、お前のボディはどうする? 希望はあるか?」
「特には、ありません」
「ふむ……んじゃ、ものは相談やねんけどな、今俺ボディを無くした子を預かってんねや。そいつに譲ったってええかな?」
「初めからそれを考えていたんではないですか?」
「まぁ否定はせん。でもお前さんの意思を踏みにじってまでとはおもっとらんし、ええやん」
「……一度、会わせてもらえますか?」
「構わんよー。ただな、ボディ無くしてるから今俺のパソコンの中に住んでんねや。お前と接続すると同化が怖いから、文字情報の入力でしか意思疎通できひんねんけどそれでもええか?」
「はい。お願いします」
「おっけ。相手は鏡音シリーズのリン、要するにお前と型は同じや。もっともレンとの同時発売モデルやから、そういう意味ではお前とは違うんかな。まぁ漏れなくレンが着いてくんでーってことだけは理解してな」
*
「ごっつ酷い怪我やんか。大丈夫か、お前」
「……っ! マスター、ちょっと待て!」
「ん? アカ、なんや?」
「オレの、知り合いだ」
「せやったら尚更ほっとかれへんやん」
「だからっ、」
「アーくんがやんちゃしてた頃の知り合いだから人間嫌い、とか?」
「そうなん?」
「ちがっ……ああっ、もうそれでいい! んで帯人ッ! お前は笑い堪えてるんじゃねぇ!」
「あっはははは! 突然姿を消したと思ったら、随分変わったんだね、アカイト」
「うるせぇっ! とっとと出すもん出しやがれ!」
「うわーすっごく悪役じみてるその台詞」
「アカ、カツアゲはあかんよ」
「外野は黙ってろっ!」
「出すものって、何のことかな?」
「アイスピックに決まってんだろーが」
「どうして出さないといけないの?」
「オレの阿呆マスターがどうせお前を家まで強制連行しそうだからだ。凶器持った奴を迂闊に近づけられるかっ」
「へぇ……。人間が、僕に何の用?」
「用があるんはお前の体や。そないにボロボロなん見てほっとけるわけないやろ?」
「そこは是非放っといてほしいね。人間の助けなんて借りてたまるもんか」
「帯人。お前らでどうこうできるレベルの損傷じゃないだろ、それ。マスターに診てもらった方がいい」
「マスター、ねぇ……あのアカイトが、随分とほだされたみたいだね。あれほど人間が憎いと言っていた君はどこに行ったの? それとも都合の悪い記憶は全て忘れた? 僕たちをモノとしてしか見なかった所有者のことなんか。君に乱暴だってはたらいたのにそれも都合よく消去してもらったのかい? 優しい優しいゴシュジンサマに」
「てめぇっ!」
「……アカ」
「マスター。……悪い。気ぃ悪くさせた」
「何言うてんねや。全部そいつの妄想やろ?」
「……こいつを、助けてやってくれないか。このまま放っておいたら、電源が切れて止まっちまう。頼むっ、なぁ!」
「だから俺は別に気ぃ悪くなんかしてへんって。カイト、運んだげてくれるか?」
「はい、マスター」
「マス、ター……」
「ようセーブモードに落としたな。偉いで、アカ。……偉いついでに、カイト手伝ったってくれるか?」
「……ああ」
*
「帯人。どいて」
「やだ」
「なーんかさぁ、俺ってボカロに一回は押し倒されなアカンの?」
「へぇ、カイトだけじゃあなかったんだ」
「一回だけな。首締められかけて危うくぶっ潰れるところやってんで」
「ふーん(……何が?)。で、この状況に対する感想は?」
「今日はえらい構ってちゃんやなぁ、どうしたん?」
「もし今押し倒してるのが僕じゃなくてカイトだったら?」
「……変なこと想像させんといてくれる、帯人」
「ホント、アンタって最悪」
「カイトとお前らで扱いが違うってことは始めに言うたやろ」
「なに、やってるんですか……?」
「カイトー助けてくれぇ帯人がどいてくれへんねん……っ!?」
「帯人! マスターに何するんですかっ!」
「痛っ。何って、キスだけど?」
「こんの……っ」
「何やってんだよお前ら……。帯人、カイトをからかうのもいい加減にしろよ……。とばっちりを食らうのはマスターなんだからな」
「ふんっ。いい気味だね。それじゃあマスター、お邪魔虫は退散しますからどうぞカイトとごゆっくり」
「近所迷惑だからさっさと防音室に引っ込めよ。じゃ」
「お前らなぁ……っ」
「カイト……?」
「何ですか、マスター」
「怒っ、とる……?」
「ええ。……おれ自身、こんなにも自分は狭量だったのかと驚いています」
「ゆーておくが、絶っ対に俺のせいちゃうからな!」
「そうですね。でも折角二人とも気を利かせてくれましたし……イイコト、しません?」
「……っ! 耳元で囁くなっ!」
「マスター耳弱いですもんね……」
「っ! カイトッ!」
「わかりました。ちゃんと部屋に連れて行きますから……マスターの声、いーっぱい聞かせてくださいね?」
*
「触るなっ!」
「マスター!!」
「っ、カイト! あかん、やめ!」
「どうしてですか!」
「アカは錯乱しとるだけや。メモリーの強制再生が行われとるみたいやな」
「電源でも落としましょうか?」
「電源を無理に落とすんは危ないやろ。それよりもお前のその据わった目をなんとかしい。俺は大丈夫やから」
「でもアーくんの手、首に掛かってるじゃないですかっ!」
「改造でモーターの質が下げられとるからこいつめっちゃ非力や。しかもプログラムも書き換えられとるから俺の首を絞めることすらできんよ、こいつは」
「……でも見ていて気持ちいいものじゃあないです」
「そうやな。俺も落ち着かんし」
「ぅ……あ…………ます、たー?」
「アカ。落ち着いたか?」
こくん。
「……ねる」
「ん。おやすみ」
「っ!」
「カイト!? んっ……! ……どうしたんや、急に」
「マスターはおれのものですっ!」
「お前に所有された覚えはないで?」
「いじわる言わないでください」
「ごめんごめん。アカに嫉妬でもしたか?」
「っ、ちょっとはしましたけど」
「ちょっとねぇ……? その割には随分引っ付いてきてへんか?」
「気のせいです」
「アカがおらんかったらよかったのに?」
「……そう、思わなかったって言うと嘘になりますけど」
「俺、正直な子は好きやな」
「マスター……っ」
「ん?」
「マスターが、足りません」
「ええよ、存分に補給し。ただし、やんのは無しや」
「どうしてですか?」
「アカが起きたらトラウマなるやろー、流石に。自己修復履歴を読み込んだならわかるやろ? ケツの穴が切れるのは便秘以外にはどんな理由があると思う? わざわざ非力にダウングレードされてる理由は?」
「……酷い、話ですね」
「せやな。……お前やったらどうや? 所有者にそういうのを強要されたら、どう思う?」
「おれがマスターを慕う感情に、恋愛感情は入ってませんからびっくりするとは思いますけど……でも、マスターに望まれているのなら、多分、嫌だとは思わないんでしょうね」
「うん。大抵のアンドロイドもきっと、そうなんやろうな。でもAKAITOは違う。だからこそ、無理にでも手に入れたがるんやろうなぁ……」
「どうしてですか?」
「どうしてって、そりゃお前ガリガリ君とダッツやったらダッツの方がほしいやろ?」
「おれがガリガリ君でアーくんがダッツってことですかそれ」
「マスター登録をした時の心の手に入れやすさはな」
「おれ達は、本気でマスターのことが好きなんですよ?」
「わかっちゃいるが、それでも人は疑わずにはいられない。お前等が自分を慕うんはマスターやからなのか、それとも自分が自分であるからなのか。マスターじゃなかったら慕われることも無いんやろうなぁなんてアンドロイドのマスターやったら誰もが考える事や」
「おれ達だって、マスターがおれ達を大事にしてくれるのはおれがマスターのアンドロイドだからなんだろうなぁって思うんですよ。他の人のアンドロイドだったら、多分見向きもされないんだろうなぁって」
「……そうか」
「そうですよ」
「……お互い様やな」
「そうですね」
「なぁカイト」
「はい」
「それでも一つだけ知っていてほしいんはな、多分、俺はマスターとしてお前に好かれるんが嫌やったってことや。やからマスター登録も消したんやと思う。あの時の俺が何を考えてたんか、俺にはようわからへん」
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義務で与えられる好意なんていらない。失うのが怖いから。だから失ってしまう前に手放せばいい。拒絶すればいい。
本当に信じられるのは彼女だけ。自分でさえも、信じられない。
いずれ失うのなら、この手で壊せばいい。
だから、彼の手を離したのだ。
*
「アーくんって、ホント器用ですね」
「ちょっとあれは予想外やわ」
「あれって、一人でハモれるようにするのが目的だったんですよね?」
「せや。やから人工声帯以外にスピーカーを足したったんや。本来は自分の声を録音して、再生させながら歌うっつー仕組みやねんけど、興が乗って合成音声も載せたったらあそこまで喋るとはなぁ」
「合成音声って流暢に喋ろうとするとすごく苦労するんですよね?」
「人間っぽくするのが妙に大変でなぁ、あれ。喋ったのを聞いて修正、を繰り返すんが普通やねんけど、人工声帯で発声した方が遥かに楽やからもう廃れとるねんな……で、何したん、あいつ」
「自分の声とかおれとかマスターの話し声を逐一解析してパターン化したみたいです。まぁパターン化というよりも整理しただけといいますか……」
「自分の口の動きとかとの関連もチェックできるから楽ってわけか。今度プログラム見せてもらおかな」
*
食卓の椅子に座って、一人台所で料理をしているアカイトの後ろ姿をボーッと眺める。随分手慣れた様子でゆで卵の殻を向いたアカイトはそれをナイフで刻んでマヨネーズと和えると、今度は薄切りの食パンを取り出してバターを塗っている。そうしてあっという間に一人前のサンドイッチを作り終えると、それをオレに持たせてアカイトは大きなコップにわんさかと氷を詰めて僅かに水を注ぐ。
「水?」
「カイトの冷却水だ」
オレの疑問に一言で答えてアカイトは自分のマスターとカイトが篭っている部屋に向かって行った。
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「マスター、飯」
「ん、あんがと。その辺にでも置いといて」
「ちゃんと食えよ?」
「わかってるって。今ええとこやねん」
「……。カイト、水」
「ありがと、アーくん。マスター、おれ体冷やすんでちょっと抜けますよ」
「はいよ。メンテはしっかりな」
「マスターも無茶しないでくださいよ」
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「調子はどうなんだ?」
「マスターが所有者の方から、おれは製造番号の方から探してるんだけどなかなか見つからないね。もうバラされてるんじゃないかってマスターが。思考プログラムだけでも押さえたいんだけどなぁ」
「GPSは?」
「切れてる。レンくんも作動してないから売る前に切ったんだろうね」
「バラされる、か……」
「もう起動しなくなったアンドロイドの部品を使いまわすのはおれは平気だけど、今回はバラすために機能停止にまで追い込んでるっぽいんだよね……流石に気分が悪いや」
「その違いはどこから?」
「人間で言う所の臓器移植、ってところかな?」
*
「悪い、レン……これが精一杯やった」
この数日間ずっとリンを探していた人間が差し出したのは、片手で簡単に握れてしまいそうな大きさの電子回路のチップだった。それが何を意味しているのかは、流石にアンドロイドであるオレにはわかる。これは、リンの「心」だ。
世界で一番大切な、オレの片割れ。
今は、こんなに小さくなって。手も繋げなくなって。オレが、無力だったから……ッ。
「マスター、ひとまずオレが載せようか?」
「いや、ええよアカ。お前に悪影響が出かねんし。とりあえずパソコンや。……レン」
眉を寄せて、悔しそうに人間がオレを呼ぶ。
「これからどうするかは、リンと相談して決め。パソコン貸したるから意思の疎通はできるはずや。リンの体が欲しかったら、その辺のジャンク屋で買い揃えたる。どうするのかは、お前らで決め」
ぽすん、とオレの頭に手を乗せて、口を開いて息を吸って、そして何も言わずに人間は立ち去っていった。入れ違いに型の古いラップトップを持ってきたカイトにリンを手渡す。
――お前らで決め。
そんなこと、初めて言われた。
カイトがリンをパソコンに組み込んでいる。アカイトが部屋を出ていった。オレはただ呆然と、突っ立ってるだけ。
「レンくん。はい」
リンちゃんだよ、そう言ってカイトはオレの前に数世代前のラップトップを置いた。デスクトップにぽつんと置かれた長方形の枠。解像度の荒い画面にカクカクした文字が浮かんでいる。
『レン、レン? どこにいるの? ねぇ!?』
リンだった。ただの四角い箱の中に、ただの液晶のパネルの向こう側に、リンがいた。視覚情報が歪む。液晶に映った文字が滲む。
「音声認識はできないから、直接キーボードで文字を打ち込んであげて。そうじゃないと、認識できないから」
カイトの声が遠くに聞こえる。それでも聞こえるだけ、なんてオレは幸せなんだろう。リンは、体を奪われたリンは、誰の声も聞こえなくて、誰かの存在すらわからなくて。ずっと、一人だったんだ。なんの信号の入力もなく、ずっと独りぼっちで、いたんだ。
キーボードに指をたたき付ける。
オレだよ、リン。レンだよ。一人にしてごめんな。
言いたい事はいっぱいあった。リンに伝えてやりたいことはいっぱいあった。なのに言葉にしたらありきたりの言葉にしかならなくて、それが酷くもどかしい。
「レンくん。事情説明はおれがデータを送っておくから……。マスターは、何て言ってた?」
「パソコン貸すからこれからのことはリンと相談しろって」
「マスターらしいね。それと、今はリンちゃん文字情報しかわからないから、普通に打つだけじゃあ相手がレンくんだと確信できないと思うんだ。だからリンちゃんが『レンくんだ』って安心できるような事、言ってあげてね。きっとすごく怖かったろうから……」
言われてそうか、と思い至る。でも何て言えばいいんだ?
『本当、に……? なんか素直すぎて変。』
お前なぁ……っ! 人が心配してるって言うのに!
『あたしのこと、心配してくれた? 本当に?』
あたりまえだろっ! と打ち込んでみてちょっと照れ臭くなって慌ててバックスペースを連打する。けどあ、れ……? 消えない?
「ああ、確定させた文字は消せないよ。一度言った事を取り消すことはできないもんね」
床に座ってじっとしていたカイトが口を挟む。そこをリアルにする必要はあるのかよ!?
