小説置き場。
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気付いたら彼はいて。気付いたらおれは彼のモノになってて。それは当たり前の当然の事で、だから疑問に思った事はなかった。
だけど、一人の人間が使い魔になるまでの過程を見てしまったおれは、気付いてしまった。
使い魔になる前のおれは、本当はいたんじゃないだろうか?
「あいつが教えてくれないから、シルバーさんに聞いてるんです」
「なら、オレからは何も言えない。些細と言えば些細な事だが、ルビーにとっては重大な事なのだろう」
緑「レッド。お前ならなんとかできるんじゃないか?」
赤「うーん、できない事もないけど……いいのか?」
銀「……仕方がない、か」
藍「こうなると、ルビーは動けんったいもんね」
翠「どういう、こと?」
銀「ラルド。お前は厳密には、生きていない」
翠「……え?」
青「貴方は死んでいるの。ルビーはその死体の時を止め、魂を体に繋ぎ続けている……今も、ね」
翠「……つまり、ルビーが殆ど魔法を使えないのはおれに魔法を使いつづけているからで、その魔法は魂を操作する類……つまり、死神であるレッドさんの本業で、ルビーからおれの制御権を奪ってしまえば、おれに魔法をかけつづける必要の無くなったルビーは自由に魔法が使えて、帰ってこれる、と」
藍「その通りったい」
翠「わかりました。それじゃあ、おれはどうすればいいんですか?」
赤「別に何も。俺は死神だから、血も必要ない――けど、このくらいは必要かな」
「おれにも見えました。魂の色が。本当に、おれは死んでいるんですね」
「――生きていても死んでいても、俺達にはあまり違いはないんだ。だってここに、確かに存在しているからさ」
「でも不自然です」
「それを望む人がいるなら……それでいいんじゃないかな。俺は、そう思うよ」
紅「返してください、ラルドを」
赤「さっすが『女王』……思ってたよりも早いな」
藍「相手はどうしたと?」
紅「面倒だったから亜空間に空間ごと放り込んだよ。全く、ふざけた事をしてくれるよね。……ラルド」
翠「ル、ルビー?」
紅「おいで、消毒するよ」
赤「酷い言い種だなー」
金「なぁなぁ、『女王』って?」
銀「見ていれば分かるだろう。そのまんまだ」
金「女王みたいな性格……」
銀「それとそれに見合った実力、だな」
金「おまえも結構女王っぽいんじゃねーの?」
銀「じゃあお前は従者か?」
金「お、なんかかっけーじゃん」
だけど、一人の人間が使い魔になるまでの過程を見てしまったおれは、気付いてしまった。
使い魔になる前のおれは、本当はいたんじゃないだろうか?
「あいつが教えてくれないから、シルバーさんに聞いてるんです」
「なら、オレからは何も言えない。些細と言えば些細な事だが、ルビーにとっては重大な事なのだろう」
緑「レッド。お前ならなんとかできるんじゃないか?」
赤「うーん、できない事もないけど……いいのか?」
銀「……仕方がない、か」
藍「こうなると、ルビーは動けんったいもんね」
翠「どういう、こと?」
銀「ラルド。お前は厳密には、生きていない」
翠「……え?」
青「貴方は死んでいるの。ルビーはその死体の時を止め、魂を体に繋ぎ続けている……今も、ね」
翠「……つまり、ルビーが殆ど魔法を使えないのはおれに魔法を使いつづけているからで、その魔法は魂を操作する類……つまり、死神であるレッドさんの本業で、ルビーからおれの制御権を奪ってしまえば、おれに魔法をかけつづける必要の無くなったルビーは自由に魔法が使えて、帰ってこれる、と」
藍「その通りったい」
翠「わかりました。それじゃあ、おれはどうすればいいんですか?」
赤「別に何も。俺は死神だから、血も必要ない――けど、このくらいは必要かな」
「おれにも見えました。魂の色が。本当に、おれは死んでいるんですね」
「――生きていても死んでいても、俺達にはあまり違いはないんだ。だってここに、確かに存在しているからさ」
「でも不自然です」
「それを望む人がいるなら……それでいいんじゃないかな。俺は、そう思うよ」
紅「返してください、ラルドを」
赤「さっすが『女王』……思ってたよりも早いな」
藍「相手はどうしたと?」
紅「面倒だったから亜空間に空間ごと放り込んだよ。全く、ふざけた事をしてくれるよね。……ラルド」
翠「ル、ルビー?」
紅「おいで、消毒するよ」
赤「酷い言い種だなー」
金「なぁなぁ、『女王』って?」
銀「見ていれば分かるだろう。そのまんまだ」
金「女王みたいな性格……」
銀「それとそれに見合った実力、だな」
金「おまえも結構女王っぽいんじゃねーの?」
銀「じゃあお前は従者か?」
金「お、なんかかっけーじゃん」
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「ねえさん……触れても、いい?」
「もちろん」
おずおずと伸ばされた手がブルーの頬に触れる。それからシルバーはブルーの頬を輪郭を確かめるように、ゆっくりと撫でていった。壊れ物を扱うかのような慎重さに、シルバーがらしくなく緊張しているのがわかる。それにつられて自分も緊張している事にブルーは気付いていた。
「なんだか照れるわね」
らしくない自分を取り繕うための言葉は、口にすればもっと恥ずかしくなった。ブルーの頬が朱に染まる。少しずつ言葉の意味を理解したのか、少し遅れてじわじわとシルバーの頬も赤くなっていく。お互いに真っ赤になって向き合っている現状がおかしくてブルーが吹き出した。自分の発言一つでここまで反応があるシルバーが可愛くて仕方がない。たまらなくなってブルーがシルバーに抱きついた。
「なっ、ねえさん!?」
一拍遅れて、シルバーが急接近してきたブルーから身を仰け反らせる。その首筋にブルーは顎を乗せた。
「嫌よ、『ねえさん』なんて」
意図せずにこぼれた少し拗ねた響きに、シルバーが今度は慌ててブルーの顔を覗きこむ。ブルーはその銀色の瞳を見つめた。
「名前で呼んで、シルバー」
シルバーの息が止まった。唾をごくりと飲み下し、それからも数瞬の間を置いて、ようやく意を決したシルバーが薄い唇を開く。
「ブルー」
その響きは、存外に、優しかった。
ただただ愛おしいのだと、シルバーのその想いが伝わってくる。本当に愛されているのだとようやくブルーは心で理解した。視界が滲む。
「ね、ねえ……ブルー? やっぱり、嫌だった?」
「違う。違うのシルバー」
声までもが涙で濡れる。シルバーの肩口に顔をうずめてブルーが言う。嬉しいの。
「あなたに名前で呼んでもらえて、すごく嬉しいのよ、シルバー」
真っ直ぐに銀色の瞳を見つめて告げる。ブルー、と思わず零したシルバーが顔を近づけてくるのに合わせて、ブルーは目を瞑った。
「グリーングリーングリーン! 誕生日おめでとう!!」
「……レッド。離れてくれないか」
「だから御祝いに、おれの為に死んで? グリーンが死ねば、グリーンはおれのモノにできるからね」
「まだ死ぬ気はない。取り合えず、は、な、れ、ろ、レッド」
「ちぇー」
「グリーンさん……っ!」
「危ないな、イエロー」
「大嫌いです。貴方なんて」
「だったらレッドを何とかしてくれ……」
「それが出来ればボクはっ」
「俺はブルーのモノだから勝手には死ねない。それに俺が死んだら今度はレッドのモノらしいぞ? お前はそれでいいのか」
「おーっす、グリーンさんいたいた」
「ゴールドか」
「シルバーからのお届け物っすよ、ほら」
「造血剤か。毎度毎度、すまないな」
「そんじゃ、お楽しみくださいませ、っと。オレもシルに飲んでもらおうかなー」
「お前はいらないのか?」
「造血剤っすか? あいつはブルーさん程は飲みませんから」
「ブルー」
「グリーン。誕生日おめでと。皆に御祝いしてもらったの?」
「まともに祝われたのはシルバーくらいだな」
「さっすがあの子。分かってるじゃない」
グリーンさんのキャラが迷子過ぎる件について
*
「ふーん。ねぇ、ゴールド」
「な、んだ……っ!? お前も、吸血鬼かよ……!」
「へぇ。馬鹿だけど抵抗はできるんだ」
「馬鹿は余計だ、っての……!!」
「呼ばないの? 彼」
「誰が呼ぶかよっ!」
「強情なところはそっくりだね。ほら、そんなに体を強張らせないで。吸血は初めてじゃないでしょう?」
「てめえなんざに、吸われて堪るか……!」
「いいねその顔。凄くそそる」
「こんの変態が! っておい? ルビー?」
「なるほどね……そういう手に出るんだ」
「は? あ、消えた。……何だったんだあいつ?」
「しししししし、シルバーさんっ!?」
「何だ、ラルド」
「と、とと突然、どうしたんですかおれの血なんて興味ないんじゃなかったんですか!?」
「気にするな。嫌がらせだ」
「ええっ!? おれ、ななな何かしましたか!?」
「満更でもないんだろう?」
「え、いや、ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!」
「……やってくれますねシルバーさん」
「何の事だ?」
「いいです、もう。離れてくれませんか」
「ああ。……すまなかったな、ラルド」
「え、おれ、置いていかれる感じですかこれ」
「嫌なの、ラルド」
「だってお前目茶苦茶怒っt あ、シルバーさん行っちゃった」
「ラルド」
「はい」
「満更でもなかったんだ?」
「え、いや、それ、言ったのしるb」
「あの人の名前は出さないで」
「はいっ」
「で?」
「ううっ……。さっきのは、雰囲気に呑まれただけだって!」
「でも抵抗しなかったよね」
「『でも』じゃなくて『だから』! ……って、あれ? ルビー、魔法使った?」
「さっき転移を」
「いやさ、それ以外。うん、やっぱり……匂いが違う」
「それが何だって言うのさ」
「……ルビー、何か隠してるね。おれに言いたく無いこと……魔法…………ゴールドに何したのあんた」
「……きみの勘の良さには参るね」
「って事は……」
「何にやにやしてるのかな」
「なーんでもなーい」
「話終わってないんだけど」
「ふーん。じゃあおれが分かっちゃった事、洗いざらい話しちゃっていいの? ルビーが『もうイヤ』って言っても喋りつづけちゃうよ?」
「分かったよ。でもじゃあ僕に言うことあるんじゃないの?」
「あんたは何も言ってくれないのに?」
「それは……」
「あ、シルバー」
「体に違和感は?」
「やっぱ気付いてたんだな。何もねぇよ」
「そうか」
「やっぱお前じゃないと駄目なんだなー。あー落ち着く」
「姉さんの時はどうしたんだ?」
「それ直接聞く?」
「姉さんに聞いてほしいのか?」
「それは勘弁……」
「…………」
「で、喋れってことかよこの沈黙は! ブルーさんは体の緊張を解く魔法をかけてもらったんだよ。まぁ途中から効かなくなったけどよ」
「効かなくなった? 姉さんの魔法が?」
「ああ。最初のうちは気分もふわふわしててさ、血ぃ吸われてるときも気持ちいーくらいだったんだけど、キスした時にすげー違和感覚えたんだよな。んで我に返ったらもうダメだった。ブルーさんには悪い事したよなぁ。つーかシルバー、お前何かしてんの?」
「いや、呪いの類はかけていない」
「んじゃ愛の力か」
「体質的なものだと思うぞ」
「即答すんなよ」
*
「……待てよ。お前、吸血された事ないのか?」
「あ。……うん。ルビーは結構際どい事をやってくるけど、まだ、一度も」
「まー気持ちわかるかもなぁ。お前って見た目は手ぇ出したらまずそうに見えるし」
「あんたよりは確実に年上だよ」
「知ってる。シルバーがオレを拾う前からルビーのモノなんだろ? でも見かけがなぁ」
「ゴールドはいつだったの?」
「初めて吸われた歳か? えーっと……14、だな」
「じゃあおれとそんなに変わらないじゃん」
「いや、まぁ、なぁ? そこは置いといてよ……んじゃ、ルビーに直接理由聞いてみたらどうだ?」
「……レッド。離れてくれないか」
「だから御祝いに、おれの為に死んで? グリーンが死ねば、グリーンはおれのモノにできるからね」
「まだ死ぬ気はない。取り合えず、は、な、れ、ろ、レッド」
「ちぇー」
「グリーンさん……っ!」
「危ないな、イエロー」
「大嫌いです。貴方なんて」
「だったらレッドを何とかしてくれ……」
「それが出来ればボクはっ」
「俺はブルーのモノだから勝手には死ねない。それに俺が死んだら今度はレッドのモノらしいぞ? お前はそれでいいのか」
「おーっす、グリーンさんいたいた」
「ゴールドか」
「シルバーからのお届け物っすよ、ほら」
「造血剤か。毎度毎度、すまないな」
「そんじゃ、お楽しみくださいませ、っと。オレもシルに飲んでもらおうかなー」
「お前はいらないのか?」
「造血剤っすか? あいつはブルーさん程は飲みませんから」
「ブルー」
「グリーン。誕生日おめでと。皆に御祝いしてもらったの?」
「まともに祝われたのはシルバーくらいだな」
「さっすがあの子。分かってるじゃない」
グリーンさんのキャラが迷子過ぎる件について
*
「ふーん。ねぇ、ゴールド」
「な、んだ……っ!? お前も、吸血鬼かよ……!」
「へぇ。馬鹿だけど抵抗はできるんだ」
「馬鹿は余計だ、っての……!!」
「呼ばないの? 彼」
「誰が呼ぶかよっ!」
「強情なところはそっくりだね。ほら、そんなに体を強張らせないで。吸血は初めてじゃないでしょう?」
「てめえなんざに、吸われて堪るか……!」
「いいねその顔。凄くそそる」
「こんの変態が! っておい? ルビー?」
「なるほどね……そういう手に出るんだ」
「は? あ、消えた。……何だったんだあいつ?」
「しししししし、シルバーさんっ!?」
「何だ、ラルド」
「と、とと突然、どうしたんですかおれの血なんて興味ないんじゃなかったんですか!?」
「気にするな。嫌がらせだ」
「ええっ!? おれ、ななな何かしましたか!?」
「満更でもないんだろう?」
「え、いや、ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!」
「……やってくれますねシルバーさん」
「何の事だ?」
「いいです、もう。離れてくれませんか」
「ああ。……すまなかったな、ラルド」
「え、おれ、置いていかれる感じですかこれ」
「嫌なの、ラルド」
「だってお前目茶苦茶怒っt あ、シルバーさん行っちゃった」
「ラルド」
「はい」
「満更でもなかったんだ?」
「え、いや、それ、言ったのしるb」
「あの人の名前は出さないで」
「はいっ」
「で?」
「ううっ……。さっきのは、雰囲気に呑まれただけだって!」
「でも抵抗しなかったよね」
「『でも』じゃなくて『だから』! ……って、あれ? ルビー、魔法使った?」
「さっき転移を」
「いやさ、それ以外。うん、やっぱり……匂いが違う」
「それが何だって言うのさ」
「……ルビー、何か隠してるね。おれに言いたく無いこと……魔法…………ゴールドに何したのあんた」
「……きみの勘の良さには参るね」
「って事は……」
「何にやにやしてるのかな」
「なーんでもなーい」
「話終わってないんだけど」
「ふーん。じゃあおれが分かっちゃった事、洗いざらい話しちゃっていいの? ルビーが『もうイヤ』って言っても喋りつづけちゃうよ?」
「分かったよ。でもじゃあ僕に言うことあるんじゃないの?」
「あんたは何も言ってくれないのに?」
「それは……」
「あ、シルバー」
「体に違和感は?」
「やっぱ気付いてたんだな。何もねぇよ」
「そうか」
「やっぱお前じゃないと駄目なんだなー。あー落ち着く」
「姉さんの時はどうしたんだ?」
「それ直接聞く?」
「姉さんに聞いてほしいのか?」
「それは勘弁……」
「…………」
「で、喋れってことかよこの沈黙は! ブルーさんは体の緊張を解く魔法をかけてもらったんだよ。まぁ途中から効かなくなったけどよ」
「効かなくなった? 姉さんの魔法が?」
「ああ。最初のうちは気分もふわふわしててさ、血ぃ吸われてるときも気持ちいーくらいだったんだけど、キスした時にすげー違和感覚えたんだよな。んで我に返ったらもうダメだった。ブルーさんには悪い事したよなぁ。つーかシルバー、お前何かしてんの?」
「いや、呪いの類はかけていない」
「んじゃ愛の力か」
「体質的なものだと思うぞ」
「即答すんなよ」
*
「……待てよ。お前、吸血された事ないのか?」
「あ。……うん。ルビーは結構際どい事をやってくるけど、まだ、一度も」
「まー気持ちわかるかもなぁ。お前って見た目は手ぇ出したらまずそうに見えるし」
「あんたよりは確実に年上だよ」
「知ってる。シルバーがオレを拾う前からルビーのモノなんだろ? でも見かけがなぁ」
「ゴールドはいつだったの?」
「初めて吸われた歳か? えーっと……14、だな」
「じゃあおれとそんなに変わらないじゃん」
「いや、まぁ、なぁ? そこは置いといてよ……んじゃ、ルビーに直接理由聞いてみたらどうだ?」
「おう、シルバー。何してんだ?」
「あんたこそ何しているんだ」
「見りゃわかんだろー? タバコだよた・ば・こ! 生徒の教育上よろしくないってことで、あんまおおっぴらにゃあ吸えないんだよ」
「……おおっぴら以前に校内は禁煙だったはずですが」
「そう言いつつも止めてこないよなお前。……ははーん」
ゴールドがにやり、と笑う。
「さてはお前、煙草吸った後の俺の匂い結構好きなんじゃねーの? 吸った後は結構寄ってくるもんなァ?」
「そ、んなことはない!」
シルバーが耳まで赤くなる。ぷい、と背を向けて逃げ出そうとするところをゴールドが後ろから捕まえる。
「ったく、天の邪鬼だなお前は。本当は好きなくせに」
「…………」
収まりが悪いとばかりにシルバーが体の向きを変えると、ゴールドの胸に顔をうずめた。
「おーい、シルバー?」
「……煙草は、嫌いだ」
ぽつり、とシルバーが呟く。
「どうしてだよ?」
「…………いつまでたってもあんたに、追いつけないって思い知らされるから」
戻ってきたゴールドを見るなり、シルバーは珍しく驚いた顔をした。
「何もしてこなかったのか?」
「……なんで見た瞬間にそれがわかるんだよ」
「身体の接触は魔術的な繋がりを生む。お前の魔力はオレ由来のものだから、どのくらい姉さんの魔力と混ざっているのかは見ればわかる」
「そうかよ。で、なんでそんなに驚いてんだお前は!」
「姉さんは多飲体質だと言っただろう。多飲すなわち多淫。繁殖能力の低いオレ達は総じて性的な行為を楽しむ傾向にある。当然、貞操観念もお前たち人間より弱い。姉さんの事だからとりあえずお前を誘うだろうと思っていたんだが……」
「誘うなんて生易しいもんじゃないぞあれは! 俺は襲われた! めちゃくちゃ怖かったんだからな!」
必死になって訴えるゴールドにシルバーがくつくつと笑う。ぽんぽん、とゴールドの頭を撫でる。
「それはよくやったな」
*
くらくらする。気持ち良い。そして、熱い。体中の熱が解放を求めて暴れ回っている。必要なのは、もっと強い、直接的な快感だ。
足りない。もっと、もっと。
体を相手の方に起こす。触れる場所を探して顔を寄せると、相手の笑いが深くなった。唇に噛み付く。舌を差し入れ咥内を蹂躙して、そして、気づいた。相手を突き飛ばす。だらし無く濡れた唇を腕で拭うが、口の中に残った嫌悪感は消えない。
「ちがう」
「あら、何が違うの?」
「あんた、シルバーじゃ、ない」
ブルーがくすりと笑った。愚かな人間を嘲るように、耳朶を甘噛みしながら言葉を落とす。
「今更それが何だって言うの? あの子だって、あなたをここに送り出した時点で分かってるわ」
ブルーがゴールドの局部を服越しに撫でる。
「強がらなくていいの。あなた、限界でしょう? 私はあなたよりも絶対的な強者。逆らえないのは当然だわ」
「……違う」
「何が?」
「あいつの事はどうだっていいんだ。俺が、だめなんだ」
ごめん、ブルーさん。ぽつりと零したゴールドに、ブルーが気配を変える。
「好きな子じゃないと抱けない、と。あんた思ってたよりも真面目ねー、ゴールド」
「失礼な事言ってすみません」
「いつまで畏まってんのよ。あんたすみませんってガラじゃないでしょ。いっつも悪ぃ! くらいのノリなのに」
「だってブルーさんめちゃめちゃ怖かったじゃないっスか!」
「当たり前よ、怖がらせたんだから。ま、それでも我慢した辺り我が弟もいいカモ捕まえたんじゃない? 味は微妙だったけど」
「……あれだけ飲んで微妙っスか」
「うーん、まずくは無かったんだけどねぇ。極上! って感じじゃあ無かったわね。あんた若すぎるわ」
言いながらブルーがゴールドの服を整えていく。
「よーし終わりっ! どうする? ゴールド。少し休んでから行く?」
「もうおいとまさせてもらっていいっスか……」
「分かったわ」
ブルーがぱちん、と指を鳴らす。音もなく壁に現れた扉をゴールドはくぐっていった。
*
「ゴールド。飲んでおけ」
そう言ってシルバーがゴールドに差し出したのは、
「何だこれ?」
「増血剤だ」
「何で?」
「姉さんは一回の吸血量が多い。貧血になるぞ」
*
「ゴールド」
そう俺の名前を呼んで、シルバーは貪るように俺の唇に噛み付く。銀の瞳に透けて見える激情にも、息の仕方を忘れそうな激しいキスの意味にも、俺はちゃんと気付いてるよ。
「シルバー」
だからキスの合間に一つだけ、俺の意識がはっきりしている間にどうしても伝えたい事があって。無理矢理に音にしたら随分と吐息混じりの、弱々しい声になった。
「俺も、あいしてる」
今度は俺からキスをして、でもやっぱり咥内にシルバーは侵入してきて、舌を絡め取られてさっきよりももっと深いキスになって。今度は素直にシルバーに身を任せた。
なぁ、まだまだ全然足りないよ。だからさぁ、シルバー。
もっともっと、俺を愛して?
*
「これでお前はオレ無しでは生きられない」
「みたいだな。でも、お前もだろ?」
「ああ」
「んじゃお互い様だなー。とりあえず、飽きるまで一緒にいよう。飽きたらグリーンさんみたいにちょっと出ていって、寂しくなったら帰ってくる」
「姉さん達は昔からああだぞ」
「知ってる」
「離れている間にオレが眷属を増やしていたら?」
「そうなる前には帰ってくるって!」
*
「サファイア! 大丈夫だった? 何もされてない?」
「ルビーはいちいち大袈裟ったい。あれ、ラルドは?」
「あ。……置いてきちゃった」
「機嫌悪なっとっても知らんよ、あたし」
*
2011/8/18
思い出せ。ダイパはダイヤが壊れ気味で、にこにこ笑いながら銃ぶっ放す感じ。そんなダイヤの隣に立ち続けるまだまともなパール。まともでありつづけているパールの方が異端。
最愛のサファイアを殺されて復讐に走るルビー(サファまじごめん)。ラルドはルビーの最後の良心的な? まだ手を汚していない。
金銀はこっちの世界に慣れきってしまって感覚が麻痺している銀(どっちかというと感情が死にかけ)と、壊れたふりをして必死にまともであろうとする金。金が殺しの仕事の後に縋り付くのはいつも銀で、そんな金に感化されて徐々に感情の起伏が出てくる銀。
赤緑はぱっと見まとも。なんだけど、一番壊れちゃってる二人。無邪気に残酷なのが赤、誰よりも容赦が無いのが緑。ただし、身内には甘いけど。
「あれ。パール~、もう終わり?」「終わったよ、ダイヤ」だからもう帰ろう、そう言おうと口を開いた瞬間に響き渡る銃声。「終わってないよ。裏切り者には死んでもらわないと」「……じきに死ぬだろ」自分の罪悪感から逃れる為に作った逃げ道をダイヤが丁寧に壊していく。一方的な銃声は、止まない。
写真立てを見つめる横顔は普段とは違って優しい。あの人との思い出を辿っているルビーはいつもそうで、話しかけるのは躊躇ってしまう。復讐の気持ちがわからないわけではないけど、でも、やっぱり、ルビーには似合わない。「ルビー」「なに、エメラルド」「もう、やめようよ」
「いくら洗ったところで取れないぞ、血の臭いは」「うるせぇ、わかってるっ! でも気持ち悪ぃんだからしゃーねーだろっ!」「だから俺がすると言ったのに」「っ、大体なんでお前はケロっとしてるんだよ!」「姉さん以外の命はどうでもいいからだろうな」「……っ、このシスコンめ! 死ね!」「断る」
シルにはあんまり殺しをしてほしくなくて見栄張ったんだけど殺しは怖くて怖くてしかたがなくてそれを見透かされてるゴー……でいいの? 随分とマフィアっぽくない。赤緑は書けなさそうなので省略。
2011/8/27
「へぇー。やるじゃん、シル公」「……黙れ」「やーなこった。なぁお前、知ってた?」鼻血を手の甲で拭い取ってゴールドがにやり、と笑う。「俺ってやられたらやり返さずにはいられない、って事をよぉ!」
2011/09/05
「くっそ、マジでムカつく! あんな奴こっちから願い下げだっての!」「またシルバーと痴話喧嘩?」「もうあいつなんか恋人じゃねーっての!」「じゃあ何なの?」「へ? えーっと……ダチ公?」「……やっぱり痴話喧嘩よねぇ」
「あれ、ゴールドは?」「別れた」「……また?」「今度こそ、だ。もうあいつには愛想が尽きた」「そう言いつつゴールドと別れるの何回目よシルバー」「……丁度10回目だな」「もう心配なんてしないわよ私。仲裁だってしないんだから。勝手に仲直りしときなさいよ、全く……」
2011/09/15
「お前が俺になれないように」言いながらあいつが俺の頭に手を乗せる。「俺はお前になれない」お互いにどれほど焦がれようとも。でもそれでいいのだとあいつは笑う。「俺がお前になってしまったらきっと今度は俺に俺になりたくなる。そんなの不毛じゃねぇか」だからこのままでいいのだと。
「こーらシルバー、お前ちゃんと髪吹けよ(ごしごし」「む。あぁ、すまん」「お前髪切らねぇの?」「この間お前から髪を切るなと言われたばかりだと思うんだが」「そりゃお前の髪は好きだけどさー、でもお前がめんどくね?」「慣れてるから余りそうは思わないな」「そんなもん?」「そんなものだ」
2011/10/10
「うんだからあのねルビー」「なにラルド」「なんでそんなにオレにへばり付くわけ?」「ラルドって収まりいいんだよね。小s「誰が小さいって!?」「…まだ僕最後まで言ってないよね。人の話を聞かないエメラルド君にはこのまま僕に抱き着かれる刑を執行しまーす」「話聞かないのはアンタだろっ!?」
「痛い痛い痛い! 何すんだよ!」「あれ、マジックハンドはどこまでだっけ」「……何する気?」「うん、サファイアのスカートをめくれないかなと思って」「…………。ルビー、アンタ顔はいいんだからそういう残念な事口に出すのやめた方がいいよ」「じゃあラルドにするよ」「どういう意味だよっ!?」
金「おーシルー」銀「なんだ」金「ぎゅうってしやがれー」銀「はいはい」むぎゅっ 銀「これで満足か?」金「おう。なんか眠くなっ、て…きた……」銀「……そうか。おやすみ、ゴールド」金「ん……おやすみぃ、シル、バー……」
2011/10/13
「膝抱っこしても文句言わなくなったね、ラルド」「騒いだって絶対下ろしてくんないじゃん。もう慣れた」「ふぅん……慣れるんだ」(……あれ、いま凄い失言しちゃった?)「じゃあこれにも慣れてね」「※%*&¥$!? るるるるる、ルビー!?!?」「あはは、真っ赤になっちゃってかーわいい」
2011/10/19
「死ね」「お前がな」「何でお前なんだ」「こっちが聞きたい」「分かんねえんだよ」「俺もわからん」「ああもう死ね! お前なんか死んじまえ!」「ゴールド」「うるせえ馬鹿」「好きだ」「……もう知ってる」「お前は?」「っ、好きに決まってんだろこの馬鹿シルバー!!!」
思い出せ。ダイパはダイヤが壊れ気味で、にこにこ笑いながら銃ぶっ放す感じ。そんなダイヤの隣に立ち続けるまだまともなパール。まともでありつづけているパールの方が異端。
最愛のサファイアを殺されて復讐に走るルビー(サファまじごめん)。ラルドはルビーの最後の良心的な? まだ手を汚していない。
金銀はこっちの世界に慣れきってしまって感覚が麻痺している銀(どっちかというと感情が死にかけ)と、壊れたふりをして必死にまともであろうとする金。金が殺しの仕事の後に縋り付くのはいつも銀で、そんな金に感化されて徐々に感情の起伏が出てくる銀。
赤緑はぱっと見まとも。なんだけど、一番壊れちゃってる二人。無邪気に残酷なのが赤、誰よりも容赦が無いのが緑。ただし、身内には甘いけど。
「あれ。パール~、もう終わり?」「終わったよ、ダイヤ」だからもう帰ろう、そう言おうと口を開いた瞬間に響き渡る銃声。「終わってないよ。裏切り者には死んでもらわないと」「……じきに死ぬだろ」自分の罪悪感から逃れる為に作った逃げ道をダイヤが丁寧に壊していく。一方的な銃声は、止まない。
写真立てを見つめる横顔は普段とは違って優しい。あの人との思い出を辿っているルビーはいつもそうで、話しかけるのは躊躇ってしまう。復讐の気持ちがわからないわけではないけど、でも、やっぱり、ルビーには似合わない。「ルビー」「なに、エメラルド」「もう、やめようよ」
「いくら洗ったところで取れないぞ、血の臭いは」「うるせぇ、わかってるっ! でも気持ち悪ぃんだからしゃーねーだろっ!」「だから俺がすると言ったのに」「っ、大体なんでお前はケロっとしてるんだよ!」「姉さん以外の命はどうでもいいからだろうな」「……っ、このシスコンめ! 死ね!」「断る」
シルにはあんまり殺しをしてほしくなくて見栄張ったんだけど殺しは怖くて怖くてしかたがなくてそれを見透かされてるゴー……でいいの? 随分とマフィアっぽくない。赤緑は書けなさそうなので省略。
2011/8/27
「へぇー。やるじゃん、シル公」「……黙れ」「やーなこった。なぁお前、知ってた?」鼻血を手の甲で拭い取ってゴールドがにやり、と笑う。「俺ってやられたらやり返さずにはいられない、って事をよぉ!」
2011/09/05
「くっそ、マジでムカつく! あんな奴こっちから願い下げだっての!」「またシルバーと痴話喧嘩?」「もうあいつなんか恋人じゃねーっての!」「じゃあ何なの?」「へ? えーっと……ダチ公?」「……やっぱり痴話喧嘩よねぇ」
「あれ、ゴールドは?」「別れた」「……また?」「今度こそ、だ。もうあいつには愛想が尽きた」「そう言いつつゴールドと別れるの何回目よシルバー」「……丁度10回目だな」「もう心配なんてしないわよ私。仲裁だってしないんだから。勝手に仲直りしときなさいよ、全く……」
2011/09/15
「お前が俺になれないように」言いながらあいつが俺の頭に手を乗せる。「俺はお前になれない」お互いにどれほど焦がれようとも。でもそれでいいのだとあいつは笑う。「俺がお前になってしまったらきっと今度は俺に俺になりたくなる。そんなの不毛じゃねぇか」だからこのままでいいのだと。
「こーらシルバー、お前ちゃんと髪吹けよ(ごしごし」「む。あぁ、すまん」「お前髪切らねぇの?」「この間お前から髪を切るなと言われたばかりだと思うんだが」「そりゃお前の髪は好きだけどさー、でもお前がめんどくね?」「慣れてるから余りそうは思わないな」「そんなもん?」「そんなものだ」
2011/10/10
「うんだからあのねルビー」「なにラルド」「なんでそんなにオレにへばり付くわけ?」「ラルドって収まりいいんだよね。小s「誰が小さいって!?」「…まだ僕最後まで言ってないよね。人の話を聞かないエメラルド君にはこのまま僕に抱き着かれる刑を執行しまーす」「話聞かないのはアンタだろっ!?」
「痛い痛い痛い! 何すんだよ!」「あれ、マジックハンドはどこまでだっけ」「……何する気?」「うん、サファイアのスカートをめくれないかなと思って」「…………。ルビー、アンタ顔はいいんだからそういう残念な事口に出すのやめた方がいいよ」「じゃあラルドにするよ」「どういう意味だよっ!?」
金「おーシルー」銀「なんだ」金「ぎゅうってしやがれー」銀「はいはい」むぎゅっ 銀「これで満足か?」金「おう。なんか眠くなっ、て…きた……」銀「……そうか。おやすみ、ゴールド」金「ん……おやすみぃ、シル、バー……」
2011/10/13
「膝抱っこしても文句言わなくなったね、ラルド」「騒いだって絶対下ろしてくんないじゃん。もう慣れた」「ふぅん……慣れるんだ」(……あれ、いま凄い失言しちゃった?)「じゃあこれにも慣れてね」「※%*&¥$!? るるるるる、ルビー!?!?」「あはは、真っ赤になっちゃってかーわいい」
2011/10/19
「死ね」「お前がな」「何でお前なんだ」「こっちが聞きたい」「分かんねえんだよ」「俺もわからん」「ああもう死ね! お前なんか死んじまえ!」「ゴールド」「うるせえ馬鹿」「好きだ」「……もう知ってる」「お前は?」「っ、好きに決まってんだろこの馬鹿シルバー!!!」
「いっそのこと、お前のものにしてくれたっていいんだぜ?」
吸血の後、気だるげにしたゴールドは言う。
「俺はできる限りずっとあんたといたい。お前だって、俺達の寿命の差を考えると俺の血を吸えるのはほんの僅かな間だろ? ちんたら迷ってるとあっさり俺は逝っちまうからな?」
腕を伸ばしてじゃれてきたゴールドの背中に腕を回した。生きている体温の温もりを感じる。今は、まだ。ゴールドは生きている。
「わかっている」
先程牙を突き立てたばかりの噛み痕に舌を這わす。ゴールドが僅かに息を飲んだ。
ゴールドの言う通りなのだ。確かに俺はゴールドを、オレに比べると遥かに寿命の短い人間を、側に置きたいと思っている。そしてその為の手段もある。
でも。
それはオレだけの望みだ。オレはゴールドが寿命を全うするまで側にいるだろう。それはオレにとってはほんの僅かな時間だが、ゴールドにとっては「生きている間ずっと」だ。ゴールドの望みは、何もしなくても達せられる。
オレの都合でだけで、ゴールドの、人間の寿命を徒に伸ばす事は、本当にこいつにとっての幸せなのだろうか。人間として生きる事を捨てさせる事が、人間であるゴールドの幸せになりうるのだろうか。
「今日はずいぶんと甘えただな、シルバーちゃんよ。もうちょっと吸うか?」
「いや、これ以上もらうとお前の体調に障る」
「別にいいのに」
気まぐれで助けた幼子は、気付けばもう見た目はオレと同じくらいの歳になった。そしてまた気付いた時には永久に失っているのだろう。それにオレは、耐えられるのだろうか。
「んじゃ代わりにキスしてやるよ」
オレの眼前で金色の瞳が笑う。
この時が永久に続けばいいと、そう願った。
*
村に来たのはそれなりに久しぶりになるのだろうか。前はゴールドをここに送った。今日はその逆だ。
――最近風邪がはやっててよ、なかなか抜け出せれねぇんだよ。
この間ゴールドは確かにそう言っていた。そしてグリーンから聞いた流行病の話。おそらく、この村で広まってるのもその流行病だろう。致死率が高く、いくつもの集落を壊滅に追いやったと、聞いている。
村は静かだった。通りに人の姿がほとんど無い。ゴールドに微かに移った自分の魔力の気配を追うと、ようやく彼の住居にたどり着いた。
ノックを3回。出てきたのはやつれたゴールドの母親で、オレの顔を見るなり息を飲んだ。10年以上昔に自分の子供を連れて来た男の事を、まだ覚えていたらしい。
「あな、たは……」
「あいつを迎えに来ました。会わせてもらえませんか」
穏便にすむならそれに越したことはない。そう思っての問い掛けだったが、母親はゆるゆると首を横に振った。強張った体で、絞り出すようにオレに懇願する。
「お願いします、あの子を連れていかないでください……!!」
「あれはもう死にかけている。死神の手に委ねるのも、オレが引き取るのも同じ事でしょう」
「ですが、あの子はまだっ……!!」
縋り付いてくる手を引き離し、建物に侵入する。ゴールドの気配は、上だ。うなだれ、泣き崩れる母親を振り返る。
「……死んでしまっては、オレには何もできない」
だからオレは、死なさぬ為に出来る事があるのならば全力でそれを行うだけだ。
梯子のような階段を昇る。その先にようやく求めていた姿が見えた。荒い息が聞こえる。額に載せられた意味の無くなったタオルを外し、代わりに手を伸ばす。ゆっくりと瞼を上げたゴールドがオレを見た。
「来ると、思ってたぜぇ、シル、バー、ちゃん」
「それはいい勘だな」
「あんま、母さん、いじめんな、よ……。気ぃ、弱いんだ」
「それは無理な相談だな。オレはお前以外の人間なんてどうでもいい事くらい知っているだろう? お前をこの世に生み出してくれた事には、大いに感謝しているが」
つーっと右手で顔の輪郭を撫でてゴールド顎の先まで指を滑らせる。ゴールドが心地良さそうに目を細めた。
牙で、自分の唇を噛み切る。それから舌を唇に這わせて血が流れている事を確認した。これを飲めば、ゴールドの命の危機はひとまず去るだろう。しかし、それはゴールドが人間でなくなることとも、同じだ。本当に、それでいいのか。ゴールドに体を寄せたまま、思考の迷路に迷い込んでいたオレを噎せながらゴールドが笑う。
「シルバー、それ、えっろ……」
けたけたと屈託なく笑うゴールドに感じたのは愛おしさだった。熱に浮かされた金色の瞳が、どんな魔法よりも強烈にオレを狂わせる。幸せかどうかなんてどうでもいい。ただオレは、こいつが欲しい。欲しくて欲しくて堪らない。そして手に入れる為の方法が、ある。何を躊躇う事があるだろうか。だってオレは、こんなにもこいつを、
「ゴールド」
唇を重ねる。傷口を押し付けて、血混じりの唾液を交換しあって、それをゴールドが飲み下すまで。
オレたちはずっと、口付けを交わしていた。
*
吸血の後、気だるげにしたゴールドは言う。
「俺はできる限りずっとあんたといたい。お前だって、俺達の寿命の差を考えると俺の血を吸えるのはほんの僅かな間だろ? ちんたら迷ってるとあっさり俺は逝っちまうからな?」
腕を伸ばしてじゃれてきたゴールドの背中に腕を回した。生きている体温の温もりを感じる。今は、まだ。ゴールドは生きている。
「わかっている」
先程牙を突き立てたばかりの噛み痕に舌を這わす。ゴールドが僅かに息を飲んだ。
ゴールドの言う通りなのだ。確かに俺はゴールドを、オレに比べると遥かに寿命の短い人間を、側に置きたいと思っている。そしてその為の手段もある。
でも。
それはオレだけの望みだ。オレはゴールドが寿命を全うするまで側にいるだろう。それはオレにとってはほんの僅かな時間だが、ゴールドにとっては「生きている間ずっと」だ。ゴールドの望みは、何もしなくても達せられる。
オレの都合でだけで、ゴールドの、人間の寿命を徒に伸ばす事は、本当にこいつにとっての幸せなのだろうか。人間として生きる事を捨てさせる事が、人間であるゴールドの幸せになりうるのだろうか。
「今日はずいぶんと甘えただな、シルバーちゃんよ。もうちょっと吸うか?」
「いや、これ以上もらうとお前の体調に障る」
「別にいいのに」
気まぐれで助けた幼子は、気付けばもう見た目はオレと同じくらいの歳になった。そしてまた気付いた時には永久に失っているのだろう。それにオレは、耐えられるのだろうか。
「んじゃ代わりにキスしてやるよ」
オレの眼前で金色の瞳が笑う。
この時が永久に続けばいいと、そう願った。
*
村に来たのはそれなりに久しぶりになるのだろうか。前はゴールドをここに送った。今日はその逆だ。
――最近風邪がはやっててよ、なかなか抜け出せれねぇんだよ。
この間ゴールドは確かにそう言っていた。そしてグリーンから聞いた流行病の話。おそらく、この村で広まってるのもその流行病だろう。致死率が高く、いくつもの集落を壊滅に追いやったと、聞いている。
村は静かだった。通りに人の姿がほとんど無い。ゴールドに微かに移った自分の魔力の気配を追うと、ようやく彼の住居にたどり着いた。
ノックを3回。出てきたのはやつれたゴールドの母親で、オレの顔を見るなり息を飲んだ。10年以上昔に自分の子供を連れて来た男の事を、まだ覚えていたらしい。
「あな、たは……」
「あいつを迎えに来ました。会わせてもらえませんか」
穏便にすむならそれに越したことはない。そう思っての問い掛けだったが、母親はゆるゆると首を横に振った。強張った体で、絞り出すようにオレに懇願する。
「お願いします、あの子を連れていかないでください……!!」
「あれはもう死にかけている。死神の手に委ねるのも、オレが引き取るのも同じ事でしょう」
「ですが、あの子はまだっ……!!」
縋り付いてくる手を引き離し、建物に侵入する。ゴールドの気配は、上だ。うなだれ、泣き崩れる母親を振り返る。
「……死んでしまっては、オレには何もできない」
だからオレは、死なさぬ為に出来る事があるのならば全力でそれを行うだけだ。
梯子のような階段を昇る。その先にようやく求めていた姿が見えた。荒い息が聞こえる。額に載せられた意味の無くなったタオルを外し、代わりに手を伸ばす。ゆっくりと瞼を上げたゴールドがオレを見た。
「来ると、思ってたぜぇ、シル、バー、ちゃん」
「それはいい勘だな」
「あんま、母さん、いじめんな、よ……。気ぃ、弱いんだ」
「それは無理な相談だな。オレはお前以外の人間なんてどうでもいい事くらい知っているだろう? お前をこの世に生み出してくれた事には、大いに感謝しているが」
つーっと右手で顔の輪郭を撫でてゴールド顎の先まで指を滑らせる。ゴールドが心地良さそうに目を細めた。
牙で、自分の唇を噛み切る。それから舌を唇に這わせて血が流れている事を確認した。これを飲めば、ゴールドの命の危機はひとまず去るだろう。しかし、それはゴールドが人間でなくなることとも、同じだ。本当に、それでいいのか。ゴールドに体を寄せたまま、思考の迷路に迷い込んでいたオレを噎せながらゴールドが笑う。
「シルバー、それ、えっろ……」
けたけたと屈託なく笑うゴールドに感じたのは愛おしさだった。熱に浮かされた金色の瞳が、どんな魔法よりも強烈にオレを狂わせる。幸せかどうかなんてどうでもいい。ただオレは、こいつが欲しい。欲しくて欲しくて堪らない。そして手に入れる為の方法が、ある。何を躊躇う事があるだろうか。だってオレは、こんなにもこいつを、
「ゴールド」
唇を重ねる。傷口を押し付けて、血混じりの唾液を交換しあって、それをゴールドが飲み下すまで。
オレたちはずっと、口付けを交わしていた。
*
ああいらいらする。
この澄ました顔の仕事上のパートナーがムカついて仕方がない。目隠しをしたままベッドに腰掛け、誰もいない方に向かって声を飛ばす。
誰に向かって喋ってんだ俺はこっちだ!