『あはははっ。レンってば焦りすぎ。』
「うるせっ!」
「口で言ったってリンちゃんには聴こえないよ。……うん、できた。ちょっとパソコン貸してね、レンくん」
左手をマフラーの下に突っ込んでごそごそさせながらカイトがオレの前からリンを奪い取る。カイトが首筋からコードを引っ張り出していて少しぎょっとした。それからコードをパソコンに繋げると凄い速さでキーボードに文字を打ち込んでいく。リンを探していた時から思っていたが、このカイトはアンドロイドのくせにどうも機械に強いらしい。
“レンくんから代わってカイトです。起動してばっかりで状況がわかってないと思うから、軽く事情説明をしたファイルを送るね。スキャンして中身を確認して、それからレンくんとこれからのことを相談してください。それでは。”
オレなんかと比べると本当に一瞬と言えるスピードで長文を打ち込むと、さっさと接続を解除して再びオレの前にリンを置きなおす。
『ありがとうございます、カイトさん。』
オレとはまるで違うリンの態度にちょっとイラっときた。
「いー! いー! なー! いー! いー! なー!」
「カイト、やかましいわ」
「アーくんだけずるいですよ! 音声出力端子に音楽解析用演算素子! ずるいです!」
「マジでうるせぇぞこいつ……」
「色々と図太いお前と違うて、アカは繊細やからな。歌の表現にも繊細さが必要やろ」
「おれだってセンサイですよ!」
「「どこが(やねん・だよ)」」
「うっ……酷いです二人とも」
「まさかお前がそこまで大騒ぎするとは思わへんかったわ。歌うの好きなん?」
「勿論ですっ!」
「じゃあBGMで『解雇解雇にしてあげる』でも歌っとき」
「うわー、ひでーなその選曲」
「ま、マスターのドあほっ!」
「おー、アカ聞いたか? あいつ今ちゃんと『アホ』言うたな? お前もこの家にいる以上、絶対に『馬鹿』は使用禁止や。わかったな?」
「……お前もアホだってことはよーくわかった」
「そうそう、そんな感じに使うんや」
*
「お、おいお前っ!」
「やっぱり同期させるとバレちゃうよねぇ」
「あ、や、悪ぃ。覗こうと思ったつもりはなかったんだが……」
「いいよいいよ、プログラムに入り込むのは慣れないと大変だよね。すぐに余計な情報を拾っちゃってさ」
「お、おう……じゃなくて! お前無登録なのかよっ!?」
「マスターに消されたの」
「じゃああいつマスターじゃねぇじゃん!」
「登録なんか無くてもおれのマスターはマスターなの」
「ヤバいんじゃなかったのか?」
「おれは善良なKAITOだもーん。それにごまかす為のプログラムはちゃんと入ってるし。専門のアンドロイド相手でもおれは電脳戦で他人に負けるつもりはないよ。というか、だからアーくんの点検がおれの仕事なの。PCじゃあアーくんがごまかしに走っても判断つかないでしょ? その点おれならダミーやプロテクトの破壊はお手の物だからね」
「とりあえず、お前にゃあ逆らわない方がいいわけだ」
「接続されたら嘘はつけないと思った方がいいかもね。おれはつけるけど」
「なんだかな……」
「あ、そうそう。おれがマスターの仕事のサポート専門だから、アーくんには家事プログラムを徹底的に仕込むってマスター言ってたよ。料理洗濯掃除何でもござれ! 羨ましいなぁ。おれなんてセンサーの絶対量が足りないから上手く力加減ができなくて、しょっちゅう卵を握り潰しちゃうんだよね。だから改造は……メモリ増設はマスターの趣味として、センサーも増やしてもらえるんじゃない? 後は凄い勢いで配線変えられるからしばらくは慣れないかもね。それで生じた空きスペースに付けるギミックは……いいなあアーくんは自由度があって。おれは全部他の機械との接続端子に回されたからなぁ」
「……おいカイト、オレ達の本職は何だ?」
「ん? 歌を歌うことだよ?」
(……なんでこんなにも嘘くせぇんだ?)
*
「わっけわかんねぇ、お前ら」
「確かにマスターは変な人だよね」
「お前だっておかしい」
「おかしい? どこが?」
「あんなに機械扱いされて、なんで平然としてられるんだよ!」
「アーくんも変な事言うね。おれたちは機械だよ?」
「そうだけどそうじゃなくてっ!」
「冗談冗談。おれもアーくんが言いたい事はわかるよ。マスターと出会ったばっかりのころはやっぱり戸惑ったし」
「アンドロイドには心が搭載されている」
「正確には人間の心と同等の思考プログラムが、だね」
「だからっ、なんでそういう事を平然と言うんだよっ!」
「だっておれは機械だもの。そもそも機械の素体に人間の心を搭載させることがナンセンスだってマスターは言ってた。機械には機械に相応しい心があるだろう、って。おれも上手くは言えないけど、それは悪い意味じゃあなくて……おれは人間にはできない機械的な情報処理ができて、簡単に体のパーツを取り替えられて、電源が切れたら動けなくなる、だけど心がある、そういう存在なのかなって思う。それでマスターの変なところは、おれたちがそういった存在であるということを知った上で全部受け入れられるところなんだよ」
「そうかよ」
「うん」
「……全っ然わかんねぇ。何なんだお前ら」
*
「ところで、不幸自慢をして君は楽しいの?」
*
「んじゃ点検してからさっさと登録まで済ませるか。素体は俺がやるから、カイトはソフトのコピー取って解析したって」
「コピーって……冗談じゃない!」
「堪忍してーな。素体の点検にはお前の意識が必要やねんからコピーとらな同時進行できひんやろ?」
「でもおれ点検なんてできませんよ」
「お前がするのは解析までや。元は同じKAITOシリーズやねんから、自分と照合して食い違うところを俺にわかるようにリストアップする。このくらいやったらできるやろ? 何をいじるのかは俺が判断する。コピーを取るだけで、お前のメモリには手ぇ出さへんから、な?」
「コピーと言っても実際に作動させるわけじゃあないからおれたちみたいに心は生まれないし。おれはバックアップ用にとってもらってるけど、気持ち悪いことでもなんでもないよ」
「……でも嫌だ」
「んじゃ先にソフトの点検からするか。カイト頼んだでー」
「わかりました。ご飯はどうします?」
「勝手に作って食べとくわ。あーあと電源は適当にかっぱらってええから。先電源関係を診たって、問題ありそうやったら俺呼んで」
「わかりました」
*
「カイト。俺は『説得して連れて来い』言うたよな? なしてそないに険悪なんや?」
「? おれはちゃんと説得しましたよ? 犯罪沙汰を起こして警察のお世話になったら廃棄処分だよね、って言ったらちゃんと着いてきてくれましたし」
「それは説得じゃなくて脅迫ちゃうか? ま、嘘でもあらへんけどな」
*
「ああ、一つ言い忘れてたけど……マスターに手を出したらただじゃおかないからね?」
「女なのか?」
「ううん。男の人」
「……その心配は無用だろ」
「だってマスター優しいし。君みたいな『世の中を斜に構えて見てます』みたいな構ってちゃんだったらあっさり鞍替えしそうで」
「お前喧嘩売ってるよな?」
「え、何で?」
(こいつムカつく……!)
*
「本当に赤いんだね。顔はおれと同じなのに、雰囲気が全然違うや」
「……KAITOがオレに何の用だよ」
「マスターがね、君を迎えに行ってこいってさ」
「嫌だね。誰が人間の元になんか行くもんか」
「でも君、誰にも所有されていない状態で警察に見つかったらまずいんじゃないの? 所有されていないAKAITOは即座に廃棄処分にされるって聞いたけど」
「うるっせえな! 何なんだよお前!」
「カイトだよ。さ、行こうアカイト。マスターが君のことを待ってる」
「だから行かねえっての」
「それじゃあ君これからどうするの? 行くところもないんでしょう? おれと一緒にマスターのところへおいでよ。悪いようにはならないから、ね? うんじゃあ行こう。このまま君と話していてもらちがあかないし」
「おいっ! 離せ!」
「おれに暴力行為をはたらいて警察のお世話になったらどうなるか、君は知ってるよね?」
「……最低だなお前」
「うーん、やっぱり言われても嬉しくないなぁ。何でマスターはおれに「最っ低」って言われて喜ぶんだろう……?」
「マジで帰っていいか、おい……」
*
「カイト」
「何ですか、マスター」
「アカイトを引き取ることになった」
「……随分唐突ですね」
「しゃーないやろ、俺じゃあ手に負えんから引き取ってくれ言われてんから」
「アカイトって確か……KAITOシリーズのバグモデルの一つでしたよね」
「せや。マスター登録が正常に機能しない、というのがバグの内容やな。KAITOシリーズはマスターの指示には絶対服従というのが特徴やけど、AKAITOはそれがきかへんってことやな」
「ってことはおれもどちらかというとAKAITOに近いんじゃないですか?」
「お前は普通のKAITOと比べれば確かに俺の言うこときかん時もあるけど、でもかなり従順な方やと思うで? つーかマスター登録解除したのに人間の言うこときくことの方がありえへん。やっぱりマスター登録を抜きにしても他人には従順な人格プログラムになっとるんやろうな」
「アンドロイドだって機械なんですから、人間の指示に従うのは当然じゃあないんですか?」
「ちゃうな。よう考えてみいや、なんで人間の代わりに仕事をさせる機械にわざわざ人型とらせるんや。人型には不自由が多すぎる」
「それは……」
「アンドロイドの目的は、人間の手で人間を生み出すことや。お前は機械というよりも人造人間に近い。そして人間に近付けるために、機械としての特性も消去されてる。お前の言葉を借りると「他人の指示に従うのが当前」なのは人間らしくないからアンドロイドには搭載されてないってわけやな。でもそれじゃああんまりにも不便なもんやから、より人間らしく人間に奉仕させるためにマスター登録があるってわけや。慕ってる人間に対して従順なのはそんなにおかしな話でもないやろ? ちなみにKAITOシリーズはそのマスター登録がかなり強烈にはたらくんやな」
「うーんと、おれがちょっとおかしいということはよくわかりました」
「ちょっとじゃなくてだいぶやねんけどなぁ。まあええわ」
「マスター。おれは、人間なんですか?」
「いんや。お前は人造人間で、アンドロイドや。機械や。どんなに似とっても人間とは違う」
「……そうですよね」
「でも俺は、その違いってのは俺と他の人間が絶対に同じではない事と同じくらいの違いやと思ってる。ちょっと違うだけや」
「……はい」
「話が逸れたな。AKAITOや」
「えーっと……どういう経緯でマスターがそのアカイトを引き取ることになったんですか?」
「AKAITOがマスター登録が機能しないバグが発生してる、ってことは説明したな? と、いうことはや。AKAITOはマスター登録が作用しない、最も人間に近いアンドロイドってわけや。これがアンドロイド研究者にとってはかなり魅力的でな。全てのアンドロイドにはマスター登録を施すことがメーカーには義務付けられとるんやけど、メーカーはバグが発生したKAITOに普通とは違う素体を与えて裏でこっそり高値で売買しとるんや」
「研究対象として、ですか」
「他にも『従順でない』ところに魅力を感じる変態的な趣味の持ち主が結構欲しがるな。屈服させるのが楽しいらしい。そういう奴らに買われたAKAITOは更に悲惨やで?」
「酷い話ですね」
「で、まぁそんな感じでたらい回しにされてきたっぽいのを俺の友人が興味半分で手に入れたらしいわ。でも手に負えないから引き取ってくれ、と」
「あ、この前電話でやたらと意地悪く交渉していたのはこの話だったんですね!」
「売り付けようとしてきよったからな。つーことでカイト」
「はい、何ですか?」
「迎えに行ってこい」
「おれがですか!?」
「相当な人間嫌いらしいからな。まぁ、なんとか説得して連れて来たって」
「ううぅ、上手くやれるのかなぁ……」
*
「はぁ……帰るか」
「どこにですか?」
「実家や」
「いつ、ですか?」
「あー、うん、何日やったかなぁ……明後日やな、多分」
「わかりました。いつ頃に帰ってくるんですか?」
「わからん」
「え……」
「そーか、カイト置いてったら結構面倒やねんなぁ……よし、一緒に来い」
「はい?」
「なんや、その驚いた顔は。そうと決まったらさっさと用意するか……」
*
僕らには自分と他人という厳然とした違いがあるけど
僕にとっての白は君には黒色に見えているのかもしれないし
君の世界は僕の世界の逆さなのかもしれない
君に見えている景色を見ることはできないけれど
君と同じ景色は見ることができる
椅子に縛られたおじさんは縛られて初めて自由を手に入れる
二本足の生き物なんか人間しかいない
泣き声、響く。
*
あぁ、どうして気付いてしまったんだろう。気付きさえしなければ、何の罪悪感もなく知らないフリができたのに。
ゴミ置き場より更に向こう、路地裏で一人女の子が泣いている。私の聴覚は確かにそれを聞き取ってしまった。僅かなしゃくり上げる声と空が号泣する音の二重奏。そこに私の足音も重なって音楽は三重奏に。そっと傘を差し出した。
「どうしたの?」
*
いらなくなったんじゃあない。ただ、私を必要とする人がいなくなってしまっただけ。マスターは死んでしまった。もうわたしに歌を作ってくれないし、頭をぽんぽんと叩くようにして撫でてくれることもない。わたしに優しく笑いかけてくれることもない。だってマスターは死んでしまったのだから。もう二度と動かなくなってしまったのだから。