苛立ちのままにそいつの目隠しを毟り取る。きーきー五月蝿い監視係が脳裏を掠めたがすぐに黙殺した。色素の薄い灰色の瞳が数瞬して俺にピントを合わせる。
「ホント、石みてぇな色だな」
嗤ってやるとその瞳が俺を睨みつける。気分が良くなって口角を上げると、ふっつりと瞼を下ろしやがった。
嗚呼ムカつく!
肩を突き飛ばしてベッドの上に押し倒す。それでも頑なに閉ざされた瞳にいらついて瞼に噛み付こうとするが、見てもいないのにそれに気付いた奴は目を庇うように腕を伸ばしやがった。
がり、とその細い腕に噛み付く。ぴくり、と奴の体が跳ねるが呻き声一つ漏らさない。口の中に血の味が広がっていく。ああ不味い。唾を吐き捨てる。
「何か言えよ!」
さっきから一言も漏らさないこいつがムカついてムカついて仕方がない。衝動的に右手を振り上げると、それを見計らっていたのか奴は体を捻り踵で俺の背を強かに蹴り上げた。痛みに一瞬飛んだ意識が戻ると、俺の拘束を抜けたあいつが片足を振り下ろす! 反射的に取った受け身の体勢で衝撃に備えるが、遂に蹴りが俺に入る事は無かった。
俺達を軟禁している自動ドアの駆動音。
「あなたたち、何してるの!」
漸く監視係が部屋に着いたらしかった。
*
大抵の雑音は無視していると自然と静かになる。そうして得た静寂の中でないと、目の代わりに敏感になってしまった聴覚は休まらないのだ。目は閉じる事ができる。しかし耳を塞ぐことはできない。だからこそ、自室にいられるときは静かにしていたい。
そういうわけで、オレは適当にゴールドに生返事をしていた。こいつはクリスと同じで、無視すればするほどうるさくなるタイプなのは既に身に染みている。
それが、どうにも奴の気に障ったらしい。唐突に手を伸ばしてきたと思ったら、無理矢理オレの目隠しを外しにかかった。わけがわからない。
久しぶりに外界に触れた瞼が思わず開く。突然の光に目を慣らしていると、目の前のゴールドの眦が僅かに緩んだ。まずい。
――他人を『見て』しまった。
しかしゴールドには何も起こらない。そういう能力だと思い出す間もなく、ゴールドはオレの視界いっぱいに入ってきて嗤った。
「ホント、石みてぇな色だな」
それがオレの欠陥を指しての言葉だということには嫌でも気付いた。反射的に睨めつけるとニィ、とゴールドが笑う。変態じみたことにこいつはオレに睨まれるのが嬉しいらしい。喜ばせるのも癪でさっさと目を閉じた。本当に、わけがわからない。
ゴールドは、不安定だ。大人しくしていると思えば突然オレに当たり散らす。暴れだしたと思えば唐突に静かになる。自己顕示欲の強さは無関心への恐怖の裏返しだ。頭では分かっているが、だからと言って安心するまで構ってやるほどオレは物好きではない。不安を解消するために当たり散らされるのも迷惑だ。
女装シルその2。
ドラッグストアの化粧品売場にて。
あまり迷わずに化粧品を籠に放り込むシルバーをサファイアが目撃。
「シ、シルバーさん!? どげんしてこんなとこに」
「サファイアか。見ての通り、買い物だ」
「……シルバーさんお化粧するん?」
「たまにはな」
「まるでルビーみたいやね。意外ー」
「そういうお前はルビーに何か言われたのか?」
「ち、違うったい。こないだ遊んだ時にお化粧して貰って、そん時にあいつが妙に嬉しそうやったから……お化粧した方がルビー喜ぶんか、なぁ……って」
「ルビーは幸せ者だな」
「うぅ……」
「……だがな、サファイア。お前にその色のリップクリームは合わないと思う」
「そ、そうったい?」
「色が濃すぎる。ルビーと一緒に来て選んで貰えばいいんじゃないか?」
「こげんなことルビーに言ったら笑われそうったい」
「そんなことはないだろう。好きな女が自分の為に着飾ろうとしてくれたら嬉しいもんだぞ」
「じゃあシルバーさんはゴールドさんがお化粧した方が好きなん?」
「……サファイア、あいつは男だ」
「あ、ほんとだ」
*
女装シルバー。多分潜入捜査か何か。
「あ、シル……って女か。え、ちょ、おま、シルバー!?」
「声が大きい」
「ま、マジでシルバーじゃねーの……。お前、女だったのか?」
「そんなわけないだろう、女装だ女装」
「マジかよ……女にしか見えねーぞ……胸とかどうなってんのこれ?」
「パッドだからむやみに触るな。型が崩れる」
「まぁそうだよな……勿体ねぇ」
「どうせお前のことだから胸はあった方がいいと思って盛っておいたんだがどうだ? 案外貧乳の方が好みだったか?」
「おま、胸を盛るとかそんな夢の無い事言うなって! いやもう大歓迎!」
「それじゃあ、デートしてくれる?」
「あーうん、性別とかそんなのって些細な問題だったんだなーと今実感したわ。んじゃ行くかシル。因みに演技はすんの?」
「人目があるところではな。それ以外では面倒だから残念ながら無しだ」
「いや、ギャップ萌えで逆にいいかも……」
「単純だなお前」
*
「げっ、見つかる!」
「……場慣れていないな、お前は。何の為の女装だと思ってる」
「!? シル、近い!」
「キスの一つも出来ないのかお前は」
「……シル、お前、エロすぎ…………。なぁマジで勃ってきたんだけど」
「知るか。その辺で抜いてこい」
「それさっきまでキスしてた相手に言う台詞か?」
「手伝ってやってもいいんだぞ? その方が速く済みそうだしな、お前」
「ひっ……怖すぎて萎えましたお姉様……」
「分かればいい。行くぞ、ゴールド」
*
「てゆーかさ、シルバー。何でオレ指名だったの?」
「不満か?」
「いやいや全っ然! でも気になんじゃん、どう考えたってオレ足手まといだし」
「だからだ。足手まといの自覚があるのはいいが、いつまでもそのままでいられては困る」
「……なぁ、それだけ?」
「さぁな。教えてもらいたければ結果を出す事だ」
*
血に塗れた彼を助けてしまった瞬間から、こうなる事は分かっていたのだけれど。
「刺した時の感覚がさぁ……忘れられないんだよ。もう二度とやりたくねぇって思ってたのに、一度刺しちまったら前の時の事も一緒に思い出してきやがんの。別に嫌とも思わなかった、オレ。初めての時はあんなに吐いたのに、もう何とも思わねぇの。気持ち悪ぃ。オレはひとをころしたのに。なのに何とも思っちゃいねぇ」
俺に背を向けて延々とゴールドは喋り続ける。それが遠回りな俺への非難に聞こえるのは、紛れもなく罪悪感があるからだろう。――俺は、ゴールドに人を殺させた。その結果こうなる事も、予想は付いていた。
「なぁシルバー」
「なん、だ」
けれども、こちらを振り向いたゴールドの、その暗い瞳に射抜かれるだけで呼吸も止まりそうになるだなんて、思ってもみなかったんだ。絶望に染まったその昏い瞳を、よりにもよって美しいだなんて思ってしまうなんて。そしてゴールドが俺に縋り付くしかないという事実に、俺は悦びさえ感じていている。
「やっぱりオレは人殺しだな」
「ああ。俺もお前も殺人者だ」
「でもお前はオレを救ってくれた」
「矛盾することではないだろう」
ドラッグストアの化粧品売場にて。
あまり迷わずに化粧品を籠に放り込むシルバーをサファイアが目撃。
「シ、シルバーさん!? どげんしてこんなとこに」
「サファイアか。見ての通り、買い物だ」
「……シルバーさんお化粧するん?」
「たまにはな」
「まるでルビーみたいやね。意外ー」
「そういうお前はルビーに何か言われたのか?」
「ち、違うったい。こないだ遊んだ時にお化粧して貰って、そん時にあいつが妙に嬉しそうやったから……お化粧した方がルビー喜ぶんか、なぁ……って」
「ルビーは幸せ者だな」
「うぅ……」
「……だがな、サファイア。お前にその色のリップクリームは合わないと思う」
「そ、そうったい?」
「色が濃すぎる。ルビーと一緒に来て選んで貰えばいいんじゃないか?」
「こげんなことルビーに言ったら笑われそうったい」
「そんなことはないだろう。好きな女が自分の為に着飾ろうとしてくれたら嬉しいもんだぞ」
「じゃあシルバーさんはゴールドさんがお化粧した方が好きなん?」
「……サファイア、あいつは男だ」
「あ、ほんとだ」
*
女装シルバー。多分潜入捜査か何か。
「あ、シル……って女か。え、ちょ、おま、シルバー!?」
「声が大きい」
「ま、マジでシルバーじゃねーの……。お前、女だったのか?」
「そんなわけないだろう、女装だ女装」
「マジかよ……女にしか見えねーぞ……胸とかどうなってんのこれ?」
「パッドだからむやみに触るな。型が崩れる」
「まぁそうだよな……勿体ねぇ」
「どうせお前のことだから胸はあった方がいいと思って盛っておいたんだがどうだ? 案外貧乳の方が好みだったか?」
「おま、胸を盛るとかそんな夢の無い事言うなって! いやもう大歓迎!」
「それじゃあ、デートしてくれる?」
「あーうん、性別とかそんなのって些細な問題だったんだなーと今実感したわ。んじゃ行くかシル。因みに演技はすんの?」
「人目があるところではな。それ以外では面倒だから残念ながら無しだ」
「いや、ギャップ萌えで逆にいいかも……」
「単純だなお前」
*
「げっ、見つかる!」
「……場慣れていないな、お前は。何の為の女装だと思ってる」
「!? シル、近い!」
「キスの一つも出来ないのかお前は」
「……シル、お前、エロすぎ…………。なぁマジで勃ってきたんだけど」
「知るか。その辺で抜いてこい」
「それさっきまでキスしてた相手に言う台詞か?」
「手伝ってやってもいいんだぞ? その方が速く済みそうだしな、お前」
「ひっ……怖すぎて萎えましたお姉様……」
「分かればいい。行くぞ、ゴールド」
*
「てゆーかさ、シルバー。何でオレ指名だったの?」
「不満か?」
「いやいや全っ然! でも気になんじゃん、どう考えたってオレ足手まといだし」
「だからだ。足手まといの自覚があるのはいいが、いつまでもそのままでいられては困る」
「……なぁ、それだけ?」
「さぁな。教えてもらいたければ結果を出す事だ」
*
血に塗れた彼を助けてしまった瞬間から、こうなる事は分かっていたのだけれど。
「刺した時の感覚がさぁ……忘れられないんだよ。もう二度とやりたくねぇって思ってたのに、一度刺しちまったら前の時の事も一緒に思い出してきやがんの。別に嫌とも思わなかった、オレ。初めての時はあんなに吐いたのに、もう何とも思わねぇの。気持ち悪ぃ。オレはひとをころしたのに。なのに何とも思っちゃいねぇ」
俺に背を向けて延々とゴールドは喋り続ける。それが遠回りな俺への非難に聞こえるのは、紛れもなく罪悪感があるからだろう。――俺は、ゴールドに人を殺させた。その結果こうなる事も、予想は付いていた。
「なぁシルバー」
「なん、だ」
けれども、こちらを振り向いたゴールドの、その暗い瞳に射抜かれるだけで呼吸も止まりそうになるだなんて、思ってもみなかったんだ。絶望に染まったその昏い瞳を、よりにもよって美しいだなんて思ってしまうなんて。そしてゴールドが俺に縋り付くしかないという事実に、俺は悦びさえ感じていている。
「やっぱりオレは人殺しだな」
「ああ。俺もお前も殺人者だ」
「でもお前はオレを救ってくれた」
「矛盾することではないだろう」
「シルバー、久しぶりじゃん。お前何処行ってたの?」
「こいつらを集めにな」
そう言ってじゃらり、と音を立てて地面に撒いたのは……
「ジムバッジ?」
「あった方が収入が増えるんだろ?」
まぁ、間違ってはいない。ジムバッジを集められるほどの強いトレーナーには相応の報酬が与えられるし、いい仕事も回ってくる。というか……
(俺がポケモン協会関係者なら絶対放っておかねえよ)
シルバーが姿を見せなくなってから数日しかたっていない。それだけの短期間でジョウト・カントーのジムバッジを集めてしまったのだ。今までは公式戦の記録が無かったから見逃されていただけで、非公式戦だろうがワタルに勝つ実力を持つトレーナーだと知られればどうなることやら。
「これからよろしくな、シルバー」
「はぁ?」
「お前にゃあ大量の『仕事』が回ってくるだろうよ。多分俺と組まされるだろ」
「『仕事』って……貴様ら人外と一緒にするな!」
「ワタルに勝っちまう時点で人外認定されるよ、お前は……まぁ諦めろ、こんな短期間でバッジを集めただけでお前絶対に協会の目に止まるから」
「なんとかしろよ」
「俺もワタルも結構悩んでたんだぜ? お前をどうやってこっち側へ引きずりこむか、って。公式戦が一回も無いようなトレーナーじゃあ待遇も上げようがないし。お前から飛び込んでくれて嬉しいよ、俺は」
「オレは全然嬉しくねぇ!!」
「心配すんな、ぜってー逃がさねぇから」
*
「くそっ! 全力を出してもオレは……お前に勝てないのかよ!!」
その目の端に光るものが見えたから、俺は黙ってその横を通り過ぎる。泣き顔なんて誰にも見られたくないだろ、なぁシルバー。
だけどお前は一つ勘違いをしている。俺はいつだって全力だった。強さこそが全てだなんて、そんなふざけた事言うような奴に負けるような真似は絶対にできなかった。
「お前が負けたのは……」
足を止める。
この言葉であいつに伝わるわけがないと、分かっているけれど。
「ただ単に、お前よりも俺の方が強かったからだ」
お前は弱くなんかないよ、シルバー。
*
「ちっ……シルバー、俺はここで足止めすっからそいつら逃がせ!」
「わかった。気をつけろよ」
「大丈夫なんですか、置いていって」
「心配するな。適当に時間を稼いだら追いついてくるだろう」
「ちゃんと僕たちのいる場所、わかるのかなぁ」
「ルビー」
「なんですか?」
「あいつは、そこまで馬鹿ではないぞ」
「……敵か。下がってろ」
「!? シルバーさん、上ッ!」
「!」
「おおっと、ナイスタイミング俺! さっすが~」
「どうして天井突き破って出てくるの、ゴールド……」
「え? んなもん、そこに床があるからだろう?」
「今ので確実に居場所がバレた。早く出るぞ。どっちだ、ゴールド」
「んーと……真っすぐだな、こりゃあ。壁ぶち抜けば早いぜ」
「それと、今憑依は危険だ。お前今もピチューを憑かせてるだろ」
「なんかあってもお前ならなんとかできるだろ」
「容赦はしないぞ」
「知ってる」
ゴールドは空間把握能力が高い感じ。
*
「うるせぇ馬鹿弟が」
「ゴールドに馬鹿って言われたら終わりだね。っていうか、いい加減弟弟って連呼するのやめてくれない?」
「でもお前俺の弟だろ」
*
「あーもー、だから違うってシルバー!」
「む。パスワードを入力するんじゃないのか」
「それはさっきの話! こっちはまだパス割れてないじゃん。まぁ、同じパスかもしれないけどさぁ」
「……ということはまたハッキングか?」
「そゆこと」
「ところで……前から疑問だったんだが、どうしてクリスにだけ敬語なんだ?」
「え、……なんとなーく?」
「大方ルビーが俺にタメ口きいてるの見てタメだと思ったんだろ、お前」
「な、なんでここで割り込んでくるんだよゴールド!!」
「ガラクタ弄りに夢中なお二人さんに飯の連絡だよ、ほらさっさと来い」
「ガラクタって何だよ! お前がロクに扱えないだけだろー!」
「はいはい。お前は取り合えず年上に対する口のきき方ってやつを覚えよーな」
「今日は何だ?」
「カレー!」
「またか」
「しゃーねーだろ、昨日作りすぎたんだからよ」
「シルバーはムカっとこないわけ?」
「この程度でいらついていたらキリがない」
「わー達観してる……」
「おいどーゆーことだよシルバー」
「お前の喋り方は万人に平等に横柄だということだ」
「こむつかしー言い方して俺を馬鹿にしてるのは分かった。殴らせろ」
「馬鹿にしている? 事実を指摘しただけだろう。お前の知能レベルにとっては難しすぎたかもしれないが」
「むかつく! とりあえずお前むかつく!」
「そう思うのなら言い返せるくらいの語彙を身につけたらどうだ」
「はん、もう手遅れだぜ!」
「開き直るなこの阿呆が」
「ちょっとゴールド、あんたシルバーとエメラルドくん呼ぶのにどれだけ時間かかってるのよ!」
「うわ、クリスさん怒ってる……」
*
「やってくれんじゃねーか……。ルビーは俺の大事な弟だぜ? なぁ兄貴」
「あぁ」
「それじゃあ、力貸してくれると!?」
「当然だ」「当たり前だ!」
「二人とも、ありがとうったい!」
「つーわけでシルバー、クリス。俺はちょっとヘマやらかした弟の面拝んでくるわ。だからお前らとはここで……」
「ちょっとゴールド、何言う気よ」
「俺達も手伝おう」
「頼ってくれた方が嬉しいわ」
*
「あーあ、あんた捕まっちゃったわけ?」
「……認めたくないけどね。君は?」
「オレも同じ! 大事な友達が人質に取られちゃって、仕方なく協力してるわけ」
「それ僕に話して大丈夫なの?」
「あんたが余計な事話さなければ大丈夫だよ。それじゃあ、オレは見回りに戻らなきゃ。じゃあね」
*
「何、が起こったんだ……?」
「あんたが『憑依』させているポケモンに干渉して、あんたの意識を乗っ取らせたんだ。それにしても凄い相手だったね。知り合いっぽかったけど?」
「一人は僕の兄だった。後の二人は知らないよ」
「後の二人? さっきの相手は二人じゃなかった?」
「いや、三人だった。気配を隠して二人をサポートしている人がいたよ。ところで、提案なんだけど」
「なに?」
「さっきのうちの一人は確実にここに来るよ。君はその混乱に乗じて人質を助けるつもりなんでしょ? ここは一つ、手を組まないかと思ってね」
*
「一つだけおにーさん達に注意しておくよ」
「何だ……?」
「『憑依』だけは今のうちに解除しておくんだね。そうじゃないと、彼みたいな事になって鬱陶しいから――もっとも、憑依無しでどこまで戦えるのか、オレにはよくわかんないけどさ」
「彼を助けたいならオレに付いておいでよ」
*
ラティ兄妹がサカキの組織に捕らえられる
↓
ラティのテレパシーを用いて憑依しているポケモンを凶暴化させる事が可能に。特に召喚士を攻撃するように。
↓
ラティ奪還の為にラルドが組織に潜入
↓
MBを持ってるサファが襲われ、守るためにルビーがサファをRURUのテレポートでゴールドの元へ転送。ルビーは組織の手に落ちる
↓
サファ、ジョウト組に助けを求める。ルビーはラルドと協力体制をとる。
↓
操られルビーがジョウト組の前に現れ戦闘
↓
紅奪還。操りの後遺症のために翠が紅に同行することに
「ちっ……シルバー、俺はここで足止めすっからそいつら逃がせ!」
「わかった。気をつけろよ」
「大丈夫なんですか、置いていって」
「心配するな。適当に時間を稼いだら追いついてくるだろう」
「ちゃんと僕たちのいる場所、わかるのかなぁ」
「ルビー」
「なんですか?」
「あいつは、そこまで馬鹿ではないぞ」
「……敵か。下がってろ」
「!? シルバーさん、上ッ!」
「!」
「おおっと、ナイスタイミング俺! さっすが~」
「どうして天井突き破って出てくるの、ゴールド……」
「え? んなもん、そこに床があるからだろう?」
「今ので確実に居場所がバレた。早く出るぞ。どっちだ、ゴールド」
「んーと……真っすぐだな、こりゃあ。壁ぶち抜けば早いぜ」
「それと、今憑依は危険だ。お前今もピチューを憑かせてるだろ」
「なんかあってもお前ならなんとかできるだろ」
「容赦はしないぞ」
「知ってる」
ゴールドは空間把握能力が高い感じ。
*
「うるせぇ馬鹿弟が」
「ゴールドに馬鹿って言われたら終わりだね。っていうか、いい加減弟弟って連呼するのやめてくれない?」
「でもお前俺の弟だろ」
*
「あーもー、だから違うってシルバー!」
「む。パスワードを入力するんじゃないのか」
「それはさっきの話! こっちはまだパス割れてないじゃん。まぁ、同じパスかもしれないけどさぁ」
「……ということはまたハッキングか?」
「そゆこと」
「ところで……前から疑問だったんだが、どうしてクリスにだけ敬語なんだ?」
「え、……なんとなーく?」
「大方ルビーが俺にタメ口きいてるの見てタメだと思ったんだろ、お前」
「な、なんでここで割り込んでくるんだよゴールド!!」
「ガラクタ弄りに夢中なお二人さんに飯の連絡だよ、ほらさっさと来い」
「ガラクタって何だよ! お前がロクに扱えないだけだろー!」
「はいはい。お前は取り合えず年上に対する口のきき方ってやつを覚えよーな」
「今日は何だ?」
「カレー!」
「またか」
「しゃーねーだろ、昨日作りすぎたんだからよ」
「シルバーはムカっとこないわけ?」
「この程度でいらついていたらキリがない」
「わー達観してる……」
「おいどーゆーことだよシルバー」
「お前の喋り方は万人に平等に横柄だということだ」
「こむつかしー言い方して俺を馬鹿にしてるのは分かった。殴らせろ」
「馬鹿にしている? 事実を指摘しただけだろう。お前の知能レベルにとっては難しすぎたかもしれないが」
「むかつく! とりあえずお前むかつく!」
「そう思うのなら言い返せるくらいの語彙を身につけたらどうだ」
「はん、もう手遅れだぜ!」
「開き直るなこの阿呆が」
「ちょっとゴールド、あんたシルバーとエメラルドくん呼ぶのにどれだけ時間かかってるのよ!」
「うわ、クリスさん怒ってる……」
*
「やってくれんじゃねーか……。ルビーは俺の大事な弟だぜ? なぁ兄貴」
「あぁ」
「それじゃあ、力貸してくれると!?」
「当然だ」「当たり前だ!」
「二人とも、ありがとうったい!」
「つーわけでシルバー、クリス。俺はちょっとヘマやらかした弟の面拝んでくるわ。だからお前らとはここで……」
「ちょっとゴールド、何言う気よ」
「俺達も手伝おう」
「頼ってくれた方が嬉しいわ」
*
「あーあ、あんた捕まっちゃったわけ?」
「……認めたくないけどね。君は?」
「オレも同じ! 大事な友達が人質に取られちゃって、仕方なく協力してるわけ」
「それ僕に話して大丈夫なの?」
「あんたが余計な事話さなければ大丈夫だよ。それじゃあ、オレは見回りに戻らなきゃ。じゃあね」
*
「何、が起こったんだ……?」
「あんたが『憑依』させているポケモンに干渉して、あんたの意識を乗っ取らせたんだ。それにしても凄い相手だったね。知り合いっぽかったけど?」
「一人は僕の兄だった。後の二人は知らないよ」
「後の二人? さっきの相手は二人じゃなかった?」
「いや、三人だった。気配を隠して二人をサポートしている人がいたよ。ところで、提案なんだけど」
「なに?」
「さっきのうちの一人は確実にここに来るよ。君はその混乱に乗じて人質を助けるつもりなんでしょ? ここは一つ、手を組まないかと思ってね」
*
「一つだけおにーさん達に注意しておくよ」
「何だ……?」
「『憑依』だけは今のうちに解除しておくんだね。そうじゃないと、彼みたいな事になって鬱陶しいから――もっとも、憑依無しでどこまで戦えるのか、オレにはよくわかんないけどさ」
「彼を助けたいならオレに付いておいでよ」
*
ラティ兄妹がサカキの組織に捕らえられる
↓
ラティのテレパシーを用いて憑依しているポケモンを凶暴化させる事が可能に。特に召喚士を攻撃するように。
↓
ラティ奪還の為にラルドが組織に潜入
↓
MBを持ってるサファが襲われ、守るためにルビーがサファをRURUのテレポートでゴールドの元へ転送。ルビーは組織の手に落ちる
↓
サファ、ジョウト組に助けを求める。ルビーはラルドと協力体制をとる。
↓
操られルビーがジョウト組の前に現れ戦闘
↓
紅奪還。操りの後遺症のために翠が紅に同行することに
小学校二年生のある日 見ていたドラマで人が死んだ
真っ白な病室で 呼吸器をつけて 心臓の機械音だけが聞こえて
規則正しく鳴ってたその音が ピーッと最後の音を鳴らしたら
その人は死んでしまった
もしもそれが僕だったら
もしも僕が死んだら その先には何にもなくて
こんな事を考えている僕がいなくなってしまう
いつか必ずやってくるそれが 怖くて怖くて仕方がなかった
怖いよ死にたくないよ 堪らなくなって姉に告げたら
姉はあっさりとこう言った
「そんなのずっと先の事でしょ」
たったそれだけの一言で 僕の不安はたちまち無くなり
そして僕は今も恐怖に苛まれてる
死にたくなったら押せばいいさ
お前の目の前にあるそいつは
押したら一瞬で死ねるスイッチ
痛みも苦しみもありませんよ
気が付いたらきっとそこは天国
遠くでじいちゃんが手を振ってるかもね
まぁ 実際どうかは知らないけれど
どうしたほらそら押したらいいさ
彼女に振られて死にたいんだろう?
教室に机無いのが日常?
飛び降りは痛いぞ それなら押せば?
みんなが持ってる魔法のスイッチ
今でも夜でも明日でもいつでも
好きな時に押したらいいのさ
だったら別に今じゃなくてよくね?
今日嫌な事があったところで
明日良い事あるかもしんない
明日が駄目なら明後日かもね だって
先の事なんて分かるわけないだろ?
明日の明日の明日の明日の
ずーっと明日 皺くちゃになって
笑って生きて満足したその時に
押せばいいさ 死ねるスイッチ
そいつが俺の本望ってやつだ
捕われた 行き場のない心 動けなくなる
捕われた 行き場のない体 もう逃げられない
自分の感情(キモチ)さえ 見えない
自分の感情さえ 奪われ
目を 背けてる
閉ざした心
手のひらに 包まれている 蝶のように
飛びたくても 飛べない 翅が
都合のいいように生きればいいよ
苦しいなんて言わせないから
耳元で聞こえる誘惑
自由を求めては 辿り着けず 居場所のない 現実に
自由に焦がれては 辿り着けず 気付かされる 現実に
思い通りにならない 地図を 眺めている
身体が切り裂かれ 痛みに消えていく 記憶も願いも
切なく色づき 左手に 忘れられぬ傷
ボクハパラノイア
繋がれた手足 隠された瞳の中に 思い出す
あの面影は 幻 なのか
全部捨ててしまえば楽になれるよ
痛みが快感に変わっていくよ
手渡される 禁断の赤い実
差し出される手に伸ばす右腕
自分らしさなんて わからなくて 過去に縛られ
繰り返す 時の過ちに 気付かずに
"あの実をください"
手に入れたいものを 掴めなくて
消えない傷を 増やすだけ
気付いてしまった
見知らぬ世界に 残された
ボクハパラノイア
うなだれる首 聞こえない耳
叫べない喉 動けない足
これが現実か 夢かわからない
でも君は確かに 僕を見ていた
暗い闇の中で もがきながら 何度も自分を見つけてる
右手に残る赤い色 バラバラの蝶々
このまま眠らずに 歩き続ければ いつかは辿り着ける?
行く手に 君の足跡が見える もう戻れない
ボクハパラノイア
息を潜めてあなたを待つ夜は心の扉を,閉めるの。
息を潜めて終わるのを待つ夜は心の扉を、閉めるの。
僕の言いたいこと,あなたの伝えたいこと,ごちゃ混ぜの闇に融かして。
俺の言いたいこと、お前の伝えたいこと、ごちゃ混ぜの闇に融かして。
人のフリをするのに疲れたのよ,心から笑いたいの!
他人のフリをするのに疲れたんだ、心から笑いたいよ
僕のことは気にしないで欲しいから,どうか独りきりでいさせて。
俺のことは気にしないで欲しいから、どうか独りきりでいさせて。
あなたを通せんぼ,僕だけ,かくれんぼ。
お前を置いていって、俺だけ、逃げ出して。
無邪気な甘えんぼの夢,
愚かな臆病者の夢
“僕を見ないでいて。僕を手放して。無邪気な瞳で笑ってよ!”
“俺を見ないでいて。俺を手放して。黄金の瞳で笑ってよ!”
“次に会う頃には”など意味の無い心の隙間に,なるだけ。
独りその中での生活,営みながら張り詰めた空気,濡らして。
息を潜めてあなたを待つ夜は心から逃げるの!
―僕の言葉,僕次第でもしそれが,いつか意味を持つとしたら。
“あなたをトオセンボ,僕なら,カクレンボ。
無邪気にアマエンボの妄想,僕はしないでいたい。
僕を見ないでいたい。無邪気な瞳で笑って!”
あなたを通せんぼ,僕だけ,かくれんぼ。
無邪気な甘えんぼの夢,
僕を見ないでいて。僕を手放して。無邪気な瞳で笑ってよ!
アナタヲトオセンボ。
■アルヴィンとジュードの本編前の接点
一つ目は、2部開始直後のアルヴィン加入後に船に乗ってサマンガン海停に着いた後にル・ロンドに引き換えしてジュードの家に行くと見れるサブイベント(ジュード編だけ?)。ここでアルヴィンとディラックが旧知である事が明かされている。そしてうろ覚えだが「(ジュードを)アルクノアから守ってやってるだろ」という趣旨の発言をアルヴィンはしていたはず。これと終盤のサブイベントでディラックがエレンピオス出身である事が確定している。アルヴィンと同じ船に乗っていたんだそうだ。
ここでエレンピオスでのアルヴィンとディラックの立場を確認すると、アルヴィンはエレンピオスで最も権力のある貴族の当主の息子、ディラックは高度な黒匣を使いこなす著名な医者である。
となると、可能性は二つあって、一つは二人がエレンピオスにいる時に接点があった場合。アルヴィンの家付きの医者がディラックだったとか、家族の誰かを専門に診ていたとか、そういう可能性。この場合だとディラックはお坊ちゃんだった6歳のアルヴィンを知っている事になる。
二つ目はたまたま船に乗り合わせただけの場合。ジルニトラに乗っていた乗客は運命共同体になってしまうわけで、こうなると乗客同士である二人が知り合いになる可能性は高い。
○ディラックはアルクノアだったのか?
・ジルニトラに乗っていた乗客全員がアルクノアに所属したのか
・アルクノアにリーゼ・マクシア人は所属しているのか
・イスラはアルクノア? それとも協力者? エレンピオス人? リーゼ・マクシア人?