マスター、マスター、マスター。あなたが大好きです。だからもう、どうすればいいのかわからない。
*
泣きじゃくる彼女から話を聞き出すのは大変だった。どうやら、所有していたマスターが亡くなってしまったらしい。高級品だがそれが故に遺産相続するには面倒なアンドロイドは遺族達から敬遠されて路地裏に捨てられた、というところだろうか。一家に一台アンドロイドは庶民の夢ではあるが、言い換えると一台で十分ということだ。アンドロイドの維持費はロボットのそれの比ではない。
「とりあえず、私の部屋来る?」
放っておけないから、という理由で無計画にも差し出した手を彼女はこくんと頷いて取った。それが大体三十分くらい前のこと。今はお風呂に入ってもらっているところだ。
*
「んで、俺呼んだってわけか。お前さぁ……前々から思っとってんけど、阿呆ちゃう?」
「うるさい。で、どーすればいいのよ」
「それが人にもの頼む態度かぁ? まあえーけどさ。
マスターが死んどる以上、法に障らんのに肝心なんはそのアンドロイドの意思や。風呂から上がったら聞いたってみ?」
*
「それじゃあ、これからよろしくね、ミク」
*
「まーすたー?」
「なんなん、自分」
「はい?」
「せっかく俺がプログラム改造してロボット三原則も完全無視できるようにしたったし、マスター登録無しでも動けるようにしたったのに、なんで自分はそんなんなん? 俺もうお前のマスターちゃうねんで」
「なんでって……なんででしょうね?」
「自分のことやんか。もうちょっと考えてみいや」
「……マスターって、無責任ですよね」
「喧嘩売っとんのか?」
「おれはアンドロイドで、機械なんですよ。人間に使われることが存在意義なんです。おれは生き方なんて知らないのに、突然好き勝手に生きろだなんていわれて、どうすればいいかなんてわかるわけないじゃないですか」
*
「私、どうしてアンドロイドなのかな。どうして人間じゃあなかったのかな」
「ミクは、人間になりたいって思う?」
「うん」
「どうして?」
*
「えっと……何とも、思わないんですか? おれとマスターの関係について」
「ぜんっぜん。カイトくん、あいつの初恋知ってる?」
「? 知りませんけど……?」
「実家にあった家事手伝い用ロボット。ボディは完全に外殻剥き出し、声も無けりゃあ感情も無い」
「え」
「一時期は自作のプロテクト破壊プログラムに真剣に惚れてた」
「…………」
「そんな変態がよ、人型で感情も持ってるアンドロイドを好きになるなんて、まともすぎてどうしたの? って感じ。正直機械だとか男性型だとかかなりどうでもいいわ」
「そ、そうですか……」
*
「やっぱりおれって、マスターからすれば他の機械達と同等なんでしょうか」
「どうしたの、カイトくん」
「だって、おれ一人であやめさんの家に行くっていうのにマスター平然としてるし。そりゃあマスターは機械にしか興味がないのはわかってますけど、でもおれの趣味は普通……のはずです。なのに心配の一つもしないなんて、まるでおればっかりが一方的にすき、みたいで…………って何言わせるんですかあやめさん!!」
「いや、カイトくんが勝手に喋っただけだからね?」
「ああもうっ、何でもないですから今の話は忘れてくださいっ!」
「あのね、カイトくん」
「なんですか?」
「私女の子にしか興味ないの」
「え」
「だからあいつは平然としてるのよ。多分私じゃない人のところに一人で行かせたりはしないと思うわ」
「ほんとですか……?」
「ううん、嘘」
「ええぇっ!? ど、どこからですか?」
「……っていうのも嘘」
「…………あやめさん」
「他人の話を信じるかどうかの判断を他人任せにしてはいけないわ。まぁ、おうちに帰ったらあいつに聞いてごらん」
「マスターもすぐおれをからかうんですよ。みんなひどいです」
「だってカイトくんすごく正直者だもの。捻くれ者の嫉妬みたいなものよ、負けないで」
「あやめさんが言わないでください!」
*
「ま、マスター。おれが上……ですか?」
「初めてで騎乗位はキツイんとちゃう、お互いに」
「きじょーい?」
「……なんでもあらへん。てか俺、何すればええかわからんし。お前は知ってはいるんやろ?」
「い、一応ですけど……。でもマスター、おれには女性を抱くプログラムも男に抱かれるプログラムも入ってますけど、男の人を抱くプログラムは入ってないです」
「ええやん。プログラム通りに抱かれても俺つまらんし」
「いやだからおれだってやり方わかりませんって」
「でも抱かれるプログラムが入っとるっつーことは何されるんかは知っとるんやろ?」
「否定はしませんけど、マスターもそのくらいの知識はありますよね?」
「そりゃあな」
「じゃあマスターが下になる必要ないじゃないですか」
「なんやお前、抱かれたいんか? 変な奴やなぁ」
「マスターに言われたくないです」
「俺は気持ち良けりゃあええし。つかお前は『マスター』を抱くことに抵抗があるだけやろ?」
「……つまりはわざとってことですか」
「お、さっすがは俺のカイト。わかってるやーん」
「そんなことで褒められても嬉しくないです」
「拗ねんなって。ま、今晩は一緒に寝るだけで勘弁したるわ。おいで、カイト」
「……はい、マスター」
「……」
「……」
「えらい大人しなったな、カイト」
「……マスター」
「なんや?」
「おれのこと、嫌いになりましたか……?」
「何言うとんねん。繋がることだけが好きの伝え方やないと俺は思っとるよ。つかどっちかっていうと俺の性欲処理に付き合わせるようなもんやしなぁ……ごめんな、カイト」
「謝らないでくださいよ。ずるいです」
「でも、お前やからこないなこと言うてるねんで」
「……っ、マスター!」
「お、こっち向きよった」
「抱きしめてもいいですか?」
「そーゆーことは確認とらんくてええから。来てーな、カイト」
*
「マスターのばかっ! ちょっとはムードとか気にしてくださいよ」
「なっ……カイト! お前馬鹿言うたな!? ここは阿呆を使うポイントやろうが!」
「こんの……マスターのっ、どアホっ!」
「わっ、ちょぉ待てっ」
「もう黙っててください!」
「……っ! …………!!」
「って、喘ぎ声まで抑えないでくださいよっ!」
「むちゃ、ゆうな……やっ!」
*
「お前、なんで中古屋におったん? 初期化もせんと店頭に並ぶなんて珍しいやないか」
「前のマスターがお亡くなりになったんです。身寄りもいない方で、お葬式もあげられそうになかったんで……おれを売って、その費用に充ててもらおうと思いまして。初期化しちゃうと、お葬式の手配とかができないじゃあないですか」
「なーるほどなぁ……そのマスターはどんな人やったん?」
「歌が、好きな方でした。近所の子供達を集めて音楽教室を開いたりして、おれも一緒に歌って……そんなことをずっとしてました」
「亡くなったんはいつの話や?」
「もうすぐで一年になります……ってマスター」
「んじゃお前つれてご挨拶に向かわんとなぁ」
*
「カイト。お前そのお嬢ちゃんお持ち帰りしてどうすんねん」
「お持ち帰り……?」
「んなボッロいアパートに連れて来られたら嬢ちゃんかてびっくりするやろーが。……ほら、小遣いやるからファミレスでも行ってきい。飯でも奢ったり」
「あ、あのっ……そんな、いいですよ!」
「気にせんくてええって。俺はこいつに小遣いをやってるだけや。それをこいつがどう使うかはこいつの自由。好きなだけアイス買うてもええねんで?」
「うっ……そんなことはしませんよ!」
「一瞬迷った奴がよう言うわ」
「でも……」
「可愛え女の子は、奢られてやるのも仕事のうちや。ちょっとくらいおっさんにもいい顔させてーや、な?」
「……ありがとうございます」
「うん、ええ子や。んじゃカイト、ちゃんと安全な所まで送ってやるんやで」
「わかってますよっ!」
「ほな気ぃつけてなー」
*
「えっ!? マスターってNEETじゃなかったんですか?」
「……その驚きは何や」
「す、すみません……でも、マスターいっつもパソコンでゲームしてません?」
「あれは動作確認や! しょっちゅうやってるゲーム変わってるやろーがっ!」
「……? 動作確認ってあんなに頻繁に必要でしたっけ?」
「……チッ」
「マースーター!」
「金はあるんや」
「仕送りですか?」
「……カイト。お前が俺の事をどう思ってるんかよーわかった。一週間アイス抜きな」
「そんなぁっ! 横暴ですよマスター!」
「やかましいっ! 今更んなこと言うんやない!」
*
「あいつの生活費がどっから沸いてくるのか?」
「……あやめさんは知ってるんですか?」
「まぁ、幼馴染みだしねぇ」
「なんか、ずるいです。あやめさんはおれの知らないマスターをたくさん知ってるんですよね」
「これからあなたしか知らないあいつの事を増やしていけばいいのよ」
*
「ふっと、もどかしく思う時があるんです。マスターが今までに何を見て、聞いて、感じて、考えてきたのか、おれは全然知らない。そう思うだけで、マスターが遠い人のように感じるんです」
「それは俺かて同じや、カイト。せやけどな? だから俺達が一緒におる今って凄いことやと思わへんか?」
*
離れるんじゃなかった
何度後悔したかわからない
初めて歩く町並みの中
気がつけばいつもあなたを探していた
もう一度あなたと出逢うために
巡った世界は美しかった
そんなことに気付いたのも
すべてあなたのお陰なんです
あなたと出逢い愛を知って
あなたを知り生きる意味を
このちっぽけな世界が 回りつづける価値を 知ったんです
夢見てた楽園なんて無かった それでもあなたは待っていた
わたしの姿は変わらないけれど
あなたは少し変わりましたね
あなたは人でないわたしを愛してくれたのだから
あなたが人でなくなったことなんてどうだっていい
だから
『安らかに眠れ』だなんて唄えない 唄いたくない
あなたはここにいるのに
この声が届かないなんて 知りたくない
つらい 寂しい 会いたい
こんな思いは自分だけでいいと
あなたはわたしの手を放した
わたしはあなたを愛しているのに
わたしを愛していたとあなたは言う
あなたをひとりにさせたわたしが
幸せでよかったとあなたは笑う
この命が尽きたのなら 真っ先にあなたの許へ 駆け付けると誓います
その時までどうか少し 待っていてください
*
長い長い夢を見てたんだ
泣きたくなるくらいに優しい夢を
閉じ込められた閉ざされた世界
ルールはただ一つ
『生きて出られるのは一人だけ』
最後に残ったのは
屍を積み上げた男と無力な子供
すごく感情に関して矛盾まみれだけど、ローレライ教団にとってアッシュの存在は神に近いものがあったのではないだろうかとか、その辺のことを考えてみた。
宗教的な意味での預言とは、幸福を迎えて終わる存在しない預言のこと。科学的な預言は本当の預言のこと。この辺に関してはもう少し詰めたい。あとアッシュサイドのキャラをもっと解釈しないと話が書けない。
「馬鹿馬鹿しいと思うよ。それでも――受け入れてしまうのは、僕が導師だからだろうか」
穏やかにイオンは言った。アッシュには理解できない感情だったけれど、それでも理解した。イオンは、宗教者なのだ。ローレライの、神の言葉は絶対なのだ。
「ねぇアッシュ。僕に最後の預言を与えてくれない?」
「お前なら自分で詠めばいいだろう」
「それじゃあつまらない。僕は君の預言が聞きたいんだ」
ローレライと音素振動数が同じ、という事実はローレライ教の信者にとっては特別な意味を持つ。神と同じ存在。目に見え、触れ、言葉を交わすことができる神。信者に公開すれば導師以上の存在となってしまうのは避けられないため、知っているのは教団のごくごく上層部だけだ。それでも、彼らはアッシュをローレライとみなす。ヴァンが突然連れてきたただの子供があっさりと神託の盾騎士団に所属し(初めは騎士団という身の危険がある場所に所属させることも拒んだが)、それなりの地位につけたのもそのためだった。更には目の前のイオンの死後に一斉に行われる人事で詠師にまで引き上げられることが決まっている。イオンが望んだことだった。
――詠んでやろう。死にゆくイオンが望むのなら。
「アリエッタは泣くだろう」
唐突に始まった言葉にイオンが吹き出した。
「そこから始まるの?」
「うるせぇ。思いついた順に言ってんだ」
「ごめんごめん。続きは?」
「カンタビレは泣かないだろうな。それでも、悲しむと思う。お前の死にもだが、殆どの人間がお前の死を知らないという事実に」
「なるほど。彼らしいね」
「モースとかの教団上層部は、預言の通りに死ぬお前は幸福だと、そう感じるのだろう。そして、お前の死を隠す工作を必死になって行うはずだ」
「この情勢で教団内で混乱を起こすわけにはいかないからね。それに、望まぬ者を導師につけるわけにもいかない」
何か言いたげな視線を送るイオンをあえてアッシュは無視した。
「ディストはレプリカの準備が忙しくなっているだろう。ヴァンは悲しみはしないんだろうな」
「ねぇ、そろそろ君の話を聞きたいな」
「……俺は、」
受け入れられるのだろうか。彼の死を。今こうして話している彼が、あと数日もすれば命を落とすという事実に耐えられるのだろうか。こうやって話をしているのも、所詮は現実逃避をしているだけではないのだろうか。
アッシュには理解できなかった。預言だからと全てを受け入れ、早々に抵抗を諦めることが。教団に来てからなんとなく受け入れてきた教義に初めて疑問を感じた。だって、預言の成就を願うことはイオンの死を願う事と同義なのだ。
「俺は、お前のように簡単には受け入れられないだろう。預言とは異なった未来を望むのだろう」
生きて、ほしい。それが、アッシュの願いだ。
「やっぱり君は、ローレライ教団員には相応しくないね」
でも、とイオンは続ける。
「君にそう思ってもらえて、凄く嬉しいよ。アッシュ」
「……導師としてその発言はどうなんだ」
「神を信じない事によって生まれる君の苦しみを、僕は嬉しいと言ってるんだよ? 導師としてこれ以上相応しい台詞はないと思うよ?」
「随分と性悪な導師だな」
「ねぇアッシュ」
「何だ」
「人はいずれ死ぬ。それは避けられないことで、生き物である以上、僕らが死を恐れることもまた、避けられない」
「そう、だな」
「でもその死が、未来の繁栄に繋がっているとしたら? その死によって、自分の子孫達や友達の子孫達が幸せになるとしたら? ――僕はその死を、怖いとは思わない。それが、ローレライ教の救いなんだよ。ローレライの存在が、僕達を死の恐怖から救ってくれる。死の恐怖を、未来への希望に変えてくれる」
「また説教か」
「導師直々なんだからありがたく聞くように。――アッシュ」
穏やかだった声が、急速に意思の籠った、硬い声になる。
「僕は今になってようやく気付いたんだ。本当は、預言なんて関係ない」
「いいのか? そんなことを言って」
「ああ。本当に大切なのは、僕が生きた事が誰かの未来の幸せに繋がると、僕自身が確信すること。ローレライ教はその手助けをしたにすぎない。預言の成就を願う事が何故救いに繋がるのかと言うとね、それは最終的な預言が幸せに繋がっているからだ。だから――最終的に不幸に繋がるのなら、そんなものはいらない」
とんでもないことを言い切りやがった、とアッシュは思った。それでも口は挟まない。
「いいかいアッシュ。宗教的な意味での『預言』と、科学的な意味での『預言』はもう異なっているんだ。」
・ハイトが一人でバチカルを飛び出る
「行くのかい?」
「うん。レックを見つけてあげないと」
「レックだって馬鹿じゃあない。待っていれば自力でここまで帰ってくるさ」
「……何処に帰るべきか、分からなくなっていたとしても?」
「え?」
「何でもない。とにかく、僕は行くよ」
「止めても無駄なんだろうね……気をつけて、ハイト」
「うん。ありがとう、ラディ」
・野盗に襲われる
・通りすがりのガイが助ける
・ケセドニアまで送ってもらうことに
・ケセドニアでディックを雇う
・ピオニーとかと会ってると楽しいかも。
・合流はアクゼリュス直前とか? 案外アクゼリュスはアッシュだけでのりきったりして。
・INタルタロス
「私は部分的な記憶喪失に陥っています」
「部分的な、とは?」
「自分に関する記憶が全くありません。名前や、過去の思い出を失っているようなんです。対称的に、知識や社会常識といったものは忘れてはいません」
「結果として、貴方がどこから来たのかも貴方は把握していない、と」
「そうなります」
「ですが、貴方が記憶障害だという証拠はどこにもありませんね」
「その通りです」
「まぁいいでしょう。一週間前、チーグルの森の奥で巨大な第七音素の収縮反応がありました。心当たりは?」
「私が目を覚ましたのがチーグルの森の奥です。無関係ではないと思います。収縮ということは……超振動による転移が疑われますね」
「あくまでも覚えはないと?」
「私はチーグルの森の奥で目を覚ます以前のことは覚えていませんので」
「超振動による転移をすぐに思い付くということは、それなりに第七音素に関する知識はお持ちのようですね」
「そのようです。更に言うと、研究者だったようです。貴方の旧姓はバルフォアではないですか?」
「ええ。確かに、研究者でしょうね」
「それと、キムラスカに住んでいたと思います。太陽が北に昇るので」
「他には?」
「……多分、専門はフォミクリーかと」
「! ……そう、ですか。根拠は?」
「レプリカに関する知識が深すぎます。譜業について詳しいのは、キムラスカの人間だとすれば不思議なことでもありませんし」
「…………」
「バルフォア博士。音素構成を調べる譜業はありませんか? 私がレプリカであれば、この中途半端な記憶喪失についても説明がつくと思うんです」
「待ってください! 生体レプリカは私が禁忌としました。それなのにどうしてそんな発想があっさりと……」
「何かしらの形で私も関わっていたんでしょうね」
「そ、んな……」
「で、私の処遇はどうなるのでしょうか?」
「バチカルに着けば降ろしますよ」
「いいんですか?」
「そうしなければ協力しない、とルークに脅されましてね。全く、可愛いげのない子です」
「……彼は、何者なんですか?」
「本人に聞いたほうが早いと思いますよ」
・INタルタロス↑のちょっと前
「……それはちょっと頼み方がおかしいんじゃねぇの? お前らは俺に協力を要請することしかできない。俺を無事に送り届けないと、和平なんて言ってらんねぇだろ?」
「おや。どうやらただのお馬鹿貴族ではないようですね」
「うるせっ。で、まぁそれはそれとして。俺はお前らへの協力、っつてもまぁ俺の話が何処まで叔父上に通じるのかは甚だ疑問だが、そいつを約束しよう。バチカルに無事、着いたら叔父上に和平締結を進言してみる」
「おや、まだ私は何も言っておりませんが」
「形式だけの言葉なんて時間の無駄だろ、内容は一緒なんだから。で、俺がお前の話を聞くならお前が俺の話を聞くのも道理だよなぁ?」
「そうですね。あなたの要求は?」
「ティアとハイトの拘束の解除。要するに、あいつらの国境侵犯を無かったことにして、俺と一緒にバチカルで降ろせってこと」
「わかりました。まぁ、初めからそのつもりでしたけどね」
・INバチカル一度目の帰還
「ルーク様。この度は無事の御帰還、おめでとうございます」
「あんたは……」
「ラディウス様。お迎えありがとうございます。ほらルーク、覚えてないか? まだ言葉も怪しかった頃に一度お出でになったことがあるだろう?」
「悪ぃ、覚えてないや。でも名前には聞き覚えがあるな。俺が記憶喪失になる前はよく遊んでいたと聞いている。一方的に忘れてしまってすまない」
「そんなことおっしゃらないで下さい。少し寂しいのは本当ですが、それはルーク様の責任ではありません」
「で、そこまで遜られる必要もねぇと思うんだが」
「その通りですね。それで本題なんだけど、ルーク。僕が用があるのは君がマルクトから連れて帰って来たという人のことなんだ」
「あぁ、お前は学問所の譜業科にいたらしいな。記憶喪失みてーなんだが、どうやらキムラスカの研究者だったっぽい。お前なら顔知ってるかもしれねーな。……おいハイト、いい加減降りろ!」
「……ハイト?」
「今譜石の解析をしてるんだって! もうちょっと待ってよ!」
「んなもん降りてからでもできるだろ!」
「それができないんだよ、ルーク。解析はかなり集中しないといけないから。君は和平の親書を陛下に届けるんだろう? 彼のところには僕が行くから、君は君の成すべきことをすればいい」
「わかった。……ジェイド」
「ハイトの身柄はここで解放ですね。そういう約束でしたから」
「つーわけで頼んだ。よくわかんなかったら俺の屋敷に送ってやってくれ」
「その必要はないと思うけどね。和平、上手く掛け合ってみてね」
「お前は戦争は嫌か?」
「僕みたいな中途半端な立場になると、政略結婚でマルクトへの人質……なんてことになりかねないからね。必要なら甘んじて受け入れるけれど、できることなら国の道具にはなりたくはないよ。それじゃ、ルーク」
・一日は45の鐘
・一周目ルークが死んだことによる傷が癒えていなくて、二周目ルークに一周目ルークを重ねてしまうジェイド
この赤目の軍人は、ルークとの約束を殊の外嬉しく思っているようにルークには感じられた。誰に言ったところで共感してはもらえなかったけれど。
彼が時折目を細めて本当に嬉しそうに、しかしながら痛みを堪えるように笑うことをルークは知っていた。そしてそうやって笑うときは、彼がルークを見てルークを見ていないことにも、ルークは気づいていた。
ーーなぁ、お前は誰を見てるんだ?
彼が自分を見てくれているのに満たされない。いらいらする。でも何よりもルークを苛立たせるのは、彼が全くの無意識でそれを行っているということだった。
・ラディとレック
「こんにちは」
「こんにちは……?」
「君にとっては初めまして、になるのかな。本当はそうではないのだけれど」
「……記憶を失う前の俺を、知っているんですか?」
「あぁ。知っているよ。君の名前はレック。君が今名乗っているハイトという名前は、君の双子の兄のものだ」
「双子の、兄……。彼は、今どこに?」
「わからないんだ。君を探すと言って、一人で出ていってしまったから。そう言うということは、君もハイトには会っていないんだね」
「そう、です」
「そうか。心配だな……。とりあえず、今日のところは君の家に案内しよう。家に帰ったら何か思い出すかもしれないしね。ああそうだ、僕はラディウスという。君とは同僚……というか、友人だね」
「友達の……ラディウスさん」
「ラディでいいよ。君にはそう呼んでほしい」
■ラディウスがリチャードにしかならない件について。やっぱり無意識のうちに似てしまう……! というか物腰のイメージはリチャードだから仕方がないんだけどでもなんか違うっ!
■記憶喪失レックの口調も悩む。とりあえず自分より身分が上っぽい人には敬語が主体。ルークは友達だから砕け気味。でも本来の口調とはまた違う。というのを目指したいんだが……。
■設定はいっぱい練ってるんだけど、人間としてはあまり考えていないのがもろばれなんだよなぁ。
・ルークとレック
「記憶は戻ってねぇみたいだが、お前のことを知ってる奴らには会えたんだろ? よかったじゃねーか」
「うん……皆よくしてくれるし、俺の中途半端な記憶喪失だと仕事には影響が出ないもんだから前みたいにやらせてもらってるみたいなんだけどさ……」
「んだよ、はっきりしろよ」
「ルーク。お前は記憶を取り戻したいって思うか?」
「そりゃあ、な。お前だってそうだろ?」
「まぁ、な……でも時々、不安になる。俺が記憶を取り戻したとして、そしたら今の俺はどうなるんだ?」
「記憶があろうがなかろうが、俺は俺。お前はお前。別にどうにもなんねーよ」
「強いな、ルークは」
「怖がったところで何にもならねーんだよ、そういうことは。大体、記憶を取り戻したら今のお前が消えてしまうとして、じゃあお前はどうするんだよ? 記憶を取り戻さないように努力するのか? それとも周りの奴らに今の自分を忘れないでって懇願するのか? 全部無駄だ、そんなこと。周りの奴らは記憶があるお前も無いお前も区別しねーよ。どっちもお前なんだから。……だから、辛いって思うときもあるんだけどな」
「そう、だな」
「誰が悪いってわけじゃあねーんだ。周りの奴らも、記憶を無くした俺達も、誰も悪くはねーんだ。だから疲れたら、今のお前しか知らない奴のところに行けばいいし、そういう知り合いを増やせばいい。俺でも、話し相手ぐらいにはなれる」
「……ありがとう、ルーク」
■二週目ルークは江戸っ子。
・ハイトサイド
「へぇ、アクゼリュスで障気の大量発生ですか……」
「おいおい、お前の目的は弟を探すことだろう?」
「その通りではありますが、もうひとつの目的としてはレックに、自分を探し回っている自分と外見がそっくりな人間がいることを知らせることです。マルクトの主要な都市はこれで全て回ったので、最後にアクゼリュスに行って障気の採取くらいはしたいですね」
「……シルバーナ大陸はいいのか?」
「あそこに永遠に閉じこもっている事はないと思うので、構いません」
「マルクト国内からは入れないんだろ?」
「救援部隊を送り込むのが不可能なだけですよ。ディックさんは障気障害の患者さんを見たことがありますか? 重症になると立つこともままならなくなるんです。そんな患者さん連れて行ける道ではないんでしょうね」
「本当に行く気か?」
「ええ。僕の現在の専門は障気なのですが、肝心の障気はいつどこで発生するのかわからないんでなかなか研究が進まないんですよ。障気を持ち帰ることができれば研究も捗ります」
「……死なないだろうな?」
「多分、大丈夫だと思います……多分」
「くそっ、ラディウスの奴とんでもない仕事を回しやがったな……」
■アクゼリュス崩落前に双子が合流するならこのルート。ディックはラディの差し金です。ちょこちょこラディに雇われていたらいい。そしてそろそろラディの苗字を用意しないといけないんだよなぁ。
私の気分は高揚していた。今日だけは、私がシルバーを独り占め! こんな日は、きっと滅多に無い。普段ならこういう予定は大抵断るシルバーがこうして来てくれているのは、『一日くらいあなたが無事だった事を祝わせて』と言ったのが効いたからなのかしら。でも真面目なシルバーからすれば、私達に心配をかけた埋め合わせのつもりなのかもしれない。それでも、やっぱり今日はシルバーを独り占め! なんて素敵な響きなのかしら。
「おい、クリス」
「なに? シルバー」
「……どこに行く気だ?」
「着けばわかるわ」
訝しげなシルバーにくすり、と笑って私はシルバーの手を引いた。今日は手まで繋いでくれるなんて!