どちらにせよ、お互いがエレンピオス人であることは知っている二人。ディラックは5年で足を洗ったっぽい発言があったはずなので、それ以前(アルヴィンが11歳まで)に知り合っている可能性は高そうだ。
だとすると、子供(ジュード)が生まれるという話をディラックがアルヴィンにしていた、というのは大いに有り得る。本編前にアルヴィンがジュードの存在を知っていてもおかしくはないのだ。
もう一つの接点は、「プレザがタリム医学校に潜り込んでいたときにアルヴィンと同棲していた」というサブイベントでの話。プレザが潜り込んでいた時期にジュードが医学校に所属していたのは確定のようなので、ジュードが医学校に通っている時にアルヴィンはイル・ファンにいたようだ。
ひょっとするとこれは本編の直前の話なのかもしれない。
■レティシャ
アルヴィンママ。シャン・ドゥの川横断してワイバーンが居ない方の家に住んでいらっしゃる。
レティシャさんはどんな人だったのだろう。
まずは息子のアルフレドに親としての深い愛情を注いでいる。これは正気を失ってからの発言から伺える。そしてたまに正気に返る。
正気を失った原因は、望郷の念が募りすぎて、とアルヴィンは説明していたはず。あまり精神的に強い人では無かったのだろう。そういうところはアルヴィンに似ているかもしれない。
異世界という現実を受け入れる柔軟性が無かったとも言える。愛する息子がいるのに現実を否定してしまう辺り、案外息子への愛情は独善的なものだったのかもしれない。当主に嫁いだのだと思うけれど、多分それは貴族階級の政略結婚に近かったんじゃないかなぁ、と。打たれ弱さ的に平民出身ではなさそう。
異世界に来て早々に正気を失っていった訳ではないはずだ。今まで暮らしていた世界とは全く違う野蛮で恐ろしい異世界でこれから暮らしていかなくてはならないということ、頼りになる夫が早々に他界してしまったこと、最愛の息子ではなく義弟が権力を握っていくこと(ジランドはアルヴィンの父親の弟としている。レティシャが実の妹ならもっと待遇は良かったと思う)。受け入れがたい現実が重なって、彼女の味方は幼い息子しかいなくて、そうして彼女は現実を否定する道を選んだのではなかろうか。それでも、彼女は彼女なりに息子を心の底から愛していたのだ。
■アルヴィンはどんな環境で育ってきたのか
事故までは貴族の息子として、それはもう真綿に包むように、優しく優しく育てられていたんだと思う。それが事故で父親が死んでからは状況は一変、庇護者がいなくなり叔父が権力を握るようになり、今までとは生活が一変したはず(と言っても平民に比べりゃあ特別待遇受けてたと思うけど。仮にも当主の息子……というか世襲制なら当主?、ジランドが完全に当主になるのはゲーム始まってる頃のはず)。優しく慈しんでくれる存在はもういないのだ(いてもいいとは思うけど、母親しかいないからこその原作アルヴィンだと思う)。
アルヴィンには母親しかいなかったはずだ。母とふたりぼっちだったはずだ。先述の通りレティシャは精神が強い人とは思えないし、アルヴィンに辛く当たることもあっただろう。父のように母を守れない悔しさを噛み締めていたんじゃないだろうか。己の無力さが嫌で嫌で仕方がなかったんじゃないだろうか。で、擦れはじめる。
アルクノアの仕組みが余り分かっていないからこの辺はよくわからないけれど、アルヴィンはレティシャは彼女なりに本当にアルヴィンを愛していることは分かっていたと思うし、そんな母をやっぱり愛したはずだ。母をエレンピオスに帰してあげたい。多分その一心で、報いてはくれないであろう母以外の全てを裏切り、ジランドの手先になるという屈辱に甘んじていたのではないかと、そんなことを思う。
アルヴィンはジュード達と接するときに身分とかそんなことは全く口にしないし意識しているようにも見えないけど(せいぜい身嗜みにこだわる事くらい)、アルクノアでは身分を意識していたと思う。っていうか、せざるをえなかったと思う。アルヴィンが当主の息子であったことを知っているエレンピオス人がアルヴィンに向ける目っていうのは憐憫や落ちぶれた現状に対する嘲りが含まれていると思うんだ。(っていうかだから名前をアルフレドからアルヴィンに変えたのかもなぁ。)逃げ出したかったと思う。それでもアルクノアという環境に身を置いていたのは、母親の件があったからと、意地があったのかなぁ。リーゼ・マクシアを下等だと思っているエレンピオス人達に、エレンピオスに帰る事は崇高な目的だと思っているエレンピオス人達に、逃げ出したと嘲笑される事は許せなかったのかもしれない。笑われるだけの、貴族としてのプライド。それを捨てきれなかったのかもしれない。捨てたら母も捨てる事になる。
自分の行動理念を「母の為」と他人主体に決めて、自分の気持ちからは逃げつづけていた。その母が死んだと聞いた時、ようやくアルヴィンは本心に気づいて(ジュード達を裏切りたくない)、そしてジランドへの憎しみをあらわにするわけで。プライドを傷付けられた怒りなのかな。この辺はまだ考察が足りない。でもいざ死にかけているところを見ると、急速にその憎しみは萎んでいったのかもしれない。ジランドに囚われていた自分が馬鹿馬鹿しくなったというか。
一つ目は、2部開始直後のアルヴィン加入後に船に乗ってサマンガン海停に着いた後にル・ロンドに引き換えしてジュードの家に行くと見れるサブイベント(ジュード編だけ?)。ここでアルヴィンとディラックが旧知である事が明かされている。そしてうろ覚えだが「(ジュードを)アルクノアから守ってやってるだろ」という趣旨の発言をアルヴィンはしていたはず。これと終盤のサブイベントでディラックがエレンピオス出身である事が確定している。アルヴィンと同じ船に乗っていたんだそうだ。
ここでエレンピオスでのアルヴィンとディラックの立場を確認すると、アルヴィンはエレンピオスで最も権力のある貴族の当主の息子、ディラックは高度な黒匣を使いこなす著名な医者である。
となると、可能性は二つあって、一つは二人がエレンピオスにいる時に接点があった場合。アルヴィンの家付きの医者がディラックだったとか、家族の誰かを専門に診ていたとか、そういう可能性。この場合だとディラックはお坊ちゃんだった6歳のアルヴィンを知っている事になる。
二つ目はたまたま船に乗り合わせただけの場合。ジルニトラに乗っていた乗客は運命共同体になってしまうわけで、こうなると乗客同士である二人が知り合いになる可能性は高い。
○ディラックはアルクノアだったのか?
・ジルニトラに乗っていた乗客全員がアルクノアに所属したのか
・アルクノアにリーゼ・マクシア人は所属しているのか
・イスラはアルクノア? それとも協力者? エレンピオス人? リーゼ・マクシア人?
どちらにせよ、お互いがエレンピオス人であることは知っている二人。ディラックは5年で足を洗ったっぽい発言があったはずなので、それ以前(アルヴィンが11歳まで)に知り合っている可能性は高そうだ。
だとすると、子供(ジュード)が生まれるという話をディラックがアルヴィンにしていた、というのは大いに有り得る。本編前にアルヴィンがジュードの存在を知っていてもおかしくはないのだ。
もう一つの接点は、「プレザがタリム医学校に潜り込んでいたときにアルヴィンと同棲していた」というサブイベントでの話。プレザが潜り込んでいた時期にジュードが医学校に所属していたのは確定のようなので、ジュードが医学校に通っている時にアルヴィンはイル・ファンにいたようだ。
ひょっとするとこれは本編の直前の話なのかもしれない。
■レティシャ
アルヴィンママ。シャン・ドゥの川横断してワイバーンが居ない方の家に住んでいらっしゃる。
レティシャさんはどんな人だったのだろう。
まずは息子のアルフレドに親としての深い愛情を注いでいる。これは正気を失ってからの発言から伺える。そしてたまに正気に返る。
正気を失った原因は、望郷の念が募りすぎて、とアルヴィンは説明していたはず。あまり精神的に強い人では無かったのだろう。そういうところはアルヴィンに似ているかもしれない。
異世界という現実を受け入れる柔軟性が無かったとも言える。愛する息子がいるのに現実を否定してしまう辺り、案外息子への愛情は独善的なものだったのかもしれない。当主に嫁いだのだと思うけれど、多分それは貴族階級の政略結婚に近かったんじゃないかなぁ、と。打たれ弱さ的に平民出身ではなさそう。
異世界に来て早々に正気を失っていった訳ではないはずだ。今まで暮らしていた世界とは全く違う野蛮で恐ろしい異世界でこれから暮らしていかなくてはならないということ、頼りになる夫が早々に他界してしまったこと、最愛の息子ではなく義弟が権力を握っていくこと(ジランドはアルヴィンの父親の弟としている。レティシャが実の妹ならもっと待遇は良かったと思う)。受け入れがたい現実が重なって、彼女の味方は幼い息子しかいなくて、そうして彼女は現実を否定する道を選んだのではなかろうか。それでも、彼女は彼女なりに息子を心の底から愛していたのだ。
■アルヴィンはどんな環境で育ってきたのか
事故までは貴族の息子として、それはもう真綿に包むように、優しく優しく育てられていたんだと思う。それが事故で父親が死んでからは状況は一変、庇護者がいなくなり叔父が権力を握るようになり、今までとは生活が一変したはず(と言っても平民に比べりゃあ特別待遇受けてたと思うけど。仮にも当主の息子……というか世襲制なら当主?、ジランドが完全に当主になるのはゲーム始まってる頃のはず)。優しく慈しんでくれる存在はもういないのだ(いてもいいとは思うけど、母親しかいないからこその原作アルヴィンだと思う)。
アルヴィンには母親しかいなかったはずだ。母とふたりぼっちだったはずだ。先述の通りレティシャは精神が強い人とは思えないし、アルヴィンに辛く当たることもあっただろう。父のように母を守れない悔しさを噛み締めていたんじゃないだろうか。己の無力さが嫌で嫌で仕方がなかったんじゃないだろうか。で、擦れはじめる。
アルクノアの仕組みが余り分かっていないからこの辺はよくわからないけれど、アルヴィンはレティシャは彼女なりに本当にアルヴィンを愛していることは分かっていたと思うし、そんな母をやっぱり愛したはずだ。母をエレンピオスに帰してあげたい。多分その一心で、報いてはくれないであろう母以外の全てを裏切り、ジランドの手先になるという屈辱に甘んじていたのではないかと、そんなことを思う。
アルヴィンはジュード達と接するときに身分とかそんなことは全く口にしないし意識しているようにも見えないけど(せいぜい身嗜みにこだわる事くらい)、アルクノアでは身分を意識していたと思う。っていうか、せざるをえなかったと思う。アルヴィンが当主の息子であったことを知っているエレンピオス人がアルヴィンに向ける目っていうのは憐憫や落ちぶれた現状に対する嘲りが含まれていると思うんだ。(っていうかだから名前をアルフレドからアルヴィンに変えたのかもなぁ。)逃げ出したかったと思う。それでもアルクノアという環境に身を置いていたのは、母親の件があったからと、意地があったのかなぁ。リーゼ・マクシアを下等だと思っているエレンピオス人達に、エレンピオスに帰る事は崇高な目的だと思っているエレンピオス人達に、逃げ出したと嘲笑される事は許せなかったのかもしれない。笑われるだけの、貴族としてのプライド。それを捨てきれなかったのかもしれない。捨てたら母も捨てる事になる。
自分の行動理念を「母の為」と他人主体に決めて、自分の気持ちからは逃げつづけていた。その母が死んだと聞いた時、ようやくアルヴィンは本心に気づいて(ジュード達を裏切りたくない)、そしてジランドへの憎しみをあらわにするわけで。プライドを傷付けられた怒りなのかな。この辺はまだ考察が足りない。でもいざ死にかけているところを見ると、急速にその憎しみは萎んでいったのかもしれない。ジランドに囚われていた自分が馬鹿馬鹿しくなったというか。
ゴシル
「っ、寝坊!?」
「起きたか、ゴールド」
「起きたか、じゃなくて起こしてくれよシルバー!」
「オレは起こした」
「つーか何で俺は起きれなかったのにお前起きれてんだよ」
「お前は昨日加減してたからな。寝坊は習慣みたいなものではないか?」
「……って時間ねーんだった!」
「パンは今焼いてる。顔でも洗ってきたらどうだ」
「ん、助かる。あ、そうだシル」
「何だ? ……っ」
「ん、おはよーさん。お前は遅刻しないようにさっさと学校行けよ」
「……今行くところだ」
「んじゃ、」
「……」
「いってらっしゃい、シルバー」
「っ、行ってくる!」
*
シルゴ
「っ寝坊したぁぁぁああああ!! おいシルバー、何で起こさなかったんだよてめぇ!」
「オレは起こした。お前が起きなかっただけだろう」
「そこをもう少し粘れよ! 誰のせいで起きれないと思ってんだお前」
「オレのせいか?」
「どう考えてもお前だろーが! 昨日何時までやってたと思っ、っつ……」
「辛いのなら無理はしなくていい」
「こんにゃろ、人ごとのように言いやがって……シルバー、飯!」
「今パンを焼いている。顔洗ってこい」
「おうよ。……ってそうだ」
「どうした?」
「おはよ、シルバー」
「ああ。おはよう、ゴールド」
*
「私がシルバーと二人でデートだなんて知ったら、ゴールド拗ねるわね……」
「? おまえ達はそういう関係では無いのだろう?」
「……ゴールドが遊びたいのはあなただからね、シルバー」
「あいつが、俺と? それはないだろう」
「あら、そう? ゴールドなんていつもあなた相手に構ってオーラ全開じゃない」
「そうか?」
(何だかゴールドが可哀相に思えてきたわ……)
「好きでもない人にわざわざ自分から絡みに行ったりしないわよ、ゴールドは」
「す、き……? あいつが、俺を?」
「……ちょーっと待ってよシルバー、じゃああなたゴールドのあの態度、何だと思ってたのよ!」
「俺が気に食わないんだとばかり思っていたが」
「………………。食べよっか」
「? ああ」
*
「ルビー、まだ?」
「まだ。だから動いたら駄目だよ、ラルド」
「もうおれじっとしてるのヤなんだけど」
「こんなに綺麗な髪なのに、ロクに手入れもしないなんてボクの美意識が許さないよ」
「おれの髪なんだからほっといてくれよ!」
「ラルドの髪だから放っておけないんだよ。……よし、出来た。明日は髪の毛を結い上げてみようか。きっとcuteだよ」
「全然嬉しくないし」
「ボクが嬉しいからいいの」
「おれは全然良くなーい!」
「はいはい。おやすみ、ラルド」
「あーもールビーの馬鹿ー」
*
「ルビーってさ、」
「何」
「サファイア絡みになると途端に不器用になるよなぁ」
「……まさか君にそんな事を言われるなんてね」
「どーゆーことだよ」
「……とにかく、口出しはしないで。これはボクの問題だから」
「お前らがギクシャクしてるとおれもやりづらいんだよなぁ。だからさっさと仲直りしてよね、ホントに」
*
電気を消した室内は真っ暗で、互いの顔すら見えはしない。指先を顔の輪郭に沿わせてようやくシルバーがどこにいるのかが分かった。頬の辺りを滑らすとシルバーが軽く身じろぐ。まるで俺の手で感じてしまったようだけど、実際は寝る邪魔くらいにしか思ってないことを俺は知ってる。からかい半分で耳の辺りに口を寄せてみる。気分は恋人達のピロートークだ。
「なんもしねぇからそういう可愛い反応すんなよな」
「いつもそんな事言ってるのか?」
即座に切り返してきたこいつは本当に可愛いげがない。ま、可愛いシルバーなんてお淑やかなクリス並にありえねーけど。
「まぁ、たまには?」
「お前が言うとまるで信憑性が無いな」
「うるせえよ」
図星だから何も言えない。据え膳食わねば男の恥、だろ? 俺はそれに忠実に従ってるだけだ。
「なんなら今から実行してやろうか?」
今度は耳に息を吹き込むつもりで、囁く。シルバー相手なら萎える事はないだろう。このスカした野郎のエロい声を聞いてみたい、という好奇心もある。そう簡単に声を上げる奴だとは思えないがそこはまぁ俺が頑張るとして。
当然ながらシルバーの反応は壮絶に冷たい。
「二度とセックス出来ない体にされたいのか?」
囁かれた声にゾクゾクするね。実際に襲ってきた奴を何人も返り討ちにしているシルバーは本気だ。美人ってつらいな。俺はそんな経験ねーや。
「まぁお前と一発ヤった後ならいいんじゃね?」
「寝言は寝てから言え」
半分は冗談、だけど半分は本気の言葉に気付いたのか、シルバーが俺の顔を払いのける。危うく目に指が入りそうだったんだがもし俺が失明してしまったらどうしてくれるんだこいつは。
「……俺、お前となら恋人になれる気がする」
ふっと、そんな事が頭に浮かんだ。
「断る」
シルバーの即答にああそうだよな、と妙に納得。
そんな関係、勿体ねぇよな。
*
お前となら恋人になれる気がする。そううそぶいたゴールドの声が耳から離れない。恋人。そんな生易しい関係なのだろうか、俺とこいつは。
表情も見えない中、声の調子だけで考えている事が手にとるように分かった。俺とこいつは近すぎる。下手をすると、自分よりも。ひとの為に命を賭けようと思った事は無いが、もしも、こいつを失うのなら。そんな想像が全くできないくらいには互いに依存している。
「こうしてるとさ、俺が『誰』だかよくわかんなくなる」
「そうだな」
完全な闇の中では俺とこいつを区切る視界的な境界は何も無くて。すぐ側から聞こえた声はまるで俺が発したかのようにも聞こえて、俺の声でこいつが話しているように錯覚して。ずっと触れていた体の間の物理的な境界も、互いの体温でぐずぐずに融けきってしまったようで。錯覚だと気付いているその幻覚にわざと酔いしれる。俺とこいつの間に境界なんて物はない。だとしたら、俺がこいつに向ける執着も、こいつが俺に与える愛情も、全部全部、
「自己愛のようなものか」
思考からはみ出た俺の声に、くつくつとゴールドが笑う。
「違いねぇな」
*
やるよ、と目の前に差し出されたのは可愛らしく包装された、今日の日付を考えると、バレンタインチョコレート。もちろんこのハートがふんだんに使われた可愛らしい包装は今それを俺に突き付けている奴の趣味では無いだろう。つまり、
「誰からもらったんだ」
「え、知らねーよ」
名前なんてもう忘れたって、とゴールドはけらけら笑う。
「俺甘いのダメなんだからそのくらいリサーチしとけよなぁー。ま、既製品じゃないと俺食べないけど」
つーわけでお前が食えよ、甘いの好きだろ? とゴールドがもう一度俺に箱を突き付ける。
「いらん」
毎年お馴染みになった会話をお決まりの言葉で終わらせる。ゴールドが受け取る手作りお菓子はとんでもない物が多いのは経験的に知ってる。
「あっそ。じゃー捨てるかぁ。ところでお前クリスから貰った?」
「いや、まだだな」
時間を確認すると18時。この時間なら家に持ってくるだろう。
「今年は何だろうなー」
「ブラウニーではないか? この間型を借りに来たぞ」
「お、あいつのは美味いんだよな」
そうこうして家にやって来たクリスは「お返し楽しみにしてるから!」と言い残して俺達に切り分けたブラウニーを渡すとさっさと帰っていった。ゴールドが早速封を開けて頬張っている。
手帳を取り出してクリスの名前を書き付けているとゴールドが一言。
「お前って妙なところで几帳面だよな。つーか名前の横の値段は何だよ」
「ホワイトデーには三倍返しが基本だろう?」
冗談混じりに言われる言葉だが、姉さんはきっちり金額の面で三倍以上で返さないと、本当に怒る。
「ほんっとよく躾けられてるよな、お前」
しみじみと言ったゴールドが妙に頭に来たので奴の手に残っていたブラウニーを奪い取ってやった。慣れてはいないだろうが、几帳面に計量して手順通りに作ったであろう美味しさだった。