うきうきしながら真昼間のコガネシティの繁華街を歩いて、着いたのは一軒のデザートショップだった。
「……ここか?」
「ええ」
「道理でそんなに嬉しそうなわけだ……」
「あら、シルバーだって好きじゃない、スイーツ。嫌いとは言わせないわよ?」
「…………」
自分からは全然頼もうとしないのに、人が食べてるのを心底羨ましそうに見ているのを私は知ってる。
更に今はカップルだと二人分の食べ放題が一人分の値段になるというセール中。前から一度は来たいと思っていた店だからこれは嬉しい。
*
初めて出会った日を、あなたは覚えているでしょうか。
*
大好きだから大嫌いだった
「どうして、キミなんだい」
体を丸めて焚火の側で眠っているヒトカゲにルビーは語りかける。
自分の最初のパートナー。けれどもそれ以上に、兄の相棒でもあった。
*
百葉箱の神様
*
「ルーク様」
「フィン。俺はレプリカなんだ。俺は『ルーク』じゃあ、なかったんだ」
「そうですか」
「だからお前は、俺に仕えなくていい」
「……それは困りました。それでは私はクビですか」
「い、いや、そうまでは言わないけど……あれ?」
「ルーク様。今の私の仕事は、あなたに仕えることです」
「だから、それはっ」
「ですが、それは『ルーク』という名前の人間に仕える事ではありません」
「……えっ?」
「私が、あなたについてまわる身分しか見ていないと思いましたか? 私はあなた自身を見てはいませんでしたか? あなたにそう感じさせてしまったと言うのなら、私はあなたの使用人として大いに反省しなければなりませんね」
「フィン……」
「まだ言葉が足りませんか。つまりは、あなたがレプリカとやらであろうが何であろうが、私にとってそんなことはどうでもいいんですよ。私がお仕えしているのは、他の誰でもない、あなたです」
「……ありがとう、フィン。そう言えば、お前は記憶喪失になる前の俺――じゃない、『ルーク』に会ったことはないんだよな」
「ええ、その通りです」
「じゃあさ、今度『本当のルーク』……今はアッシュって名乗ってるんだけど、そいつを連れて来るから会ってみてくれよ。ちょっと気難しいところはあるけど、悪い奴じゃあないから」
「それは構いませんが……ルーク様、何をお考えですか?」
「……アッシュがここに戻ってきたら、俺は全部返さないといけない。俺はレプリカで、ファブレ家の本当の子供ではないから。あいつから奪ってしまった分を、全部。……フィンは父上に雇われて父上の息子に仕えているんだろ? 本当は、俺じゃなくてアッシュに仕えるはずだったんだ。だから……」
「それは無いと思いますよ。私は、あなたの話し相手として連れてこられたんですから。記憶を失われる以前のルーク様……アッシュ様とお呼びすればよいのでしょうか、もしアッシュ様が今もこの屋敷におられたのなら、私はきっとここにはいません」
「そうだったのか?」
「ええ。今思うに、旦那様はガイの事を知っていたのでしょうね。それなのに、予想外なまでにあなたが懐いてしまったから、慌ててガイの代わりになれそうな人間を捜したのだと思います。尤も、私はガイの代わりにはなれませんでしたけどね」
「ガイの事知って……ってなんでじゃあ雇ってたんだよ!?」
「何かお考えがあったのでしょう。それ以前に、これは私の推量であって事実ではありませんよ、ルーク様」
「あ、あぁ……そうだった」
「そういうわけで、もしもルーク様がファブレ家から縁を切られた場合、私もお払い箱になるのでしょうね」
「……ごめん、フィン」
「仮定の話ですよ。そうなれば、私は故郷に帰って母の仕事を継ごうと思うのですが……ルーク様も一緒に来ますか?」
「えぇっ!? ……使用人でもなくなったのに、まだ俺の世話なんてさせられないよ」
「あなたが公爵家の子息でなければ、私とあなたは友達ですよ。路頭に迷い困っている友達を助けるのは当たり前の事ではありませんか?」
「フィン……。……お前よくそんなことを恥ずかしげもなく言えるよな」
「どうやら減らず口が叩けるくらいにはお元気になったようですね」
「……うん。ありがとな、フィン。お前がいてくれてよかった」
*
「家族になろう」
「僕たちが、か?」
「ああ。今まで俺たちの関係に名前を付けようとしてきたけど、どれも微妙に違ってた」
「兄弟と呼ぼうにも僕たちは他人で」
「友人と言うにしても俺たちは近すぎた」
「仲間や相棒という目的意識がある関係でもなくて」
「ただ俺は、お前と共にありたいしお前の幸せを願ってる。でも恋人でもないだろ?」
「だから家族、か」
「それが一番近いと思ったんだ。相手の幸せが自分の幸せになる、そういう相手は家族と呼べるんじゃないかって」
「それで僕はお前の家族だと?」
「ああ」
「そうか。なら……お前も、僕の家族だ」
「リオ……。改めて、よろしくな」
*
『なんだか僕たちの爛れた関係と比べると、二人って……』
『でもやる事はやってるだろ?』
『王子ともやってたけどね! 不謹慎だ!』
『あいつも気付いてるっぽいのになぁ……。独占欲が薄いとか?』
『僕だったら口もきかない』
『知ってるよ、んなことは。俺だって怒っただろうなぁ』
『今となっては遠い過去の記憶だけどね』
『だな。今となってはただの剣だ』
*
アスベル虐めが趣味(でも悪意はない)なリチャードの学パロ
・リチャードの家は超金持ち。警察とかに圧力を掛けることもできるくらい
・学園の不良どもの弱みを握りこんでパシらせる学園の頂点
・先生よりも強い
・アスベルはリチャードの親友
・リチャードを止める事ができる可能性(あくまでも可能性)がある唯一の人物。不良どもから崇拝されてる
・アスベルと付き合うと漏れなくリチャードが付いてくるため普通の子はちょっと遠巻きにしてるんだけど全然気にしてない。むしろ意図的に空気読んでない。そういう意味では神経の図太さはリチャード並
・ヒューバートは一つ下に在籍。
*
アスベルが中庭を歩いていると、空から水が降ってきました。一瞬でアスベルはずぶ濡れです。何があったんだろうとアスベルが上を見上げると、青いポリバケツが窓の中に引っ込んでいきました。
「あっはははは!」
突然笑い声が聞こえてきました。でもアスベルは驚きません。ここに呼び出しされた時から、嫌な予感はしていたのです。
「リチャード……今日は何だ」
水をポタポタと垂らしながらアスベルは笑い声の主――リチャードに話しかけます。
「ははははっ! アスベルの上だけに局地的な豪雨が降らないかと思って、お願いしてみたんだよ」
「今のは雨じゃなくてバケツの水だろ」
「上から落ちてくる水なんて雨と同じじゃないか。ふふっ、本当に絶景だったよ、アスベル」
リチャードはにこにこと楽しそうです。いつものことです。アスベルは一つため息をつきました。
「制服がびしょびしょになったじゃないか。午後も授業はあるんだぞ」
「心配しなくても大丈夫さ。僕がちゃんと服を用意してきたからね」
「女子用の制服なら着ないからな」
アスベルがぴしゃりと言い放つと、リチャードが首を傾げました。
「どうしてだい? とてもよく似合うと思うけど」
「俺が着たくないからだ」
「でもそれではアスベルが濡れっぱなしじゃないか」
「ヒューバートの体操着でも借りてくる」
そういうとアスベルはくるりと身を翻して校舎へ向かって歩きだしました。その後ろを当然のようにリチャードが付いていきます。
「ヒューバート」
前進びしょ濡れのアスベルは校舎ではとても目立ちます。弟の教室に着いて名前を呼ぶと、教室中の視線がヒューバートに集まりました。
「……どうしたんですか兄さん? 兄さんの頭上のみで局地的豪雨でもあったようになってますよ」
自分と同じ発想をしたヒューバートにリチャードが爆笑します。
「概ね間違ってはいないな。で、服貸してくれ」
「犯人はリチャードですか。体操着でよろしいですか?」
「ああ、頼む。風邪を引きそうだ」
「ちゃんと体を拭いてくださいよ」
慣れた様子でヒューバートがアスベルに体操着を渡します。アスベルは礼を言って、ヒューバートの教室を後にしました。
「ええ。最近、あたしじゃなくてシルバー目当てで入り浸っている子よ。失礼しちゃうわ」
「なあなあ、あの人誰?」
「ねえさんの……人だ」
「ブルーさんの人?」
「吸血鬼ハンターの人間だ。……一応」
「え? ハンターってやばくね?」
「実際は交渉屋……いや、詐欺師だな」
「はぁ」
「人間達からふんだくった謝礼を吸血鬼に回して新天地を斡旋している。俺たちもあの人の客だった」
「退治してねーじゃん」
「ああ。だが人間達の間では優秀な退治屋と思われているようでな。貰える謝礼がとんでもない額らしい。そしてその分吸血鬼に回る分も増える。その繰り返しだな」
「……お前達は何を貰ったんだ?」
「あの人の時を。ねえさんが気に入ったからな」
「時?」
「人間としての寿命、だな」
「使い魔になったのか?」
「いや、夜側に近付いただけで、まだ人間の範疇だ。
それにしても随分食いつくな、ゴールド?」
「そりゃ、先輩みたいなもんだろ? 気になるじゃん」
「言っておくが、お前に同じことはせんぞ」
「なんでだよ? これでも結構お前に気に入られてると思うぜ?」
「俺達は退屈を友とする術を知っている。だが人間は知らないだろう。人間に永遠に近い命は耐えられない」
「何だよそれ、やってみなくちゃわかんねーだろ」
*
「あら、可愛い子じゃない。食べちゃおうかしら」
「ねえさん」
「冗談よ。そんな怖い顔しないで、シルバー」
「ねえさんが言うと冗談に聞こえない……」
*
「また来たのか、お前」
「いいじゃねーか、俺が好きで来てるんだからよ」
「お前達昼の住人と、俺達夜の住人は交わるべきじゃあない。わかってるだろう」
「わかんねーよ」
「ゴールド」
「そんなに来ないでほしいなら俺がそう思うような事すればいいじゃねぇか」
「今更何をしたって無駄だろ」
「わかってるじゃん」
「……はあ、好きにしろ」
*
「結局シルバーの扱いってどうなってんだよ?」
「どうって?」
「あいつ、明らかに村から浮いてるじゃねーか。たいていの奴は遠巻きにするし。でもその割には嫌われてる感じはしねーんだよな。そこが納得いかねー」
*
「って言うかさ、こんなに開かれてて大丈夫なのか? この村」
「? 何か問題でもあるのか?」
「だーかーらー、間引きの時期はヤバイだろ?」
「……『間引き』?」
「え、嘘だ。まさか知らねーの? 年に数回の、ポケモンが凶暴になる時期じゃねーか。間引きの時期はあいつら本気で人間を殺しにかかってくるんだぜ?」
「この辺りのポケモンが村の人間を襲うことはまずないぞ。せいぜい威嚇くらいだ」
「……まぁ、そんな言葉があることくらいは覚えててくれや」
「そうだな」
*
ネタメモ
・白無垢を着た花嫁を見ていいなぁというクリス(サファイアか)
・ゴシルの別れ話。裏切り?
・ゴールドが吸血鬼な金銀(Sっ気な金/銀を軟禁?)
・シルバーが吸血鬼な金銀(銀は孤高の美人さん/金が押しかける)
*
・優等生劣等生
・君は素敵な冥界に
「なぁクリス、本当に悪かったって!」
「……すまない」
「あなたたちねぇ、そのくらいで私が許すとでも思ってるの?」
「「…………」」
「私を置き去りにしてチュロスを買いに行った罰だわ。二人でダンボに乗って来なさい! 思う存分写真を撮ってやるわ」
「な、クリスそれは酷ぇって!」
「なんだったら一人乗りでもいいのよ?」
「……ゴールド、無駄だ」
「と・う・ぜ・ん、乗った後は外の記念撮影用のにも二人で乗るのよ?」
「…………」
「鬼だ……」
*
魔物が出てきたのは驚きはしなかったのだけれど。
『あああぁぁああ! アレクじゃないですか!!』
まさか背中にシャルが突き刺さっているとは思わなかった。
まずは周囲の様子をさっと窺う。魔物と出くわした事による緊張は感じられるが、シャルの声を聞いたそぶりは感じられない。突き刺さるような死霊遣いの視線は感じるのだが。こいつは俺を監視しているのか? 信頼してほしいとは思わないからどうでもいいっちゃあどうでもいいが、そこまでの不審の目を周囲に向けるのはやりすぎのような気がする。何をそんなに警戒しているのやら。
何はともあれ、シャルの回収が第一だ。それだけを確認して魔物と向き合った。
*
『ぼ、ぼぼぼぼぼ、坊ちゃーん!』
「……『ぼ』が多くないか?」
『本当に、本当に会いたかったんですよ!』
「今度はどこにいたんだ?」
『気が付いたら巨大な魔物の背中に刺さってました。だーれも僕を抜いてくれなくて、アレクがくるまで刺さりっぱなしだったんですよ!?』
「それはご愁傷様だな」
『本当に、淋しかったんですから!』
「ああ。……僕も、早くお前を手にしたかった」
『坊ちゃん……!』
「この世界の武器はどうも軟弱でな。今までに何本折ったかわからん。その点、お前なら心置きなく振るえるだろう?」
『坊ちゃんは武器の扱いが雑すぎるんです! なんで僕みたいな細剣で岩とか金属を叩き切るんですか』
「実際切れるんだからいいじゃないか」
『よ く な い で す !』
「ふーん。そうか、そこまで言うのなら……」
『え、あれ……坊ちゃん!? すみません撤回します僕が悪かったですだから置いて行かないでぇぇ!!』
「あいつらってホント見てて飽きないよなぁー」
『シャルもずいぶんギャグキャラになったもんだ』
「にしてもソーディアンって何であんなに頑丈なんだ?」
『かなり貴重な兵器だからそう簡単には壊れないようにしてんだ。コアクリスタルの強度は上げられないが、それ以外はベルクラントの直撃を食らっても平気なくらいには頑丈だな』
「それで刃毀れ一つしないんだからなぁ」
『ま、科学技術とレンズ工学の粋を集めた最高傑作だからな。ハロルドもソーディアンの開発には湯水のように金を注ぎ込んでたし。戦後は科学知識が一気に廃棄されたから、俺の知ってる歴史の中では本当にソーディアンが一番高度な技術が使われてるはずだ』
*
「これは……譜石ですね」
「初めの方が欠けているのね。――これはっ!?」
「どうかしたのか、ティア、ジェイド?」
「いえ……どうやら個人の人生を詠んだ譜石のようなのですが、最後まで詠まれているようです――もう、故人のようですが」
見つけたのはハイトの譜石。ルーク作成時にコーラル城にやってきたヴァンが詠んだもの。本人は存在を知らない。ディストが投げ捨てたせいで二つに割れた。
*
「あぁ、そうだ。イオン」
「何」
「お前のレプリカに名前を用意してやってくれないか」
「なんで僕がレプリカなんかに?」
「お前でない奴をイオンとは呼べないだろうが」
「……」
「それで、何かいい名前あるか?」
「……シア」
「シア、か。随分あっさりと決まったな。由来は?」
「内緒だよ、カンタビレ」
*
「いいえ、僕はあなたと同じ立場には立てません。
ご存知の通り、僕は預言の上では既に死んでいる人間です。でも、今僕は生きています。だから世界は預言に支配されていません」
「だがその程度の歪みなど預言はものともしない」
「それはあなたの主観的な意見であって、事実ではない。違いますか?」
「……そう、かもしれないな。だが私は、この計画を成功させることが世界にとって最善だと信じている」
「僕だってあなたが何を信じるかを否定する気はありませんよ。ただ僕は、人一人の運命すらも決定できない預言が世界の運命なんて決定できるわけがない、と主観的に思っているだけです」
「本当に残念だな。お前とは上手くやっていけると思ったのだが」
「全くです。あなたのような人間を、全力で止めないといけないだなんて冗談じゃない」
*
「二人は、『間引き』の原因について何か聞いた事があるのでしょうか?」
「さぁー?」
「ポケモンの繁殖期だから気が立ってるんじゃないのか?」
「そうですね。それが一般的に言われている事です」
「一般的……ってことはお嬢さまは違う意見なんだねー」
「『お嬢さま』はやめて下さいと言いましたよね、ダイヤ?」
「あ、ごめん。プラチナは違う意見なんだねー」
「ええ。繁殖期という考えには曖昧な点が多すぎます」
「と言うと?」
「まずは、本当にポケモンには繁殖期が存在するのかということ。過去の人工的にポケモンを飼育していた頃の記録を見る限り、ポケモンに特別な繁殖期はありません」
「それって人工的だからじゃないのか?」
「そのように解釈されていますが、野性のポケモンに繁殖期が存在するという証拠が見つかっていないのも事実です」
「へぇー」
「次に、間引きの前後で見かけるタマゴやポケモンの子供の数が減っているということ。この調査は、過去にあなた達にもお願いしたと思いますが」
「あぁ、そういえばそうだったねー」
「で、結局何なんだよ?」
「そうですね。私は、ポケモンが増えすぎると間引きが発生するのではないかと考えています」
「食べるものが無くなるから?」
「はい、おそらくは。間引きは増えすぎた人口を抑制するための、ポケモン達の本能なのではないかと」
「町じゃあ人間の数を調整してるって聞いたことあるなぁ。殆どの町には召喚士がいないもんね」