*
携帯をポケットから出しながら操作。顔の高さまで持ち上げた液晶に目的の名前が表示されてるのを一応確認して、電話をかける。
3回鳴ったコール音が途切れた瞬間にさっさと用件を言った。
「シルバー、プリン食いてぇ。作って」
(……いくら何でも唐突すぎるだろ)
俺の「もしもし」すら聞かずにこれだ。俺じゃないやつが出た場合どうするのだろうか――いや、そんな事をするのはこいつだけか。
「少し待ってろ」
冷蔵庫には何があっただろうか。卵は残っていたはずだ。あと必要なのは、
*
~ネタおさらい~
素直になれなくてシルバーにちょっかいかけてたらイジメに発展して猛烈に後悔しているゴールド
×
イジメの発端がゴールドだったもんだからどうしてもゴールドを信じきれないシルバー
暗い。
*
「シルバー、ごめん」
「……はぁ……?」
「本当に、ごめんっ……! 俺、こんなつもりじゃなかったんだ!」
「………………」
「俺、どうしてもお前に謝りたくて……」
「……何の事だ?」
「え?」
「俺はお前に謝られるような事をされた覚えはない。さっさと靴を返して帰ったらどうだ」
「あ、シル、」
反射的に渡した泥まみれの上靴を袋に入れて、俺の方を見向きもせずにシルバーは下足室を出て行った。独りで。
「あ、はは……」
――俺はお前に謝られるような事をされた覚えはない。
それは許しではなくて、拒絶だ。
「謝る事すら、許してくれねーんだな……」
謝っただけで許されるような事じゃあないと思っていた。けれど、頭のどこかで、謝ったら許されるような気がしてやいなかったか。謝ったら、この言葉では言い尽くせない程の後悔の気持ちをあいつは認めてくれると、思ってやいなかったか。
何と言う、都合のいい考えだろう。あいつは、俺の言葉などこれっぽっちも信じなかった。それだけの事を、俺はしてしまった。
「……ごめん。ごめん、シルバー……っ!」
だけど。図々しいけれど。俺はあいつに、俺の言葉を、気持ちを信じてもらいたい。
「俺はお前が、すき、なんだよ……!」
この逆境の中ひとりで闘い抜こうとするその毅さに俺はまた、惹かれてる。その隣に立ちたい。そして俺は隣に立つに相応しいのだと認めてほしい。そう心から、願う。
*
嘘でもいい。嘘をついてくれる間だけでもその嘘を信じる事が出来るから。だからお願い、気付かないで。その瞬間に、嘘が本当に嘘になってしまうから。
お前がオレを好きだという、そんな嘘が。
「好きなんだ、ゴールド……っ」
太陽みたいに笑うお前に、どうしようもなくオレは惹かれている。
*
好きだと思ってるのに相手の気持ちは完全否定するすれ違いゴシル。*の前後でちょっと時間飛んでます。
「ようこそ、リィンバウムへ」
そんな皮肉がよく似合う空だった。
「椎名、何か言った?」
「ううん、別に。とりあえず、皆起こそうか」
「で、どこなんだよここ!!」
「多分異世界だと思う」
「ええっ!?」
「そんな変なもの見る目で見ないでよ、地味に傷付くんだからね」
「でも異世界だなんて突飛すぎるよ。どうしてそう思うんだい?」
「私は、行った事があるからそう突飛には思えないけど」
「異世界に、ですか?」
「うん。とりあえずさ、ここから出ない?」
どこだろう、ここは。
リィンバウムかもしれないし、四界のうちのどこかかもしれない。辺りは土が露出している荒野だ。
人に出会えればなぁと、そんなことを思った。
「あの、すみません」
「ああ?」
「召喚師ってご存知ですか? ……ああ、知ってるんですね。私達はぐれ召喚獣なんですよ」
「はぐれ……?」
「『名もなき世界』からなんであんまり獣っぽくないですけど」
「ちょちょちょ、待ってよ椎名! 私には何のことだかさっぱりわかんないんだけど!」
「ごめん、できれば穏便に済ませたいからちょっと大人しくしててくれる?」
「リィンバウムをしっているのは貴女だけなんですか?」
「はい。私は過去に誓約された事があるんで。でも他の皆は初めてこっちに来たんです、けど周りには召喚師と思われる方々の死体が転がってまして……」
「それで、はぐれというわけか。君の誓約主は?」
「まだ見つけてません。誓約が切れたという感じもしないんで、探そうと思ってるんです。この街に、派閥から派遣された召喚師は? ……いるけど評判は悪いってところですか。」
そんな皮肉がよく似合う空だった。
「椎名、何か言った?」
「ううん、別に。とりあえず、皆起こそうか」
「で、どこなんだよここ!!」
「多分異世界だと思う」
「ええっ!?」
「そんな変なもの見る目で見ないでよ、地味に傷付くんだからね」
「でも異世界だなんて突飛すぎるよ。どうしてそう思うんだい?」
「私は、行った事があるからそう突飛には思えないけど」
「異世界に、ですか?」
「うん。とりあえずさ、ここから出ない?」
どこだろう、ここは。
リィンバウムかもしれないし、四界のうちのどこかかもしれない。辺りは土が露出している荒野だ。
人に出会えればなぁと、そんなことを思った。
「あの、すみません」
「ああ?」
「召喚師ってご存知ですか? ……ああ、知ってるんですね。私達はぐれ召喚獣なんですよ」
「はぐれ……?」
「『名もなき世界』からなんであんまり獣っぽくないですけど」
「ちょちょちょ、待ってよ椎名! 私には何のことだかさっぱりわかんないんだけど!」
「ごめん、できれば穏便に済ませたいからちょっと大人しくしててくれる?」
「リィンバウムをしっているのは貴女だけなんですか?」
「はい。私は過去に誓約された事があるんで。でも他の皆は初めてこっちに来たんです、けど周りには召喚師と思われる方々の死体が転がってまして……」
「それで、はぐれというわけか。君の誓約主は?」
「まだ見つけてません。誓約が切れたという感じもしないんで、探そうと思ってるんです。この街に、派閥から派遣された召喚師は? ……いるけど評判は悪いってところですか。」
「あなたは彼が『見える』事を知っていたんですね?」
「知っていた、とは少し違う。そう仮定すると健司の妙な発言にも納得いくなと思っていただけだ」
「っ、なんで俺に何も言わなかったんだよ!」
「お前が完全に無自覚みたいだったから。戸惑わせる事もないだろうと思って」
「そ、れだけで……?」
「もしもお前が『見える』事で何か問題が生じるようなら、俺だって話してみただろうし、第一健司は自分で気付いたろう」
「随分と献身的な幼なじみですね」
「当然だろう?」
「さぁ。僕にはわかりかねます」
「……つまりお前、俺の言ってる事が現実の話かどうかを確認して、違うかったらわざわざ話題反らしてた、ってことだよな……何回か心当たりあるぞ俺」
「なぁぼーさん」
「ん? どした、健司」
「俺の友達にさぁ、社会学部のやつがいてさ。宗教者の話を聞きたいんだと。紹介していい?」
「……俺と話して得られるもんは無いと思うがな。ま、会って話すくらいやったらええか。俺経由で他の奴らの話も、とかそういうことだろ?」
「そーゆーこと。話が早くて助かる」
「お前が霊能者? やっぱり?」
「おい、なんで『やっぱり』なんだよ」
「だって、お前が俺には見えないものを見てるのは知ってたし」
「はぁ!? お前、そんなこと一言も言ったこと無いだろうが!」
「わざわざ言う必要もないだろ、当たり前の事なんだから」
「幽霊が見えるのが当たり前の事か?」
「殆どの人は見えないんだろうな。でもお前が見えてる事は、お前が左利きであることくらい俺にとって当然の事だ。わざわざ『お前左利きなんだな』とか言わないだろ? 幼稚園以前からの付き合いなのに」
「お前以外の奴らにも何も言われたこと無かったんだぞ、俺」
「それは単純に気付いてなかっただけだろ。お前が俺には見えない何かについて話すことなんて殆どなかったし」
「……俺さ、結構怖かったんだけどな。異常ってレッテルを貼られたのが」
「その割にはあっさり俺に話したな」
「そりゃ、お前が今更態度変えるとは思えなかったし。でもなんか、どーでもよくなったわ」
「気にする事もないだろ、今まで日常生活に苦労してなかったんだし」
「なんだけどなぁ……」
「どうかしたのか?」
「俺が目を通して認識している情報と、他の人のそれが同じだなんて証拠はどこにもありません。でも、大抵の人は同じようなものなんだと思います。そうでないと人間は共には暮らせないでしょうから」
「俺のヒトガタじゃん、これ」
「そうだな」
「でも俺、お前や麻衣みたいな被害にはあってないぞ」
「名前は正しいか?」
「ああ。ちゃんと俺の名前だぜ、これ」
「……納得できないな。どうしてお前には何も起こらない?」
「さぁ?」
「私達も、ナルも生き残る事は不可能でしょう……。斎藤さんは、平気でしょうけど」
「……つまり、ナルってばすっげー強いんだけど、強いのはPKだから俺には効かないとかそんな感じ?」
「俺がここまでオカルトオタクになったのは誰のせいだと思ってるのかな」
「? 誰かのせいなのか?」
「お前のせいだよお前の!! お前が妙な事言うから興味持っちまったんだよ!」
「興味を持った原因は俺だとしても、そっからお前がここまではまった原因は俺には無いと思うんだけどな」
「うっさいっ!」
「俺は電気屋の仕事を全うするだけさ」
「つまり、俺がベースにいればいいって事だろ? そうすればここでの心霊現象はかなり防げるってわけだし」
「さながら、天然の結界ってわけか」
「知っていた、とは少し違う。そう仮定すると健司の妙な発言にも納得いくなと思っていただけだ」
「っ、なんで俺に何も言わなかったんだよ!」
「お前が完全に無自覚みたいだったから。戸惑わせる事もないだろうと思って」
「そ、れだけで……?」
「もしもお前が『見える』事で何か問題が生じるようなら、俺だって話してみただろうし、第一健司は自分で気付いたろう」
「随分と献身的な幼なじみですね」
「当然だろう?」
「さぁ。僕にはわかりかねます」
「……つまりお前、俺の言ってる事が現実の話かどうかを確認して、違うかったらわざわざ話題反らしてた、ってことだよな……何回か心当たりあるぞ俺」
「なぁぼーさん」
「ん? どした、健司」
「俺の友達にさぁ、社会学部のやつがいてさ。宗教者の話を聞きたいんだと。紹介していい?」
「……俺と話して得られるもんは無いと思うがな。ま、会って話すくらいやったらええか。俺経由で他の奴らの話も、とかそういうことだろ?」
「そーゆーこと。話が早くて助かる」
「お前が霊能者? やっぱり?」
「おい、なんで『やっぱり』なんだよ」
「だって、お前が俺には見えないものを見てるのは知ってたし」
「はぁ!? お前、そんなこと一言も言ったこと無いだろうが!」
「わざわざ言う必要もないだろ、当たり前の事なんだから」
「幽霊が見えるのが当たり前の事か?」
「殆どの人は見えないんだろうな。でもお前が見えてる事は、お前が左利きであることくらい俺にとって当然の事だ。わざわざ『お前左利きなんだな』とか言わないだろ? 幼稚園以前からの付き合いなのに」
「お前以外の奴らにも何も言われたこと無かったんだぞ、俺」
「それは単純に気付いてなかっただけだろ。お前が俺には見えない何かについて話すことなんて殆どなかったし」
「……俺さ、結構怖かったんだけどな。異常ってレッテルを貼られたのが」
「その割にはあっさり俺に話したな」
「そりゃ、お前が今更態度変えるとは思えなかったし。でもなんか、どーでもよくなったわ」
「気にする事もないだろ、今まで日常生活に苦労してなかったんだし」
「なんだけどなぁ……」
「どうかしたのか?」
「俺が目を通して認識している情報と、他の人のそれが同じだなんて証拠はどこにもありません。でも、大抵の人は同じようなものなんだと思います。そうでないと人間は共には暮らせないでしょうから」
「俺のヒトガタじゃん、これ」
「そうだな」
「でも俺、お前や麻衣みたいな被害にはあってないぞ」
「名前は正しいか?」
「ああ。ちゃんと俺の名前だぜ、これ」
「……納得できないな。どうしてお前には何も起こらない?」
「さぁ?」
「私達も、ナルも生き残る事は不可能でしょう……。斎藤さんは、平気でしょうけど」
「……つまり、ナルってばすっげー強いんだけど、強いのはPKだから俺には効かないとかそんな感じ?」
「俺がここまでオカルトオタクになったのは誰のせいだと思ってるのかな」
「? 誰かのせいなのか?」
「お前のせいだよお前の!! お前が妙な事言うから興味持っちまったんだよ!」
「興味を持った原因は俺だとしても、そっからお前がここまではまった原因は俺には無いと思うんだけどな」
「うっさいっ!」
「俺は電気屋の仕事を全うするだけさ」
「つまり、俺がベースにいればいいって事だろ? そうすればここでの心霊現象はかなり防げるってわけだし」
「さながら、天然の結界ってわけか」
自転車を下りてから、尋常じゃない量の汗をかいているのが分かった。汗を吸った下着が風で冷えてお腹を冷やす。下痢を伴いそうな腹痛と共にハンカチで汗を拭いながら教室に入り、いつも通りの二列目右から二番目の座席に荷物を下ろす。珍しく教授は既に教室に入っていたが、授業はまだ始まっていなかった。
汗が気持ち悪い。ハンカチは既に湿りきっていて肌のべたつきまでは拭えなかった。ホワイトボードに数式を書き出した教授が冷房を付ける。喉が、渇ききっていた。カラカラに乾燥しているのではなく、絡み付いた痰が水分不足で更に濃縮され喉に張り付いている。飲み物は、持っていない。持ってくるべきだったと軽い後悔をしつつ、せめてトイレでうがいでもしようと席を立った。
カタン、と背後で教室のドアが閉まる。冷房の効いていない、自然そのままの日陰の気温が心地いい。後ろのドアから遅刻者が入室するのを見ながら、エレベーターホールの前を通り過ぎてトイレへ向かった。近場で飲み物がありそうな事務室はまだ空いていない。
うがいを一回、二回。口の中に入った水道水に体が歓喜している。それらを吐き出したあと、教室に戻った。
授業が始まっていた。先ほどまでいなかった隣の席の友人が来ている。板書をしようとノートを広げてシャープペンシルを取り出す。数式を写す手に力が入らない。寒い。送風口から送られる冷風が体表の汗を気化させてどんどん熱が奪われる。気持ちが悪い。上着を羽織る。少しばかりマシになったが、それでもとてもノートを取るような気分ではなかった。寒い。気持ち悪い。この部屋には、いられない。
何か飲まないといけない。今度は財布を取り出して席を立った。逃げるように教室を出て、数歩歩いて抑え切れない吐き気に襲われる。これは、まずい。再びトイレに向かって、便器の脇にしゃがみ込んだ。背中をさすってくれる人はいない。無性に泣きたくなった。少しばかり出た黄色っぽい吐瀉物を眺めていると、ガタガタと扉を開ける音。事務室に人が、来たらしい。立ち上がる。冷え切った体の表面に向かって、耳の奥からどろりと熱い汗が流れ出ていた。
「で、どうするの? 家まで送ろうか?」
「……お前、これから俺に付き纏う気か?」
「そこまでする気はないけど。昔に戻るだけだよ」
「んじゃ俺は放って帰れ」
「なんで」
「もう普段つるんでる連中には連絡を取ってる。お前が学校でどう振る舞おうがお前の勝手だが、こんな時間まで外にいるのは問題だろう」
「同じ言葉、優司にも返すけど」
「家にいない方が電気代も浮く」
「……ごもっとも」
「お前は優等生やってる方が得だろ、つーわけで帰れ」
「優司の友達は信じていいの?」
「ああ」
「んじゃお友達が来るまで待ってるね」
「おい、話聞いてたのか?」
「別に夜遅くに出歩くくらい、家庭事情が免罪符になるでしょ」
「あのなぁ」
「あ、来たんじゃない? 友達」
「……お前、これから俺に付き纏う気か?」
「そこまでする気はないけど。昔に戻るだけだよ」
「んじゃ俺は放って帰れ」
「なんで」
「もう普段つるんでる連中には連絡を取ってる。お前が学校でどう振る舞おうがお前の勝手だが、こんな時間まで外にいるのは問題だろう」
「同じ言葉、優司にも返すけど」
「家にいない方が電気代も浮く」
「……ごもっとも」
「お前は優等生やってる方が得だろ、つーわけで帰れ」
「優司の友達は信じていいの?」
「ああ」
「んじゃお友達が来るまで待ってるね」
「おい、話聞いてたのか?」
「別に夜遅くに出歩くくらい、家庭事情が免罪符になるでしょ」
「あのなぁ」
「あ、来たんじゃない? 友達」
「ルーク様がわがままで私を必要としてくれた事が、本当に嬉しかったのです。だから、」
――私はあなたの傲慢さに救われたのです。
そう言って、フィンは笑う。
「確かにあなたは傲慢でしょう。ですがあなたは、ルーク・フォン・ファブレに相応しくあろうとした、ただそれだけです。そしてその名前に伴う責任を知ったあなたは、逃げ出さずに受け入れたではありませんか」
*
「俺が、王?」
「それが妥当だろ。なんせ第一・第二王位継承者はお前の両親なんだから。陛下が崩御なさる頃にはお二人とも政権なんて握れる歳じゃないだろ。そうなったら次はお前、当然の成り行きじゃないか」
「はぁ? そりゃねーだろ」
「どういう事だ」
「どう考えたってお前の方が相応しいじゃねーか」
「……それを他でもないお前が言うのか」
「人には向き不向きがあるんだろ。俺には向いてねーよ、王様稼業なんてさ」
「それじゃあ俺が王位を簒奪しても、お前は諾々と従うというのか?」
「んなもんそんな状況になってみなきゃわかんねーだろーが」
「俺は、お前の方が王に相応しいと思うけどな」
「はぁ? ……どこが?」
「お前は優しいから。国の指導者は優しい方がいい。お前にとっては、不幸な事だろうけどな」
――私はあなたの傲慢さに救われたのです。
そう言って、フィンは笑う。
「確かにあなたは傲慢でしょう。ですがあなたは、ルーク・フォン・ファブレに相応しくあろうとした、ただそれだけです。そしてその名前に伴う責任を知ったあなたは、逃げ出さずに受け入れたではありませんか」
*
「俺が、王?」
「それが妥当だろ。なんせ第一・第二王位継承者はお前の両親なんだから。陛下が崩御なさる頃にはお二人とも政権なんて握れる歳じゃないだろ。そうなったら次はお前、当然の成り行きじゃないか」
「はぁ? そりゃねーだろ」
「どういう事だ」
「どう考えたってお前の方が相応しいじゃねーか」
「……それを他でもないお前が言うのか」
「人には向き不向きがあるんだろ。俺には向いてねーよ、王様稼業なんてさ」
「それじゃあ俺が王位を簒奪しても、お前は諾々と従うというのか?」
「んなもんそんな状況になってみなきゃわかんねーだろーが」
「俺は、お前の方が王に相応しいと思うけどな」
「はぁ? ……どこが?」
「お前は優しいから。国の指導者は優しい方がいい。お前にとっては、不幸な事だろうけどな」
歌手パロ(二人でユニット)
「ゴールド。この歌はまだ止めておこう」
「んだよッ、てめぇまで無理だって言うのかよ!」
「ああ。今のお前には無理だろうな」
「てめぇッ……!!」
「本当に、今の歌を他人に聞かせられると思うのか?」
「……ッ」
「お前ならもっと良い声で歌えるはずだ。だがそれは今ではない。違うか?」
「……クソっ!」
「ゴールド」
「あんだよ」
「水、飲んでから部屋に戻れ」
*
特殊パロっぽい気がする。
訪れた都市でジョウト組3人は都市の召喚士(シンオウトリオ)に声をかけられる。彼らの目的は『間引き』を無くす事。その為には協力者が必要だという。彼らの思想に共感したジョウト組は協力することに。しかし『間引き』は間近に迫っていて、彼らは都市の防衛のために都市を離れる事ができないと言う。
……というあらすじ?