「俺も、結構納得がいく仮説だな。父さんとかには話したのか?」
「いいえ、もう少し論を詰めてから報告するつもりです」
「プラチナの説が正しかったとして、取れる対応は都市の人口削減か食料量を増やすことくらいだもんなぁ。どっちもしんどいから、反発は必至か……」
「具体的には荒野と森の境界線に植林をすることを提案したいのですが……」
「防衛隊の出動許可、下りるかなぁ?」
「それと荒野に木が生えない原因も調べないとな」
「おいら達だけでやっちゃう?」
「あー、確かにその方がいいかもな。間引きはこの前あったばっかりだし、しばらくは大丈夫だろ。どうする? プラチナ」
ジェイドは思考する。
たとえ「ルークがパッセージリングを破壊する」ことを阻止できたとしても、いずれ耐用年数の限界に達していたアクゼリュスのパッセージリングは機能を停止する。ならば、いっそのこと「記憶」と同じタイミングでアクゼリュスを魔界に降下させる方がその後のヴァンの動向も先読みしやすくなるのではないか。問題はいかに被害を減らして安全に降下させるか、だ。既にマルクト側からはアクゼリュスに入ることができないため、陛下に鳩を飛ばしてマルクト軍に救援を頼むことはできない。キムラスカに要請するとなるとそれこそ「記憶」と同じ結果を辿る事になる。だからと言ってローレライ教団に救援を要請したところで秘預言を知っているモースとヴァンが指揮権を持っている以上、握りつぶされるだけだろう。アクゼリュスにいる民達は預言に死を詠まれているに違いないのだから。結局は見捨てるしかないのか。それだけは極力回避したい。アクゼリュスの一件がルークに深い傷を与えたのは言うまでもない。アクゼリュスを降下させるにしても、パッセージリングの操作を行えるのは超振動が扱えるルークしかいないのだ。……待て、本当にそうだろうか? 前の記憶があるのなら、前との相違点を利用すればいいのではないだろうか。具体的には、あの子供達。完全同位体だというその言葉を信じるのなら、超振動も引き起こせるはずである。――いいや、だめだ。二人がかりで引き起こす超振動がルークほどの精度で制御できるとは考えられない。ならば、残るはただ一人――アッシュか。今回のアッシュは前回とは様子が違っているのは間違いがない。前回散見されたレプリカに対する憎悪の感情が、どうにも感じられないのだ。だが前回とは違うため、今の彼が何を考えているのかは予測がつかない。それにもし彼が協力してくれることになったとして、アクゼリュスの民を見殺しにさせるのは、どうなのだろうか。どうせなら、手を穢すのは自分だけでいい。パッセージリングを破壊するだけの超振動ならなんとかして譜業で起こせるだろうか。被験者を繋いだフォミクリーでホドを崩落させることはできたが、同じ手段をとるとすると問題はあの時の譜業はサフィールが用意していたということと、被験者が必要だということだ。前者はサフィールに協力を要請することになる。こちらはまぁ、適当に丸めこめば可能だろう。後者は被験者を用意する時点でこの「手を穢すのは自分だけ」という当初の目的から逸れている。それでも可能性を挙げるならば、ホドの時の被験者であったヴァンと血縁関係にあったティアはおそらく適性が高い。他の被験者ならば、マルクトの死刑囚あたりから調達すればいいだろうか。だがサフィールに協力を要請し、譜業を作り上げ、死刑囚から適性のあるものを選別してアクゼリュスに送るという一連の作業には時間がかかりすぎる。アクゼリュスの崩落に間に合わない。ヴァンを始末してアクゼリュス崩落を先延ばしにすることも可能だが、前回ではヴァンの存在がマルクト・キムラスカ間の協力体制を築くきっかけとなったのも確かである。それに今回が始まる前のローレライの言葉も気にかかる。あれは確かに「ヴァンを殺したところで結末は変わらない」と言ってはいなかったか。ヴァンを殺すのは、その場合のこれからの展開の考察を十分に行ってからでいいだろう。そういえば、ローレライはまた妙なことも言っていた。――都合良く異世界からも客人が訪れたから今回の世界に招待している――だったか。異世界からの客人とは何者だ? 前回と違う展開を望むのなら、この「異世界からの客人」に協力してもらうのがおそらく最も簡単な方法だろう。これも推測する必要がある。
炎より温かみのない音素灯が石造りの壁を照らしている。炎の揺らめきがない、均質的で無機質な音素灯が昼間から点けられているのは、ただ単にこの建物が昼でも暗いからだ。ここは戦争中に放棄されたとある貴族の別荘だったが、おそらくは別荘となる前は一種の要塞として機能していたのだろう。一度門を頑なに閉じれば、崖の上で海を後ろに背負って立つこの城を落とすのは一筋縄ではいかなかったはずだ。そしてそういう城にありがちなように、この城にも窓が少なかった。それが、昼でも灯りを必要とする暗さの原因だった。その薄暗い廊下に、足音が二つ響く。
「急に静かになったね、レック」
「ルーク、かえっちゃった」
足音の主達は、互いを鏡に映すよりもそっくりな見た目でありながらも、身に纏う雰囲気は異なっていた。一人は落ち着いた物腰の柔らかさを、一人は無邪気な天真爛漫さを子供の外見に宿している。
「そうだね。二人ともあっという間にいなくなっちゃった」
「なにしてるかなぁ」
「もっと遊びたかった?」
「うん」
「きっと、また会えるよ。しばらくすれば身体検査をしにやってくるって」
片方が優しく微笑みかけて二人は足を止めた。不規則な足音が止み、話し声もなくなると残るのはどこからともなく吹き込んでくる隙間風の唸り声だけだ。その僅かな音がかえって静寂を引きたてる。二人は一度顔を見合わせて、足を止めた理由である、年季の入った木の扉を数回ノックした。
「ディー、いますか? ハイトとレックです」
「よんだー?」
「こらレック、失礼でしょ」
小声で片方が窘めているところに、ひとりでに扉が軋む音を立てながら開いた。何とも不気味な光景だが二人に動じた気配はない。さも当然のように室内に足を踏み入れた。
部屋はやはり石の壁で囲われていた。だが、大人なら手を伸ばせば天井に手が届きそうであった廊下と比べるとこの部屋の天井はかなり高い。それが理由か、窓のない部屋であったが不思議と圧迫感はあまり感じさせなかった。部屋自体は質素なものだったが、天井から吊るされたシャンデリアや放置された書棚などの調度品が控えめに品の良さを主張している。この部屋のかつての主の趣味の良さを連想させた。だがそれらも手入れを怠っていれば本来の美しさを発揮することはできないようだった。薄汚れ、踏み均された絨毯からは温かみを少ししか感じられない。底冷えのするこの部屋の暖炉に火が灯っていないのは、現在の主が極端に寒さに強いためであった。
その部屋の主は扉の真正面にある机の更に向こうに座っていた。乱雑に計算用紙が散らばった天板の上に肘をつき、色素の薄い髪の下に普段よりも血色の悪い顔がのぞいている。その苦り切った表情をみて、この部屋にやってきた二人は思わず声をあげた。
「どうしたんですか、ディー」
「おなかいたいの?」
「残念ながら、痛いのは胃です」
部屋の主の男が顔を上げる。掛けなさい、と机の手前の椅子を示されて二人は腰かけた。男は二人を一人ずつ順に見つめた後強く目を瞑った。現実など何も見たくない、という逃避のようにも見えた。それから一つため息をつき、重々しく口を開く。
「あなた達の処分命令が下りました」
*
「それはぼくたちを殺せということですか?」
答えた子供の声は男の深刻さなどまるで無視した、いつも通りの声だった。そのことに男は目を伏せる。いずれここで死ぬことを、この子供は受け入れている。それを強要したのは男であったはずなのに、男自身がそのことを躊躇っていた。今まで、何人もの子供を死なせてきたはずなのに。男の正面の子供の態度は、暗に男を非難しているようだった。
――何人も殺してきたのに、今更躊躇うのですか?
「そういうことに、なりますね」
だが、自分にこの二人を殺せるだろうか。男は自問する。戦災孤児で親もいない子供たちを砂漠の街から連れ去ったのは数年前の話だ。それから己の研究のための実験台として子供たちは次々と死んでいき、最後に生き残ったのがこの目の前の子供だった。親の愛情すらも知らないような子供が、己の模造品でしかないはずのレプリカに惜しみない愛情を注ぐのを見て、自分は何を感じたのだろう。暇だからと読み書きを教え、知識を与え、それをみるみるうちに吸収する二人を見て、どこか喜びに近いものを感じてやいなかったか。自分の研究が脇に逸れだしたのはいつからだろう。レプリカと被験者は同じではないということを思い知らされて、二人を死なせないため研究を始めたのではなかったか。
殺せる、はずがない。
「ディー?」
急に明確な意志が男の瞳に宿ったのを見て取って子供が呼びかける。逃がそう、と男は思った。あの上司には死んだように思わせて、こっそりと逃がしてしまおう。ならば、どうするか。
二人を生き延びさせる研究はまだ終わっていない。現在の潤沢な研究資金を失うわけにはいかなかった。だから連れて逃げることはできない。ちらりと幼馴染の皇族の顔が浮かんだが、まだ立場は安定していない。二人を任せるには不安がある。大体、絶対その近くにいるもう一人の鬼畜幼馴染なら二人を見た瞬間に自分が何をしたのかわかるはずだ。下手な情報を渡してしまうと、今度は今のパトロンが倒れることになる。それではいけない。あの幼馴染がこの研究を手伝ってくれるとは思えなかった。それでは、どうするか。最後に浮かんだ案はどうしても賭けに近かった。
「お逃げなさい、二人とも」
男が言うと、正面の子供が意外そうに目を見開いた。隣の子供が口を挟む。
「どうやって?」
「超振動ですよ。分解後の再構成の位置を調整すればあれは転移にも応用できます」
「つまりはぼくたち二人で超振動を引き起こして自分自身を分解させ、別の地点で再構成させる、と? ほとんど自殺じゃないですか」
「あなたの悪運の強さなら今更死にはしませんよ、きっと」
ここまで自分を変えさせたこの子供なら、きっと。
「私が言えることではありませんが……生きてください。ハイト、レック」
部屋の中に重い空気が満ちる。それを打ち破ったのは、状況をあまり理解していない子供の声だった。
「ディーはこないの?」
「私にはまだ研究がありますからね。あなた達二人のこの場からの消滅をもって、処分したと上に伝えます」
一瞬で空気をぶち壊した子供に苦笑を浮かべ男が答えると、正面の子供と目が合った。子供も微笑を浮かべて隣の子供の頭を腕で掻き寄せる。
「わかりましたよ、ディー。ぼくもレックも、絶対に生き延びます。あなたが、それを望むのなら。ね、レック?」
「おー!」
頼もしい返事に男は一つ頷いて席を立った。それでは準備しましょうか、と言いながら。
*
空は淀んでいた。鈍色の雲の下、潮風が駆け回る。お世辞にも気持ちのいい天気ではなかった。波が岩肌にぶつかっては砕ける音が遠くから聞こえる。
場所は屋外。中庭の真ん中に子供が二人と、男が一人立っている。
「超振動の原理は覚えていますか?」
唐突に男が問うた。
「えっと……第七音素を『反音素』に変換して、それを対象の音素と対消滅させることによって莫大なエネルギーを得る、でしたっけ。さらにそれによって生じたエネルギーで他の場所での再構成を行う、と」
「概ねその通りです。では、第七音素を大量に消費するということも理解していますね? そして、それがあなた達にとって危険だということも」
「はい。まずぼくやレックの体を構成している第七音素も消費される可能性が高いです。更には周囲の第七音素濃度が低下することでレックの音素乖離も引き起こしやすくなる。これらの事象は事前に大量の第七音素を用意しておくことで回避できます。当てはあるんですか?」
素早く会話の流れを読んだ子供に男は笑みを深めた。
「ええ。これです」
男が指し示したのは小振りのナイフだった。鞘には緻密で繊細な細工が施されていて、柄にもささやかな彫刻がなされている。どちらかというと実用的ではなく観賞用といった外見だが、男が鞘から刀身を抜くとよく磨き抜かれた刃が鈍い太陽の光を反射した。
「わぁっ、すっげー!」
「これもケテルブルクの細工物ですか?」
「ええ。親が私の入隊祝いに買ったものです」
「で、それをどーするの?」
「さて、どうするんでしょうね?」
男がにっこりと笑う。子供がもう片方の子供の、腰にも届きそうな髪を見やる。
「……レックの髪を切って、それの第七音素を利用するんですか」
「まぁ、そんなところです。そのナイフは貸しますから、超振動の直前に切ってあげてください」
刃をしまったナイフを男が子供の手に乗せる。
「では、お願いしますね。私が十分離れてから始めてください」
*
さくり、さくり。
子供が刃を滑らせるたびに髪が切れていく。切れた端から髪は音素を乖離させ、光となって空気中に溶けていく。海からの湿った風が子供の手の中に残った髪を攫い、空に浮かび上がらせる。その様子をすっかり髪が短くなった子供が見上げていた。
「きれい」
「そうだね。ディーはいつかこうなることを、わかっていたのかもしれない」
ナイフを鞘に収めながら、髪を切っていた子供が言う。
「さぁ、やろうか。レック」
「おー!」
そっくりな顔を見合わせて、二人は笑った。
ND2011。
それは聖なる焔の光が二度目の誕生を迎えた年であり、またある子供の死の預言が詠まれていた年だった。
分かってる。彼が好きなのは私じゃあないって。
聞いてほしい話があるんだ、と学校帰りにゴールドが私を駅前のファーストフード店に連れ込んで。フライドポテトを五本まとめて口の中に放り込んだゴールドが「引くなよ? お前だから言うんだからな」と口を開いたとき、嫌な予感しかしなかった。
「俺さ、シルバーが好きなんだよ」
ほうら、やっぱり。
私が気づいていないと思っていたの? 他の誰よりも私はあなたを見ていたわ。それだけはシルバーにも負けない。幼馴染だったのだもの。それこそ幼稚園の頃から、ずーっと一緒。近くにいすぎてもう他の男の子のようにあなたを見ることはできないけれど、それでも私の中の「一番」はずっとあなた。それだけは断言できるの。なのに、『シルバー"が"』だなんてあんまりだわ。まるで他は好きじゃない、って言ってるみたい。
「それを私に言ってどうする気なのよ」
「驚かねーんだな」
「見てればわかるわよ、そんなこと」
当たり前のことを言ってあげると、ゴールドはしばらく瞬きを繰り返してから鼻を掻いてへへっ、と笑った。ゴールドが鼻を掻くのは嬉しいけど、嬉しいと言うのがちょっと恥ずかしい時。要するに照れた時。話が進まない。私は軽くため息を落とした。
「で、何なの? また協力しろって?」
「まぁそーゆーことになるんだけどよ、でもよぉ……」
「はっきり喋りなさいよ」
ああ、いらいらしてる。ゴールドの恋愛相談を受けるのはいつものこと。フられたゴールドを慰めるのもいつものこと。いつもだったら何でもないことなのに、今日はこんなにいらいらするのはどうしてなのかしら。
「クリス。なんかお前、今日機嫌悪くねぇ?」
「御名答」
「何かあったか?」
そこで自分が原因、とは露ほどにも考えないのがいかにもゴールドらしい。
「特に何も」
「生理中?」
「……あんたって本当にデリカシーないわねぇ。違うわよ」
本当に、どうしてこんなにいらいらするのかしら。ただゴールドが『シルバーが好き』と言っただけだったのに。
*
クリスのイライラの原因は嫉妬ではなくて、今まで自分とゴールドだけで完結していた世界にシルバーが入ってきそうだという環境の変化への不安がイライラになっただけです。……これ補完しないと意味不明かなぁ。
よかったよ銀金にならなくて。銀←金にもなりかけてたし。
*****
人、人、人。何のお祭り騒ぎかというくらい辺りには人が溢れていた。ちょっと失敗したかもしれない。何せシルバーは、こういった人混みが大嫌いだ。案の定シルバーの横顔を窺ってみると、いつも通りの無表情の中に(こいつは全身の筋肉の中で表情筋が一番弱いに違いない)不満の色が浮かんでいた。こいつがはっきりと感情を顔に出すのは怒った時と、ブルー先輩の前にいる時くらいだろうか。俺の前では相変わらず無表情が多いが、それでもたまに笑ってくれるとすごく幸せな気分になる。
話が逸れた。そう、シルバーは今ちょっと不機嫌なのだ。
「あー、すげえ人だな」
「……そうだな」
その微妙な間が怖いですシルバーさん。
人混みの前で立ちつくした俺の横で、人混みから頭一つ飛び抜けたシルバーがきょろきょろと辺りを見回す。シルバーには何が見えているのだろうか。俺には人の頭も見えない。
「抜けるぞ、ゴールド」
さっき見ていたのは人の流れだったらしい。大まかに進路を見定めたシルバーが勝手に歩き出す。人間の海の中、上手い具合にシルバーはその隙間を見つけて進んでいた。あっという間に、人波の中にシルバーが埋もれる。ってまずい、見失っちまう!