「どうして守る必要があんだよ? 弱い奴はポケモンに食われて、強い奴が生き残る。それが自然ってもんだろ?」
「それは、私たちがその弱い人々に助けられて生きているからです。一人では、生きていけないからです。だから私たちは、私たちの為に彼らを守らなければなりません。それが、都市に生きる私たちの生き方です。協力者であるあなたたちに同じものを求めはしません。ですがわたしたちのそういう在り方は認めてもらえませんか」
「そちらが引けない事は分かった。それで、俺達は何をすればいいんだ」
*
特殊パロ他設定メモ
・パールの父親クロツグは戦争前にはばりっばりのトレーナーだったクチ。だからポケモンが嫌いになれない。が、都市の偉いさんになってしまったため、戦争後のボールに入らなくなった元手持ちポケモンが危険視され、最終的に自分の手で殺すことになってしまった。その時の恨みがあると思われているのか、息子のパールを防衛隊に所属させて半ば人質のようにして働かされている。
・サカキは戦争時にポケモンを使ってポケモンと戦ってた人間。シルバーとの関係はしらん! 一応、特パロは両親いない設定だからサカキ父親にしてもいいんだけど……
*
ふらっとシルバーがゴールドを訪ねたら丁度夏祭りの時期でした。というわけで強制連行されるシルバー。
友達としてシルバーが大好きなゴールドと、ただのデレシル。
「おわっ、すっげ人混み。ほら、シルバー手ぇ貸せ」
「勝手に掴むな」
「そうでもしねぇと絶対はぐれるだろ、お前。あ、射的あんじゃん! 行こーぜシルバー!」
「手を、引く、なっ……!」
「おっちゃん射的二人!」
「あいよ! 帰ってきてたのか、ゴールド。そっちの子は?」
「ダチのシルバー。ほら持て」
「おいゴールド俺はやるだなんて一言も」
「え? 声が小さくて聞こえねえなぁ『やり方がわかんないから教えてくださいゴールド様』だって?」
「誰がそんな事言った」
「え? 違う?」
「……。やればいいんだろうやれば。ただしお前が支払った代金は返さないからな」
「なっ!? おい待てよそれはおかしいだろシルバー!」
「何がだお前が勝手に払っただけだろう」
「くっ……! いーぜ俺だって男だ200円でガミガミ言ったりしねえよ見てろよ俺の構え!」
「ゴールドは構えだけは綺麗なんだよなぁ」
「『だけ』ゆーなおっちゃん!」
「で、なんでこう言う結果になるわけ」
「本当に構えだけだったな」
「うるせえよ冷静に言うんじゃねぇ! かき氷食うぞ!」
「べーってしてみて」
「なんで」
「いいから」
「…………」
「おお! めちゃくちゃ緑! さっすがメロン!」
「そういうお前はブルーハワイだろう。青いんじゃないのか」
「多分なー。どうだ?」
「……くっ」
「笑うならはっきり笑えよお前!」
「ところでゴールド。この破裂音は何だ?」
「あーこれ? ポン菓子だろ?」
「ぽんがし?」
「なんかそういう名前の駄菓子。折角だから買おうぜ」
「焼きそば食いてえの? 並ぶか?」
「……よく分かったな」
「歩くのが妙にゆっくりになったからな」
「ゴールド! 久しぶりじゃん!」
「おっす! 久しぶりだなー」
「そっちの子は?」
「こいつは俺のかのj……っ! 本気で踏むこたぁねーだろ足の骨砕く気かおめぇはよ!」
「ふざけた事を言って今度は逆ギレか? お前の面の皮の厚さには呆れるな」
「たかだか冗談でマジギレするお前には言われたかないね! 自意識過剰なんじゃねーのこのナルシスト!」
「どこまで思考が跳んでるんだお前の頭の中はお花畑か?」
「ああ゛? 言ったなてめえ」
「図星だからといって今更言葉数を減らしても墓穴を掘るだけ無駄だな」
「あ、あのお二人さん、落ち着いて……」
「「うっせえ邪魔すんな!」」
「? 何してんだ? 瓶をじーっと見て」
「何故ビー玉が入ってるんだ?」
「…………さぁ?」
「ゴールド。今日は楽しかった」
「本当か!?」
「あぁ。祭りはいいものだな。そんな風に思えたのもお前のおかげだ。感謝してる」
「んじゃ、来年も来るか?」
「そうだな」
「へへっ、約束だかんな!」
「ああ」
むしろ百合でしたお粗末様でした。
「ゴールド。この歌はまだ止めておこう」
「んだよッ、てめぇまで無理だって言うのかよ!」
「ああ。今のお前には無理だろうな」
「てめぇッ……!!」
「本当に、今の歌を他人に聞かせられると思うのか?」
「……ッ」
「お前ならもっと良い声で歌えるはずだ。だがそれは今ではない。違うか?」
「……クソっ!」
「ゴールド」
「あんだよ」
「水、飲んでから部屋に戻れ」
*
特殊パロっぽい気がする。
訪れた都市でジョウト組3人は都市の召喚士(シンオウトリオ)に声をかけられる。彼らの目的は『間引き』を無くす事。その為には協力者が必要だという。彼らの思想に共感したジョウト組は協力することに。しかし『間引き』は間近に迫っていて、彼らは都市の防衛のために都市を離れる事ができないと言う。
……というあらすじ?
「どうして守る必要があんだよ? 弱い奴はポケモンに食われて、強い奴が生き残る。それが自然ってもんだろ?」
「それは、私たちがその弱い人々に助けられて生きているからです。一人では、生きていけないからです。だから私たちは、私たちの為に彼らを守らなければなりません。それが、都市に生きる私たちの生き方です。協力者であるあなたたちに同じものを求めはしません。ですがわたしたちのそういう在り方は認めてもらえませんか」
「そちらが引けない事は分かった。それで、俺達は何をすればいいんだ」
*
特殊パロ他設定メモ
・パールの父親クロツグは戦争前にはばりっばりのトレーナーだったクチ。だからポケモンが嫌いになれない。が、都市の偉いさんになってしまったため、戦争後のボールに入らなくなった元手持ちポケモンが危険視され、最終的に自分の手で殺すことになってしまった。その時の恨みがあると思われているのか、息子のパールを防衛隊に所属させて半ば人質のようにして働かされている。
・サカキは戦争時にポケモンを使ってポケモンと戦ってた人間。シルバーとの関係はしらん! 一応、特パロは両親いない設定だからサカキ父親にしてもいいんだけど……
*
ふらっとシルバーがゴールドを訪ねたら丁度夏祭りの時期でした。というわけで強制連行されるシルバー。
友達としてシルバーが大好きなゴールドと、ただのデレシル。
「おわっ、すっげ人混み。ほら、シルバー手ぇ貸せ」
「勝手に掴むな」
「そうでもしねぇと絶対はぐれるだろ、お前。あ、射的あんじゃん! 行こーぜシルバー!」
「手を、引く、なっ……!」
「おっちゃん射的二人!」
「あいよ! 帰ってきてたのか、ゴールド。そっちの子は?」
「ダチのシルバー。ほら持て」
「おいゴールド俺はやるだなんて一言も」
「え? 声が小さくて聞こえねえなぁ『やり方がわかんないから教えてくださいゴールド様』だって?」
「誰がそんな事言った」
「え? 違う?」
「……。やればいいんだろうやれば。ただしお前が支払った代金は返さないからな」
「なっ!? おい待てよそれはおかしいだろシルバー!」
「何がだお前が勝手に払っただけだろう」
「くっ……! いーぜ俺だって男だ200円でガミガミ言ったりしねえよ見てろよ俺の構え!」
「ゴールドは構えだけは綺麗なんだよなぁ」
「『だけ』ゆーなおっちゃん!」
「で、なんでこう言う結果になるわけ」
「本当に構えだけだったな」
「うるせえよ冷静に言うんじゃねぇ! かき氷食うぞ!」
「べーってしてみて」
「なんで」
「いいから」
「…………」
「おお! めちゃくちゃ緑! さっすがメロン!」
「そういうお前はブルーハワイだろう。青いんじゃないのか」
「多分なー。どうだ?」
「……くっ」
「笑うならはっきり笑えよお前!」
「ところでゴールド。この破裂音は何だ?」
「あーこれ? ポン菓子だろ?」
「ぽんがし?」
「なんかそういう名前の駄菓子。折角だから買おうぜ」
「焼きそば食いてえの? 並ぶか?」
「……よく分かったな」
「歩くのが妙にゆっくりになったからな」
「ゴールド! 久しぶりじゃん!」
「おっす! 久しぶりだなー」
「そっちの子は?」
「こいつは俺のかのj……っ! 本気で踏むこたぁねーだろ足の骨砕く気かおめぇはよ!」
「ふざけた事を言って今度は逆ギレか? お前の面の皮の厚さには呆れるな」
「たかだか冗談でマジギレするお前には言われたかないね! 自意識過剰なんじゃねーのこのナルシスト!」
「どこまで思考が跳んでるんだお前の頭の中はお花畑か?」
「ああ゛? 言ったなてめえ」
「図星だからといって今更言葉数を減らしても墓穴を掘るだけ無駄だな」
「あ、あのお二人さん、落ち着いて……」
「「うっせえ邪魔すんな!」」
「? 何してんだ? 瓶をじーっと見て」
「何故ビー玉が入ってるんだ?」
「…………さぁ?」
「ゴールド。今日は楽しかった」
「本当か!?」
「あぁ。祭りはいいものだな。そんな風に思えたのもお前のおかげだ。感謝してる」
「んじゃ、来年も来るか?」
「そうだな」
「へへっ、約束だかんな!」
「ああ」
むしろ百合でしたお粗末様でした。
シチユウ地方の東側の森林地帯。その上空に、一匹のポケモンと二人の人間の姿。
「ほんとにこっちなんやろね、ルビー!」
「そのはずだよ、RURUはこっちだって感じてる」
トロピウスの背に跨がったサファイアが前を向いたまま後ろのルビーに問いかける。横座りでトロピウスに腰掛けたルビーは体を倒して眼下の森を眺めていた。ラルトスを憑依させたことで得た千里眼が探し人の気配を捉える。
「あ、近い。……ところでサファイア、君はどこに降りるつもりなんだい?」
トロピウスの巨体が着地できそうな広い空間は見当たらない。無理にでも降下しようとすると幹が突き刺さるか、そうでなくても確実に枝を折ってしまうだろう。
「なに言っとうと? とろろは無理でも、あたしたちはどこにでも降りれるやないの」
「まさか、飛び降りるつもり!?」
体を跳ね起こしたルビーに、漸くサファイアが振り返って呆れた視線を送る。
「ルビー、あんたはRURUの念力があるやろ?」
確かに、今ルビーが横座りという不安定な姿勢でトロピウスに乗れているのは憑依しているラルトスのおかげだ。憑依無しでトロピウスを乗りこなして飛び降りるつもりのサファイアにルビーが返せる言葉は無かった。
ルビーを言いくるめた事を悟ったサファイアが再び前を向きなおす。
「それで、ゴールドさんはどの辺ったい?」
「……10時と11時の間くらい」
「了解。頼むったい、とろろ」
サファイアの声に高く鳴いて答えたトロピウスが、ゆっくりと進行方向を変えた。
*
最初に気付いたのはシルバーだった。獣道を掻き分ける手を止めて空を見上げる。それにつられてクリスも足を止めた。木々の隙間から晴れ渡った空が覗く。
「どうしたの、シルバー?」
クリスの問いかけには答えずに、ただシルバーはじっと空を睨みつける。葉の隙間から差し込む日差しが汗に反射して光り、風とも呼べない空気の動きが木々を僅かにざわめかせた。
そうして、『それ』は来た。
空が、陰る。
「な、に……あれ」
「大型のポケモンが飛行しているな。あまり聞かない鳴き声だ」
絶句したクリスに普段通りの抑揚の無い声が答える。長大な陰を落としながら、ゆっくりと『それ』は二人を追い抜いていく。
「早く戻ろう、クリス」
シルバーの声にクリスは一つ頷いた。両手で抱え持った薬草類を強く、抱きしめる。
「ゴールド、今行くからね……!」
*
トロピウスは可能な限り低空で飛行していた。速度も極力落としている。サファイアがトロピウスの背に危なげなく立ちあがった。本当にどんな身体能力をしているんだ、とルビーは感心を通り越して呆れた。憑依も何も無い状態でサファイアより高い身体能力を持つ人間なんていないのではなかろうか。
それでも、危ないのに変わりはない。
「サファイア。せめてアチャモでも憑依させたら?」
「大丈夫やよ。今までだって問題なかと。あんたこそ、どうなんよ」
「僕は君の言った通り、RURUの念力に助けてもらうよ。だから、」
ルビーがサファイアに手を伸ばす。
「この手は何ね?」
「一緒に降りよう。じゃないと、僕は不安で仕方がない」
サファイアなら本当に怪我もなく降りられるだろうとはルビーも思っていた。それでも、危険だという思いがルビーを不安に駆り立てる。手さえ繋がっていればサファイアもラルトスの念力の恩恵に与れる。サファイアが一つため息をついた。
「仕方がなかと」
サファイアがルビーの手を掴む。
「それじゃあ、行くったい」
「うん」
サファイアがトロピウスの背を蹴る。同時にルビーも背から降りた。
木と木の間、下草が見えている僅かな隙間に二人は吸い込まれていった。
「RURU!」
轟風が吹き付けてくる中、不意に体が軽くなる。そしてゆっくりと二人は着地した。拍子抜けするくらい、簡単に。
ルビーがサファイアの顔を覗き込む。
「怪我はない?」
「なかと」
サファイアがルビーの手を振り払う。
「さ、ゴールドさんのところに行くんやろ?」
はよいこ、とサファイアがルビーを急かす。
シルバー→ワニノコ・ニューラ・ヤミカラス
ゴールド→バクたろう・ピチュ・エーたろう
クリス →メガぴょん・パラぴょん・ウィンぴょん
サファイア→ちゃも・どらら・とろろ
ルビー→ZUZU・NANA・RURU
多分こんな感じ。ラルドどうしようかなぁ
「あなたでしょう、カイト先輩をたぶらかしてるのは!」
「返してよっ! カイト先輩を、返して!!」
「っ……」
カイトが好きだという女の子達が、声高に、声を震わせながら俺を詰る。
言葉に、ならなかった。カイトを好いている人間は多かった。そのことをすっかり失念していた。俺は俺と出会ってからのあいつしか知らないが、俺と出会う前に聞いた噂では人当たりがよくて、誰にでも分け隔てなく優しい人間だった(要するに、本人も騙されるくらいに猫を被っていたということだが)。それが今では、自惚れでも何でもなく、あいつは俺以外はどうでもよくなってる。それは酷くいびつな事だが、俺はそれに気付かない振りをしていた。俺だけに向けられる真っ直ぐな好意を、心地好く感じていたから。俺は目の前にいる女の子達ほど、強くカイトを想っているわけじゃあない。それなのに、カイトは俺だけを見る。それが彼女達をどれだけ傷付けたのだろう。
返す言葉がない。黙り込んだ俺を、女の子達がキッと睨みつける。
「あんたなんか、いなくなればいいのよっ!」
その声を皮切りとして、急速に辺りの魔力が膨らんだ。『怒り』を共有した彼女達の魔力が互いを増幅しあい、そのまま俺にとんでくる。避ける事はできるだろう。でも俺は、一発くらい痛い目にあった方がいいんじゃないのか……? そう思うと、立ち尽くす事しかできなかった。
が、衝撃はいつになっても来なかった。
「何、してるんですか? ねぇ……」
俺の目の前に立つ人影。俺の"従者"は"主人"の身の危険を察知して文字通り飛んできたらしい。やばい、完全にキレてる。止めないと危ないかもしれない。
カイトは俺の"従者"になった。そういう能力を潜在的に持っていたらしい。とにかく、俺に害を成すものには問答無用で排除にかかる。何度も言うがそういう能力らしい。つけられた名前は"隷従"。反吐がでるくらいに分かりやすい。
「カイト先輩っ! そんな奴に、騙されたらダメですっ!」
「目を覚ましてくださいっ!」
「いつもの優しい先輩に、戻ってください!」
カイトに完全に敵と見做した視線で見られているであろうに、女の子達は怯みもしない。恋とはすごい。俺ならとうに尻尾を巻いて逃げ出してるだろう。
「何してるんですかと、聞いてるんです」
カイトの冷え切った声に、流石の女の子達も黙り込む。俺もほう、と息を吐いた。さっきの狂気に近い気配は消えてる。何も言わない女の子達にカイトが溜息をついた。
「この人は、」
カイトが後ろを振り返って俺を引っ張る。無理矢理隣に立たされた俺に、カイトはふんわりと笑いかけてきた。腕を腰に回されて隣に引き寄せられる。
「おれの大切な人です。だから絶対に、傷付けるような真似はしないで」
静かに、真剣にカイトは告げる。その手が微かに震えてたのに気付いたのは俺だけだろう。短いようで長い沈黙の後、女の子の一人が尋ねる。
「先輩は、その人が好きなんですか?」
「うん。世界で一番、誰よりも」
震えるのを抑えたような声に、カイトははっきりと即答した。それきり、誰も何も言わない。
行きましょうか、とカイトが零した。一つ頷いて俺達はその場を離れた。
*
起 青主出会い・学園や世界観の設定の説明
青主出会い話
承 だんだんきな臭くなってくる
学園の闇を垣間見たり、千景が実力を隠すわけとか、外国が準備をしているとの噂を聞いたり
転 外国の進攻・戦争開始
戦闘・千景が学園に味方する理由
結 戦争集結・Sクラスになっちゃったよ千景
*
「忘れたのか? 入学の時の契約書を。あれの中には『有事の際は学園の為に持てる力を奮う事』とあっただろうが」
「そう言われると、そんな気もしますね」
「あれは自分の血を使った、立派な魔導契約だぞ! 普通の書面での契約書と違って、破った時には確実にそれなりの代償が求められる。まぁ、大した対価ではないだろうけどな……」
「果たして、この学園の『卒業生』ってのは実際にはどのくらいなんだ?」
「あ」
「卒業試練を合格しない限りは卒業とは扱わない。つまり、この大陸に散らばっているこの学園卒業者は学園に敵対する事ができない。……実質、誰も逆らえないんだよ、学園には。だからこその中立、だ。
「戦うんですか……?」
「ああ。俺は、きな臭いところがあったとしても東大陸の安定の為に学園は必要だと思うしーー好きだからな、ここが」
*
・青主
・極力恋愛色は薄め
・赤がいない頃の話
・(赤が来るのは卒業した年の秋・青主が成立するのは5月頃)
・ボカロ屋の主人から話を回してもらう。
・↑実は副業で何でも屋みたいなことをしている? というか仲介屋のアフターケアの一環。
「俺あんたに電話番号教えてへんよな?」
「そのくらい調べるのはわけねーよ。カイトは元気か?」
「……ああ、元気やで。変わろか?」
「あー、まだでいい。そろそろ定期検診すっからカイト連れて店に顔出してくれ。検診代はとらねーし」
「別にボカロの整備くらいできんねんけど」
「いいから来い。んじゃカイトに変わってくれ」
「はいはい。おーいカイト」
「お久しぶりです。えっと、検診の連絡ですか?」
「そうだ。説明はお前がしろ。あといつ来るかは連絡入れろよ」
安藤優司×柏木和也
・どっちも親から虐待されてる/た
・和也は特待で、優司は本人も知らなかった親戚筋から私立の高校に放り込まれる。
・和也が通ってるところに優司が転校
・もういいか王道全寮制男子校で……。
・和也実はすーぱー賢い子? にはあまりしたくないんだが
・優司不良にすんのどうすんの。多分夜に外をふらふらしていたタイプ。
・王道全寮制男子校パターン
どこか、学校全体がざわめいている。そう、ノートを取りながら柏木和也は思った。授業中にも関わらずひそめられた声がするのは日常茶飯事だが、その話題は今はただ一つに限られている。学校中で囁かれている噂ーーそれは、編入生がやってくるというものだった。
私立雛罌粟学園。中高一貫全寮制男子校。高等部からの入学者も一学年につき両手で事足りる、つまりは中学の時から殆ど構成員が変わらない閉塞的なこの学園では、編入生など年に一人いるかいないかというレベルでの珍事だった。
耳を澄ませれば、編入生の顔の美醜はどうだのわざわざ編入してくる事情がどうだのといった下らない会話が和也の耳に飛び込んで来る。予習のお陰で教師の話は多少聞き流しても大丈夫そうだと判断した和也は、教室にさざめきあう噂の海に飛び込んだ。
授業はまだ三十分もある。
* *
「かず……や?」
寮玄関で見かけた思いもよらぬ顔に、和也は目を見開いた。なんで、ここに。この学園に。小学校時代の同級生がいるのだろう。絶句した和也に元同級生・安藤優司が重ねて問いかける。
「お前、中学いないって思ってたら、ここに通ってたのか?」
「そう、だけど……何でここにいるの優司」
「よくわかんねーうちにここに編入させられた」
編入。学校中に広まった噂話。
「編入生って……優司のこと?」
* *
没
「部屋は決まってるの?」
「とりあえずは決まってる。後で正式にルームメイトを決めるらしい。しばらくは様子見だと」
「編入生はとにかく目立つからね。僕は今一人部屋だから、申請かけてみるね。……いい?」
「申請って?」
「優司のルームメイトへの立候補。知り合いの方がまだ気が楽じゃない? 他に当てがあるなら何もしないけど」
「そっか。頼む」
「それと、この学園の異常性に付いてはどのくらい知ってる?」
「いじょう?」
「……何も知らないんだね。わかった、先に話しておく。仮部屋はどこ?」
「B312 なんだがどこなんだ?」
「ここA棟だから棟から違うね。行こう、優司」
* *
没
「まずここは全寮制男子校である事を胆に命じておくこと」
「はぁ」
「端的にいうとホモが異様に多い。女の子がいないから男でもいいか、って考え方が多い」
「……お前は?」
「どうでもいい、かな。でも友達だと思っていた相手に真剣に告白されかねない環境であることは覚悟しておいた方がいいよ」
「経験済みかよ」
「次、生徒会」
「あぁー、今日会った」
「会ったの!? もしかして話したりとかした!?」
「なんだよ急に、普通に話したぞ」
「それは、災難な事で……。ここでの生徒会の決め方は実質人気投票なんだよ」
「はぁ」
「つまり生徒会役員にはファンが多い。アイドル並の親衛隊ができてる」
「……はぁ」
「男の嫉妬は凄まじいからね、下手に喋ったりするとそれだけで反感を買ったり制裁を加えられたりする。暴力だけじゃないよ。自分の肛門は自分で守るんだよ」
「そんなことまで考えねーといけないのかよ……」
「そして編入生はとことん目立つ。しばらくは動物園の動物扱いされても気にしないようにね」
「おー、がんばるわ俺……」
「それで、あまり僕は当てにしないでね。特待生資格を剥奪されたら僕はここを辞めないといけない。変に恨みを買うと親の金で学園に圧力かける輩もいるもんだから……ごめんね」
「何謝ってんだお前。誰も知り合いもいない環境に放り込まれたと思ってたら、お前がいたんだ。それだけは俺は感謝したいくらいだぜ」
・平民のまんまパターン
自分が住んでいる地域があまりガラの良くない地域だという事を和也はよく知っている。大通りから微かに見える路地裏でどのような事が行われているのかも。いつもなら気づかなかったふりをして通り過ぎるはずのそこで、ふと和也は足を止めた。
「優司……?」
中学に上がってから疎遠になった友人が、倒れているのが見えたから。
ただ事ではない。ペンキが剥がれかけた非常階段に干されたタオルをくぐり抜ける。埃を被った壁で服が汚れるのも気にせず、和也は走った。
「優司っ!」
壁にもたれてぐったりと倒れ込んでいる和也の友人、安藤優司の前に和也は屈み込んだ。青黒く鬱血した頬、厚ぼったく腫れた瞼。満身創痍の優司がうっそりと和也を見上げる。
「なんで、お前がいるんだよ、和也」
優司の意識があることに和也はほっと息を撫で下ろした。
「通りから見えたからね。大丈夫なの?」
「こんくらい平気だ。お前はさっさと帰れ」
しっしっ、と優司が手を振って和也を追い払う。
「一人で立って帰ることもできないような人を置いていけって僕に言うの?」
優司からの返事は無い。
「中学上がってから、妙によそよそしいと思ったら……こういう事ね」
呆れを乗せた和也の声に、僅かに優司が眉を寄せる。
「もういいだろ。そろそろ他の奴が来る。お前は帰れ」
「やだね」
「和也」
優司の声が低くなる。分かってないな、と和也は呟いた。二人の視線が合う。
「僕が嫌いになって避けてるのなら付き合おうとは思ってたけど、そうじゃないなら僕が君に合わせる義理はないよね。僕がボコられるのが不安? 生憎だけど、」
和也がずい、と優司の真っ正面に身を乗り出す。そしてにっこり笑って言い放った。
「慣れてるんだよね」
はぁ、と優司がため息をつく。
「……好きにしろ」
「そうこなくっちゃ」
*
「ああん? なんだてめえ」
「僕ですか? 僕はKAITO型ボーカロイドのカイトです。彩園寺千景に会いにきたのでそこをどいてください」
「はぁ? ふざけてんのかてめえ」
「いいえ、ふざけていません。ただ今の最優先事項は彩園寺千景の身の安全を確認することです。場合によっては必要最小限の武力行使も辞しません」
「その細っこい腕で何ができるって言う、ん、だよっ……!」
「おーい、千景さんが『青い髪の慇懃無礼な優男が来たら通せ』だってs……遅かった?」
「そうですね、指示が遅すぎます。さて、案内していただけますか?」
「お、おう……」
*
力の対価はこの「想い」。例え今の気持ちを失ってしまうとしても、その分だけ僕は強くなれるから――それが、僕の望みだから――後悔はしない。けれども。
「……お願いがあるんです。もう、最後だから」
お互いに告げないようにしていた想い。もう溢れかえってしまって、それでもとめどなく沸き起こる、強い、強い気持ち。一言でいい、まだこの感情が残っているうちに伝えたい。僕の口で、確かに、貴方を想う気持ちが今この瞬間には存在しているのだと、僕の記憶に、そして貴方の記憶に刻み付けたい。
「ダメだ」
マスターが首を振る。
「俺達は終わるんじゃない。まだまだこれからも一緒にいるんだ。だから俺は何も言わない。――だから、お前も我慢しろ」
分かっていると、そう言われた気がした。僕がどれ程強くマスターを慕っているのか、絶対にマスターは分かっていないと思うけれど。
僕の気持ちは、認めてくれた。そんな気がした。
自惚れてもいいのならば、この微妙に離れている二人の距離も、不自然なまでに真っすぐ立っている姿勢も、脚にぴったりとくっつけられた腕も、ぶっきらぼうな物言いも、僕を見つめる力強い視線も、全てが僕と同じように、溢れそうな気持ちを必死に押さえ付けている証だ。それだけでマスターの気持ちも伝わってる。だからそれ以上は、望んではいけないのだ。どれほど口に出してしまいたいと思っていても!!
もうすぐ僕はこの気持ちを忘れる。僕だけが綺麗さっぱり忘れて、それでもこの人の側にいる。
マスターの記憶に僕の今の想いを刻み付ける事が許されないのならば。僕だけは、絶対に忘れてはいけない。世界で一番、誰よりも、僕が好きなのは――この目の前にいる、この人ただ一人だ。
「それでは、行ってきます。――また、後で」
さようなら。
次に貴方に会う時は、僕は貴方への想いを失っているでしょうから。
すきにならないといけなかった。でもこんなに苦しいなら、
すきになんて、ならなければよかったのに。
すきになっちゃ、いけなかったのに。
大事な想いは、大事だから鍵をかけてしまってきた。自分でも触れられないほどに厳重に。
しまいこんでいたことすら忘れてしまったのは、いつ?
*
「燐。お前の『初めて』を俺に頂戴」
*
「なぁ」
額をこつんと合わせてきたアカイトをカイトは多少の驚きをもって見つめた。僅かに見開かれた海色の瞳をアカイトはじっと見つめる。
「俺に言うこと、あるんじゃねえの」
びくり、とカイトが体を震わせて視線を逸らした。伏せられた瞳を追い掛けて今度は下からアカイトがカイトを見上げる。
「な、何の事かな……」
「しらばっくれんな」
ごまかそうとしたカイトの言葉を切って捨て、アカイトが更にカイトに詰め寄る。それこそ肌と肌が触れてしまいそうなほどに。
*
「あ、マスターお帰りなさい」
「おー、ただいま」
「手伝いましょうか?」
「着替えくらい一人でできるわ。ガキ扱いせなや」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。おれがやりたいだけですし」
「人の服脱がせんのが趣味なん?」
「マスターだから、ですよ。好きな人が自分の目の前でどんどん無防備になっていく様を作り上げるのって、いいと思いません?」
「……俺はあんま思わへんけど。まぁええわ、んじゃ手伝って」
「マスターって、いっつもそれですよね」
「へ?」
「『まぁええわ』って。一体何だったら嫌がってくれるんですか?」
「嫌がらせがしたいんかいなお前は」
「そうじゃないですけど……はい、万歳してください」
「んじゃ何がしたいんやお前」
「んーと、マスター頂いちゃいたいです」
「今は嫌や。腹減ってんねん俺」
「ご飯食べたらその後は嫌って言いますよね、それでご飯食べたらすぐ寝ちゃいますよねマスター」
「要するに今日は嫌ってこった」
「……はーい」
「物分かりが良くてよろしい」
*
・ミクからすれば屋敷にガレ様と二人っきり(カイトを人と認識していない・存在に気付いていない・ガレ様とカイトを混同している)存在に気付いていないに一票
・屋敷に火が付けられた時にガレ様はミクと共に死を覚悟。結局死んだのはガレ様だけ
・大罪の器ってのは赤い何か(めーちゃん)青のスプーン(カイト)鏡(リンレン)鋏(ルカ)刀(がくぽ)の五つか?
・ガレ様はミクを人間にしたかった
・時計塔とミクに一体何の関係が?
・ガレ様はいつ目覚めるかわからない鋏と刀の目覚めを待っている間に自分は死んでしまうだろうと考えて、自分の死後も自分の望みを達成する為に分身としてのカイトを作成。
・ミクの「死」って何
・カイト→ガレ様 だけどガレ様はカイトを完全に物としか思っていない。ガレ様が心を認めるのはミクだけ。
登場人物はガレ・カイ・ミク か?
「どうしてそんなに兄を慕うのですか?」
「……綺麗だったから」
「は?」
「あいつの青い炎が、すっげー綺麗だったから。だから、その傍にいたい。それだけだ」
「兄さんに危害を加えるような事をしたら、一瞬で消し炭にしますからね」
「おお、怖。おれだって自分の強さくらい分かってるさ」
「燐。おれは、お前と同じだ」
「おん、なじ……?」
「おれも、悪魔なんだよ」
「お前、も……?」
「お前みたいに強くはないけどな。でも燐、おれは絶対にお前の味方だ。何があってもお前を裏切らない」
「なんで、そんな事言い切れるんだよっ」
「おれはお前の使い魔だからな。お前には逆らえない」
「使い魔? 知らない、俺はそんなこと知らなっ、……っう、」
「!? おい、燐どうした!?」
「お兄ちゃんらしさ」や「弟らしさ」っていうのは周囲からそういう風に扱われて始めて身につくものだと思う。普通、どちらが年上などと考えられずに育てられた双子っていうのはどっちが兄だとか弟だとかは意識していない。っていうか双子は双子。奥村双子の兄だ弟だという意識は周囲に兄らしさ、弟らしさを求められたから生まれたものだと思う。
喧嘩の強い燐にとって幼いころの体の弱い雪男は庇護対象だったはずで、雪男にとっての燐はヒーローだったはずで。病弱だった雪男は大人に構われる事も多かっただろう。サタンの力を継ぐからこそ燐は周囲から無意識のうちに雪男よりも厳しくしつけられていたのではないだろうか。意識の下に沈められた畏れを燐は周囲の雪男との接し方との違いとして認識していたのかもしれない。同じように雪男も燐と同じような違いを感じていたのかもしれない。更に雪男の場合、燐の秘密を知ってどう足掻いても燐には敵わないと感じた事も大きいような気がする。
似ていないからこそ普通の双子よりも兄弟性が強いのかなぁと思う。それでも決して兄弟じゃあなくて、あくまでも双子なのが奥村双子のおもしろいところだと思う。
くるくる。くるくるくる。
手持ち無沙汰に噴水に腰掛けたカイトが回す指に従って、水が空中に軌跡を描く。そして水が渦を巻いて一つにまとまると、水球と化した水の塊がボールのように跳ねて噴水に飛び込んでいく。ぼちゃん、と水音が一つ。
それからしばらくは噴水はただ水を循環させているだけだった。学園の噴水は時計の代わりで、昼夜問わずニ刻毎に水を噴き上げる。今はまだ前の噴水から一刻も経っていなかった。
エンゲーブ産の林檎は、本当に美味しい。まず見た目からして美味しそうで、真っ赤に熟した果実はつやつやしている。それを一口がぶっとかぶりつくと、口の中に甘ーい果汁が広がる。そしてしゃりしゃりという歯ごたえを楽しみながらその一口を嚥下して更にかぶりつく。すると芯に近付くにつれて増える蜜が舌を蕩かすのだ。
思い出しただけでもよだれが出てきた。その林檎を今、目の前でチーグル達が食べている。
「なん、やここ……何やねん、ここっ! 答え、アカっ!」
「マスター、本当に知らなかったのか……? 墓場だよ、ここは。人間とはもう二度と関わるまいと思った奴らが、死ぬために来るところだ。ここなら機能停止したロイドはうんざりするほどいる。まぁ、普通は人間は入れないけどな」
「お前、まさか今までパーツ持ってきた時ってのも……っ」
「ああ、ここの奴らのだ。野良ロイドにはよくある事だぜ、自分のパーツを墓場のやつから貰い受けるっていうのは」
「……よく人間に荒らされへんな」
「言ったろ、人間は入れないって。ある程度の大きさ以上の生体反応を感知したら熱線がとんでくるようになってる」
「……そこに俺は入っている、と」
「電源の切れた体をいつまでも溜めておくわけにもいかないしな。時々メーカーの人間が引き取りに来る。ここは人間に干渉されない安らかな死を提供する場所だ」
「そこまでしてお前達は機能停止を求めるんか?」
「人間に依存しなくては生きていけないように造ったのはお前達なのに、お前達の方からオレ達を切り捨てた。そうだろう?」
「それ、は……」
「全て人間がそうじゃないってことも、今のオレは知ってる。でも、ここにいる連中はそうは思っていない奴ばっかりだ。そういう目に遭ってきた奴らばっかりなんだ。流石に攻撃される事は無いと思うが、ま、何があるかはわかんねーよ」
「そんなところにマスター連れてくるか、普通?」
「あんた だ か ら 連れてきた」
「さいか。んじゃ、行こか」
「だから諦めろっての。ボカロ買う奴の中に善人なんて一握りだぞ? 大抵ろくでもない奴で、オレ達は下手に自己なんてものを持ってしまったが為に、妥協するしかないんだっての。指示通りヤってりゃあまともな暮らしができるここはまだマシな方だぞ?」
「うるさいお前の顔なんて見たくないって言ってるだろ!」
「まぁ初めてで男相手にネコってのも可哀相な話だが……そのうち逆転プレイでもあるんじゃねーの? お前がタチでオレがネコとか」
「全力でお こ と わ り だ !」
「だから拒否権なんて無いんだっての……。そのうちお前とリンとか、オレとリンだってあるんだろうからな。覚悟しとけよ?」
「リンにこんなことはさせない!」
「その強がりもいつまで続くことやら……。心配すんな、女の方が腹括ったらつえーよ」
「優しくしてくれる?」
「ああ。心配すんな……っていうのも無理な話か」
「ううん。確かに怖いけど……でも大丈夫。あなたなら信じられると、思うの」
「その信頼を裏切らないように、善処するさ。そんじゃ、よろしくな」
俯けられた顔を群青色の髪が滑り下りていく。静かに目を閉じて、それから彼は彫像のように動かない。
プログラムの祈りに何の意味があるのだろう、と思っていた。けれどその考えは、ただひたすらに希う彼を見ると吹き飛んでしまった。
魂の安寧。祈るのはただそれだけ。
「……くだらない」
「くだらない、だと?」
「だってそうじゃないですか。あなた達は人間に虐待された。確かにそうでしょう。で、それとおれやマスターに何の関係があるんですか? ただの八つ当たりですよね、今の状況は」
「貴様……っ!」
「あなた達の自己満足に付き合うほどおれはマゾヒストでも無いし、それでおれのマスターが傷付くのも嫌です。だからさっさとそこをどいてください」
「っ--! お前には心ってものが無いのか!」
「ええ、ありませんよ。おれはアンドロイドですから。あるのは心によく似たまがい物だけ。おれも--あなた達もね」
「お前達はやり方が悪すぎた。……俺に手ぇださんとこいつの同情を買おうとしたら、上手くいったかもしれへんのにな」
「マスター、早く帰りましょう」
「心配してくれてありがとうな、カイト。せやけどもうちょっとだけ。俺がこういうのほっとかれへんタチなんは知ってるやろ?」
「貴方を傷付けるような連中にかける情けも何もありませんよ。貴方に何かあったら、おれはーーっ!」
「大丈夫やって、な?」
「あまり、ひどい事はさせないでくださいね、マスター」
縄で縛り付けていた手首が赤くなっていて見るのも痛々しい。お風呂には入れて体はきれいにした。ベッドのシーツも洗濯機に放り込んで新しいのに変えた。その新しいシーツの上で、マスターは疲れ果てて死んだように深く眠っている。サイドテーブルに置きっぱなしだったピンク色のローターをつまみ上げて溜め息をついた。いつの間にどうやってこんなものを買ったんだか。
自分からこんなものをねだっておいて、マスターは優しく抱こうとすると妙に恥ずかしがる。わけがわからない。
「無茶したんですから、ゆっくり休んでくださいね」
どうせ起きやしないだろうと、裸のまま眠っているマスターを抱き寄せる。マスターが起きた時に一番に目に入るのが自分だったらいいと、そんな事を思いながら瞼を下ろした。
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