「ちょ、待てよシルバー!」
あわてて人混みの中に突入する。家族連れやら友人同士の集団やらカップルやらの間を縫って、ぶつかってしまった人には軽く謝って。見慣れた赤毛を探して顔をあげた瞬間、右手をぐい、と引かれた。視線をやると、人と人との間に一瞬だけシルバーの銀の双眸が見えた。
*
「遅い」
「お前が速すぎるんじゃね?」
そうこうして何とか人混みを抜けて、俺とシルバーは少し休憩。つっても立ってるだけだけど。手は未だに掴まれたまま。このままこいつが気づかなかったらいいなぁ、なんて思った瞬間にシルバーは俺の手を離そうとした。こいつテレパシーでも持ってんのかね?
「ゴールド、離せ」
でも当然、手なんて離させてやらない。右手でシルバーの左手をがっちりホールドだ。シルバーの手は指が細くて長くてきれいなんだけど、でもそれだけじゃあない。意外と一つ一つの指がしっかりしていて、力強さに近いものを感じる。それがシルバーの在り様そっくりで、だから俺はこの手が大好きだったりする。
「嫌だ。勿体ない」
しれっと言い放つと、シルバーのため息が一つ聞こえた。
正しくは何週目かなんてわかりません。自分の分身であるルークたちが幸せになる結末を望んで、ローレライさんは何度もオールドラントをやり直してます。それでも二週目というのは、一週目がゲームアビスで、二週目がこの話という意味です。ゲームアビスの前の週ではマルクトが滅んだり結局秘預言どおりの結末を迎えたり、レプリカルークが生まれなかったりとかそんな感じの週がありました。一週目がそれまでの中で一番上手くいったんだけど、でも結局はルークが死んでしまうという結末にローレライさんが納得いかなくてもう一周。そうしている間に世界間をふらふらしていたリオンとアレクを見つけて、ついでに放り込みます。そしてディストが変わって、ハイトとレックが生まれて、ルークたちの結末が変わる、と。
フィンとかディックとかラディは一週目の時点でもいた人たち。リオンとかアレクとかハイトとかレックとかは二週目で初登場する人たち。
で、ジェイドのみが逆行。ED(ルーク達の成人の儀)後にルークを取り戻そうと譜術を展開したところローレライさんに誘われます。で、逆行した先は本編開始ごろ。イオンをダアトから連れ出してきた頃です。ちなみにこの時点まででずいぶんディストは性格が変わっているのですが、ジェイドは気付いていません。てか二週目世界の住人が客観的にジェイドをみるとある日突然雰囲気が変わってびっくり、といった具合。
つーわけで大譜歌を知ってるのはジェイドとリオンとアレクです。ローレライさんに教えられた。ただしD組の二人は教えられたのが結構昔なので忘れかけてる。
* * * * *
何者だろうか、とジェイドは思った。『記憶』の中にこの少年はいない。自分が前の世界の記憶を持っている、というだけで厳密には今の世界は前の世界と違うわけで、だから『記憶』通りにいかないことがあるのも当然なのだが、それでもこの変化は大きすぎるようにジェイドには感じられた。
基本的に特殊パロでの設定中心。性格等は普通の時にも使ってるかも。
シンオウ組は今のところ登場予定がありません。
・最終的な身長
男ども
翠→158くらい
金→165くらい
赤→173くらい
紅→175くらい
銀→183くらい
緑→185くらい
男の子の身長ってよくわからないから何とも言えないのですが。185ってどれくらいだろう。
女の子たち
黄→153くらい
藍→160くらい
晶→165くらい
青→173くらい
クリスはもう少し高くてもいいかもしれない。
ちなみに数字は「男の子で160無いのはかなり低いだろ」という感じのイメージで決めているのであしからず……。
・料理
青→できない
銀→やり方がわからなくてできなかったけど教えてもらえばすぐに上達する
金→できなくもない。でも面倒。
晶→普通にできる
紅→料理人。他とレベルが違う。
藍→生で食べればいいじゃない
翠→関心はある。ルビーにパシられて最終的にはうまくなる。
赤→レシピを厳密に再現すればできる。料理センスが皆無なのでアレンジしたら食べられないものができる。
黄→レッドの出鱈目料理やブルーに比べればマシ
緑→状況に追われて料理係になったが一度始めるととことん追求するタイプなので必然的に上手くなった。
・レッド
村出身。真っ直ぐ育ちました。召喚士としての才能はあったらしく上達が早い。
・グリーン
町出身。町長の家の長男。冷静沈着で妙に精神年齢が高い。知識欲旺盛でそのうち都市の方へ出ようと思っていた。
・ブルー
都市出身。召喚士で構成される防衛隊に入隊して一通りの訓練を終えた頃に都市が間引きで崩壊し、偶然生き残った。
・イエロー
村出身。レッドと同じ村の外れで一人暮らしをしていた。治癒能力やポケモンの心を読み取る力を持つ家系に生まれ、村人とは距離をとって暮らしていた。
・ゴールド
町出身。グリーンとは異父兄弟。そのため父親に嫌われている。能力発現後間もなく町を追い出され、人間不信気味。
・シルバー
村出身。物心つく前から召喚士の能力を発現させ、氷遣いの異名を持つ。
・クリス
村出身。シルバーの幼馴染。
・ルビー
町出身。グリーンとは異母兄弟。兄二人が出て行ったことで親からの過剰な期待が重荷になっている。ルビーを置いてゴールドと町を出たグリーンに対してちょっと屈折した思いを持っていた。
・サファイア
ホウエン出身。シチユウに迷い込んでしまったところをルビーに助けられる。
・エメラルド
都市出身。ブルーと同郷だが面識は無い。都市が滅びたときになんとか逃げ延びたが、その後死にかけたところをラティ兄妹に助けられた。その時のラティ兄妹の力の名残がまだ残っていて、他人の感情が勝手に伝わってくる体質になった。
シールバー!! お前どうしちゃったのねぇツンデレは!? ツンデレは!?
始めはシリアスにしようと思ったのにこれじゃあただのゲロ甘にしかならないような。っていうか文章が端的すぎて泣けてくる。もっとねっちょりした感じがいいのに!
とりあえず寝かせます。
グリーンが生まれるよりも前、シチユウ地方と呼ばれるこの地方では人間とポケモンが戦争をしていたらしい。冗談みたいな話だ。人間が、どうしてポケモンに敵うというのだろう。だが当時は不思議なことに両者の力はほとんど差がなかったという。そして、人間が負けた。
これが、グリーンが知っている生まれるよりも前の出来事の全てだ。あの町で知ることができるのは本当に僅かなことで、いつか自分はそれに耐えられなくなるのだろうと子供ながらに思っていた。いつか、町を出て、都市に行こうと思っていた。
あれほど早く実行することになるとは思わなかったが。
*
「ママも、パパも、友達も、みーんな死んだわ。あいつらのせいで! だから私はポケモンが大っ嫌いなのよ!」
「だが独りで生きるのはあまりにも辛すぎた。だからお前は、ポケモンの前に『野生の』という言葉を足すのだろう? そうすれば、お前を慰めてくれるやつらだけは憎まずに済むから」
「……っ、あんたなんかに、私の何が分かるっていうのよ!」
「俺は思ったことを言ってるだけだ。尤も、それをどう受け取るかはお前次第だがな」
「最っ低! もうどっかに行って!」
「それはできない相談だな。俺はここに残された資料に興味がある」
「アタシはあんたの顔も見たくないわ!」
「じゃあ顔より下を見るように精々努力するんだな」
・金(+銀) 特殊パロ
すんでのところでストライクのしつこい"れんぞくぎり"をかわしたゴールドの目に入ったのは、赤銅色の長い毛だった。見たこともない姿にとある人型ポケモンの色違いかと思ったゴールドだったが、次の瞬間にはそのポケモンの銀色の瞳と目が合って自分の間違いを悟った。あれは、人間だ。
……って、人間!?
巻き込んだ、という危機感がつのったがもはや後の祭り。とりあえず逃げろとだけ伝えようとゴールドは息を吸い込み、そのまま息を詰めた。真っ正面に、スピアーの群れ。後ろからは、ストライク。左右に逃れようとも追い付かれるのは目に見えている。逡巡は一瞬だった。
「頼むぜ、新しい相棒よ……!」
己の得物であるキューの固定を解除しながら、ゴールドは内なる電気エネルギーに意識を寄せる。つい最近宿したばかりの彼の力を実戦で借りるのはこれが初めてだ。少しばかり体が帯電してきたのがわかる。狙いは目の前のスピアーの群れ。全員は無理でも、複数匹の行動の自由を奪えればゴールドにはそれで十分だ。対集団で相手を引っ掻き回すのがゴールドの最も得意とする戦い方なのだから。
「痺れちまいなっ!」
広範囲に拡散させた"でんじは"を放ち、ゴールドはスピアーの群れに突っ込んだ。
数を数えるのも嫌になるほどいた群れを通り抜けた。追いつかれる前に、先に進まなければ。
ゴールドは憑依させているピチューに意識を少しだけ譲り、ポケモンが本能的に持っている優れた気配探査能力を借りることにした。思考力というか理性というか、そういったものと引き換えに急速に世界の存在感が増していく。足元の草が、聳え立つ木が、生きているのだとゴールドに雄弁に語りかけてくる。押しつぶされそうなほどの命、いのち。己の矮小さを知らしめるこの瞬間が、理屈抜きで自分が生かされていることを感じさせるこの瞬間が、ゴールドは嫌いではなかった。だが今回は特に激しい。この能力の強さはピチューのか弱さが理由なのだろう。その弱さゆえの本能が、やはりまだ自分の置かれた状況に警告を発していた。うるさいほどに自己主張する命達からポケモンのものだけを慎重にかつ素早く選り分け、ゴールドは進路を決めた。できるだけポケモンがいない方へ。
そうして進行方向から少し曲がったゴールドだったが、まもなく足が地面に縫い付けられた。
――次から次へとっ!
慣性に従ってバランスを崩す体にイラつきながらも直前に感じた技の気配の方に電撃を放つ。ピチューに意識を譲った分の反射的な、本能的な行動だった。だがすぐに手応えの無さで相手に届かなかったことを悟り、舌打ちをしながらキューを地面に突き刺す。足が動かなくなった原因は、氷だ。地面から生えた氷がゴールドの足をしっかりと覆っている。辛うじて地面と仲良くなることは避けられたゴールドの耳に、ずいぶん久しぶりな響きが聞こえた。
「そっちは崖だ」
声、である。声によって『言葉』がゴールドに伝えられている。意味のある音の羅列だ。もちろんポケモンだって意味のある鳴き声を出す。だが、ポケモンは言葉は話せない。音を聞いて、音の繋がりの意味を理解する。それだけのことが、ゴールドには随分と久しぶりだった。最後に人間と会ったのはいつだったか。人嫌いのはずなのに、人間に出会えて喜びを感じている自分がいる。でも、ゴールドは人間が嫌いなはずだった。
*
微妙に存在している第三者がシルバー。ゴールドの足を縫いとめたのもシルバー。
・紅+藍 特殊パロ
「……ビールビールビールビー!!」
僕はビールじゃない、と思った瞬間にルビーは自分が起きていることに気付いた。うっすらと目を開けるが、開けたところで見えるものは何も変わらない。まだ辺りは真っ暗だ。
サファイアの朝は、とにかく早い。町を出てから日の出頃に起きるようにしたルビーだったが、サファイアの起床は太陽が地平線から顔を出すのよりも早い。普通ならまだ真っ暗で何も見えないくらいなのだが、サファイアは夜目が利きすぎるらしい。月明かりすら彼女には不要で、星明りだけで彼女は周辺のものを視認できた。それと人間とは思えないほどの聴覚と嗅覚が暗闇での行動を可能にしているようだ。それほど闇に強いのなら未明じゃなくて日没後に行動したっていいだろうにとは常々ルビーが思っていることで、元が夜型の人間だっただけに少し彼女が恨めしい。
サファイアが起きている、という理由で現在時刻を日の出直前としたルビーはとりあえず明かりを確保するためにヒトカゲを喚び出した。ヒトカゲは急にルビーの中から出されて目が覚めたようだったが、緊急の用ではないとわかると欠伸をして丸まって眠りだした。尾の先の炎が目当てだったのでルビーは好きなようにさせておく。
突然光源が増えたサファイアはヒトカゲの尾の弱い炎でも目を焼かれたようで、目の前に腕を翳している。
「おはよう、サファイア」
「お、おはよう……ってそんな場合じゃなか!」
「どうしたの、わざわざ僕を起こして」
言外に「まだ寝たいんだけど」の意を含ませてルビーが軽くサファイアを睨むと、サファイアはう、と言葉に詰まりかけ、それから首をぶんぶんと横に振った。朝から元気なものである。
「ちゃもがボールに戻らんとよ!」
「ああ……それね」
「何か知ってると?」
サファイアがちゃもと名づけたアチャモを抱えてルビーを覗き込む。ルビーはサファイアにぶつからないように気をつけて体を起こした。正直、まだ眠い。
「結論から言うと、キミのアチャモはもうそれに入ることはないだろうね」
それ、と言いながらサファイアの手の中の紅白球を指差す。
「なして?」
「話は朝ご飯でも食べながら。キミのせいでこんなに早く目が覚めちゃったじゃないか」
*
やまなしおちなしいみなし。ルビーくんひねくれすぎです。これでも11歳。
設定解説はルビーがやればいいんだということに気付いた。
・金→銀かつ金←銀(無自覚) 学パロ
設定 シルバー→組長(サカキ)の子供 兄さん達→HGSSのロケット団幹部陣。サカキの舎弟であってシルバーと血縁関係はない。 ゴールド→昔荒れてたころにサカキ達にお世話になった クリス→ゴールドの幼馴染でゴーシルクリは同級生。シルバーの家のことは知らない。 お正月頃の話。
『ゴールド』
「おっすシルちゃん、あけおめー」
『ああ。で、今すぐ父さんと兄さん達に挨拶回りに来てほしい。お前今日は暇らしいな?』
「そうだけど、誰情報だよそれ!」
『クリスだ。それで、どれくらいで来れる。出来れば早い方がありがたいんだが……』
「……ちょっと急すぎんじゃねーの。お前ん家てただでさえ、アレなのに」
『……そうだったな。すまない、ゴールド』
「で、どうしたんだよ? らしくなく焦ってるけど」
『父さんが急にお前を呼べと言い出した』
「…………サカキさんがですか」
『ああ。そしたら兄さん達もお前の顔が見たいと言い出してな……オレの話を聞かない人たちなのはわかってるだろう。無理だとなればお前の家まで車で迎えに行きかねん』
「迎えにじゃなくて誘拐だよなそれ」
『言いたいことはよくわかるが、とりあえず来てくれないか。頼む、ゴールド』
「シルちゃんに頼む、って言われたらなぁ。いいぜ、行くよ。暇だったしな」
『恩に着る。それじゃあ、あんまり派手な格好は控えてくれよ』
「わーってるて。流石にあの人たちの前だとなぁ……っと、んじゃ出かける前に電話する。じゃあな」
『ああ、待ってる』
「待ってる、ってシルちゃん……不意打ちすぎだろ」
*
シルバーは実は純和風のお屋敷に住んでます。ゴールドが家を訪ねたらシルバーが和服を着てる、という展開にしたかった……! 和服超萌える
だからまずは武器をリストアップ!
・剣(細剣/長剣/短剣/二刀流/両手剣 etc...)
・斧
・槍
・弓
・棍
・暗器
・銃
・拳
・杖?
・爪
・投具
決まってるの
・グリーン……刀(細身の両手剣/剣道みたいなの)
・イエロー……戦わない。度胸とはったりが武器。
・ゴールド……キュー(というか棍)
・シルバー……基本的に持たないけど氷で投げナイフっぽい感じ。投具
・ルビー……暗器
・サファイア……拳
・エメラルド……銃もどき。パチンコ
まだ
・レッド
・ブルー
・クリス(弓か?)
・シンオウトリオ
***
・戦闘イメージ
カントー組
レッド→前衛。壁
グリーン(斬)→前衛。壁その2
ブルー(打)→中衛? 鉄扇とかどうですか!
イエロー→後方支援/回復
ジョウト組
ゴールド(打)→テクニシャン。ヒット&アウェイ。耐久のない前衛
シルバー(斬)→技というよりかは力押し。耐久のない火力。中衛
クリス(突)→後衛しかないというね
ホウエン組
ルビー(斬・突)→格闘センスあるけど中衛。毒針とかワイヤーとか。
サファイア(打)→頑張れ前衛。
エメラルド(突)→後ろから銃で支援・戦況把握
ゴールドがシルバー達の縄張りに侵入
↓
ポケモン達に追い掛け回される
↓
孵化の手伝いをしていたシルバーのところまで来る
すんでのところでストライクのしつこい連続切りをかわしたゴールドの目に入ったのは、赤銅色の長い毛だった。見たこともない姿にとある人形ポケモンの色違いかと思ったゴールドだったが、次の瞬間にはそのポケモンの銀色の瞳と目が合って自分の間違いを悟った。あれは、人間だ。
……って、人間!?
巻き込んだ、という危機感がつのったがもはや後の祭り。とりあえず逃げろとだけ伝えようとゴールドは息を吸い込み、そのまま息を詰めた。真っ正面に、スピアーの群れ。後ろからは、ストライク。左右に逃れようとも追い付かれるのは目に見えている。逡巡は一瞬だった。
↓
シルバーが両者を止める
↓
「ゴールド」
不意に名前を呼ばれたかと思うと、シルバーがオレを抱きしめる。
なかなか自分からオレに甘えてこないあいつが、だ。
嬉しいと言えば嬉しいのだが、正直言って意外すぎてどう反応すればいいのかわからない。
「ゴールド」
オレの首筋に顔をうずめたシルバーのくぐもった声が響く。
その震えた声に、縋るような抱きしめ方に、ああこいつ不安なのか、と漠然と思う。
シルバーの頭に腕をまわして、もう片方の手は背中にまわして。
あやすようにトントントンと叩くと答えるようにシルバーの腕の力が増す。
本当にどうしたんだこいつ。可愛すぎる。
「シルバー。何か、あったか?」
「……何も」
「じゃあどうしたんだよ、急に」
「怖く、なったんだ」
「何が?」
「オレたちは、いつまでこうしていられるのだろうと」
「…………」
答えられなかった。
無意識のうちに考えないようにしていたこと。
いつかは、オレも、シルバーだって結婚して、お互いに家庭を持つようになるのだろう。
その時には多分、オレたちは今と同じ関係ではいられない。
離れたくない。けれど、そんなオレのわがままよりも優先させなければならないことは、きっとある。
思わず腕に力が篭った。
「好きだ、ゴールド。いつかこの想いが失われてしまうとしても、それでも今は、本当に、お前だけを……っ」
「……わかってる、シルバー」
オレもあいしてる、と囁いた。
「シルバー、耳かきしてあげようか?」
「あぁ……頼む」
*
「ええええ!? お前ら、膝枕に耳かきって、え、え、マジかよ!?」
それでデキてないなんて!?
「うるさいっ」
「昔からよくしてたわよ? はい、反対向いてシルバー」
「だって反対向いたら確実にクリスのむn」
「ゴ ー ル ド ?」
「すんませんもう何も言いません」
*
後日。
「シルバー、耳かきしてあげようか?」
「い、いや……いい、自分でする」
*****
どこがパロってシルバーとクリスが昔からの知り合いなところ。クリスは照れるシルバーを可愛いと思いつつも少し残念に思ってればいい。
〇責任取りやがれ(金銀)
最近は街中で可愛い子を見ても何とも思わなくなってしまった。男としてこれはどうなんだ。そもそもお前がかわいすぎるのがいけないんだ。だから、
「責任取りやがれこのばかシルバー!」
「……その台詞はむしろ(こいつに啼かされている)オレがお前に言うべきだよな?」
*****
責任をとるのは男の仕事。
〇夜行バス(金銀/現パロ)
完全消灯し、カーテンを締め切られたバスの車内というのは不思議なものだった。カーテンの布に高速道路を照らし出す電灯の光が映し出され、隙間から入り込んだ光だけが車内をうすぼんやりと照らし出す。バスの走行音に満たされた車内には寝苦しそうに動く人はいるものの、話し声はしなかった。雨が窓を叩く音が嫌に響く。隣からは、穏やかな寝息。
シルバーだ。
そこにいるのが当然のように隣に座っているゴールドの想い人は「酔うから」と消灯前から早々に眠りについていた。一方ゴールドはいつまでたっても眠れそうにない。いい加減寝ないと、翌日が辛いだけだというのに。
本来は綺麗な赤銅色に見えるはずのシルバーの髪は、今は明かりがないおかげでゴールドと同じ黒色に染まっていた。ゴールドからすればそれだけで別人のようにも思えるのだが、不安になって顔を覗いてみるとやはりいつも通りの整った造作がそこにはあった。
ゴールドが普段なら絶対に見せないような無防備な素の表情をじっくりと堪能していると、僅かながらにバスの風を切る音が大きくなって一段とカーテンのスクリーンが眩しくなった。外よりもトンネルの中の方が明るいというのは不思議なものだ。
急に差し込んだ光がシルバーの色素の薄い肌から更に色みを奪う。それはとても不吉なことのように思えた。青白い肌のシルバーが、まるで死人のようにゴールドには見えて――。
「……何だ」
伸ばした手が、シルバーに届く前に止まる。異様なまでにシルバーが気配に敏感なのを忘れていた。起こさないように細心の注意を払っていたはずなのに。銀の瞳がゴールドを射抜く。シルバーが自分を見てる。彼の意識の中に自分がいる。それだけでゴールドには喜びが込み上げた。宙に止めた手をシルバーの頬にまで伸ばした。
大丈夫、温かい。
表向きは金晶+銀晶なんだけど実は金銀+晶。
・妙に仲がいい三人組。金と晶は幼なじみで、そこに銀が混ざる感じ。
・金と銀は性格が全然違うのに何故か相性がいい。喧嘩も少ない。
・金や晶は恋人を作ることには作るけど三人組の結束が強すぎて長続きしない。主な原因は金。彼女よりも晶(や銀)を優先させる事がしばしばあるし、晶のデートには銀を引き連れて覗きに来るし。晶は金の彼女と揉める事がたびたびあったので予定とかを入れる時はかなり気を使ってる。彼女がいる時は絶対に金とふたりっきりにはならないようにしたりとか。
・金晶は小学校から、銀は中学から同じで三人そろって同じ高校。中学の時点で三人の仲の良さは公認で同中の人は絶対にゴールドやクリスと付き合おうとはしない(シルバーは告られても必ず振るから片思いさんがいっぱい/バレンタインはゴールドよりも貰う)。が、高校ではそんなことは知られていないのでいろいろとめんどくさいことになる、と。
・学校は多分私立。ゴールドはお金があるから普通に入って、クリスは奨学生だから成績キープが必須、シルバーは多分ブルーの家にお金を出してもらってる。
・カントー組4人はいるとしたらジョウト組の一つ上。イエローとマサラ組は同い年。ホウエン組は一つ下。
・ゴールドはサッカー部かな? クリスは奨学生だから部活はダメ、シルバーは……やってなさそう。
・ゴールドの試合の時にはシルバーとクリスが二人で応援に来る。
・クリスは昔はゴールドと一緒に地元のサッカークラブに所属してた。というかクリスが最初に始めてゴールドを巻き込んだ。
・登下校は結構バラバラ。通学手段は考えてない。寮かも。帰宅部の銀晶は時間が合えばよく一緒に帰ってる。
・1と2が高校での友人、3が同中。
1「クリスってゴールドくんと付き合ってるんじゃなかったの?!」
2「え、シルバーくんじゃないの?」
晶「……どっちとも付き合ってないわよ」
1「嘘ぉ!?」2「本当に?」
3「冗談みたいだけどそれが本当なのよねぇ。クリスたちは中学の時からそんなんだから」
1「じゃあじゃあ、ゴールドくんって彼女いないの?」
2「シルバーくんは?」
晶「どっちも今は独り身のはずよ」
1「クリスって仲がいいんだよね? 好みのタイプとか知らない?」
3「二人とも、やめたほうがいいわよ。あいつらに泣かされた女子は山ほどいるんだから」
晶「ゴールドは告白されたら大体OKするけど、3ヶ月と持たないわ。しかも全部女の子の方から振られてるし。シルバーはまだ彼女はいらないみたいね。片っ端から振るから結局皆告白するのは諦めたんだっけ」
3「そうそう。ゴールドの『好き』は枕詞にシルバーとクリスの次に、が入ってると思って間違いないわよ。シルバーに至ってはもうゴールドと出来てるんじゃないのという噂が流れるくらい女子に興味を示さないし」
晶「ゴールドと付き合ってる子もあたしじゃなくてシルバーに嫉妬することの方が多かったわよね」
3「クリスはほんっとよく避けてたわよねぇ」
晶「私があいつのせいでどれだけいらない喧嘩を押し売られたと思ってるのよ。いい加減慣れたわ」
1「それでも仲がいいのね」
晶「友達として、ならいい奴だもの。喧嘩売られるくらいで距離を置くなんて勿体無いわ」
3「というか、無理でしょ。ゴールドの方が」
晶「……かもね」
・学パロでは晶が総愛され。特殊パロでは銀が総愛され。
・金はとりあえず銀と晶が大好き。女の子は好き、くらい。
・銀は女心が理解できない。理解しようとしない。
・金が銀に構ってばっかりで彼女が寂しくて銀に嫉妬して銀を攻撃しようとすると金は即効でそいつを振る。金が一番酷い。彼女がいる時に晶が妙にそっけないのは昔晶に大説教を喰らったおかげで我慢しているが、何で銀は男なのに、と素で思ってる。
・多分金は両刀で銀は無自覚ホモ。
・晶が一番サバサバしているけど、それでも自分の恋愛と金銀との友情を秤にかけると金銀を取るような子です。
・三人とも互いに友情だと思ってるけど、金銀同士は無自覚な愛情。晶はそのことに何となく気付いてる。めんどくさいからさっさとくっつけくらいには思ってる。
・銀は女の子を振るときに「興味ないから」くらいは平然と言ってのける。が、晶に怒られた。
・こんな酷い奴らがそれでも学校でやっていけたのはひとえに晶と顔の良さのおかげ。
・みんな理系。でも金は文系脳。銀は典型的な理系脳。晶は文系型だけど努力の甲斐あってオールマイティ。
・成績順でクラス分けされる恐怖の学校。進学校です。
・三人組は最上位クラス。いわゆるあんまり行事系で盛り上がらないクラス。クリスは最上位クラスから落ちると退学のためほぼ主席をキープ。成績上位者は学費が安くなる制度のためシルバーも頑張ってる。この二人についていくためにゴールドは必死。文系科目は得意なんだけど数学と理科が皆目分からない人。シルバーは逆に国語がてんでダメな人。暗記は何とかなるから社会はマシ。英語は喋れたら面白いと思う。
・
「クリス……頼む、数学教えてくれ」
「あら、シルバーに聞けばいいじゃない」
「あいつの説明じゃあオレには理解できねぇんだよ。説明しているときのあいつはオレと同じ言葉を喋っているとは思えねぇ」
「確かに、シルバーの説明はちょっと難しいわよね。それじゃあ、クリスちゃんの数学講座、開いてあげますか」
「さっすがクリス! ちょー愛してる!」
「はいはい、どういたしまして。それで、どれがわからないの?」
「え、全部?」
「……授業聞いてた?」
「…………スミマセンほとんど寝てました」
「それじゃあ自業自得じゃないの」
「そうだけど! マジで頼むってクリス!」
「わかってるわよ。じゃあ、初めから説明するわよ」
・
「……それで、ここでaの値について場合分けだ。a≦0の時の最小値はf(0)=……で、……おい、聞いてるのかゴールド」